拾われ子のスイ

蒼居 夜燈

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第四章 南大陸

拾われ子の選抜試験 後編

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「七番、場外に出た為不合格!」

「く、くそ……」

 とぼとぼと帰っていく男を見送ると、スイは中老の男に眼を向けた。

「次、八番」

「ほほっ、では行ってきますかな」

 リング上に向かう小柄な背中を、一足先に合格したアレックスも真剣な眼で見つめる。

「あのお爺さん、油断出来ないね。只者じゃないのは解るのに強さが推し量れない」

 スイも同感だ。そしてもうひとつ、スイには気になっている事があった。

『……気配が薄過ぎます。殆ど感じられません。隣にいても気付けないくらいに』

「そうだね」

『(……あの人みたいだ)』

 極端に気配の薄い人物を、スイはもう一人知っている。
 生まれつきか、職業故に意図してなのかは知らないが、いつの間にか隣や後ろにいて驚かされたのは一度や二度では無い。

「始める前に、試験官殿。質問をひとつ」

「何だ」

「合格条件は魔法人形マギドールを動けなくさせる事と仰ったが、魔法人形が場外に出た場合も合格で良いかな?」

「勿論だ。それが出来るならばな」

「ほほっ、それは良かった。では、何時でもどうぞ」

「それでは八番、始め!」

 男は、穏やかだった。緊張はしていないが、油断もしていない。ただ、凪いだ水面のような眼差しと歩みでプロステに近付いていく。
 その様子に、スイははたと気づいた。

『……武器は?』

「何だ、ちびっ子ハンターは予選を見なかったのか? あの爺さん、予選も丸腰で通過したんだ。とんでもない体術の使い手だぞ」

「……コレ迄ト異ナルパターンノ人物ト認識。警戒レベルヲ引キ上ゲマス」

「儂は無害じゃよ」

「威嚇法撃ヲ開始。火礫ファイヤーバレット

 幾つもの火の礫が男に向かって放たれるが、掠りもせずに隙間を掻い潜る。

「ほう、その辺の魔導師より速くて正確。流石は政令指定都市の魔法人形。やりますな」

 実力を認め、感心して頷く姿はまるで老師だ。
 試されているのは、どちらなのか。

「試験官か、傍の二人がプロステの契約者マスターだとしても、消費する魔力が増える為に魔法はあまり使わせたくない筈だ」

「実際、ここまで一度も魔法を使わなかったしな。それが開始間も無く使わされた。あの爺さん、油断出来ねぇな」

『…………』

 スイはじっと男の動きを見つめる。男の一挙一動が、スイの記憶の中の人物に重なる。

『…………!』

 身体を熱くする程の大きな高揚感。
 この男は確かな手掛かりだと。やっと見つけた、絶対に掴みたい、眼に見えるチャンスだと。
 スイの中の渇望が、闘志を燃え上がらせた。

「ほっほ」

 微塵も隠さない、隠すと言う事すら考えついていない真っ直ぐ過ぎる闘志と視線を背に感じて、男はプロステ以外の誰にも気付かれずに満足そうに笑う。

「これ以上引き延ばして待たせるのは、無礼と言うもの。早々に終わらせるとしよう」

「っ!」

 男はプロステの近接攻撃の範囲内に入り込む。機を得たと判断し、プロステは一歩踏み込んだ。

「至極単純にして、浅見、愚行なり」

 それは、まるで流水のようだった。滑らかで、一切の澱みがない動き。
 男は、前に出てきたプロステを受け流しながらその勢いを余す事無く利用し、投げ飛ばした。

「!?」

 プロステの視界がぐるりと回る。何が起きたのか、それを認識する前に金属がぶつかる音とボディが擦れる音を感知した。
 プロステは、自分が先程浮いていたのだと言う事、そして浮遊感がどんなものなのかをこの時初めて知った。

「……魔法人形を投げた……?」

「あの小柄な身体のどこにそんな力が……」

 何人かが呆然と呟く。
 むくりと起き上がったプロステは、リングと、その上に立つ男を見るとオルドに顔を向けた。

「……場外ニ落下シタト認識。申シ訳ゴザイマセン、マスター。プロステノ敗北デス」

「八番、合格。プロステ、上がってこい」

「ハイ」

「ほほっ」

 プロステと入れ違いで男はリングを降りる。九番が呼ばれ、試験が始まったが、スイはリングではなく男から視線を離さないまま歩み寄った。

『合格おめでとうございます。流れる水みたいに、本当に綺麗な技で……魅入りました』

「ほっほっほ、ありがとうございます。嬉しいお言葉ですな」

『お爺さん』

「ほ?」

『貴方は、刀をお使いにならないのですか?』

 沈黙が降りる。しかし、気まずさと緊張は無い。やはり穏やかな眼で、男はスイを見る。

「九番、不合格! 次、十番、リングへ!」

 オルドの声に、スイがリングに向かう。その小さな背中に向けて、男は答える。

「その答えは本戦にて相見えた時に、ご自身の眼で確かめてくだされ。それと……名乗り遅れましたが、儂の事はソウと呼んでいただければと」

『……解りました』

 立ち止まって半分だけ振り返ったスイはそう返すと、リングへと上がった。

『(ここまで合格者は六人。チャンスは来た)』

 誰かの為に倒すのではない。自分の目的の為に闘う。

『(後は、掴み取るだけ)』

「十番、試験開始!」

氷礫アイスバレット

 開始直後に氷魔法での急襲。並の相手なら反応出来ずに片がつくが、闘い慣れている魔法人形は瞬時に反撃すると同時に分析する。

「火礫。小手調ベト言ウヨリモ、目眩シノ為ト判断。三秒後ニ範囲内ニ来ルト予想」

『ふっ! くっ……!』

 魔法を囮にして距離を詰めたスイに、プロステが殴り掛かるが、スイはそれを受け流すとプロステの勢いを利用して投げ飛ばそうとした。
 しかし、地面に生えているかのような手応えを感じてすぐに手を離し、距離を取る。直後、プロステの金属の拳が宙を殴った。

「予想ヨリ速イ。警戒レベルヲ引キ上ゲマス」

『(やっぱり無理か。私じゃ出来ない)』

 ソウの動きを真似しようとしたが、相手の力を完全に利用するには至らず失敗した。膂力、技術共に不足している。

『(剣ではダメージを与えられない。力づくが無理なら、不意を突かないと)』

 一定以上の距離を保とうとしながら、スイは水と氷、風魔法を駆使して隙を探す。
 プロステも魔法で迎撃しつつ、時々距離を詰めてはスイに襲い掛かる。

『(このまま長引けば不合格だ)』

 ちらりと砂時計を見て、スイは覚悟を決めてプロステの近接攻撃範囲内に入った。
 攻撃をくらえば軽傷では済まない。しかし、自身の魔法も速度、威力共に最大限で発動出来る。そんな両刃となる距離でスイは魔法を放つ。

氷砲アイスキャノン!』

「ガッ……」

 特大の氷の塊が猛烈な速さでプロステの胴体に直撃した。あまりの衝撃に、各関節部分が離れてバラバラになったかと思われたが、内部が筋のように伸びて各パーツを繋ぎ止めた。

『! 染水ソーク!』

「十番、捕捉」

 全身を濡らしながらも、プロステは止まらない。四肢を元の長さまで戻すと、スイの顔を殴りつけた。

『あぐっ!』

 勢いで地面に叩き付けられたスイは、蹴りが来ると予想して即座に起き上がり、後方に跳ぶ。

っ……』
 
 不快感に鼻を拭えば、手の甲には血が付いていた。止まらずにそのまま地面へと滴り落ちる。

『(……でも、見えた)』

 治癒魔法で鼻血と痛みを止め、スイは魔力操作に集中する。
 スイが何か仕掛けてくると見たプロステは、警戒して動きを止め、いつでも反撃出来る体勢を取った。

風を纏いし氷槍トルネードアイスランス

「コノボディニハ効キマセン……ッ!?」

 氷魔法の魔力が、染水で入り込んだ水の一部を凍らせていく。

「急ギ、火魔法デノ蒸発、ヲ……!? ボ、ボディガ……!?」

『(! 今だ!)』

 凍った関節部分が動作不良を起こし、魔力回路も一部凍った結果、魔力が上手く伝達されない。
 それはどちらにも誤算だったが、スイには好機を与え、プロステを危機に陥らせた。
 スイは素早くプロステの背後に回る。氷魔法も水魔法も、本命ではない。

『(ここだ)』

 頭と身体の境。関節部分と同様に繋ぎ目がある首は、頭部と胴体を繋ぐパーツと共に魔力回路が集中している。
 魔法人形にとっても急所であるそこに、スイは手を当てた。

爆雷スパーク

 バチィッ! と弾ける音が響き、プロステの顎が上がる。

「……ギ……ガッ……ガッガッ……」

 首の隙間から入り込んだ雷が、回路と水を伝って頭部を含む全身に走り、魔力回路を焼き切った。
 煙をあげるプロステはぎこちなく数歩歩いたが、がしゃりと膝から折れるとそのまま動かなくなった。

「な、何をしたんだ?」

「火花か? 何か光ったっつーか、弾けたようにも見えたが……よ、よく解らん」

「……十番、合格……」

「やったー! 流石さっすがスイ! よく頑張ったよーおめでとー!!」

『ありがとうございます』

 リングを降りてきたスイは、アレックスの喜びと祝いの抱擁を受け入れる。
 首の角度がおかしくなっても慣れたようで、治癒魔法を使わずになすがままになっている。
 二人で喜びあっていたが、オルドが複雑そうな顔で近付いて来た事に気付くと、スイはアレックスから離れてオルドを見上げた。

「……本戦では治癒魔法は使用禁止だからな。気をつけるように」

『えっ、すみませんでした……!』

「今回は説明不足の此方に落ち度があるから規則違反にはしない。あと、これはまぁ……合格不合格には関係ないんだが……」

『?』

「……魔法人形は、外側を直すのはそうでもないが、内側……特に魔力回路を直すのは難しい上に費用がかなり掛かるんだ……。もしまた魔法人形での試験に参加する時は、その辺を配慮してくれると大変有難い。せめて、回路全体を焼き切るのは控えてもらえると……」

『わぁぁぁ、すみませんでした……!!』

 勢いよく頭を下げたスイは、平謝りの後に費用を弁償しようかとアイテムポーチに手を伸ばした。その手に誰かの手が重なる。スイが驚いて顔を向けると、ソウが楽しそうに笑っていた。

「ほっほっほ。何、スイ殿が気にする事ではありませんよ。魔力回路の事に関しても説明されていないのですから。事前の説明では、「動けなくさせれば合格」と言う事だった筈。スイ殿に落ち度は無い。そうですな? 試験官殿」

「…………その通りだ。だから、十番に費用等を請求する事は無い。ただ、次回も参加するなら留意してくれと言うだけだ」

『心に刻みます……!』

「ほほっ、真面目ですなぁ」

 選抜試験は暫らく中断されたが、予備の魔法人形を用意して再開された。
 そして八人の本戦出場者が決まったのだが、その時と言うべきか、その後と言うべきか。一悶着あった事は、また別の話となる。
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