理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ

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第1章 暗い闇と蒼い薔薇

王子様のお役目 4

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 ジークは、孫娘の姿を見ている彼の隣に立っていた。
 もちろん姿は隠している。
 姿を変え、彼の肩にとまってもいいのだが、目立つことはけるようにしていた。
 
 ジークは彼の相棒であり、かつ影なのだ。
 
 人目を引くのは望ましくない。
 今のところジークの存在は誰にも知られていなかった。
 両親は、ジークがとっくに死んでいると思っているだろうし。
 
 仮に生きている「かもしれない」と思っていたとしても、気づかないはずだ。
 十年も経てば外見も変わる。
 髪の色も変わった。
 
(ヤツは来るかな?)
「どうだろうねえ」
(来ると思ってるくせに)
「来てほしくはないんだよ?」
 
 どうだか、と、彼の言葉をジークは疑う。
 サイラスは彼女にとって危険人物だ。
 来るなら来い、というよりも「来い」と思っているのではないかと思う。
 ここは彼の領域であり、獲物も仕留め易い。
 
 彼の持つ領地のひとつで、森まるまる1つ分。
 お気に入りの場所でもあり、屋敷を離れてから彼はここに住むようになった。
 かなり立派な山小屋も彼のお手製だ。
 
 彼がいる時もいない時も、森全体には絶対領域がかかっている。
 魔術も物理攻撃も効かない鉄壁の安全地帯。
 無理に押し入ろうとすれば、たちまち彼に感知されるだろう。
 気づいたが最後、彼は容赦しない。
 
 同様に、ジークにもわかる。
 絶対領域内に踏み込むのに、どれくらいの魔力が必要となるか。
 わからないが、おそらく相当な力を要するに違いなかった。
 もしかすると王宮魔術師全員の魔力を総動員しても無理かもしれない。
 
 そんなレベルの魔力が集中していることに気づかないはずがないのだ。
 少なくとも魔力を感知できる者なら、誰でも気づく。
 
(オレに出番あんのか? 自分でケリつけてえってのは、わかるけどサ)
 
 彼の相棒として、少しは出番がほしかった。
 片っ端から指をパチンと鳴らして終わりでは、ジークの出る幕がない。
 思うジークの横で、彼が小さく笑う。
 
「私は、そんなに殺し好きに見えるのかい?」
(そうは思っちゃいねーよ。でも、アンタ、孫娘に関しては見境ねーだろ?)
「たしかにね。レティに害があるのなら、虫1匹も生かしてはおかないと思ってしまうほど、見境はないかもしれないな」
 
 やっぱり、と思った。
 
 この間、彼女を「害された」ことに、彼は怒りを覚えている。
 もちろん彼が本気なら、王宮ごと吹き飛ばすこともできたのだ。
 ただし、事が公になるのも避けられない。
 たとえサイラスを狙い撃ちしても、王宮への攻撃として大騒ぎになる。
 それを避けるため、ここに来たのではないかと、ジークは思っていた。
 
「ジーク。私はレティをおとりにしたりはしない」
(なら、なんでここにしたんだ?)
 
 彼らをおびき出すためとしか、ジークは考えられずにいる。
 分かり易く、手っ取り早く、始末がつけられるのだから。
 
「レティが、そう望んだからさ」
(アンタの孫娘が?)
「私の住んでいる場所が見たいと言ってくれてね」
 
 太い丸太をくり抜いて出来ている簡素なベンチに彼女は座っていた。
 山小屋というには大きな家の前だ。
 
 隣には、メイドと執事が座っている。
 2人は彼女と会話したり、時折、立ち上がって菓子やお茶を家の中から持って来たりしていた。
 それらもベンチに置かれている。
 彼女は器用に片手で本を支え、もう片方の手でティーカップをつまんでいる。
 
「ひとつ、テーブルを造るとしようか。あれでは本が読みにくそうだ」
 
 家の横にある物置小屋の扉が勝手に開く。
 こちらは、大きさを考えないのなら言葉通りの物置小屋だった。
 家側の修繕などに使う資材や道具が置いてある。
 
 物置小屋から20センチほどの厚みの板が何枚も出てきた。
 長さは2メートルくらい、幅は10センチくらい。
 その板切れよりも大きくて分厚く、頑丈そうな板も出てくる。
 こちらは切り出したばかりのように、丸みを帯びていた。
 
 その、ほぼ丸太状態の木材が、交差して4つの脚を作る。
 幅の狭い木の板が、その上に次々と横に繋がりながら乗っていた。
 あっという間に、木製テーブルの出来上がり。
 
 横から見ていても彼がどうやっているのか、わからない。
 なにしろ彼は指ひとつ動かしてはいないのだ。
 ジークは、魔力の「ま」の字も感知できずにいた。
 
(いつものことだけど、アンタ、ムチャクチャだぜ)
「そうかな? あの程度、ジークにもできるだろう?」
(できるかできないかって言えばな。できるけど、疲れるからしたくねーの)
 
 彼の孫娘は、目の前に急に現れたテーブルに驚いた様子を見せる。
 が、すぐに彼の「仕業」だとわかったのだろう。
 こちらを向いて、大きく手をブンブンと振った。
 メイドと執事はササっと動き、テーブルに菓子やお茶を置き直す。
 
「見てごらん、ジーク。面白いだろう、あのは」
 
 孫娘は、なぜか2人に頭を下げていた。
 下げられたほうが慌てている。
 それから彼女に、言い聞かせるようにして、イスに座らせた。
 イスに座ってから、彼女は、もう1度、彼に手を振る。
 彼も軽く手を振り返していた。
 
(なぁ、なんで謝ってたんだ? 謝ることなんかあったか?)
「2人を手伝わなかったから、じゃないかな」
(手伝う必要ねーだろ。メイドや執事は、そのためにいるんだから」
 
 視線を彼女に戻すと、早速、テーブルの上に本を広げている。
 以前の彼女は、ジークにとって、ただウルサイだけの女だった。
 時々、様子を見に屋敷に行っていたのだが、見るたびわめき散らしていたのだ。
 それだけで、もう面倒になって、ジークはいつもわずかな時間で羽を広げて飛び去っていた。
 戻ると、彼に決まり文句を言う。
 
 ウルサイけど、元気。
 
 彼女の様子見は、彼のためにしていたのであって、彼女自身にはまったく興味がなかった。
 けれど、最近は少しだけ好奇心を刺激される。
 魔力顕現のこともあったし。
 
「レティは、世話をしてもらってあたり前だとは、思っていないのだよ」
(ふーん。貴族のご令嬢なのに、変わってんな)
「そうでもないさ」
 
 彼の口調は、軽やかだ。
 彼自身が貴族としては型破りなので、孫娘の言動に対しても気にならないのかもしれない。
 大公という地位にいながら王宮には属さず、1人で山小屋暮らし。
 王都に姿を現すことさえ、めったにないのだ。
 
 ジークは、貴族社会どころか一般庶民ですらないが、それでも彼が「普通」の貴族とは、かけ離れていると思う。
 空を飛べる自分よりも、ずっと飄々ひょうひょうとしているからだ。
 魔術を使っても、使わなくても。
 ふと、思いついたことを口にする。
 
(アンタ、孫娘にかけてんのか?)
 
 当然のことだったらしく、彼は答えない。
 それを正しく受け止めたジークも、それ以上には問いかけなかった。
 彼の絶対防御は、広範囲にかけるものと、個にかけるものとがある。
 彼は、孫娘に「個」の絶対防御をかけているのだ。
 その上で、森全体も領域でつつみこんでいる。
 
(意外だね。アンタが、あのサイラスを危険だって、警戒するなんてな)
「そうでもないさ」
 
 今度は、声がひんやりと冷たく響いた。
 彼の本質が、表面に現れているのを感じる。
 
「ジーク、私はね、万が一に備える主義なのだよ」
 
 もし森に張られた領域から彼女がさらわれるようなことがあれば、相手もかなりの使い手ということが考えられた。
 追跡にも時間がかかるに違いない。
 彼が彼女を迎えに行くまでの時間稼ぎは必要だろう。
 
 個にかけられた絶対防御は危険がない限りは発動しない。
 
 彼女が身の危険を感じた際、自動的に彼女を守るのだ。
 敵もしくは危険と察した相手からの攻撃は、それ以降、無になる。
 魔術も物理的な攻撃も効かないため、平手打ちをすることさえできない。
 もちろん掴んで投げ飛ばす、なんてことも。
 
 そして、発動すると、彼にも伝わる。
 それは彼女の居場所を特定できる、というのと同義だった。
 
(用意周到なのは、いいけどサ。やっぱりオレの出番ねーんじゃねーか?)
 
 ちょっぴりつまらない気分になる。
 見張りや様子見、情報収集が退屈なわけではないが、彼が一戦交えるのなら、そこに参加したかった。
 
「あるさ、ジーク」
 
 冷たい声が落ちてくる。
 頭ひとつ分は高い彼の顔を見上げた。
 彼は遠くの空を見ている。
 その瞳は、果てしなく冷淡だった。
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