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第四章 南大陸
拾われ子と惨禍 十九 ―後悔―
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時折、風に砂埃が舞う町の中を、闘技場に向かってスイは歩いていた。
その手にはニコラスの槍とハンターの証を持ち、背には温かさを失いつつあるニコラスを背負っている。
『…………』
いつ、またモンスターが召喚されて跋扈するかわからない町中に、ニコラスを置いていくと言う考えはスイには無かった。モンスターに襲われた際の危険性すら、考える事に至らなかった。
「……おい。あれ……」
治療の為、闘技場に戻る途中のハンター達がスイを見つけた。ニコラスを背負って俯き歩く姿に、何が起こったのかを悟る。
一人が、スイに近付いて声をかけた。
「手に持ってるのは、ニコラスの槍とハンターの証か?」
『…………』
無言で頷いたスイを見て、男はニコラスの身体を持とうとしたがスイの手がニコラスの服を掴んだ。
スイが何を考えたのか解った男は、自分の意図を話す。
「スイはその二つだけ持て。ニコラスは俺が皆の所に連れてく」
『…………』
スイは覇気のない眼で男を見上げた。何かを喋ろうと微かに唇が動いたが、枯れた喉からは声が出ず、少し咳き込んだだけだった。
「そのままじゃモンスターに襲われた時にやられちまうぞ。ニコラスをボロボロにしたくはないだろ」
頷き、手を離したスイを見て、男は仲間に声を掛ける。
「そういう訳だ。お前ら、闘技場に着くまで警戒を頼む」
「おう」
「任せろ」
道中、誰も一言も発さないまま歩く。離れた所からモンスターの鳴き声や、戦闘音が聞こえてくる。激しい争いを知らせる音が空気を伝う中、スイ達を中心にした僅かな空間だけが静かだった。
モンスターに襲われずに闘技場に着いたスイ達は、ハンターズギルドの方へ向かう。
職員達は、男が背負うニコラスと、俯いたスイを見て目を伏せた。
「ハンターニコラスに、最大の感謝と敬意を」
職員全員でニコラスに敬礼すると、担架に乗せて運んでいく。元は選手の控え室だった場所に、ニコラスの身体も横たえられる。
「支部長は?」
「冒険者ギルドの支部長とお話中です」
「そうか。俺達は医療ギルドの方に行く。支部長が出てきたら俺達とニコラスの事を伝えておいてくれ」
「かしこまりました」
「スイ、行くぞ。俺達もお前も、怪我を治す必要がある」
『…………』
小さく頷いたスイに、職員達は心配と同情の眼を向ける。
そんな職員達に、ハンター達は目配せをするとスイを促して医療ギルドに向かった。
「あ、ハンタースイ! 治療の続きを……」
スイを担当していた治癒士が駆け寄ってきたが、元闘技場を飛び出す前とは様子が違うスイに戸惑う。
窺うようにハンター達と眼を合わせて、彼等が首を左右に振ると黙ってスイの治療を再開した。光の魔力がスイを包む。
喉の違和感が無くなり、身体の傷が癒え、痛みが引いていく。
『(……どうすれば良かったんだろう……)』
何をどうするのが最善だったのか。
正答の見つからない自問自答を、スイは繰り返す。
もっと早く戻っていれば。
いや、共に戦っていれば。
いいや、ニコラスを闘技場に向かわせていれば。
そもそも、回復薬を使い切っていなければ。
自分が。
『……私が、光や地属性の魔力を持っていたら……』
「やめろ、スイ」
頭上から聞こえてきた厳しい声に、スイの思考は中断された。顔を上げたスイは、声と同じく厳しい表情のフリーデと視線が合う。
「反省も後悔も自身の成長を促す。しかし、過ぎればどちらも自身を殺す毒だ。生まれまで遡る様な後悔など、しても意味が無い。それは最早、君自身にはどうにもしようがない事だからだ」
「フ、フリーデ支部長……厳しすぎます。ハンタースイはまだ未成年で……」
「理由にならない。医療ギルドなど他所と違い、ハンターズギルドは適正試験を合格し、ハンターと認められた時点で子どもも成年扱いとなる」
にべもなく正論を述べて治癒士を黙らせると、フリーデは膝をついてスイと目線を近くする。
「スイがニコラスを看取ったと聞いた。その場に置き去りにしなかったとも」
『…………』
「よくやってくれた。ありがとう」
『……え』
厳しさから一変、フリーデは悲しむ様な、憂う様な表情を見せる。
「町の為に、人々の為に生命を懸けた者を蹂躙されるのは耐え難い。よく、ニコラスを連れて帰ってきてくれた」
枯れたと思う程泣いたのに、涙がぽろりと一雫、スイの頬を伝った。
『……すみません』
「それは何の謝罪だ?」
『……私が、もっと強ければ、ニコさんは……』
「そうかもしれないね。だが、それは今戦っている者全員が思っている事だ。そして、そう思った所でニコラスの事はもう変えられない過去となった」
スイの右肩に手を置いて、フリーデは真っ直ぐにスイを見る。
「スイはもう充分過ぎる程反省と後悔をした。今感じている痛みと共に、必ず君を強くする。だからもう省みるな。辛くても苦しくても前を向いてくれ」
『…………っ』
「この戦いが続く間は誰かが死に、誰かが悔やむ事を繰り返す。終わらねば、ニコラス達を弔う事も出来ない。酷な事を言っているのは承知だが、この戦いを終わらせる為に前を向いて戦ってくれ、スイ」
『…………っ、は……い。はい……っ』
もう誰も喪わない為に。
倒れた者達の尊厳を守り、心安らかに世界に還る事が出来る様に。
折れかけたスイの心が、再び芯を持つ。
涙を拭って、スイは戦意を取り戻した眼で肩に置かれた手に自分の手を重ねた。
『行きます。戦います。アレックスさん達と一緒に』
「……君の強さと勇気に、心から感謝と敬意を表する。ハンタースイ」
敬礼したフリーデに、スイは逡巡の後に立ち上がる。
『それは、私だけじゃなくこの町にいるすべての戦士へお願いします』
「あぁ、解っているとも」
スイはショートソードを一度抜いて状態を確認する。
『(剣身に刃こぼれもヒビも無い。けど、力はかなり弱い……握りに違和感もある)』
武器への違和感を無視すると生死に関わる。
スイ自身はまだ実感した事は無いが、マリクとシュウに言われた事は何れも大事に繋がる事だったので不安が募る。
『(……ボルカウィッチで魔法剣用の剣を買っておけば良かった)』
しっくり来ないからと後回しにした結果が今だ。備えの甘さを痛感するが、今更そう思った所で代わりの剣が出てくる訳では無い。
スイは鞘にしまうとショートソードを腰に下げて、一度だけ強く握ると、無理をさせることを心の中で謝る。
そして、フリーデへと顔を向けた。
『行ってきます』
フリーデは頷くと、半身をずらして背後に控えさせていたハンター達を前に出した。
「頼んだ。堕龍相手には数が少ないが、彼等も連れて行け。追って応援も向かわせる。朗報が届いたからな」
『朗報? あっ』
ばさりと羽を鳴らして一羽のメッセージバードがフリーデの肩に降りる。
「近隣の町からの知らせだ。クリフホースに乗って移動しているらしい。今日中に応援が着く予定だ」
クリフホースは主に山岳地帯に生息している。急斜面、足場の悪い場所でも登り降りをしたり、駆け回るクリフホースの脚はしなやかでありながら強靭で、平野に降りた際の走行速度は並大抵のモンスターでは追い付けない。
「応援が……!」
「何とかなるかもしれない!」
「水くさいな、もっと早く連絡くれたらよかったのに」
「向こうも急いでくれたんだろう。来てくれるだけ感謝だ」
『(……急いだのもあるんだろうけれど)』
メッセージバードには戦闘能力が無い。リーディンシャウフとの往復路でモンスターに襲われると、飛んで逃げる事しか出来ないのだ。逃げきれなかった場合、末路はひとつとなる。
『(何羽が無事に戻って来れるんだろう。ザクロは……)』
ザクロは、スイやコハクと並ぶと最も戦闘に向いておらず、臆病な所もある。
旅の中で強くなり、勇気と自信を身につけて意気揚々と飛び立って行ったが、震えていたのをスイは知っている。
臆病で、探知下手で、愛嬌があって、甘えん坊の愛すべき旅の仲間であり、友のひとり。
スイは不安を振り払う様に首を振る。
『(大丈夫。ザクロは戦えるし、強くなったんだから無事に戻ってくる。褒めてって鳩みたいに胸を張るから、いっぱい撫でてあげなきゃ)』
ザクロの帰還を信じて、スイは自分の成すべき事の為に援護要員のハンター達を見回す。
『皆さん、よろしくお願いします』
「おう。どこまで役に立てるかはわかんねえが、やるだけやってやるさ」
「歳若いお前らを前に立たせるのは情けねぇが……その分、援護は任せろ」
「死ぬ気で……いや、言い方が悪いな。全力で、隙を作ってみせる」
『……はい。また、皆で……』
ぐっ、と喉が狭まり言葉が詰まった。スイは潤んだ目を見られない様にと、皆に背を向けて無理矢理言葉を紡ぐ。
『――皆で、明日を迎えましょう』
それは、堕龍と戦おうとしているスイ達にとって何より叶える事が難しい願いのひとつ。
リーディンシャウフで戦う誰よりも若く、誰よりも小さいハンターの真っ直ぐな想いだ。
ハンター達はその言葉に誰も返事をしない。だが、歩き出したスイを追い抜いて、一人二人とスイの肩を叩いていく。
果たせない約束など、するべきではない。
でも、俺達は皆、思う事は同じだ。
肩から伝わる仲間の想いに、スイは一度だけ手の甲で目を擦って歩き出し、闘技場の外へ出た。
「まだアレックスは生きてる。流石だな」
「あの爺さんもいるな。スイ、このままアイツらの所に向かうので良いんだよな」
『は――っ!?』
スイはアレックス達がいる方向とは別方向に勢いよく顔を向けた。遅れて殆どの者が同じ方を向く。
「……何だ、これ」
「ドラゴンじゃねぇ……が……」
「こいつも相当やべぇぞ……!」
突如現れた異様な気配。龍とは異なるが、強烈な存在感は龍に近いものがある。
そして、その気配と交戦を始めたのは。
『コハク……!』
「どうする、スイ。ドラゴンは言わずもがなだが、コイツも相当強いぞ」
「オニとも違うが、多分オニと同じくらい強いな……」
『……オニと同じ強さ』
天災と同義ならば、他にハンターがいてもコハクだけでは危うい。しかし、コハクの方に向かえば、アレックス達が更なる危険に陥る。
『(どうする……!?)』
選択を誤って、仲間を死なせた。また繰り返す訳にはいかないと、スイは必死に思考を巡らせる。
『(どっちに先に行くべきだ……!?)』
瞼を閉じて数秒。この数秒ですら、生死の分かれ目となる事を知っているスイは尚更焦る。
『(……もう、間違えられない)』
瞼を開けたスイは、コハクがいる方向を苦しげに見つめると、アレックス達がいる方へ顔を向けた。
『……堕龍の方が危険です。アレックスさん達の方へ行きましょう』
「いいんだな?」
『コハクは私より強いですから。……きっと、大丈夫、です』
「……解った。行こう」
スイの決断に頷いて、全員が死地に向かって走り出す。
『……コハク……』
振り向いてコハクを呼んだスイは、前を向くと綯い交ぜになった感情のまま最後尾を走った。
その手にはニコラスの槍とハンターの証を持ち、背には温かさを失いつつあるニコラスを背負っている。
『…………』
いつ、またモンスターが召喚されて跋扈するかわからない町中に、ニコラスを置いていくと言う考えはスイには無かった。モンスターに襲われた際の危険性すら、考える事に至らなかった。
「……おい。あれ……」
治療の為、闘技場に戻る途中のハンター達がスイを見つけた。ニコラスを背負って俯き歩く姿に、何が起こったのかを悟る。
一人が、スイに近付いて声をかけた。
「手に持ってるのは、ニコラスの槍とハンターの証か?」
『…………』
無言で頷いたスイを見て、男はニコラスの身体を持とうとしたがスイの手がニコラスの服を掴んだ。
スイが何を考えたのか解った男は、自分の意図を話す。
「スイはその二つだけ持て。ニコラスは俺が皆の所に連れてく」
『…………』
スイは覇気のない眼で男を見上げた。何かを喋ろうと微かに唇が動いたが、枯れた喉からは声が出ず、少し咳き込んだだけだった。
「そのままじゃモンスターに襲われた時にやられちまうぞ。ニコラスをボロボロにしたくはないだろ」
頷き、手を離したスイを見て、男は仲間に声を掛ける。
「そういう訳だ。お前ら、闘技場に着くまで警戒を頼む」
「おう」
「任せろ」
道中、誰も一言も発さないまま歩く。離れた所からモンスターの鳴き声や、戦闘音が聞こえてくる。激しい争いを知らせる音が空気を伝う中、スイ達を中心にした僅かな空間だけが静かだった。
モンスターに襲われずに闘技場に着いたスイ達は、ハンターズギルドの方へ向かう。
職員達は、男が背負うニコラスと、俯いたスイを見て目を伏せた。
「ハンターニコラスに、最大の感謝と敬意を」
職員全員でニコラスに敬礼すると、担架に乗せて運んでいく。元は選手の控え室だった場所に、ニコラスの身体も横たえられる。
「支部長は?」
「冒険者ギルドの支部長とお話中です」
「そうか。俺達は医療ギルドの方に行く。支部長が出てきたら俺達とニコラスの事を伝えておいてくれ」
「かしこまりました」
「スイ、行くぞ。俺達もお前も、怪我を治す必要がある」
『…………』
小さく頷いたスイに、職員達は心配と同情の眼を向ける。
そんな職員達に、ハンター達は目配せをするとスイを促して医療ギルドに向かった。
「あ、ハンタースイ! 治療の続きを……」
スイを担当していた治癒士が駆け寄ってきたが、元闘技場を飛び出す前とは様子が違うスイに戸惑う。
窺うようにハンター達と眼を合わせて、彼等が首を左右に振ると黙ってスイの治療を再開した。光の魔力がスイを包む。
喉の違和感が無くなり、身体の傷が癒え、痛みが引いていく。
『(……どうすれば良かったんだろう……)』
何をどうするのが最善だったのか。
正答の見つからない自問自答を、スイは繰り返す。
もっと早く戻っていれば。
いや、共に戦っていれば。
いいや、ニコラスを闘技場に向かわせていれば。
そもそも、回復薬を使い切っていなければ。
自分が。
『……私が、光や地属性の魔力を持っていたら……』
「やめろ、スイ」
頭上から聞こえてきた厳しい声に、スイの思考は中断された。顔を上げたスイは、声と同じく厳しい表情のフリーデと視線が合う。
「反省も後悔も自身の成長を促す。しかし、過ぎればどちらも自身を殺す毒だ。生まれまで遡る様な後悔など、しても意味が無い。それは最早、君自身にはどうにもしようがない事だからだ」
「フ、フリーデ支部長……厳しすぎます。ハンタースイはまだ未成年で……」
「理由にならない。医療ギルドなど他所と違い、ハンターズギルドは適正試験を合格し、ハンターと認められた時点で子どもも成年扱いとなる」
にべもなく正論を述べて治癒士を黙らせると、フリーデは膝をついてスイと目線を近くする。
「スイがニコラスを看取ったと聞いた。その場に置き去りにしなかったとも」
『…………』
「よくやってくれた。ありがとう」
『……え』
厳しさから一変、フリーデは悲しむ様な、憂う様な表情を見せる。
「町の為に、人々の為に生命を懸けた者を蹂躙されるのは耐え難い。よく、ニコラスを連れて帰ってきてくれた」
枯れたと思う程泣いたのに、涙がぽろりと一雫、スイの頬を伝った。
『……すみません』
「それは何の謝罪だ?」
『……私が、もっと強ければ、ニコさんは……』
「そうかもしれないね。だが、それは今戦っている者全員が思っている事だ。そして、そう思った所でニコラスの事はもう変えられない過去となった」
スイの右肩に手を置いて、フリーデは真っ直ぐにスイを見る。
「スイはもう充分過ぎる程反省と後悔をした。今感じている痛みと共に、必ず君を強くする。だからもう省みるな。辛くても苦しくても前を向いてくれ」
『…………っ』
「この戦いが続く間は誰かが死に、誰かが悔やむ事を繰り返す。終わらねば、ニコラス達を弔う事も出来ない。酷な事を言っているのは承知だが、この戦いを終わらせる為に前を向いて戦ってくれ、スイ」
『…………っ、は……い。はい……っ』
もう誰も喪わない為に。
倒れた者達の尊厳を守り、心安らかに世界に還る事が出来る様に。
折れかけたスイの心が、再び芯を持つ。
涙を拭って、スイは戦意を取り戻した眼で肩に置かれた手に自分の手を重ねた。
『行きます。戦います。アレックスさん達と一緒に』
「……君の強さと勇気に、心から感謝と敬意を表する。ハンタースイ」
敬礼したフリーデに、スイは逡巡の後に立ち上がる。
『それは、私だけじゃなくこの町にいるすべての戦士へお願いします』
「あぁ、解っているとも」
スイはショートソードを一度抜いて状態を確認する。
『(剣身に刃こぼれもヒビも無い。けど、力はかなり弱い……握りに違和感もある)』
武器への違和感を無視すると生死に関わる。
スイ自身はまだ実感した事は無いが、マリクとシュウに言われた事は何れも大事に繋がる事だったので不安が募る。
『(……ボルカウィッチで魔法剣用の剣を買っておけば良かった)』
しっくり来ないからと後回しにした結果が今だ。備えの甘さを痛感するが、今更そう思った所で代わりの剣が出てくる訳では無い。
スイは鞘にしまうとショートソードを腰に下げて、一度だけ強く握ると、無理をさせることを心の中で謝る。
そして、フリーデへと顔を向けた。
『行ってきます』
フリーデは頷くと、半身をずらして背後に控えさせていたハンター達を前に出した。
「頼んだ。堕龍相手には数が少ないが、彼等も連れて行け。追って応援も向かわせる。朗報が届いたからな」
『朗報? あっ』
ばさりと羽を鳴らして一羽のメッセージバードがフリーデの肩に降りる。
「近隣の町からの知らせだ。クリフホースに乗って移動しているらしい。今日中に応援が着く予定だ」
クリフホースは主に山岳地帯に生息している。急斜面、足場の悪い場所でも登り降りをしたり、駆け回るクリフホースの脚はしなやかでありながら強靭で、平野に降りた際の走行速度は並大抵のモンスターでは追い付けない。
「応援が……!」
「何とかなるかもしれない!」
「水くさいな、もっと早く連絡くれたらよかったのに」
「向こうも急いでくれたんだろう。来てくれるだけ感謝だ」
『(……急いだのもあるんだろうけれど)』
メッセージバードには戦闘能力が無い。リーディンシャウフとの往復路でモンスターに襲われると、飛んで逃げる事しか出来ないのだ。逃げきれなかった場合、末路はひとつとなる。
『(何羽が無事に戻って来れるんだろう。ザクロは……)』
ザクロは、スイやコハクと並ぶと最も戦闘に向いておらず、臆病な所もある。
旅の中で強くなり、勇気と自信を身につけて意気揚々と飛び立って行ったが、震えていたのをスイは知っている。
臆病で、探知下手で、愛嬌があって、甘えん坊の愛すべき旅の仲間であり、友のひとり。
スイは不安を振り払う様に首を振る。
『(大丈夫。ザクロは戦えるし、強くなったんだから無事に戻ってくる。褒めてって鳩みたいに胸を張るから、いっぱい撫でてあげなきゃ)』
ザクロの帰還を信じて、スイは自分の成すべき事の為に援護要員のハンター達を見回す。
『皆さん、よろしくお願いします』
「おう。どこまで役に立てるかはわかんねえが、やるだけやってやるさ」
「歳若いお前らを前に立たせるのは情けねぇが……その分、援護は任せろ」
「死ぬ気で……いや、言い方が悪いな。全力で、隙を作ってみせる」
『……はい。また、皆で……』
ぐっ、と喉が狭まり言葉が詰まった。スイは潤んだ目を見られない様にと、皆に背を向けて無理矢理言葉を紡ぐ。
『――皆で、明日を迎えましょう』
それは、堕龍と戦おうとしているスイ達にとって何より叶える事が難しい願いのひとつ。
リーディンシャウフで戦う誰よりも若く、誰よりも小さいハンターの真っ直ぐな想いだ。
ハンター達はその言葉に誰も返事をしない。だが、歩き出したスイを追い抜いて、一人二人とスイの肩を叩いていく。
果たせない約束など、するべきではない。
でも、俺達は皆、思う事は同じだ。
肩から伝わる仲間の想いに、スイは一度だけ手の甲で目を擦って歩き出し、闘技場の外へ出た。
「まだアレックスは生きてる。流石だな」
「あの爺さんもいるな。スイ、このままアイツらの所に向かうので良いんだよな」
『は――っ!?』
スイはアレックス達がいる方向とは別方向に勢いよく顔を向けた。遅れて殆どの者が同じ方を向く。
「……何だ、これ」
「ドラゴンじゃねぇ……が……」
「こいつも相当やべぇぞ……!」
突如現れた異様な気配。龍とは異なるが、強烈な存在感は龍に近いものがある。
そして、その気配と交戦を始めたのは。
『コハク……!』
「どうする、スイ。ドラゴンは言わずもがなだが、コイツも相当強いぞ」
「オニとも違うが、多分オニと同じくらい強いな……」
『……オニと同じ強さ』
天災と同義ならば、他にハンターがいてもコハクだけでは危うい。しかし、コハクの方に向かえば、アレックス達が更なる危険に陥る。
『(どうする……!?)』
選択を誤って、仲間を死なせた。また繰り返す訳にはいかないと、スイは必死に思考を巡らせる。
『(どっちに先に行くべきだ……!?)』
瞼を閉じて数秒。この数秒ですら、生死の分かれ目となる事を知っているスイは尚更焦る。
『(……もう、間違えられない)』
瞼を開けたスイは、コハクがいる方向を苦しげに見つめると、アレックス達がいる方へ顔を向けた。
『……堕龍の方が危険です。アレックスさん達の方へ行きましょう』
「いいんだな?」
『コハクは私より強いですから。……きっと、大丈夫、です』
「……解った。行こう」
スイの決断に頷いて、全員が死地に向かって走り出す。
『……コハク……』
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