俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎

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リサ

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 俺は工房の戸締まりを確認し、素材の調達をすることにした。自分で採取したほうが安いし質も良くなるが、今の状況ではやむを得ない。今日はショップはお休みで、新しく雇ったリサにニーズ調査をしてもらっている。

 街の中心部に向かって歩き始めると、復興の進んだ地区が目に入った。瓦礫は撤去され、新しい建物が次々と建ち並んでいる。だが、俺が新しい素材の取引先に行こうとしたとき、その道中の脇道に逸れた先には、まるで時が止まったかのような光景が広がっていた。瓦礫の山、半壊した建物、そして無人の廃墟。復興の手が全く入っていない一画だった。

「これは……」

 驚きと戸惑いを感じながら、俺はその場に立ち尽くした。中心部からわずか数ブロック離れただけなのに、こんなにも状況が違うなんて。近くにいた老婆に声をかけてみた。

「すみません、ここはまだ復興作業が始まっていないんですか?」

 老婆はため息をつきながら答えた。

「ああ、ここらは貧しい者の住む地区でねぇ。お偉方は復興の優先順位が低いって言うんだよ」

 その言葉に、胸が締め付けられる思いがした。優先順位の低い人々の暮らし。俺はてっきり、国全体が復興に向けて盛り上がっているのだと思っていた。

 素材の調達を済ませ、重い足取りで工房に戻ると、リサが報告を待っていた。日に焼けた健康的な肌に豊満な体つき、それに対して真面目な表情と鋭い目つきに大変なギャップがある。

「お帰りなさい、ロアンさん。調査の結果をお伝えします」

 リサの報告にも、復興に手がついていない地域のことが記録されていた。避難所にはまだ人がいて、直面している問題があること。必要としている物資があること。

「清潔な水の確保が、まだ問題となっているようです。次に、寒さを防ぐための毛布や、安全を確保するための簡易的な防具も不足しています。他にも、作業員の方々からは、瓦礫撤去用の強化道具の需要がありました」

 俺はリサの報告に耳を傾けた。彼女の言葉一つ一つが、街の現状を明確に示していた。

「新しい製品の開発したいところだけど、俺のスキルで対応できるかな。それに、作っても買う余裕がある人たちじゃなさそうだし……」

 俺が悩んでいると、リサが工房の黒板に貼り付けられていた案内を持ってきて机に置いた。

「定例会議で進言してみてはいかがでしょう?」

 そういえば、この物件を格安即日で買うために、いくつかの条件があったんだ。俺のモチベーションは冒険用の装備を作ることだけど、もし復興のためにもこの技術が活かせるのであれば、そういう道を進んでみるのも悪くはないのかもしれない。

「資料作成は任せられるか?」
「当然です。朝までに一式、ご用意いたします」
「む、無理はしないようにな……」

 ビシッと正した姿勢で、仕事に取り掛かる。想像していた以上に頼りになる人物だった。シルヴィが気に入るだけある。

 俺は作業台に向かい、新たな装備の構想を練り始めた。清潔な水を確保するための浄水フィルター、保温効果の高い魔法布地を使った毛布、軽量で丈夫な作業用手袋。これらを低コストで大量生産する方法を考えなければならない。

 クラフトスキルを駆使して試作品を作り始めると、夜が更けていくのも忘れるほど没頭した。気がつけば、外は薄暗くなっていた。

「ロアンさん、そろそろ休憩を」

 リサの声に我に返る。彼女もさすがにくたびれた様子が伺えた。

「ああ、すまない。リサも帰って休んでくれ」

 リサは頷き、資料をまとめて帰り支度にかかった。俺はリサを見送りながら、ふと思った。

「あれだけ働いてくれるんじゃ、給料は相応に払わなとな」

 リサの働きぶりを見ていると、契約額よりも多く支払うべきだと思う。それだけの価値はあるし、この仕事をしてくれているのも、家族を養うためにより多くのお金が必要だからだそうだ。マジでめちゃくちゃ良い人なんだよな。

 定例会議が終わったら、もっと長期的な計画を考えよう。まずは素案に従ったデモ用のクラフトアイテムを揃えなければ。

 俺は深呼吸をし、再び作業に取り掛かった。
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