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第三章 ウェルカムキャンプ編
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しおりを挟む「なあ、アース。2年間の間に、其方は祖父上からいったい何を学んだのだ? まだまだ色々と習っていそうだが………。」
アルベルト殿下は若干の警戒心を孕んだ声で、そう聞いてきた。
「私が習ったのは基本的に魔法ですよ。戦闘や回復について教わりました。あとは調合と基本的な薬学ですね。それからもう1つが回避術です。」
「回避術とは何だ? 内容はイメージできるが………。」
アルベルト殿下と事情の知らない皆さんが首をかしげながら聞いてきた。
キルたちは事情を知っているようで、苦笑いをしていた。あ、ジールが遠い目をしている。うん、ジールも特訓を受けたんだね。
俺は綺麗な虹を思い浮かべて、遠くを見やった。
「文字通り、ひたすら相手の攻撃を回避する技術です。「近接戦闘に持ち込まれた程度で負けるような魔導士は護衛に必要ありません。」と穏やかな笑みを浮かべながら、カーナイト様が攻撃をし続けるので、その攻撃をひたすらよけ続ながら身につける技術なのです。カーナイト様の空間属性の攻撃は、少し当たるだけでも空間事削り取られるので、緊張感がありましたね。」
「………緊張感どころか、身体が欠損するんじゃないかと気が気ではなかったッスよ。ローウェルも楽しみにしているッスよ。」
俺とジールに温かい目を向けられてローウェルは、自分の体を抱きしめながら体合を震わせた。
俺はとりあえず、服を着ていないから寒いのだろうということにして、ローウェルに服を着るように促した。
「其方らが強くなっているのなら僥倖だ。ただ、強くなっているからといって気を抜くことは許さないからな。特に、今月末に行われるウェルカムキャンプでは、相手がC級の魔物しかいないからと油断しないように。」
アルベルト殿下は第一王子らしく、まじめな顔でそう言った。
俺達は神妙な面持ちで、「はい」と真面目に返事をした。………アルベルト殿下がわざわざそういうということは、なにか懸念点があるのだろうか?
すると、俺と同じことを考えたのか、キルが口を開いた。
「兄上。俺たちのウェルカムキャンプでは、何かが起こると懸念されているのですか?」
キルがそういうと、アルベルト殿下はふっと微笑んだ後に、パタパタと手を振った。
「いや、そういうわけではない。何か、突発的な危険を懸念しているのではなく、王族とその側近としていかなる時も緊張感を忘れるなということを言いたかったのだ。………
ただ、其方たちに伝えておくことがあるとすれば………最近、魔物の森が少し騒がしいということくらいだ。調査を今しているが、特段何か起こっているわけではないようだ。
だが念のため、其方たちの行く森には例年よりも少し多く人員を配置するつもりだ。王族のキルがいることだしな。」
「承知しました。その旨、心に留めておきます。」
「ああ。護衛対象に危機感があるのとないのでは天地の差があるからな。そうしてくれ。」
アルベルト殿下の言葉に俺たちは、頷いた。キルに向けていっていることだが、側近の俺たちに向けても側近としてしっかりと働けと言われているのを感じる。
「その話はまた後日行うことにする。それでは、今回の重要事項である本日の件の対外向けの説明について確認する。まず、アース1人の力であることは公表しない。理由は、希少性や特別性からアースが危険すぎるからだ。そこで、ザールと共同で回復に当たったとしようとしたが………。治療できるとなれば、国内外から厄介ごとが持ち込まれる可能性が高い。」
………確かにその通りだな。俺1人の時よりは、厄介ごとは減りそうだけど、ザール様の名前が挙がっても、回復依頼や研究依頼など国内外からの厄介ごとが少なからずあるに違いない。
「そこで、これによってローウェルは回復したことにする。」
アルベルト殿下はそういうと、まるで手品のように空のビーデンを取り出した。ビーデンとは、回復薬等を入れておく蓋つきの試験管のようなものだ。保存と劣化防止の付与魔法が
施されている。貴族はほとんど全員がこれを腰に提げている。いつ回復薬や魔力回復薬が必要になるかわからないからだ。貴族院では毎月中級のものが1本ずつ支給される。
………そうだ。素材が確保できるなら、上級の回復薬を俺が調合してキルたちに渡しておこう。
いや、それついてはまた後でだ。アルベルト殿下は一体、何を言おうとしているのだろうか? たとえ上級でも魔力回路は回復薬では治らないのに、どうするのだろうか?
俺達が首をかしげていると、ザール様が驚いたような顔で口を開いた。
「アルベルト殿下、まさか、エリクサーを使用したことになさるのですか?」
「ああ、そのとおりだ。」
エリクサー………どんな病気も怪我も、飲むだけで回復することができるまるで奇跡のような回復薬。
こんなものがあるなら、回復魔導士なんて必要ないじゃないかと俺は思ったことがある。しかし、現実はそんなに甘くないものだ。
エリクサーは、最難関と分類されるSS級ダンジョンの最後のボスを突破した上でさらに、低確率でドロップすることによって手に入れることができる。
どれくらい手に入らないかというと、各国の王族皇族が全力で手に入れようとしても、良くて1つストックできるかどうかというくらいのものだ。
そんな貴重なものを使ったことにするのか……?
「アルベルト殿下。確かに、エリクサーであれば魔力回路の治療も可能でしょう。……ただ、エリクサーほどの貴重で高価なものを、王族でも王族に連なる者でもなく、そして命の危機にも瀕していない侯爵家の次男に使ったなどとどれだけの者が信じるでしょうか?」
ローウェルには悪いけど、ザール様の言うとおりだ。
エリクサーとは本来、使うべきではないものだ。王族の危機、それも単なる王族ではなく国家存続にかかわるようなときに使うものであるべきはずだ。
侯爵家とは言えども次男でさらに、文官として側近になっている者に使うなんて正気を疑われてもおかしくはない。
「信じないだろうな。」
アルベルト殿下は、さも当然とでもいうような表情でそう言った。
相変わらず、考えていることの次元が一般人の俺とはまったく異なるようだ。
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