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第2章 黒い風と金のいと
そのために、ここにいる 4
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光の矢が飛んでくるのだけは、見えた。
避けられるような数ではない。
瞬間的に、そう感じる。
祖父の穏やかな笑顔が、頭に浮かんだ。
そして、目の前が、真っ白になる。
光が眩し過ぎて、何も見えなかった。
(レティ)
声が聞こえる。
祖父の声だ。
(ちゃんと私の言いつけを守ったね)
守っていない、と思った。
屋敷の者より自分を優先しなさい、と言われていたのに、できなかった。
こんなところまできて、なにもできないまま、死ぬのだ。
(もう大丈夫だよ、私の愛しい孫娘)
死ぬ時は、体が冷たくなるものだが、この世界では違うのだろうか。
体が、とても暖かい。
「レティ」
声が、はっきりと聞こえる。
いつしか光は消えていた。
背中から、ぎゅっと抱きしめられている。
首をそらせて、見上げた。
その視線の先で、祖父が微笑んでいる。
「待たせてしまったね」
腰に回されている腕の感触も、しっかりとあった。
本物だ、と思う。
「お祖父さま……」
きゅうっと、胸が締めつけられた。
振り仰いでいるレティシアの額に、祖父がキスを落とす。
「ご、ごめ……ごめんな、さい……」
「謝ることはないさ。お前は、言いつけを守っただろう?」
「ま、守って、ない……私……」
祖父が、頭を繰り返し撫でてくれた。
安心感につつまれていく。
「守ったのだよ、レティ」
くるっと、レティシアは体を返した。
祖父の体に、ぎゅっと抱き着く。
同じ強さで、祖父に抱きしめられた。
「誰にも、お前を傷つけさせはしない」
祖父の胸に、顔を押しつける。
そのぬくもりが、嬉しかった。
祖父が、レティシアの頭を撫でながら、言う。
「そのために、私は、ここにいるのだから」
深い深い祖父の愛情を、感じる。
祖父は、確かに強い。
けれど、レティシアを守っているのは、祖父の愛情なのだ。
顔を上げたレティシアに、祖父が微笑む。
「お祖父さま……入れないんじゃなかったの?」
「レティに呼ばれて、私が来ないわけがないだろう?」
いたずらっぽく、ひょこんと、祖父は眉を上げた。
言葉や仕草に、安心する。
もう大丈夫なのだ、と思えた。
「いつまで私を無視するおつもりですか? いいかげ……」
「ああ、きみ、少し黙っていたまえ。私は、孫娘とのお喋りを邪魔されるのは、好まないのでね」
サイラスの言葉が、急に途切れる。
何が起こったのかと、サイラスのほうを見ようとした。
けれど、祖父が、すぐにサイラスの姿を、その体で隠す。
「ごめんよ、レティ。お前に、見せるものではないのだよ」
「あ……や……うん……」
少し困ったような顔をする祖父に、どう答えていいのかわからない。
おそらく祖父は、レティシアが思っている以上に、怒っているのだ。
(サイラス……どうなったんだろ……?)
祖父が「何か」したのは確かだった。
饒舌だったサイラスの声が、聞こえなくなっている。
さりとて、祖父の体を避けてまで、確認しようとは思えなかった。
「レティ、ザックのところで待っていてくれるかい?」
「うん。わかった」
祖父が、これから何をするかは、想像がつく。
サイラスを許すことはないのだ。
レティシアは、体を返す。
点門の柱が2本。
その向こうに、緑の芝生と花に彩られた庭が見えた。
来たことはなかったけれど、父の別宅だろう。
「レティ?」
レティシアは、うつむいて、ぎゅっと両手を握り締める。
それから、振り向いた。
祖父と視線を合わせ、口を開く。
「……お祖父さま……サリーを、助けて……」
祖父が、わずかに目を見開いた。
すぐに、やわらかな笑みが返される。
「わかっているよ……ありがとう、レティ」
こくっと、うなずき、レティシアは門を越えた。
振り向いても、そこに、さっきまでの景色はない。
レティシアは、へたん…と、芝生の上に座り込む。
両手で、膝をつかんだ。
全身が小さく震えている。
(わかってる。私が、選んだんだ)
祖父は、レティシアのためだとは、けして言わない。
しかたなかった、とも言わない。
サイラスを殺しても。
どんな言い訳も、祖父はしないのだ。
けれど、レティシアは、言い訳がしたかった。
『サリーが死んでしまうから』
『大勢の人が殺されてしまうから』
『すでに死人が出ているかもしれないから』
サイラスの死に対する口実や言い訳は、いくらでもある。
サイラスを止めるためには、しかたがなかったのだ、と。
サイラスが危険な存在であることは、間違いないのだから。
(私が頼んだんだよ。私が、自分で決めたことなんだ)
思っていても、覚悟を決めたつもりでも、やはり怖かった。
サイラスは、大勢の人を殺そうとする危険な人物だ。
態度や口振りからしても、言葉は通じそうにもない。
強力な魔術の使い手で、閉じ込めただけでは、安全とは言えないだろう。
が、しかし。
サイラスは「人」なのだ。
人を殺すことを容認する自分が、恐ろしかった。
それでも、あえてレティシアは、祖父に「サリーを助けて」と頼んでいる。
サリーとサイラスの命を天秤にかけ、サリーを選んだ。
それは、サイラスを殺してくれと頼んだのと同じ。
祖父にだけ手を汚させたりはしない。
自分も罪を分け合うと決めていた。
祖父を、ひとりぼっちには、したくなかった。
そのために、自分は、ここにいる。
この世界で生きるには、祖父の傍で生きるには、覚悟が必要なのだ。
それを、祖父も感じてくれたのだろう。
だから「ありがとう」と言ってくれた。
レティシアの手は、まだ震えている。
「レティ!!」
「レティっ!」
両親が、駆け寄ってきた。
顔を見た瞬間、涙があふれる。
何かを察したのか、父がレティシアを抱きしめた。
「いいのだよ、レティ……お前は、正しいことをした」
そうだろうか。
ともすると、わからなくなりそうだった。
「そうよ、レティ。私たちは、そう思っているから」
2人に抱きしめられ、レティシアもすがりつく。
慣れてはいけないのだ、と思った。
自分の罪を覚えておかなければならないのだ、とも思う。
そして、レティシアは子供のように、声をあげて、泣いた。
避けられるような数ではない。
瞬間的に、そう感じる。
祖父の穏やかな笑顔が、頭に浮かんだ。
そして、目の前が、真っ白になる。
光が眩し過ぎて、何も見えなかった。
(レティ)
声が聞こえる。
祖父の声だ。
(ちゃんと私の言いつけを守ったね)
守っていない、と思った。
屋敷の者より自分を優先しなさい、と言われていたのに、できなかった。
こんなところまできて、なにもできないまま、死ぬのだ。
(もう大丈夫だよ、私の愛しい孫娘)
死ぬ時は、体が冷たくなるものだが、この世界では違うのだろうか。
体が、とても暖かい。
「レティ」
声が、はっきりと聞こえる。
いつしか光は消えていた。
背中から、ぎゅっと抱きしめられている。
首をそらせて、見上げた。
その視線の先で、祖父が微笑んでいる。
「待たせてしまったね」
腰に回されている腕の感触も、しっかりとあった。
本物だ、と思う。
「お祖父さま……」
きゅうっと、胸が締めつけられた。
振り仰いでいるレティシアの額に、祖父がキスを落とす。
「ご、ごめ……ごめんな、さい……」
「謝ることはないさ。お前は、言いつけを守っただろう?」
「ま、守って、ない……私……」
祖父が、頭を繰り返し撫でてくれた。
安心感につつまれていく。
「守ったのだよ、レティ」
くるっと、レティシアは体を返した。
祖父の体に、ぎゅっと抱き着く。
同じ強さで、祖父に抱きしめられた。
「誰にも、お前を傷つけさせはしない」
祖父の胸に、顔を押しつける。
そのぬくもりが、嬉しかった。
祖父が、レティシアの頭を撫でながら、言う。
「そのために、私は、ここにいるのだから」
深い深い祖父の愛情を、感じる。
祖父は、確かに強い。
けれど、レティシアを守っているのは、祖父の愛情なのだ。
顔を上げたレティシアに、祖父が微笑む。
「お祖父さま……入れないんじゃなかったの?」
「レティに呼ばれて、私が来ないわけがないだろう?」
いたずらっぽく、ひょこんと、祖父は眉を上げた。
言葉や仕草に、安心する。
もう大丈夫なのだ、と思えた。
「いつまで私を無視するおつもりですか? いいかげ……」
「ああ、きみ、少し黙っていたまえ。私は、孫娘とのお喋りを邪魔されるのは、好まないのでね」
サイラスの言葉が、急に途切れる。
何が起こったのかと、サイラスのほうを見ようとした。
けれど、祖父が、すぐにサイラスの姿を、その体で隠す。
「ごめんよ、レティ。お前に、見せるものではないのだよ」
「あ……や……うん……」
少し困ったような顔をする祖父に、どう答えていいのかわからない。
おそらく祖父は、レティシアが思っている以上に、怒っているのだ。
(サイラス……どうなったんだろ……?)
祖父が「何か」したのは確かだった。
饒舌だったサイラスの声が、聞こえなくなっている。
さりとて、祖父の体を避けてまで、確認しようとは思えなかった。
「レティ、ザックのところで待っていてくれるかい?」
「うん。わかった」
祖父が、これから何をするかは、想像がつく。
サイラスを許すことはないのだ。
レティシアは、体を返す。
点門の柱が2本。
その向こうに、緑の芝生と花に彩られた庭が見えた。
来たことはなかったけれど、父の別宅だろう。
「レティ?」
レティシアは、うつむいて、ぎゅっと両手を握り締める。
それから、振り向いた。
祖父と視線を合わせ、口を開く。
「……お祖父さま……サリーを、助けて……」
祖父が、わずかに目を見開いた。
すぐに、やわらかな笑みが返される。
「わかっているよ……ありがとう、レティ」
こくっと、うなずき、レティシアは門を越えた。
振り向いても、そこに、さっきまでの景色はない。
レティシアは、へたん…と、芝生の上に座り込む。
両手で、膝をつかんだ。
全身が小さく震えている。
(わかってる。私が、選んだんだ)
祖父は、レティシアのためだとは、けして言わない。
しかたなかった、とも言わない。
サイラスを殺しても。
どんな言い訳も、祖父はしないのだ。
けれど、レティシアは、言い訳がしたかった。
『サリーが死んでしまうから』
『大勢の人が殺されてしまうから』
『すでに死人が出ているかもしれないから』
サイラスの死に対する口実や言い訳は、いくらでもある。
サイラスを止めるためには、しかたがなかったのだ、と。
サイラスが危険な存在であることは、間違いないのだから。
(私が頼んだんだよ。私が、自分で決めたことなんだ)
思っていても、覚悟を決めたつもりでも、やはり怖かった。
サイラスは、大勢の人を殺そうとする危険な人物だ。
態度や口振りからしても、言葉は通じそうにもない。
強力な魔術の使い手で、閉じ込めただけでは、安全とは言えないだろう。
が、しかし。
サイラスは「人」なのだ。
人を殺すことを容認する自分が、恐ろしかった。
それでも、あえてレティシアは、祖父に「サリーを助けて」と頼んでいる。
サリーとサイラスの命を天秤にかけ、サリーを選んだ。
それは、サイラスを殺してくれと頼んだのと同じ。
祖父にだけ手を汚させたりはしない。
自分も罪を分け合うと決めていた。
祖父を、ひとりぼっちには、したくなかった。
そのために、自分は、ここにいる。
この世界で生きるには、祖父の傍で生きるには、覚悟が必要なのだ。
それを、祖父も感じてくれたのだろう。
だから「ありがとう」と言ってくれた。
レティシアの手は、まだ震えている。
「レティ!!」
「レティっ!」
両親が、駆け寄ってきた。
顔を見た瞬間、涙があふれる。
何かを察したのか、父がレティシアを抱きしめた。
「いいのだよ、レティ……お前は、正しいことをした」
そうだろうか。
ともすると、わからなくなりそうだった。
「そうよ、レティ。私たちは、そう思っているから」
2人に抱きしめられ、レティシアもすがりつく。
慣れてはいけないのだ、と思った。
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