拾われ子のスイ

蒼居 夜燈

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第四章 南大陸

拾われ子とアサシンレオウルフの群れ 前編

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「はー、喉乾いたー……。アレックス、宿決めたら飲みに行こーぜ」

「良いよ。先に潰れた方の奢りね」

「乗った」

『何で潰れるまで飲むの前提なんですか?』

 門で滞在申請を出し、許可が降りるまでの待ち時間。コハクの顔を両手で撫で回していたスイは、明日二日酔いになりそうな二人を見上げるとニコラスと視線が合った。

「スイも行くか?」

「衛兵がいる所で未成年を酒に誘うな、ニコ」

「いや衛兵おれたちがいなくても未成年は誘うな」

「あ、しまった」

 笑い合うアレックス達に、スイの中の好奇心が顔を出す。

『お酒ってどんな味なんですか?』

「お。やっぱ興味ある?」

「スイくらいの年頃から気になり始めるよねぇ」

『……ちょっとだけ。外から酒場を覗くと、皆さん楽しそうだから、美味しいのかなって……』

「こら。駄目だぞ未成年」

『解ってます。飲みませんし、行きません。どんな味か気になるだけです』

 苦笑いを浮かべて衛兵に頷いたスイを、ニコラスは受付のカウンターに肘を乗せて見下ろす。

「どんな味っつっても、酒によるからなぁ。スイ、何か知ってる酒あるか?」

「エールくらいなら知ってるかな? それ以外でも、アタシ結構色んな酒飲んできたから大体の味は解るよ」

 何でも聞いてくれと言う二人に、スイはエールよりも先に思いついた酒の名をあげた。

『スパルタスって、美味しいんですか?』

「「……おぉう、マジか……」」

『え?』

 余裕のある笑みから一変、顔を引き攣らせた二人に、受付の小窓の奥で衛兵が笑いを堪える。

「よりによってスパルタス……」

「……スイ、その酒何処で知ったの?」

『西大陸のオアシスで、私がお世話になってた宿の食堂に置いてありました』

「宿の食堂にあんのかよ。すげーな」

「飲む人いた?」

『宿のお手伝いで給仕をした時に、お世話になったハンターの先輩に私が運びました』

「「いやどういう事?」」

『(仲良しだなぁ)』

「何でスイが給仕? ズルい。アタシにも何か運んで欲しい」

「そうじゃねーだろ。どういう流れでスパルタスなんて持ってったんだよ。何か恨みでもあったのか?」

 悔しそうにカウンターを叩いたアレックスに若干引きながら、ニコラスがスイを見た。スイが人を恨むような人間には思えないのだろう。不思議そうな表情を浮かべている。

『え? ちょっと揶揄われて、ムッとしちゃって……』

「ムッとしちゃってでスパルタス持ってくの、攻撃性高くね?」

『つ、強いお酒だとは聞いてましたけど、世界一とまでは知らなかったんです』

「下手したら一杯で酩酊するぞ」

『えっ……じゃあ、やっぱりお酒強いんだなぁ……』

 誰かを思い浮かべるスイから続けられた言葉に、ニコラスとアレックスは固まる事になる。

『ショットグラスですけど一気に飲んで、ほろ酔いにもならないでご飯食べてましたし』

「「…………!?」」

「おーい……? どうした?」

 小窓から顔を出した男が怪訝そうな顔をした。滞在申請を受理した衛兵とは別の男であり、この町の衛兵長だ。

『何でもありません。そちらは、何かありましたか?』

「あぁいや、お前達に話があってな」

「……面倒事の予感がするな」

「勘の良さは流石だな。指名手配狩り、Bランクハンター、そしてアサシンレオウルフを連れた最年少ハンターと、それぞれが実力派だと見受けた上でお前達に頼みたい事がある」

「依頼か? 衛兵がハンターに?」

「緊急事態なんだよ。内容は――アサシンレオウルフの群れの鎮静化だ」

 ぴくり、とコハクの耳が衛兵長に向き、スイも視線を向けた。

『……鎮静化、とは?』

「言葉通りだ。方法は問わない。従魔のアサシンレオウルフによる説得でも、数減らしでも、なんなら殲滅でも。どんな手段を使っても良いから、この町と住民に被害が出ないようにしてもらいたい。詳しくはハンターズギルドで聞いてくれ」

 滞在許可証と共に手紙が渡される。中を見ると、衛兵長からの推薦状だった。

「相手が相手だ、誰でも向かわせる訳にはいかん。旅人の場合、衛兵長おれが認めた者だけが依頼を請けられる事になっている」

「ハンター側は、依頼を選ぶ権利があるんだけど?」

「勿論知っているし、強制はしてない。ただ、この町ではもう怪我人だけでなく死亡者も出ているとは言っておく」

「……アンタ、さぁ」

「やめとけ、アレックス」

 不機嫌を顕にしたアレックスをニコラスが止めた。スイにも視線を向けたが、凛とした表情で衛兵長を見上げている。

「(少しは取り乱すかと思ったけど……どんな理由があんのか知らねぇが、まだガキなのに旅してるだけあるわな)」

 ニコラスが内心でスイの印象を改めていると、衛兵長が無表情で告げる。

「俺はこの町の衛兵であり、そこの長を務めている。この町を守るのが俺の仕事だ。その為には何でも利用する」

「職務に忠実なこって。住民には尊敬されるだろうけど、俺らみたいな旅のハンターには恨まれるんじゃない?」

「承知の上だ」

「そーかい。で、どうする?」

 アレックスとスイに問えば、スイはコハクに顔を向けた。

『平気なら、コハクの力を借りたいんだけど良いかな?』

《あぁ、勿論だ》

『……同族だけど、大丈夫? もしかしたら戦う事になるかもしれないけど……』

《スイ達だって、ヒト同士戦う時はあるだろ。それと同じだ》

『……そっか。じゃあ、私はギルドに行って話を聞いてきます』

「アタシも行くよ」

「話を聞くだけなら俺も。その後請けるかどうかはまた別だけど」

「ハンター達が期待に応えてくれる事を願う」

 衛兵長の一言に、門が開いた。
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