疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン

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裁判 6

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精霊はダンの隣にずっといる。

今のケントは精霊のぼんやりした気配さえ感じることができないようだ。

混乱しているのはケントだけではない。


「な、何?精霊?変な事を言ってこの裁判を混乱させようってことか!

聖職についている俺にも見えないんだ。精霊なんかいる訳ねえよ!」

小声でぶつぶつと言いながら悪人顔の司教は見物席にいる大司教の方に目をやった。





大司教は…。



見えているようだ…。



滅多に脱帽しない大司教が帽子を取って胸に手を当てている。

精霊に祈りを捧げる式典の時のみ見られる振る舞いだ。



「う、嘘だろ…。ここに精霊がいるのか…?」
司教は焦る。

「う、嘘だ…、僕には精霊が見えないのに、リリアには見えるのか…?何でなんだ?」
ケントは混乱する。


「リリア様、勝手にあのような女に希少な魔力を渡してしまうとは…。
これで予定が狂ってしまった。リリア様の魔力を我主人ケント様に全て移して処分しようとしたのに…。」
ゲイブは困惑する。



それぞれが、予測を反することばかりで呆然としている。


「私から話したいことは以上です。この結界を解いて頂けます?」

リリアは澄ました顔をして裁判長に主張した。


「も、もう良い。下がれ。」悪人顔の司教は何とか冷静さを保とうとしている。


リリアが弁護席に戻るとラジオが手を上げた。


「裁判長。
私どもから提出物があります。

ああ、提出するより、これだけ見物人が来てくれているのでここで披露しましょう。
おっと、手が滑った。」

ラジオの手には記録玉があり、手が滑ったと言ってしっかり記録玉の内容を発動させた。

記録玉から映し出されたのはデリスの遺体を前にして自身の欲まみれな話を下品な笑みで言い合う悪人顔の司教とゲイブの姿だった。しっかり音声も記録されている。

「僕もこれを見た時本当に驚きました。聖職についている司教殿が遺体を前にこのような下世話な話をされていること。
そして、長年支えてくれていたメイドの遺体の前で司教殿同様リリアを陥れることしか話していないアルバ家の執事にも。
これが遺体を前にして話す姿なのでしょうか?」



「や、やめろ!裁判だろ!!勝手なものを出すな!!」


司教は前のめりになり、唾を飛ばしながらラジオに止めるよう要請する。


「ああ、すみません。手が滑ってしまって…。わざとじゃないんですよ。ハハハ。」

ラジオは全ての内容を皆が見たのを確認して記録玉をしまった。

「くくっ。面白い演技だね、ラジオ様。」隣でマーガレットが喉を鳴らす。

「我執事をお手本にしてみました。」ラジオは汗をかきながら一息ついている。


記録玉の映像を見て周囲がざわつき始めた。

『ねえ、今日の裁判って誰を裁く日だったっけ?』

『あの裁判長、さっきの映像で俺たちを魔契約で働かせるって言ってたよな…。』

『リリア様のお兄様の執事って何がしたいの?
あの日、確かに子供たちはシェルターに入っていたわよ。
魔力で攻撃してくる女がいたって言ってたけど、それがそのメイドなんじゃないの?』

『ああ、きっとそうだ。
ラジオ様は黙ってたけど、ダンのジジイがこの地区を巻き添えにしないようにしかたがなく殺したんだ。』




明らかに裁判の流れはリリア側に有利になっていた。



「う、う、う、うるさーーいっ!!!黙れ!!静粛に!静粛に!!」裁判長である悪人顔の司教が大声で怒鳴った。

「もう良い!このような茶番はもう必要ない!!
この老いぼれは一人の女を殺した!
そしてこいつは元々人を殺しまくった暗殺者だ!!
処刑に値する男である!今、この場で裁きを下す!この男を死刑に処す!」


「はあ?全く意味が分かりません。その審判に意義を申し立てます!」

ラジオは初めて人に対して声を荒げた。これほど理不尽な判決はない。


「私が裁判長だ!この男の余罪は計り知れない!
生かしては置けない人間なのだ!
これまでこの男に殺められた人々の弔いも込めて、今!この場で処刑する!」


傍聴人たちは、裁判長が明らかにおかしいと感じている。

その雰囲気をダンはしっかり感じていていた。

精霊がダンの顔を心配そうに覗き込んだ。


「チビ、なかなかいい流れだ。
これで俺が処刑されても修道院への擁護は強くなる。お嬢ちゃんもこの地区に残留できるかもな。」
ニヤリと笑いながら呟く。


「おい!お前!そこにある剣でこの老いぼれの首を叩き切れ!」
ダンの隣で待機していた世話係に命じた。


この日のために処刑用の剣を会場に用意していたのだ。


「わ、我ですか??我は聖職です!処刑を施すなどおかしいです!」


「うるさい!このような事態にお前みたいな出来損ないを雇っているのだ!つべこべ言わず早く処刑するのだ!」

「そ、そんな…。」世話係が絶望する。


「おい、お前。俺にとっちゃ、お前に剣を振ってもらうのは割と願ったり叶ったりだ。
やってくれ。俺はお前を気に入っている。」



「そ、そんな…。我は…我は…。」


「あのときの話、あそこにいるマーガレットには伝わってるだろうよ。
この後もこの地区をよろしく頼むぞ。さあ、剣を持て。」

「おい!何ごちゃごちゃ喋っている!早くやれ!」

司教がダンとリリアを囲っていた結界を持っていた道具で無理やり壊し世話係を追い立てる。


「ほら、早くしろ。」


二人から追い立てられ、世話係は渋々剣を取り、ダンの前に立った。


「一思いに頼むぞ。まあ経験がないから無理だろうけどな。

剣を落とすときに絶対に迷うな。分かったか。」


「は、はい…。」精霊がじっと見ている。



「はやく!剣を振りかぶれ!」悪人顔がさらに悪人の顔で追い立てた。



世話係はもうヤケクソの心境で剣を振りかぶる。


「一思いにだぞ…。」ダンは首をはねやすいよう膝をついて頭を前に突き出した。






しかし、ダンがいくら待っても首に剣が届かない。

流石に遅いと思いゆっくり上を見上げた。

すると、世話係が剣を振りかぶったまま目をつぶって震えていた。


「わ、我に、あなた様は切れません…。あなた様は、我の大切な理解者です。

切れるわけが、あ、ありません。」

そう言って剣を床に置き地面に伏せって声を殺して泣いてしまった。

「こ、こんなこと、お、おかしいです…。我は、我は理解できません。
この方を切るのはおかしいです…。」と悔しそうに泣いていた。


「こ、この腰抜けが!!もう良い!俺が直々に手を下してやる!ありがたく思え!
司教に手を加えてもらえるなら罪人であろうと、行き先は極楽浄土だろう!」

と意味不明な事を言いながら被告席までズカズカと歩いてきた。
司教の目は血走っており正常な精神でなさそうだった。



迷いなく剣をもち、思いっきり振りかぶりダンの首をはねようとした。
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