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最終章 黒い羽と青のそら
理想の人が旦那さま 2
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彼は、レティシアと小ホールにいる。
長ソファに、2人で座っていた。
恋しい人、いわゆる「恋人」になってから、半月が経とうとしていた。
レティシアは、未だに彼を名で呼べずにいる。
気恥ずかしさもあるのだろうが、罪悪感のようなものをいだいているのも感じていた。
レティシアは、たびたび庭園に出かけている。
(シシィ、きみから孫を奪ってしまったね。いや、きみならザックやフラニーが彼女を娘だと言うのと同じように、孫は孫だと言いそうだな。ザックは、きみに似ているから)
レティシアは、エリザベートに申し訳ないと思っているのかもしれない。
彼を誘わず、1人で庭園に行っているので、あえて訊かずにいる。
なので、自分とのことを報告をしているのか、詫びているのかはわからずにいた。
大丈夫だと言い、抱きしめたい気もしたが、彼は、彼女の気持ちが落ち着くのを待っている。
レティシアを急かせるつもりはなかった。
(ゆっくり慣れていけばいいさ)
彼女は、とても初心なのだ。
そういうところも、愛しく思っている。
なにしろ彼は気が長い。
レティシアが、新たな関係に慣れるまで、いくらでも待てるのだ。
本当には、こういう間柄になったからこそ、屋敷に入り浸るのはよくない。
わかっているのだが、入り浸る理由があった。
バーン!!
これだ。
ユージーンが、扉を勢い良く開けて入ってくる。
後ろから、慌てたように、グレイとサリーも入ってきた。
止めようとはしてくれたのだろう。
が、ユージーンを止められる者など、この屋敷には「誰も」いない。
「いちゃついているところであったか」
「い、いちゃ……っ……」
「む。らぶらぶ、であったか?」
「ぎ……」
レティシアが顔を真っ赤にして、うつむく。
ユージーンは、おそらく「恋人として仲良くしている」と言いたいのだろう。
レティシアから、レティシア語は使わないようにと言われているので、彼は使わないが、だいたいの意味はわかる。
「わかっていて、邪魔をしに来たのではないのかね?」
「そうではない。お前たちに言いたいことがあったから、来たのだ」
ユージーンが屋敷の勤め人となってから3ヶ月余り。
すっかり我が物顔で、屋敷内を、のし歩いていた。
彼ですら、手に負えない。
「レティシア」
「な、なに?」
「お前、自分が、いくつか知っているか?」
「え? 16」
彼は、レティシアを待てる。
が、ユージーンは待てないようだ。
不穏な目つきで、レティシアを見ている。
「あと、ひと月半もすれば、お前は17になるのだぞ」
「あ、そっか。もう1月も終わりだっけ」
「あ、そっか、ではない! そのようなことでは、式に間に合わんではないか!」
「し、式?」
ユージーンが、呆れたように、溜め息をついた。
彼からすれば、こちらが溜め息をつきたいくらいなのだけれど。
(どうしてこう、彼は、前向きなのだろうねえ……猪のように、前しか見ていないのじゃないか?)
こんな時、ジークがいれば、ユージーンをつつき回してもらえるのに、と思う。
彼が「制裁」すると、やり過ぎてしまうのだ。
レティシアと一緒にいると決めたのだから、なるべく力は使いたくなかった。
レティシアは日向にいる。
ならば、いつまでも、影の中にいるわけにはいかない。
彼も日向に出られるように、努力しなければならないのだ。
「お前たちの式は、グレイとサリーの式と一緒に行う」
「はあっ?!」
「俺が、そう決めた」
「なんでユージーンが、そういうこと決めるんだよ!」
相変わらず、ユージーンは、レティシアを怒らせている。
その才能は、剣の腕にも匹敵するだろう。
彼は、ほんの少しだけ、それを羨ましく思っていた。
レティシアが飾らず怒ることができるのは、ユージーンだけだからだ。
さりとて、レティシアを、あえて怒らせたくもない。
「式はあげぬと言うか」
「そ、そうとは……言ってないけどさ……き、急にそんな……」
「急ではなかろう! すでに、半月も経っているではないか! にもかかわらず、お前たちは、ベッドをともにするでもなく、遅々として進展しておらん!」
「うぎ……っ……」
倒れそうになるレティシアの体を、即座に支える。
レティシアは、そうした話に慣れていなかった。
ユージーンも知っているはずなのだが、容赦がない。
「きみ、いいかげんにしたまえ。私たちのことは、私たちが決める」
「ほう。では、大公は、このままでよいのだな?」
「このままでいいとは言っていないだろう?」
「婚姻をしておらぬ女は、"ふりー"というのだぞ? つまり、俺の入り込む余地が……」
「そのようなものはない」
彼は、目を、すうっと細める。
ユージーンのそれは、軽口のようでいて、半ば本気。
諦めが悪い男なのだ、ユージーンは。
そして、強敵でもあった。
見過ごしにしていたら、本当に、レティシアを取られてしまうかもしれない。
「私は、レティの心の準備ができれば、婚姻するつもりでいる」
「そのようなもの、百年待っても無駄だ。レティシアに心の準備など、できるはずがない。そうではないか、グレイ、サリー?」
急に話を振られた2人が、顔を見合わせている。
それから、彼のほうを見て、曖昧に笑った。
苦笑いともつかない、中途半端な笑みだ。
「あの……レティシア様は……その……大公様のこととなると……まぁ……なんと申しますか……」
サリーは、口を開かずにいる。
グレイに「言わせる」ことにしたらしい。
「はっきり言ってやれ、グレイ。レティシアが、その手のことに疎い!とな」
「い、いや……私は……」
「本当のことだ」
それは、彼も知っているし、わかっているから待っているのだ。
さりとて、こちらの気持ちも知らず、と言ったところで、ユージーンは、きっと「大公の気持ちなど知らん!」と言うに違いない。
それも、わかっている。
「では、こうしよう」
また、なにか「良いこと」を思いついたようだ。
ユージーンの「良いこと」が良い事だった試しはないけれど。
「大公に、別の後添えを、俺が紹介する」
「えっ?!」
「大公とて、ふりーではないか。お前が、もたもた?しているようなら……」
「だ、ダメ!! それは、ダメ!!」
レティシアが、取られまいとするように、彼の腕にしがみついてくる。
彼は、その仕草に、口元を緩めた。
我が恋人は、なんとも愛らしい。
「では、どうするのだ?」
「…………わかった……」
答えるレティシアの肩を抱き寄せ、その手を握る。
当然、ユージーンに対する、牽制の意味も含まれていた。
「無理はしなくてもいいのだよ。私は“待て”のできる男だからね。どこかの誰かと違って」
大いに嫌味を込めて言ったのだけれども。
「そのように言うとは、大公のほうが婚姻に後ろ向きなのだな」
「何を言っているのかね、きみは」
「証人の前で、誓いの口づけをしたくないのではないか?」
「まさか。グレイでもあるまいし」
引き合いに出されたグレイが、情けない顔をする。
見えてはいたものの、彼は、素知らぬ振りをした。
「証人、百人の前でもか」
どうぞ、と、手の平で示して見せる。
それから、ほんの少し、首を傾けた。
「民400万人の前でも」
ふいっと、ユージーンが、彼から外した視線を、レティシアに向ける。
彼は、自分の額を押さえたくなるのを、堪えた。
(……まいったね……彼に、うっかり乗せられてしまった……)
案の定、ユージーンが、勝ち誇ったような顔をしている。
彼ですらも、こんな具合なので、ユージーンを「誰も」止められないのだ。
「決まりだ。わかったな、レティシア! お前も、しっかり心の準備とやらをしておくがいい」
長ソファに、2人で座っていた。
恋しい人、いわゆる「恋人」になってから、半月が経とうとしていた。
レティシアは、未だに彼を名で呼べずにいる。
気恥ずかしさもあるのだろうが、罪悪感のようなものをいだいているのも感じていた。
レティシアは、たびたび庭園に出かけている。
(シシィ、きみから孫を奪ってしまったね。いや、きみならザックやフラニーが彼女を娘だと言うのと同じように、孫は孫だと言いそうだな。ザックは、きみに似ているから)
レティシアは、エリザベートに申し訳ないと思っているのかもしれない。
彼を誘わず、1人で庭園に行っているので、あえて訊かずにいる。
なので、自分とのことを報告をしているのか、詫びているのかはわからずにいた。
大丈夫だと言い、抱きしめたい気もしたが、彼は、彼女の気持ちが落ち着くのを待っている。
レティシアを急かせるつもりはなかった。
(ゆっくり慣れていけばいいさ)
彼女は、とても初心なのだ。
そういうところも、愛しく思っている。
なにしろ彼は気が長い。
レティシアが、新たな関係に慣れるまで、いくらでも待てるのだ。
本当には、こういう間柄になったからこそ、屋敷に入り浸るのはよくない。
わかっているのだが、入り浸る理由があった。
バーン!!
これだ。
ユージーンが、扉を勢い良く開けて入ってくる。
後ろから、慌てたように、グレイとサリーも入ってきた。
止めようとはしてくれたのだろう。
が、ユージーンを止められる者など、この屋敷には「誰も」いない。
「いちゃついているところであったか」
「い、いちゃ……っ……」
「む。らぶらぶ、であったか?」
「ぎ……」
レティシアが顔を真っ赤にして、うつむく。
ユージーンは、おそらく「恋人として仲良くしている」と言いたいのだろう。
レティシアから、レティシア語は使わないようにと言われているので、彼は使わないが、だいたいの意味はわかる。
「わかっていて、邪魔をしに来たのではないのかね?」
「そうではない。お前たちに言いたいことがあったから、来たのだ」
ユージーンが屋敷の勤め人となってから3ヶ月余り。
すっかり我が物顔で、屋敷内を、のし歩いていた。
彼ですら、手に負えない。
「レティシア」
「な、なに?」
「お前、自分が、いくつか知っているか?」
「え? 16」
彼は、レティシアを待てる。
が、ユージーンは待てないようだ。
不穏な目つきで、レティシアを見ている。
「あと、ひと月半もすれば、お前は17になるのだぞ」
「あ、そっか。もう1月も終わりだっけ」
「あ、そっか、ではない! そのようなことでは、式に間に合わんではないか!」
「し、式?」
ユージーンが、呆れたように、溜め息をついた。
彼からすれば、こちらが溜め息をつきたいくらいなのだけれど。
(どうしてこう、彼は、前向きなのだろうねえ……猪のように、前しか見ていないのじゃないか?)
こんな時、ジークがいれば、ユージーンをつつき回してもらえるのに、と思う。
彼が「制裁」すると、やり過ぎてしまうのだ。
レティシアと一緒にいると決めたのだから、なるべく力は使いたくなかった。
レティシアは日向にいる。
ならば、いつまでも、影の中にいるわけにはいかない。
彼も日向に出られるように、努力しなければならないのだ。
「お前たちの式は、グレイとサリーの式と一緒に行う」
「はあっ?!」
「俺が、そう決めた」
「なんでユージーンが、そういうこと決めるんだよ!」
相変わらず、ユージーンは、レティシアを怒らせている。
その才能は、剣の腕にも匹敵するだろう。
彼は、ほんの少しだけ、それを羨ましく思っていた。
レティシアが飾らず怒ることができるのは、ユージーンだけだからだ。
さりとて、レティシアを、あえて怒らせたくもない。
「式はあげぬと言うか」
「そ、そうとは……言ってないけどさ……き、急にそんな……」
「急ではなかろう! すでに、半月も経っているではないか! にもかかわらず、お前たちは、ベッドをともにするでもなく、遅々として進展しておらん!」
「うぎ……っ……」
倒れそうになるレティシアの体を、即座に支える。
レティシアは、そうした話に慣れていなかった。
ユージーンも知っているはずなのだが、容赦がない。
「きみ、いいかげんにしたまえ。私たちのことは、私たちが決める」
「ほう。では、大公は、このままでよいのだな?」
「このままでいいとは言っていないだろう?」
「婚姻をしておらぬ女は、"ふりー"というのだぞ? つまり、俺の入り込む余地が……」
「そのようなものはない」
彼は、目を、すうっと細める。
ユージーンのそれは、軽口のようでいて、半ば本気。
諦めが悪い男なのだ、ユージーンは。
そして、強敵でもあった。
見過ごしにしていたら、本当に、レティシアを取られてしまうかもしれない。
「私は、レティの心の準備ができれば、婚姻するつもりでいる」
「そのようなもの、百年待っても無駄だ。レティシアに心の準備など、できるはずがない。そうではないか、グレイ、サリー?」
急に話を振られた2人が、顔を見合わせている。
それから、彼のほうを見て、曖昧に笑った。
苦笑いともつかない、中途半端な笑みだ。
「あの……レティシア様は……その……大公様のこととなると……まぁ……なんと申しますか……」
サリーは、口を開かずにいる。
グレイに「言わせる」ことにしたらしい。
「はっきり言ってやれ、グレイ。レティシアが、その手のことに疎い!とな」
「い、いや……私は……」
「本当のことだ」
それは、彼も知っているし、わかっているから待っているのだ。
さりとて、こちらの気持ちも知らず、と言ったところで、ユージーンは、きっと「大公の気持ちなど知らん!」と言うに違いない。
それも、わかっている。
「では、こうしよう」
また、なにか「良いこと」を思いついたようだ。
ユージーンの「良いこと」が良い事だった試しはないけれど。
「大公に、別の後添えを、俺が紹介する」
「えっ?!」
「大公とて、ふりーではないか。お前が、もたもた?しているようなら……」
「だ、ダメ!! それは、ダメ!!」
レティシアが、取られまいとするように、彼の腕にしがみついてくる。
彼は、その仕草に、口元を緩めた。
我が恋人は、なんとも愛らしい。
「では、どうするのだ?」
「…………わかった……」
答えるレティシアの肩を抱き寄せ、その手を握る。
当然、ユージーンに対する、牽制の意味も含まれていた。
「無理はしなくてもいいのだよ。私は“待て”のできる男だからね。どこかの誰かと違って」
大いに嫌味を込めて言ったのだけれども。
「そのように言うとは、大公のほうが婚姻に後ろ向きなのだな」
「何を言っているのかね、きみは」
「証人の前で、誓いの口づけをしたくないのではないか?」
「まさか。グレイでもあるまいし」
引き合いに出されたグレイが、情けない顔をする。
見えてはいたものの、彼は、素知らぬ振りをした。
「証人、百人の前でもか」
どうぞ、と、手の平で示して見せる。
それから、ほんの少し、首を傾けた。
「民400万人の前でも」
ふいっと、ユージーンが、彼から外した視線を、レティシアに向ける。
彼は、自分の額を押さえたくなるのを、堪えた。
(……まいったね……彼に、うっかり乗せられてしまった……)
案の定、ユージーンが、勝ち誇ったような顔をしている。
彼ですらも、こんな具合なので、ユージーンを「誰も」止められないのだ。
「決まりだ。わかったな、レティシア! お前も、しっかり心の準備とやらをしておくがいい」
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