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裁判 8
しおりを挟むケントはすぐ返事をしなかった。
青白い顔でブルブルと体を震わせている。
「何でなんだ…。何だよ…私に力って。
自分に力があるからって…。
自慢か?それに、精霊の主があの老人だって?
じゃあ僕に付くはずだった精霊はどうなるんだよ!
お前が母上の魔力を奪ったんだろ?お前の魔力を僕に移せば精霊は僕のものだったんだ!
しかも、別の奴に魔力を渡しただと?何を考えているんだよ…。
みんな僕の邪魔ばかりしやがって!いつもお前は忌々しい憎い妹だ!お前さえいなければ…。リリア…。」
ケントはリリアを睨みつけるが目の焦点があっていない。
怒りで奥歯がガタガタ言っているのがリリアが見ても分かる。どう見ても正常な精神状態じゃない。
傍聴席にいたケントの父親も驚いている。あんな感情剥き出しな息子は初めて見た。
リリアも驚いている。
リリアの記憶ではいつもわざとリリアを怒らせて泣かせる意地悪な兄の顔しか知らない。
(でも、この感情…私は知っている。
皐月の時何度かこんな子供の状態に立ち会ったことがある。
そう、後ろめたいことが明るみに出るとパニックになる。
何か知られてはいけない事実を隠すため、自分より立場の弱いものに罪を擦りつける行動。
罪が明るみにならないように仕立て上げた犯人を孤立させ執拗に排除しようとする振る舞い…。
子供なら罪の意識に悩みそれに気づいた善良な大人が導けば間違いを修正できる。
でも、ケントお兄様についている大人はあの執事…。
そうか、そう言うことなのね。)
リリアはケントに全てを知っているかのように話す。
「お兄様、お母様が亡くなった時、お兄様何をなさっていたのかしら?」
「な、何?」明らかに動揺するケント。
「お母様は領地にある危険な腐敗沼に体をつけて亡くなったと聞いていました。
大人の、ましてや女性が危険な場所で行動する時。
それは無我夢中で誰かを助ける時。
そうね、母親が危険を犯してまで子供を救う時でしょうね。
幼い私は沼地まで一人でたどり着きません。
お兄様が故意にお母様の気を引くために沼地に近づいたのでしょう?分かっているのよ。」
「ど、どうしてそれを!?リリア、お前知っていて今まで過ごしてきたのか!?
僕を陥れる時期を待っていたのだな!どこまでも外道な妹だ…。」
「どう思っていただいても構いません。
隣の執事、ゲイブだけはその秘密を打ち明けているのでしょう?
ああ、唯一の心の支えということですわね。
ゲイブのアドバイスは役に立ちましたか?
精霊も見えず、お母様のイアン家の魔力も覚醒していないお兄様。
良かったら私の白い魔力、お兄様にも分けて差し上げましょうか?」
リリアはわざと笑顔を見せてケントの感情を逆撫でさせようとする。
感情をむき出しにする息子とそれを更に逆上させようとする娘のやり取りを見て二人の父親は自身の情けなさを反省していた。
「まさか…。マリアの死がこのような話だったなんて…。
ケントはずっと黙っていたのか…。
私が仕事にかまけているからだ…。私は何ということを…。」
本当は逃げ出したい。しかし最後まで見届けるのが父親の仕事だ。
「くっそう。リリア…。リリアのくせに…。」
「え?私のくせにって言いました?
自分はデリスを兵器にして見殺しにしたゲイブの言いなりのくせに?
呆れちゃう。
自分が弱いからそうやって利用されるんでしょう?
何でそんなに未熟で弱いのかしら?え?それも私のせいなのですか?
私を憎んでおられるけれど、何がそんなに気に入らないのでしょうか?」
ゆったりとした口調で相手を試すようにリリアは続ける。
「ケント様、リリア様の口車に乗ってはいけません。冷静に、冷静になってくださいませ。」
ケントの隣でゲイブがリリアのペースにならないようにと声をかけるが、
ケントは興奮しすぎてゲイブの忠告を聞いていない。
「弱くて可哀想なお兄様、いつから私が嫌いになったのかしら。
私がいなかったらお兄様はもっと強かったのかしら。」
ケントは更にブルブルと体を震わす。
「うううんんっ…。そうだ!教えてやるよ!いつお前が嫌いになったかだって!?
母上が亡くなる前、もう長くないと僕とお前だけが呼ばれたあの日だ!
母上の魔力は僕とお前に注がれたんだよ!なのに!
お前の器の方が大きかったからお前ばっかりに注がれたんだ!!
それに、精霊もお前にずっとついていた!
いっつもお前ばっかり優遇されて!
お前なんか大っ嫌いだ!うわああああああああああ!」
ケントは子供のように泣き狂った。
(やっぱり、そういう理由だったのね。
話の根本は、幼い妹に母親を取られたと思ってかまって欲しかった兄弟の悪戯からの事故だったということね。
でも、種類は違えどお兄様の魔力も父譲りで膨大なはず…。
お母様のイアン家魔力も絶対受け継がれているはずよね…。
精霊も見えていたようだし。ここまで私が憎まれるのは納得がいかないわ。
ここまでお兄様と私をこじれさせたのは…。)
「黒幕はあなたね、ゲイブ。」リリアは冷静に指摘した。
「な、何のことでしょうかリリア様。
ああ、ケント様はお可哀想なお方だ。
しかし、だからと言ってリリア様を虐げてよい理由にはなりません。リリア様、私はあなたの味方です。
この裁判でケント様がデリスを唆した罪で訴えてもよろしいのではないですか?
お助けしますよ?
あなたはケント様にそれはそれは酷い扱いを長年受けておられました。
今その恨みを晴らすのもよろしいかと。」ゲイブはリリアの自尊心をくすぐるような方法で保身に走った。
「げ、ゲイブ?僕の味方じゃなかったのか?」
「私はいつでも正義であり続けたいのです。ケント様、リリア様への罪、デリスへの罪を償われた方がよろしいですよ。」
「すごい変わり身の速さだね。」
「ええ…。僕の執事は彼で良かった…。」マーガレットとラジオがゲンナリしている。
「そ、そんな…。誰も僕の味方はいないのか…。みんなリリアが取っていくのか…。僕には何もない。」
ケントは膝から崩れていった。
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