ウソつき殿下と、ふつつか令嬢

たつみ

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「なんだ、全部、話しちまったのか」
 
 リンクスが、残念そうに言う。
 オリヴァージュは、リンクスの私室を訪れていた。
 リンクスは、カウチに寝転がっている。
 両腕を頭の下で組み、仰向けになって、足を投げ出していた。
 イスに座っているオリヴァージュに、視線だけを向けている。
 
 ウィリュアートン公爵家と王族との関係は深い。
 リンクスとは幼馴染みであり、ほとんど生まれた頃から、一緒にいた。
 ジョザイアのところにも、よく2人だけで行ったものだ。
 だから、リンクスもジョザイアとは気安く話す。
 むしろ、魔術師ではないリンクスのほうが、ジョザイアに懐いているかもしれない。
 
 魔術師でもあるオリヴァージュは、ジョザイアの力の大きさを知っていた。
 そのため、どうしても踏み込めない領域を感じずにはいられないのだ。
 それが、畏怖となり、オリヴァージュを踏みとどまらせてしまう。
 
「オレの見立てじゃ、彼女、お前に気があったぜ? なにも、古臭い話を持ち出す必要なかったんじゃねーか?」
「不公正なことは、したくなかったのさ」
「不公正ねえ」
 
 リンクスが疑わしげな目で、オリヴァージュを見ていた。
 つきあいが長いので、リンクスには、バレているらしい。
 オリヴァージュの中にある、もうひとつの本音。
 
「しかたがないだろう?」
 
 オリヴァージュは、リンクスに肩をすくめてみせる。
 リンクスが呆れたように、目を細めた。
 
「ガルベリーの男の大半は、嫉妬深くて執着心が強過ぎるんだよな」
「私も、最近まで、自分が、ガルベリーの大半に含まれているなんて思っちゃいなかったよ」
 
 リンクスの言葉に、同意する。
 セラフィーナに対しての感情を考えると、反論はできないからだ。
 
「自分に妬いてる時点で、どうかしてるだろ」
「彼女は12年も想い続けていたのだぜ? ああ……また嫌な気分になってきた」
「お前さぁ。だからって、思い出にまで嘴を突っ込むかね?」
「私は、独占欲に頭まで浸かっているのさ」
 
 リンクスが、やれやれといったように、鼻を鳴らす。
 呆れられてもしかたがないが、我慢できなかったのだ。
 
 リンクスの言うように、オリヴァージュが「彼」だと告げる必要はなかった。
 状況次第で、切り札として使おうとの気持ちはあったけれども。
 セラフィーナはオリヴァージュと恋に落ちたのだから、あえて告げなくてもかまわなかったのだ。
 
 さりとて。
 
 仮に、オリヴァージュが「彼」だと知らないままでいたら、どうなるか。
 いつまでもセラフィーナの心には「思い出」として彼が残り続けることになる。
 大事な宝箱にしまわれて、時々は、取り出したりやなんかして。
 
「ああ、嫌だ。ものすごく、嫌な気分だ。自分だとしても、彼女の心に、私以外の男がいるのは、絶対に許せない。我慢ならない」
「これだから、ガルベリーの男は……どれだけ心が狭いんだよ」
 
 リンクスが向けてきた、ちらっという視線に、嫌な顔をした。
 リンクスに対して、ではない。
 思い出すと、どうにも嫌な気分になるのを抑えられないのだ。
 
「その思い出も、蹴り出したんだろ? なら、それで納得しろよ。面倒くせえ」
「ほんのちょっぴりでも残っていなけりゃいいのだが……」
「彼女は、令嬢らしくなかったけどな。紳士としては、お前、ゼロ点だぞ」
「わかっているさ」
 
 セラフィーナの前では、紳士ぶってなどいられなかった。
 いつも必死になっている。
 みっともないとか情けないとか恰好悪いとか。
 体裁など、どうでもよくなるのだ。
 
 なりふり構わず、といったところ。
 
 セラフィーナには、身分や立場など通用しない。
 気持ちひとつで勝負する必要があった。
 もちろん、この先も、誰にも負けるつもりはなかった。
 
「あーあ」
「私に、追い打ちをかけるつもりだろう?」
「そういうつもりはねーよ。ただ、お前なんぞに見初められて、気の毒だなーって思ってるだけサ」
 
 オリヴァージュは、わざとらしく溜め息をつく。
 
「実は、私も、そう思っている」
「だろーね」
 
 自分の真剣さをすべてぶつけたら「ドン引き」されるかもしれない。
 そうした危惧があるので、少しずつ小出しにしていた。
 自分の手の中にいる小鳥に、逃げられたくはないので。
 
「そういや、気の毒って言えば……」
 
 リンクスが、意味ありげな目つきをしている。
 視線は天井に向けているが、別のものを見ているようだった。
 
「夜会のあと、ラウズワース公爵令嬢がいなくなったらしいぜ?」
 
 夜会の最中に、オリヴァージュとセラフィーナはホールを出ている。
 その後はオリヴァージュの私室にいたので、夜会がどうなったのかは知らない。
 
「いなくなった? ネイサンと婚姻する気が失せて、帰ったのじゃないか?」
「いいや。夜会から帰るのを見た奴はいるんだ。屋敷までの道中で、パッと消えたってカンジ」
 
 リンクスが、オリヴァージュを見て、眉をひょこんと上げた。
 それで気づく。
 
(ラフィを襲わせたのは、キャサリンだったのか)
 
 ということは、何が起きたのかは、わかる。
 キャサリン・ラウズワースは、2度と見つからない。
 どこかで生きているかもしれないし、生きていないかもしれないし。
 それはわからないが、見つからないということだけは確かだ。
 
 あの魔術師の女性は、ヴィクトロスが正しい手順に則って、後片付けをしているだろう。
 が、ジョザイアには、そうした基準がないと知っている。
 キャサリンは、一線を越えてしまった。
 ジョザイアが容赦するとは思えない。
 
「いなくなってしまったものは、しようがないさ」
「オレも、そう思う」
 
 オリヴァージュにとっても、悪くない結果だ。
 セラフィーナを危険にさらした罰は必要だと思っている。
 罰の軽重を問うことはしない。
 
「ていうか……お前、いつまで、ここにいるんだよ」
「まぁ、ひとまず、朝までかな」
「朝まで居座るってのか」
「その通り。屋敷にいると、彼女に手を出しかねないのでね」
 
 夜会での予定を台無しにされた「借り」を返すつもりでもあった。
 リンクスのうんざりした顔を見ながら、オリヴァージュは「にっこり」する。
 
「今夜は私につきあって、女性を呼ぶのは諦めろよ、リンクス」
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