俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎

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次の依頼に向けて

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 翌朝、俺は早々に支度を整えると、冒険者ギルドに向かった。まだ体全体にダルさはあるが、休んでもいられない。

 ギルドの建物に入ると、普段よりも人が少ないことに気がついた。朝が早いせいだろうか。受付で鑑定の申請をし、順番を待つ。

 掲示板には、ダンジョンタイムアタック企画の公告が貼られていた。参加者の応募は締め切られていて、近々開催される。俺も工房として何か露天でもやるべきだろうか。この頃はクラフトのことばかりを考えているから、シルヴィとリサに頼んで、食べ歩き用の料理の売り子でもしてもらおうかな。客にもみんなにも怒られるだろうか。

「ロアンさん、お久しぶりです」

 順番が来て、鑑定室に入ると、顔見知りの鑑定士が笑顔で迎えてくれた。
 俺は軽く会釈をしながら、半透明の青い碑石の上に手を置いた。

「では、始めますね」

 鑑定士の言葉とともに、碑石が淡く光り始める。俺は緊張と期待を胸に秘めながら、結果を待った。

 碑石の光が消えると、鑑定士が結果を読み上げ始めた。

「えーと、レベル2素材活用スキル『ハイマテリアル』、レベル2魔法付与スキル『ハイエンチャント』、レベル2武具作成スキル『フォージアーティスト』……」

 鑑定士の声が続く。しかし、俺の耳には届いていなかった。

「……変化なし、ですか」

 俺は呟いた。鑑定士は残念そうな表情を見せた。

「はい、前回と同じようですね。何か、思い当たるところがあったのでしょうか?」
「ええ、まあ。ただ、予想通りなので、大丈夫です」

 俺は平静を装いながら答えた。わかっていたことではあるけれども、以前から何回もきっかけを掴みかけているのに、進歩がないことが歯がゆい。いや、新しいスキルは手に入れているが、レベル3という憧れがあるせいだ。

 ただ、レベルは上がっていなくても、あの経験は俺の中に確かに残っている。異次元世界でおそらく至っていたであろうレベル3の感覚、無限の創造力。それらを思い出せば、きっと今までとは違うアプローチでクラフトができるはずだ。

 鑑定室を出ると、シルヴィが待っていた。

「やっ、ロアン」
「シルヴィ。ミアから聞いたのか」

 人気のない通りを移動しながら、俺は尋ねた。

「ミアとダンジョンはどうだ?」
「特に変わったことはなかったよ。結晶が砕けた影響も、今のところはなさそうかな」
「そうか。探索の状況は?」
「いま、ようやく隣の部屋に進めたところ。暇になったら見にきなよ。スリリングな感じになってるよ」

 ニコニコと楽しげなシルヴィの報告を聞きながら、俺は安堵のため息をついた。少なくとも、大きな問題は起きていないようだ。

「そういえば……」

 だが、疑問は多くある。俺とヴァルドが遭遇したダンジョンは消えてしまった。でも、シルヴィが見つけたあの魔界ダンジョンは残っている。その事実に、不整合がある。

 なぜだ? あのダンジョンはやはり特別なのだろうか。考えれば考えるほど、不可解さが増す。通常のダンジョン部分に関しても、普通は踏破されると消滅する。おそらくは魔界化ダンジョンが奥に繋がっているから残り続けているのだろうが、もしあの最奥が、何者かに反応してダンジョンの扉が開かれたのだとしたら、俺やシルヴィが最初に抜け出したときにあそこも消えていたはずなのだ。

 そもそも、あの世界を開いたのは、ミアなのか、結晶の近くにいた別の誰かなのか、それとも……。

「うん?」

 俺が視線を向けると、シルヴィは愛らしい眼をクリッとさせて小首をかしげる。復興の手助けがしたいという言葉が真か偽かはともかく、彼女は彼女なりにそのとき面白いと思ったものに夢中になる癖がある。しれっと悪魔族の娘を工房に連れ込んでくるような女だからな。必要とあれば体の内側だって調べ尽くすだろう。

 ミアのことも、流れで受け入れてしまっているが、悪魔族を身内に抱えているって普通に問題なんだよな。クラフトスキルに脳を使いすぎて、ほかの大事な部位が萎縮している気がする。魔界ダンジョンから連れてきた不思議な少女。その正体は、未だに謎に包まれたままだ。

「今任されてる仕事が、アイデアがたくさん必要になりそうなんだ。行き詰まったら行かせてもらうよ」
「うんうん。いい刺激になると思うよ」

 パッと明るい笑顔で応えてくれたシルヴィに癒やされるだけして会話を終え、俺は工房に戻った。机の上には、エリザベスから送られてきた資料が積まれている。農業用魔導具の製作に向けて、準備を始めなければならない。

 資料を広げ、目を通していく。ブレイクウォーター領の現状、農業の課題、環境問題。複雑に絡み合った問題を解決するには、これまでにない発想が必要だろう。

「まずは、土壌の魔力汚染を抑える装置か……」

 俺は考えながら、メモを取り始めた。そもそも、これがどういう状況を指しているのかを読み込まなければならない。高度な魔法合戦が行われたあとは、その土地に残った魔力濃度の高さに一般市民が住めなくなるような環境になることはあるが、土壌に影響して細るというところまで詳しく聞いたことがなかった。その道の専門家を呼んでクラフトを手伝ってもらうか、俺から出向いて教えを請うか

 アイデアを練り、必要な素材をリストアップしていく。通常の鍛冶材料だけでなく、魔力を制御する特殊な鉱石や、浄化効果のある希少な植物なども必要になりそうだ。

「リサ、ちょっと来てくれないか」

 俺は声をかけた。リサが事務所から顔を出す。あれからリサもすっかり元気になった。

「はい、何でしょうか」
「これらの素材の調達ルートを探ってくれないか。できるだけ早く、かつ安定して供給できるところを」

 リサは素材リストに目を通すと、少し驚いた表情を見せた。

「普段は取り扱わない素材もありますね。調べてみます」
「三日以内に工房に運んで来れる限りでいいよ。それと、ガレスにも協力を仰ぎたい。三つの領地それぞれに適した魔導具を作るには、複数の視点が必要になりそうだ」

 リサは頷き、さっそく作業に取り掛かった。

 俺は再び資料に目を向ける。エリザベスと二つの領地の代表が、四日後に来訪する。それまでに、何の土産もなく迎えるわけでにはいかない。

「よし、やるか」

 俺はこれまでのもやもやをふっ飛ばして、設計に取り掛かった。
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