27 / 171
第二章 初学院編
26
しおりを挟む
昼休み。男子一同はグラウンドに集まっていた。これから、「ザルケ」という球技を行うらしい。ザルケの説明を聞いた感じ、サッカーに似ている感じのスポーツの様だった。基本足でボールを扱うようだ。俺は何を隠そう、中高サッカー部に所属していた。俺のハットトリックをお見せしようかと思ったけど、少し考えてみてほしい。
確かに小学生の時は給食を食べたらすぐに、サッカーやらドッヂボールをしていた。エネルギーのあまりまくる子供だったから。しかし、アラサーにそれはキツイ。精神はアラサーのため、食後にすぐにスポーツをするなんて考えられない。加えて、この少し前まで病弱だった体力のない体である。
しかし、ここは他のクラスメイトや同学年の生徒と距離を縮めるチャンスである。ゲボを吐いてでも………、吐く前に辞めた方がよさそうだな………。とにかく、頑張りたい。
「アース、本当にやるのか? 体調は大丈夫なのはわかっているけど、それでも心配だな。」
キルは俺が参加することにあまり賛成ではないらしい。確かに以前の俺を知る人にとっては、あまり受け入れられないかもしれない。だけどスポーツ程度でへばっていては、魔法戦なんてもってのほかである。この腕時計で体調がよくなっている今やらずにして、いつやるというのだ。
「そのボール、ちょっと貸してみ?」
俺がそういうと、キルは渋々といった感じでボールを渡してくれた。やるのは久しぶりだけど、多分大丈夫だと思うけど………。
俺は思い出すようにゆっくりと、リフティングを始めた。最初は久しぶりの動きでぎこちなかったが、徐々に前のようにできるようになった。
「うわ、すげーーー!」
「かっこいい! 俺にも教えてください!」
すると、周りの男子生徒から声がたくさん上がった。やはり、どこの世界でも小学生の男子は似たようなものだな………。
俺は空中にボールをけり上げて、それをきれいにキャッチした。そして、ボールをキルに渡した。
「な? 大丈夫だろ?」
キルはボールを受け取ると、グラウンドへと駆け出していった。
――
五分後。
俺は木陰にあるベンチで休んでいた。俺は八歳児の体力を完全に舐めていた。何で子供ってあんなに体力が有り余っているんだ? 俺の貧弱な体力では、八歳の子供たちと戯れるのは五分が限界だった。
五分だぞ、五分! あまりにも自分が情けなさ過ぎる。五分程度でバテテしまった俺を、男子生徒たちはなにも見なかったかのようにふるまってくれた。おじさんには、その優しさが胸に刺さるんだよ………。
「あの、よろしければこちらのタオルをお使いくださいませ!」
「こちらにはお飲み物がございますわ!」
え? 後ろを振り向くとおそらくクラスメイトの二人が、タオルと飲み物をもって立っていた。ここには男子生徒だけではなく、それを見るために女子生徒も結構集まっていた。まあ目的はキルであったり、側近仲間だったりすると思うけど。見ていて思ったのだけど、側近組も結構人気があるようだ。まあ、顔良し家柄よしだから、放っておかれるわけがないか。
「ありがとうございます。えーと、申し訳ございません。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「初めまして。わたくしはマリア・テレシーと申します。以後、お見知りおきくださいませ。」
「お初にお目にかかりますわ。わたくし、ムンナ・シーコイズと申しますわ。」
テレシー侯爵家に、シーコイズ伯爵家のご令嬢か………。どちらも、美少女である。俺なんかに、何か用があるのだろうか?
「テレシ―様とシーコイズ様ですね。アース・ジーマルと申します。よろしくお願いします。こちらは本当に、私が使用してもよろしいのでしょうか?」
「ええ、是非お使いになってくださいませ。」
「ありがとうございます。えーと、俺に何かご用件がおありなのでしょうか?」
俺がそういうと、二人は少しもじもじしながら手を胸の前で結んだ。あ、これは女の子が何かお願いをするときの必殺ポーズだ。
「あの………できれば、キルヴェスター殿下のお話をお聞かせいただけないでしょうか?」
あーやっぱり、そういうことか。キルが近くにいるときは聞きにくいけど、少し外れた俺を捕まえてキルの話を聞こうとしたわけか。
これは隠れゲイあるあるの一つだと思う。仲のいい気になっている友人の話を女子から聞かれたり、彼女になる手助けを頼まれたりするあれである。これはなかなかきついんだよな………。まあ話すくらいなら、構わないけどあんまりキルのこと知らない気がするな………。
「俺に話せることでよければ、構いませんよ。俺の横でよければ、お座りになられますか?」
「「はい、喜んで!」」
俺がそういうと、二人はやけに食い気味にベンチに腰かけた。そんなに期待されても、キルについて話せることは少ないんだよな………。
そうしてキルのことについて根掘り葉掘り聞かれた俺は、意気消沈していた。何せ、ほとんどわからなかったから。キルの好きな食べ物や色、飲み物や誕生日に至るまでそんなに難しくないものを知らなかった。一応、「側近になって日が浅いので」と躱していたが、あまりにも知らなすぎる俺に、二人は飽きないのだろうか?
「もう少し聞きたいことがありますので、よろしければお茶会にお誘いしてもよろしいでしょうか?」
え、お茶会? そういえば、お茶会に参加したことないよな? これからそういう機会があるだろうし、この年でお茶会に参加したことがないのはまずいよな………? キルに言えば、教えてくれるかな?
「そうですね………お茶会には慣れていないので、機会があれば構いませんよ。」
ガッツリ断りたかったけど、よさげな理由が思いつかなかったので「機会があれば」と、逃げることにした。
「まあ、嬉しいですわ! では早速、日にちを………。あら、殿下がこちらに向かってきますわ!」
殿下? 見ると熱そうに前ボタンを開けているキルが、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。
こういうスポーツ直後の好きな人のしぐさって、グッとくるよな。腹チラとか腹チラとか………って、煩悩よ出てくるな!
「ではごきげんよう、ジーマル様。あ、よろしければ次回からアース様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「私たちのこともできれば、名前でお呼びくださいませ。」
まあ、本人が来たら退散するよな。名前で呼ぶくらいはまあ、構わないよな。相手も呼んでいいと言っているし。
「構いませんよ。タオルと飲み物、ありがとうございました。新しいものをご用意いたしますね。」
「お気になさらないでくださいませ。では、ごきげんよう。」
「ごきげんようですわ。」
二人はそういうと、ご令嬢とは思えない速度で退散していった。洗って返すとか言わなくて、正解だったよな………? 俺の使ったタオルなんかいらないとか言われたら、数日寝込みそうだ。
確かに小学生の時は給食を食べたらすぐに、サッカーやらドッヂボールをしていた。エネルギーのあまりまくる子供だったから。しかし、アラサーにそれはキツイ。精神はアラサーのため、食後にすぐにスポーツをするなんて考えられない。加えて、この少し前まで病弱だった体力のない体である。
しかし、ここは他のクラスメイトや同学年の生徒と距離を縮めるチャンスである。ゲボを吐いてでも………、吐く前に辞めた方がよさそうだな………。とにかく、頑張りたい。
「アース、本当にやるのか? 体調は大丈夫なのはわかっているけど、それでも心配だな。」
キルは俺が参加することにあまり賛成ではないらしい。確かに以前の俺を知る人にとっては、あまり受け入れられないかもしれない。だけどスポーツ程度でへばっていては、魔法戦なんてもってのほかである。この腕時計で体調がよくなっている今やらずにして、いつやるというのだ。
「そのボール、ちょっと貸してみ?」
俺がそういうと、キルは渋々といった感じでボールを渡してくれた。やるのは久しぶりだけど、多分大丈夫だと思うけど………。
俺は思い出すようにゆっくりと、リフティングを始めた。最初は久しぶりの動きでぎこちなかったが、徐々に前のようにできるようになった。
「うわ、すげーーー!」
「かっこいい! 俺にも教えてください!」
すると、周りの男子生徒から声がたくさん上がった。やはり、どこの世界でも小学生の男子は似たようなものだな………。
俺は空中にボールをけり上げて、それをきれいにキャッチした。そして、ボールをキルに渡した。
「な? 大丈夫だろ?」
キルはボールを受け取ると、グラウンドへと駆け出していった。
――
五分後。
俺は木陰にあるベンチで休んでいた。俺は八歳児の体力を完全に舐めていた。何で子供ってあんなに体力が有り余っているんだ? 俺の貧弱な体力では、八歳の子供たちと戯れるのは五分が限界だった。
五分だぞ、五分! あまりにも自分が情けなさ過ぎる。五分程度でバテテしまった俺を、男子生徒たちはなにも見なかったかのようにふるまってくれた。おじさんには、その優しさが胸に刺さるんだよ………。
「あの、よろしければこちらのタオルをお使いくださいませ!」
「こちらにはお飲み物がございますわ!」
え? 後ろを振り向くとおそらくクラスメイトの二人が、タオルと飲み物をもって立っていた。ここには男子生徒だけではなく、それを見るために女子生徒も結構集まっていた。まあ目的はキルであったり、側近仲間だったりすると思うけど。見ていて思ったのだけど、側近組も結構人気があるようだ。まあ、顔良し家柄よしだから、放っておかれるわけがないか。
「ありがとうございます。えーと、申し訳ございません。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「初めまして。わたくしはマリア・テレシーと申します。以後、お見知りおきくださいませ。」
「お初にお目にかかりますわ。わたくし、ムンナ・シーコイズと申しますわ。」
テレシー侯爵家に、シーコイズ伯爵家のご令嬢か………。どちらも、美少女である。俺なんかに、何か用があるのだろうか?
「テレシ―様とシーコイズ様ですね。アース・ジーマルと申します。よろしくお願いします。こちらは本当に、私が使用してもよろしいのでしょうか?」
「ええ、是非お使いになってくださいませ。」
「ありがとうございます。えーと、俺に何かご用件がおありなのでしょうか?」
俺がそういうと、二人は少しもじもじしながら手を胸の前で結んだ。あ、これは女の子が何かお願いをするときの必殺ポーズだ。
「あの………できれば、キルヴェスター殿下のお話をお聞かせいただけないでしょうか?」
あーやっぱり、そういうことか。キルが近くにいるときは聞きにくいけど、少し外れた俺を捕まえてキルの話を聞こうとしたわけか。
これは隠れゲイあるあるの一つだと思う。仲のいい気になっている友人の話を女子から聞かれたり、彼女になる手助けを頼まれたりするあれである。これはなかなかきついんだよな………。まあ話すくらいなら、構わないけどあんまりキルのこと知らない気がするな………。
「俺に話せることでよければ、構いませんよ。俺の横でよければ、お座りになられますか?」
「「はい、喜んで!」」
俺がそういうと、二人はやけに食い気味にベンチに腰かけた。そんなに期待されても、キルについて話せることは少ないんだよな………。
そうしてキルのことについて根掘り葉掘り聞かれた俺は、意気消沈していた。何せ、ほとんどわからなかったから。キルの好きな食べ物や色、飲み物や誕生日に至るまでそんなに難しくないものを知らなかった。一応、「側近になって日が浅いので」と躱していたが、あまりにも知らなすぎる俺に、二人は飽きないのだろうか?
「もう少し聞きたいことがありますので、よろしければお茶会にお誘いしてもよろしいでしょうか?」
え、お茶会? そういえば、お茶会に参加したことないよな? これからそういう機会があるだろうし、この年でお茶会に参加したことがないのはまずいよな………? キルに言えば、教えてくれるかな?
「そうですね………お茶会には慣れていないので、機会があれば構いませんよ。」
ガッツリ断りたかったけど、よさげな理由が思いつかなかったので「機会があれば」と、逃げることにした。
「まあ、嬉しいですわ! では早速、日にちを………。あら、殿下がこちらに向かってきますわ!」
殿下? 見ると熱そうに前ボタンを開けているキルが、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。
こういうスポーツ直後の好きな人のしぐさって、グッとくるよな。腹チラとか腹チラとか………って、煩悩よ出てくるな!
「ではごきげんよう、ジーマル様。あ、よろしければ次回からアース様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「私たちのこともできれば、名前でお呼びくださいませ。」
まあ、本人が来たら退散するよな。名前で呼ぶくらいはまあ、構わないよな。相手も呼んでいいと言っているし。
「構いませんよ。タオルと飲み物、ありがとうございました。新しいものをご用意いたしますね。」
「お気になさらないでくださいませ。では、ごきげんよう。」
「ごきげんようですわ。」
二人はそういうと、ご令嬢とは思えない速度で退散していった。洗って返すとか言わなくて、正解だったよな………? 俺の使ったタオルなんかいらないとか言われたら、数日寝込みそうだ。
337
あなたにおすすめの小説
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
-----------------------------------------
0時,6時,12時,18時に1話ずつ更新
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
王子に彼女を奪われましたが、俺は異世界で竜人に愛されるみたいです?
キノア9g
BL
高校生カップル、突然の異世界召喚――…でも待っていたのは、まさかの「おまけ」扱い!?
平凡な高校生・日当悠真は、人生初の彼女・美咲とともに、ある日いきなり異世界へと召喚される。
しかし「聖女」として歓迎されたのは美咲だけで、悠真はただの「付属品」扱い。あっさりと王宮を追い出されてしまう。
「君、私のコレクションにならないかい?」
そんな声をかけてきたのは、妙にキザで掴みどころのない男――竜人・セレスティンだった。
勢いに巻き込まれるまま、悠真は彼に連れられ、竜人の国へと旅立つことになる。
「コレクション」。その奇妙な言葉の裏にあったのは、セレスティンの不器用で、けれどまっすぐな想い。
触れるたび、悠真の中で何かが静かに、確かに変わり始めていく。
裏切られ、置き去りにされた少年が、異世界で見つける――本当の居場所と、愛のかたち。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
夜が明けなければいいのに(洋風)
万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。
しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。
そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。
長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。
「名誉ある生贄」。
それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。
部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。
黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。
本当は、別れが怖くてたまらない。
けれど、その弱さを見せることができない。
「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」
心にもない言葉を吐き捨てる。
カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。
だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。
「……おめでとうございます、殿下」
恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。
その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。
――おめでとうなんて、言わないでほしかった。
――本当は、行きたくなんてないのに。
和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。
お楽しみいただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる