俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎

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大会用装備の成熟

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 工房で俺は机の上に広げられた設計図を見つめていた。薄暗い室内で、図面の上に立つ影が揺らめいている。結晶をアクセサリーに加工する決断をしてから、作業の進み具合は格段に上がっていた。指輪型のアクセサリーとして仕上げた結晶は、今や俺の右手中指に輝いている。加工後に変色した淡く赤い光が、部屋の雰囲気を幻想的なものに変えていた。

「これなら……防具のほうもまだ改良できるか」

 俺は深く息を吸い、集中力を高めた。指輪から溢れ出す魔力が、体内を巡る。その感覚は、まるで体が別の次元に到達したかのようだ。皮膚の下を流れる魔力が、血管を通る血液のように感じられる。指先がピリピリとしびれ、全身に力が漲るのを感じた。

 終わりだと思っていた防具の改良から手をつける。あの異空間で体験した感覚が蘇ってきて、レベル3相当の『フォージマエストロ』のスキルが発動する。俺の手の動きが、今までにない精度で素材を形作っていき、国から支給された軽量で柔軟な特殊合金が、まるで生き物のように形を変えていった。溶け、流れ、そして、固まっていく過程が、スローモーションで見えるかのようだ。新しく整形した装甲部分を付け替えると、格段に防具の防御力がアップする。

 出来上がった防具は、まるで第二の皮膚のように薄く、しなやかだった。指で触れると、微かに温かみを感じる。光の加減で、表面が虹色に輝いて見える。『エンチャントエンジニア』のスキルを駆使して、防具に魔力の流れを組み込んでいった、その複雑な魔力回路が、防具の表面全体に張り巡らされる。この回路が、外部からの攻撃を受け止め、分散させる役割を果たす。魔力が流れ込むと、防具全体が淡く光を放ち、まるで生命を宿したかのように見える。

「これで防具は完成だ」

 俺は満足げに出来上がった防具を眺めた。光を当てると、表面に微細な魔法陣が浮かび上がる。それは複雑な幾何学模様を描き、見る者を惹きつける美しさがあった。

 続いて、武器の制作に取り掛かる。今回は剣を作ることにした。剣の制作には、さらに高度な技術が要求される。しかし、レベル3相当のスキルを持つ今の俺なら、それも可能だ。

 『フォージマエストロ』で剣の基本形状を作り上げる。刃は鋭く、しかし柔軟性も持ち合わせている。炎の中で赤熱した金属を、ハンマーで打ち、折り、また打つ。その過程で、金属の結晶構造が変化していくのが感じられる。次に、『エンチャントエンジニア』で特殊な魔力を込める。この魔力は、先ほどの防具の「弱点」と共鳴するよう調整されている。魔力を注入する際、剣身全体が青白い光に包まれた。
 
 これなら実力者なら防具の弱点を的確に狙えるはずだ。剣を振ってみると、空気を切る鋭い音が響いた。その感触は、まるで生き物のように柔軟で、同時に鋭利だった。刃先が光を反射して、一瞬だけ虹色に輝いた。

 防具と武器が完成し、俺は深い満足感に包まれた。これらの装備なら、S級対抗戦の要求を十分に満たせるはずだ。疲労感と達成感が入り混じる中、俺は完成した装備を丁寧に布で包み、報告に向かう準備を始めた。

 国家魔導具管理局に到着すると、カイルは期待に満ちた眼差しで迎えてくれた。彼の目は輝いており、その表情からは俺の作品への期待が伝わってきた。

「おお、ロアン様。完成したのですか?」
「はい、一旦の完成です。」

 俺は慎重に言葉を選びながら、装備の説明を始めた。防具の特殊構造や、剣との連携機能について、詳細に解説していく。カイルは真剣な表情で聞き入っている。鋭い質問を投げかけてくるが、俺はそのたびに的確に答えていった。

「素晴らしい。これなら、我々の要求を十分に満たしていますね」

 カイルの言葉に、俺は安堵のため息をついた。長時間の緊張から解放され、肩の力が抜けるのを感じた。そして、カイルは新たな話題を切り出した。

「さて、S級対抗戦の詳細についてお伝えしましょう。今回の対抗戦は、二つの形式で行われます」

 俺は身を乗り出して聞いた。カイルの声音に、何か重要な情報が含まれているような気がした。

「一つは、パーティの代表者同士で戦う決闘形式です。これは、個人の力量を測るための競技となります。もしかしたら一番盛り上がるかもしれませんね。対抗する同ランクでの戦いになりますので白熱しますよ」

 カイルは一呼吸置いて、続けた。その間、俺の頭の中では、どのパーティがどの代表を立てるか、推測が巡っていた。

「もう一つは、チーム全体で作り上げられた戦場でミッションをこなすシミュレーション戦です。これは、チームワークと戦略を試す競技になります」

 カイルの説明を聞きながら、俺は新たな課題に気づいた。個人戦とチーム戦、それぞれに適した装備の微調整が必要になりそうだ。そこに俺がどこまで介入してよいものか。レベル3の装備者テーラリングスキル『シンクロスミス』を使えば、装備者に適した装備に武具を変化させることができる。これは装備を頼りにしている戦闘者にかなりのアドバンテージを与えることになる。

 すべてのパーティがお抱えのクラフターを持っていればそれでよいのだろうが、それではクラフターとの繋がりだけで戦力に差が出てしまう。あるいは、装備だけは横並びにするというのが理想だが、重装備が必要な者もいれば軽装備が望ましい者もいるため、単純な思考では成り立たない。

 対抗同士に同一同量だけ、要望された形式に従って作ってはいるものの、俺一人が作っているわけでもないしな。

「要望に合わせて、さらなる調整を行います」

 俺の言葉に、カイルは満足げに頷いた。彼の表情には、俺への信頼が表れていた。

「ロアン様が担当されているのはS級の二組ですからね。特に盛り上がりに重要な要素となりますよ。どちらの組にも平等になるように装備を用意するため、ゲオルグ・アイゼン様とのクラフト対決として見られないのは残念ですが」
「ああ、あの準備会場で会った……」

 白髪の老人。彼はかなりの熟練クラフターだ。装備作成のスキルそのものは俺と同等であっても、レベル3魔法効果複合スキル『エレメンタルアーティファクト』、レベル3元素複合スキル『エレメンタルハーモナイザー』という魔法系に特化したクラフトスキルを持っていることで有名。今大会は魔法属性に制限があるため目立たないが、これがむしろ魔法効果で勝負が決まる決戦であれば彼の装備が猛威をふるったことだろう。

「ともかく、まずは対象者に装備を渡し、試してもらいましょう」
「そうですね。感想を聞いてみたいです」

 カイルは俺を連れてS級冒険者たちのもとへ向かった。
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