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最終章 黒い羽と青のそら
近くて遠い未来 4
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ジークは、とまっていた木から飛び立つ。
そして、ユージーンの肩に舞い降りた。
「む。ジークか? 最近、姿を見せぬと思っていたが」
「オレだって忙しいんだぜ? お前の相手ばっかりしてらんねーの」
ガゼボには、ユージーンが1人で残っている。
彼の孫娘は、先に帰っていた。
仮に、誰かに見られても、いつものごとくユージーンの頭がおかしくなった、と思われるだけだろう。
「そうか?」
「なんだよ」
「俺の傍には寄りたくないのであろう」
「ちぇっ……面倒くせー奴」
これだから、近寄りたくなかったのだ。
気配を気取られるだけでも嫌なのに。
「大公は……あれの気持ちには応えぬか?」
「たぶんね」
「そうか……」
ユージーンの落胆したような声音に、ジークは、ユージーンの肩を、カッカッと爪先で掻いた。
戸惑った時に出る仕草。
「そのほうが、お前にとっちゃ、いいんじゃねーのか?」
「それはそうなのだがなぁ……」
ユージーンが、空を見上げる。
つられて、ジークも見上げたが、そこには何もない。
青い空が広がっているだけだ。
「はっきりしねーな? どっちなんだよ」
「俺にも、わからんのだ。大公が、あれに応えぬとなれば、俺には好機となろう。だが、あれの泣き顔は見たくないのでな」
ちょっぴり、ユージーンの「わからなさ」が、わかる。
自分の利になるとわかっていても、見たくないものはあるのだ。
ジークだって、彼の孫娘の泣き顔はいただけない、と思っている。
できれば、見たくない。
木にとまって様子を見ていたのも、ユージーンが、彼女を泣かせていると思っていたからだ。
嫌がらせをしているのなら、つつき回してやろうと考えてもいた。
「なら、なんで気持ちを伝えろなんて言ったんだ。あの人が応えるわけねーって、わかってたんじゃねーの?」
「わかっていた」
ジークの尾が、ピンッと立つ。
ユージーンの言葉が、気に食わなかった。
ジークは、今のままでいいと思っている。
それが最善なのだ。
彼も、彼の孫娘も、そしてジークも笑っていられるから。
「人は老いる。いずれ死ぬ。その時になって、悔やんでも遅いのだ。大公がおらぬようになったら、あれは、1人ぼっちになるではないか」
「お前がいるんだろ?」
さっき、そう言っていた。
離れた場所にいたものの、寄聴を使って、2人の会話は聞いている。
「大公が死ぬまで待っていては、あれは子を成せぬ」
「また血かよ」
「俺のためではない。仮に、今は子がおらぬでもよい、と思っていても、あとで、ほしくなったらどうする? 間に合わんだろ? 答えは、早目に出しておくべきなのだ。あれの取れる選択肢を増やすためにもな」
ジークには、よくわからない。
家族が、いないからだ。
ユージーンは、いたほうが良い気分になれる、と言っていた。
けれど、ジークは、未だに家族は不要と思っている。
彼と、彼の孫娘だけがいればいい。
もちろん、ユージーンの言うように、いずれ別れはやってくるだろう。
さりとて、それを「今」にする必要を感じてはいなかった。
「女が、必ず子を成さねばならん、というわけではない。それでも、女にしか子は成せぬのだ。時が経てば経つほど、あれから、子を成すという選択肢を奪うことになるではないか」
「いらねーって思うかもしれねーだろ」
「それも選択のひとつだな」
彼も、よく「選択肢」が必要だと言う。
選ぶ道が多いほうが、彼の孫娘にとっては、いいのかもしれない。
ただ、ジークには、その実感もなかった。
あまり選択をしてこなかったからだ。
彼の武器であり、相棒。
それが、ジークの立ち位置だった。
6歳から十年間、なにも変わらない。
ジークが「選んだ」のは、たった1度。
血縁者には会わないと、彼の提案を蹴った時だけだ。
どうでもいいことと、どうでもよくないこと。
ジークには、この2つしかない。
その判断の元、やりたいことを、やりたいようにする。
迷ったりはしないし、面倒もなかった。
ジークは、人の面倒くささを嫌っている。
「でもなぁ、泣くことになっちまうぞ?」
「で、あろうな」
ユージーンは、物憂げな表情をしている。
ジークからすると、ユージーンは、ちっとも無表情には見えないのだ。
些細な感情の変化が、つぶさに表れている。
「大公こそ、血にこだわっているのだろ?」
「根深いんだよ」
彼は、己の力を疎んじていた。
その原因である血に、こだわらずにいられるわけがない。
「あのような力を持っておれば、当然だ」
「そーだな」
「あれは、その血を受け継いでいるしな」
黒い髪と黒い瞳。
この世界で、たった2人。
だからこそ、彼に寄り添えるのは、彼の孫娘しかいないのだ。
が、同時に、その血が邪魔になって、彼は彼女の想いを跳ねつける。
「そこまで、こだわる理由が、オレには、わかんねえ」
「正式な婚姻ともなれば、血の交わりを、考えねばならんということだ」
「子ができたらって話か?」
「そうだ」
ジークは、首をかしげる。
きょとんとしたのではなく、ふーんと思っていた。
「できちゃいけねーの? オレ、ちょっと見てみたい」
2人の子なら、ジークにとって「どうでもよくない」箱に入る。
どんな危険や苦痛からも守るべき者になるはずだ。
「そう簡単ではないのさ」
「なんでだよ。周りが、うるせーからか?」
「違う……とも言いきれんが。同じ血縁の者同士の血が交わると、その血は、濃くなる。濃くなり過ぎると、弊害も起きるものだ」
「へーがい?」
「ただでさえ、大公の血は特殊であるのに、そこへ同じ血縁の血が混じれば、どれほど大きな力となり得るか……赤子が、それに耐えられるとは思えん」
言われて、ジークは、初めて、ハッとした。
そうか、と思う。
「無事に……産まれて来るとは限らねーんだな……」
「そうだ。それに、産まれても、長くは生きられぬであろう」
彼は、詳しくは語らなかった。
血にこだわっているのは、彼の力の大きさゆえだ、とは思っていたけれど。
「子を作らねえってのは……」
「あれの選択肢を奪うことになる」
「それでもいいって、言うかもしれねーだろ?」
「かもしれない、ではない。そう言うに、決まっている。だからだ。だからこそ、大公は、あれの気持ちには、応えぬ」
そうだった。
彼は孫娘に「選択肢」を与えたいのだ。
そのためには、「彼」では駄目だと、判断している。
「お前は……まだ……あの人よりは、選択肢があるんだな」
「たいして良い選択肢ではないがな」
ジークには、血へのこだわりがない。
家族も不要と思ってきたので、わからなかった。
彼とユージーンは血に縛られているが、彼の孫娘も血に縛られている。
そのことに、ようやく気づいた。
彼女は、女性だから。
子は、女性にしか成せないのだ。
ならば、父親となる相手は、より制約がない者のほうがいいに、決まっている。
そして、ユージーンの肩に舞い降りた。
「む。ジークか? 最近、姿を見せぬと思っていたが」
「オレだって忙しいんだぜ? お前の相手ばっかりしてらんねーの」
ガゼボには、ユージーンが1人で残っている。
彼の孫娘は、先に帰っていた。
仮に、誰かに見られても、いつものごとくユージーンの頭がおかしくなった、と思われるだけだろう。
「そうか?」
「なんだよ」
「俺の傍には寄りたくないのであろう」
「ちぇっ……面倒くせー奴」
これだから、近寄りたくなかったのだ。
気配を気取られるだけでも嫌なのに。
「大公は……あれの気持ちには応えぬか?」
「たぶんね」
「そうか……」
ユージーンの落胆したような声音に、ジークは、ユージーンの肩を、カッカッと爪先で掻いた。
戸惑った時に出る仕草。
「そのほうが、お前にとっちゃ、いいんじゃねーのか?」
「それはそうなのだがなぁ……」
ユージーンが、空を見上げる。
つられて、ジークも見上げたが、そこには何もない。
青い空が広がっているだけだ。
「はっきりしねーな? どっちなんだよ」
「俺にも、わからんのだ。大公が、あれに応えぬとなれば、俺には好機となろう。だが、あれの泣き顔は見たくないのでな」
ちょっぴり、ユージーンの「わからなさ」が、わかる。
自分の利になるとわかっていても、見たくないものはあるのだ。
ジークだって、彼の孫娘の泣き顔はいただけない、と思っている。
できれば、見たくない。
木にとまって様子を見ていたのも、ユージーンが、彼女を泣かせていると思っていたからだ。
嫌がらせをしているのなら、つつき回してやろうと考えてもいた。
「なら、なんで気持ちを伝えろなんて言ったんだ。あの人が応えるわけねーって、わかってたんじゃねーの?」
「わかっていた」
ジークの尾が、ピンッと立つ。
ユージーンの言葉が、気に食わなかった。
ジークは、今のままでいいと思っている。
それが最善なのだ。
彼も、彼の孫娘も、そしてジークも笑っていられるから。
「人は老いる。いずれ死ぬ。その時になって、悔やんでも遅いのだ。大公がおらぬようになったら、あれは、1人ぼっちになるではないか」
「お前がいるんだろ?」
さっき、そう言っていた。
離れた場所にいたものの、寄聴を使って、2人の会話は聞いている。
「大公が死ぬまで待っていては、あれは子を成せぬ」
「また血かよ」
「俺のためではない。仮に、今は子がおらぬでもよい、と思っていても、あとで、ほしくなったらどうする? 間に合わんだろ? 答えは、早目に出しておくべきなのだ。あれの取れる選択肢を増やすためにもな」
ジークには、よくわからない。
家族が、いないからだ。
ユージーンは、いたほうが良い気分になれる、と言っていた。
けれど、ジークは、未だに家族は不要と思っている。
彼と、彼の孫娘だけがいればいい。
もちろん、ユージーンの言うように、いずれ別れはやってくるだろう。
さりとて、それを「今」にする必要を感じてはいなかった。
「女が、必ず子を成さねばならん、というわけではない。それでも、女にしか子は成せぬのだ。時が経てば経つほど、あれから、子を成すという選択肢を奪うことになるではないか」
「いらねーって思うかもしれねーだろ」
「それも選択のひとつだな」
彼も、よく「選択肢」が必要だと言う。
選ぶ道が多いほうが、彼の孫娘にとっては、いいのかもしれない。
ただ、ジークには、その実感もなかった。
あまり選択をしてこなかったからだ。
彼の武器であり、相棒。
それが、ジークの立ち位置だった。
6歳から十年間、なにも変わらない。
ジークが「選んだ」のは、たった1度。
血縁者には会わないと、彼の提案を蹴った時だけだ。
どうでもいいことと、どうでもよくないこと。
ジークには、この2つしかない。
その判断の元、やりたいことを、やりたいようにする。
迷ったりはしないし、面倒もなかった。
ジークは、人の面倒くささを嫌っている。
「でもなぁ、泣くことになっちまうぞ?」
「で、あろうな」
ユージーンは、物憂げな表情をしている。
ジークからすると、ユージーンは、ちっとも無表情には見えないのだ。
些細な感情の変化が、つぶさに表れている。
「大公こそ、血にこだわっているのだろ?」
「根深いんだよ」
彼は、己の力を疎んじていた。
その原因である血に、こだわらずにいられるわけがない。
「あのような力を持っておれば、当然だ」
「そーだな」
「あれは、その血を受け継いでいるしな」
黒い髪と黒い瞳。
この世界で、たった2人。
だからこそ、彼に寄り添えるのは、彼の孫娘しかいないのだ。
が、同時に、その血が邪魔になって、彼は彼女の想いを跳ねつける。
「そこまで、こだわる理由が、オレには、わかんねえ」
「正式な婚姻ともなれば、血の交わりを、考えねばならんということだ」
「子ができたらって話か?」
「そうだ」
ジークは、首をかしげる。
きょとんとしたのではなく、ふーんと思っていた。
「できちゃいけねーの? オレ、ちょっと見てみたい」
2人の子なら、ジークにとって「どうでもよくない」箱に入る。
どんな危険や苦痛からも守るべき者になるはずだ。
「そう簡単ではないのさ」
「なんでだよ。周りが、うるせーからか?」
「違う……とも言いきれんが。同じ血縁の者同士の血が交わると、その血は、濃くなる。濃くなり過ぎると、弊害も起きるものだ」
「へーがい?」
「ただでさえ、大公の血は特殊であるのに、そこへ同じ血縁の血が混じれば、どれほど大きな力となり得るか……赤子が、それに耐えられるとは思えん」
言われて、ジークは、初めて、ハッとした。
そうか、と思う。
「無事に……産まれて来るとは限らねーんだな……」
「そうだ。それに、産まれても、長くは生きられぬであろう」
彼は、詳しくは語らなかった。
血にこだわっているのは、彼の力の大きさゆえだ、とは思っていたけれど。
「子を作らねえってのは……」
「あれの選択肢を奪うことになる」
「それでもいいって、言うかもしれねーだろ?」
「かもしれない、ではない。そう言うに、決まっている。だからだ。だからこそ、大公は、あれの気持ちには、応えぬ」
そうだった。
彼は孫娘に「選択肢」を与えたいのだ。
そのためには、「彼」では駄目だと、判断している。
「お前は……まだ……あの人よりは、選択肢があるんだな」
「たいして良い選択肢ではないがな」
ジークには、血へのこだわりがない。
家族も不要と思ってきたので、わからなかった。
彼とユージーンは血に縛られているが、彼の孫娘も血に縛られている。
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彼女は、女性だから。
子は、女性にしか成せないのだ。
ならば、父親となる相手は、より制約がない者のほうがいいに、決まっている。
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