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第四章 南大陸
拾われ子と惨禍 三 ―残響する音―
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スイ達が闘技場を飛び出す少し前。ハンターや冒険者ではないソウジロウは東の門の見張りとして残り、斬り捨てられた衛兵の遺体を悉に見ていた。
「(切口が綺麗すぎる)」
殆ど潰れた形跡が無い断面は、得物も持ち主の腕も相当な事が窺える。傷口の大きさや深さから、使われたのは斧や大剣の様な大型でも、槍の様な刺突を主とする物でも無い。
ソウジロウは腰に差した刀に触れる。
「(同族と考えるのは早計だが、他民族にこれを扱える者がいるとも考えにくい)」
立ち上がったソウジロウは、猛烈な速さで近付いて来る多数の気配をいち早く感知し、見張りとして残っているハンター達にそれを告げた。
自身も戦闘態勢に入ると、モンスターが間合いに入るまでの間、思考に没頭する。
「(今日を狙って襲撃したのなら、大量虐殺の意図があると言う事。ハンターや冒険者も多いのに実行したのは愉快犯故か、それとも……)」
ソウジロウの眼が鋭くなる。
「(騒動に乗じて、特定の誰かを消す必要があるか)」
衛兵と揉めたと言う男が仮に同族だとしたら、狙われる可能性が高い人物はソウジロウの中ではたった一人だ。
「(……胸騒ぎがする。何としてもお護りせねば)」
モンスター達とは反対側、町の中から門に向かってくる気配を感じながら、ソウジロウは刀を構えた。前方からは地面を揺らし、雄叫びをあげながらモンスター達が迫ってくる。
「(誰であろうと、何であろうと、この生命に代えてもスイ様は絶対に死なせぬ)」
「あ、おい爺さん!?」
一人、前に出たソウジロウはモンスターの群れに突っ込む。呑み込まれたかに思えた瞬間、前列のモンスターが血飛沫をあげて両断され、転がった。
「!?」
「い、今何した……?」
「解んねぇ……見えなかった……」
「呆けてる暇は無ぇ、来るぞ!」
「「「グォォォオォオオ!!」」」
「「「うぉぉぉぉぉぉお!!」」」
人間とモンスターが、再び乱れ戦う。
刀を振るソウジロウを見付けて、スイは声を張り上げた。
『ソウジロウさん!』
「スイ様、お身体の具合は如何程ですかな?」
『……もう大丈夫です!』
走りながら魔力水を飲んできたスイは、そう答えながら氷魔法をモンスターに撃ち込む。その様子を見たソウジロウは、コハクに視線を向けた。
《…………》
ソウジロウとコハクは言葉での意思疎通は出来ない。しかし、じっと見返す琥珀色の眼が語る事は、ソウジロウに伝わったようだった。
「スイ様、それでは前衛は私めが引き受けます故、魔法での援護をお願い致します」
『私も前に――』
「従魔はスイ様の護衛を頼むぞ」
《任せろ。スイ、やるぞ》
『……解った』
スイに有無を言わせず、ソウジロウは前線で刀を振るい、コハクがスイの前に出た。
スイの放った氷槍はソウジロウの眼の前のモンスターに刺さったが、外れた何本かがその後ろにいた別のモンスターに当たった。
「(動作にキレが無く、魔法発動と制御に必要な集中力が保てていない。決勝戦の影響が思いの外大きい)」
当然だ、とソウジロウは決勝戦を振り返る。
呼吸法で限界まで身体能力を引き上げてのアレックスとの激闘が、身体に及ぼした疲労と怪我は決して軽いものではない。
「(それに、あの龍の姿を象った闘気。未成熟な身体と精神で、あれ程の力は一族歴代を見ても稀。末恐ろしいお方だ。だからこそ……)」
決勝戦前のスイを思い出して、ソウジロウは固く決意する。
「(……シュウト様の代わりが務まるかはわからぬが……その身も心も、今お護りするのはこの老体の役目)」
刀を振り、血を払い落とすとソウジロウはまた敵の群れへと突入した。
その背を見ながら、まともに戦えない自分がスイは不甲斐なくなる。
『…………っ』
《スイ、余計な事は考えなくて良い》
『っ、うん』
見透かした様に言葉を掛けてくれてコハクが、スイにはとても心強く思えた。コハクに守られながら、スイも魔法でモンスターを倒していく。
ハンターも冒険者も魔導師も皆、戦士として無我夢中で武器を振り、魔法を放つ。
「こわいよ、パパ、ママ……」
「大丈夫だ。戦士達が戦ってくれている……!」
「祈りましょう……! 戦っている皆と炎龍様に……」
戦場と化した町の中に響き渡る音は、耳を塞いでも現実から逃げる事を許してはくれない。
人々が懸命に祈る中、日が沈んでも戦いは続いていたが、やがて静寂が訪れる。
誰かの手から落ちた武器が地面に転がる音が、静かになった一帯に響いた。
「……終わった、か……?」
「……終わったんじゃないか……?」
「鼻と耳が馬鹿になりそうだ……」
「……なった方が楽だったかもしれんな」
肉が裂け、噴き出す血の臭い。骨が砕かれる音。眼前の死に怯えた声。訪れた死に気付かぬまま逝った声。
『…………』
もう止んだ筈の音が、未だに耳の奥で残響している。
「スイ様、お辛いでしょうが、どうかお気を確かに」
『……っ、はい……』
生命が潰えていく音は、戦場のど真ん中で耳を塞ぐ事すら出来ない彼等の精神を大きく擦り減らした。
スイは酷く重く感じる頭を動かして上を向く。そこには、凄惨な地上とは反対に無数の星が瞬く静かな空が広がっている。
一歩踏み出した足が、血溜まりを踏んでぱしゃりと音を立てた。
『(……眠って、目が覚めたら、夢だったら良いのに……)』
「スイ様、我等は後の方にしてもらいました。少し休みましょう」
『……はい』
見張りの順番を決めると、それぞれ自分の番がくるまで束の間の休息に身を置く。
この日起きた事は願い虚しく夢とはならず、寧ろ惨禍の始まりに過ぎなかったのだとスイが思い知るのは、全てが終わった後となる。
「(切口が綺麗すぎる)」
殆ど潰れた形跡が無い断面は、得物も持ち主の腕も相当な事が窺える。傷口の大きさや深さから、使われたのは斧や大剣の様な大型でも、槍の様な刺突を主とする物でも無い。
ソウジロウは腰に差した刀に触れる。
「(同族と考えるのは早計だが、他民族にこれを扱える者がいるとも考えにくい)」
立ち上がったソウジロウは、猛烈な速さで近付いて来る多数の気配をいち早く感知し、見張りとして残っているハンター達にそれを告げた。
自身も戦闘態勢に入ると、モンスターが間合いに入るまでの間、思考に没頭する。
「(今日を狙って襲撃したのなら、大量虐殺の意図があると言う事。ハンターや冒険者も多いのに実行したのは愉快犯故か、それとも……)」
ソウジロウの眼が鋭くなる。
「(騒動に乗じて、特定の誰かを消す必要があるか)」
衛兵と揉めたと言う男が仮に同族だとしたら、狙われる可能性が高い人物はソウジロウの中ではたった一人だ。
「(……胸騒ぎがする。何としてもお護りせねば)」
モンスター達とは反対側、町の中から門に向かってくる気配を感じながら、ソウジロウは刀を構えた。前方からは地面を揺らし、雄叫びをあげながらモンスター達が迫ってくる。
「(誰であろうと、何であろうと、この生命に代えてもスイ様は絶対に死なせぬ)」
「あ、おい爺さん!?」
一人、前に出たソウジロウはモンスターの群れに突っ込む。呑み込まれたかに思えた瞬間、前列のモンスターが血飛沫をあげて両断され、転がった。
「!?」
「い、今何した……?」
「解んねぇ……見えなかった……」
「呆けてる暇は無ぇ、来るぞ!」
「「「グォォォオォオオ!!」」」
「「「うぉぉぉぉぉぉお!!」」」
人間とモンスターが、再び乱れ戦う。
刀を振るソウジロウを見付けて、スイは声を張り上げた。
『ソウジロウさん!』
「スイ様、お身体の具合は如何程ですかな?」
『……もう大丈夫です!』
走りながら魔力水を飲んできたスイは、そう答えながら氷魔法をモンスターに撃ち込む。その様子を見たソウジロウは、コハクに視線を向けた。
《…………》
ソウジロウとコハクは言葉での意思疎通は出来ない。しかし、じっと見返す琥珀色の眼が語る事は、ソウジロウに伝わったようだった。
「スイ様、それでは前衛は私めが引き受けます故、魔法での援護をお願い致します」
『私も前に――』
「従魔はスイ様の護衛を頼むぞ」
《任せろ。スイ、やるぞ》
『……解った』
スイに有無を言わせず、ソウジロウは前線で刀を振るい、コハクがスイの前に出た。
スイの放った氷槍はソウジロウの眼の前のモンスターに刺さったが、外れた何本かがその後ろにいた別のモンスターに当たった。
「(動作にキレが無く、魔法発動と制御に必要な集中力が保てていない。決勝戦の影響が思いの外大きい)」
当然だ、とソウジロウは決勝戦を振り返る。
呼吸法で限界まで身体能力を引き上げてのアレックスとの激闘が、身体に及ぼした疲労と怪我は決して軽いものではない。
「(それに、あの龍の姿を象った闘気。未成熟な身体と精神で、あれ程の力は一族歴代を見ても稀。末恐ろしいお方だ。だからこそ……)」
決勝戦前のスイを思い出して、ソウジロウは固く決意する。
「(……シュウト様の代わりが務まるかはわからぬが……その身も心も、今お護りするのはこの老体の役目)」
刀を振り、血を払い落とすとソウジロウはまた敵の群れへと突入した。
その背を見ながら、まともに戦えない自分がスイは不甲斐なくなる。
『…………っ』
《スイ、余計な事は考えなくて良い》
『っ、うん』
見透かした様に言葉を掛けてくれてコハクが、スイにはとても心強く思えた。コハクに守られながら、スイも魔法でモンスターを倒していく。
ハンターも冒険者も魔導師も皆、戦士として無我夢中で武器を振り、魔法を放つ。
「こわいよ、パパ、ママ……」
「大丈夫だ。戦士達が戦ってくれている……!」
「祈りましょう……! 戦っている皆と炎龍様に……」
戦場と化した町の中に響き渡る音は、耳を塞いでも現実から逃げる事を許してはくれない。
人々が懸命に祈る中、日が沈んでも戦いは続いていたが、やがて静寂が訪れる。
誰かの手から落ちた武器が地面に転がる音が、静かになった一帯に響いた。
「……終わった、か……?」
「……終わったんじゃないか……?」
「鼻と耳が馬鹿になりそうだ……」
「……なった方が楽だったかもしれんな」
肉が裂け、噴き出す血の臭い。骨が砕かれる音。眼前の死に怯えた声。訪れた死に気付かぬまま逝った声。
『…………』
もう止んだ筈の音が、未だに耳の奥で残響している。
「スイ様、お辛いでしょうが、どうかお気を確かに」
『……っ、はい……』
生命が潰えていく音は、戦場のど真ん中で耳を塞ぐ事すら出来ない彼等の精神を大きく擦り減らした。
スイは酷く重く感じる頭を動かして上を向く。そこには、凄惨な地上とは反対に無数の星が瞬く静かな空が広がっている。
一歩踏み出した足が、血溜まりを踏んでぱしゃりと音を立てた。
『(……眠って、目が覚めたら、夢だったら良いのに……)』
「スイ様、我等は後の方にしてもらいました。少し休みましょう」
『……はい』
見張りの順番を決めると、それぞれ自分の番がくるまで束の間の休息に身を置く。
この日起きた事は願い虚しく夢とはならず、寧ろ惨禍の始まりに過ぎなかったのだとスイが思い知るのは、全てが終わった後となる。
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