二世帯住宅から冒険の旅へ

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第109話 プルストラット・プルストラッティ

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わたしはプルストラット・プルストラッティ、王国の草として各地で諜報活動をしてきた。
違和感なく民に化けて溶け込むために人の生業を研究し真似するのだが、どうもうまくやりすぎてしまうのが欠点だ。
このまえは街の食堂のバイトをやったのだが、フロアでは一瞬でバイトリーダーを飛び越えて店長と呼ばれるし、厨房では店の料理人を飛び越えて宮廷料理を作ってしまい追い出された。
ほどよく無能なふりをするため日々努力している。

今回の任務はティの町の宿屋の支配人になりきりつつ、近く魔王が現れるという魔の森の監視をするのが目的だ。
どうせこんな町によそからわざわざ泊まりにくる客なんていないので絶好の擬態先のはずだ。
毎日数回こっそり魔の森へでかけて様子を見ているが特に変わったところもない森だ。
魔獣を狩ったり草刈りするくらいしかすることがない。

と思っていたら預言通りに突然魔力が集中して魔法陣のようなものが現れたと思ったらなかから豪華な軽鎧と紫のマントを着てピカピカ光る大剣を振り回す男が出てきた。

周りを見渡すといきなり木を切り倒し無差別に魔獣を狩り、まさに預言そのままの無秩序な破壊を始めた。
終始笑顔なのも恐ろしい。狂っている。

これが魔王かと震えていたところ、その魔法陣からもうひとりの男が出てきた。
一見黒いスーツに見えるがとてつもない魔力を帯びた衣装を着ている。
そして非常に冷厳たる声で「やめんか!」と一喝し頭頂部を真っ二つに割る勢いでズバンっと殴った。


「~~~~~~っ!!!」

「いつまで遊んでるんだ。予定通り世界の入り口を確保したまえ」

「ふぁい……」


これが魔王だーーーー! どう見ても魔王だ。怖い。
あれは手下だったのか。
……頭丈夫だな。

それからしばらく穴を掘ったりしていたが出入り口がわからないくらいに偽装されただ森の破壊跡だけが残された状態で静かになった。

もうしばらく監視したほうがいいだろうか?

結局翌昼前までなにごとも起きなかったが、緊張して眠れなかった。

昼前に昨日の二人の他に数名が出てきてわいわい騒ぎながらどこかへ行った。
ついて行ったほうがいいのだろうか?

と思っていたらもう一組出てきた。


「トラ様、ご気分はいかがですか?」

「なんともないよ」


ごく普通の少年に見えるがお付きの者がいるということは高貴な存在なのだろうか?
そう思っているうちに豪華な馬車をどこからともなく取り出した。
なにあれ?
もしかして魔王の息子かなんかか?

馬車に乗り込んでしまったためなかの会話は聞こえない。
相当気密性の高いつくりのようだ。魔法的な防御もされているな。

いや、馬車の向かってるのはティの町じゃないか?
まずい。すぐに戻らなければ。

不審な馬車はなぜかなにごともなくティの町に着き、門番のブラリサン・ポッティを素通りして一直線に宿屋に来た。門番仕事しろよ。
あぶねー。先回りしてよかった。


「しゃっせー」

「コンビニかよ」


あ、あわててバイト口調になってしまった。このままやりきるしかないな。


「っすー」

「いや宿のはず」

「泊りっすかー?」


なんか「この世界」とか「影」とか「暗黒騎士団長」とか「特殊能力」とかまる聞こえなんだが突っ込んでいいんだろうか。


「暗黒……影……それに特殊能力っすか?」

「あ、全部まる聞こえや」

「心なしかキラキラした目で見とるぞ」

「病気の人かな?」


だれが病気だ。


「よし。君には極秘任務を与えよう。われわれはとある重要な計画のため長期間借りれる安全な拠点を探している。決してだれにも言ってはいけないが……守れるか?」


なんか極秘任務とか言ってるが長期宿泊ってことでいいのか?


「っす!」

「ちなみにだれとだれに自慢する?」


なんの自慢? なにかのテストか?


「友達はペヤーとヤングだけっす!」


友達なんていないが。なんとかなったみたいだ。


「まあ影が常時見張っていますし大丈夫でしょう」

「……影ってそっちのお客っすかー?」

(ビクッ)

「ぐる……」

「なんでわかったの?」

「王都から毎月くる影の人たちもそんな感じっすね」


同業者くらい見分けられるわ。いや、普通だと見分けられないのか。難しいな。


「なにか特殊な訓練でも受けてるんでしょうか?」

「え? オレまたなんかやっちゃったっすか?」

「やっちゃいました?系の人だ。初めて見た」

「なんで宿屋にいるんだよ」


こないだの食堂も「なんでこんな食堂にいるんだよ」って追い出されたんだよな。


「あそれいやっす。なんでこんなとこにいるんだって言われて体よく追い出されたこといっぱいあるんで」

「すまん」

「いっす」

「なんや有能そうやし魔王軍に入らはる?」


なにそれ?! 魔王軍? この人たち本当に魔王の関係者なのか?


「魔王軍に入ったらなにするっすか?」

「まあ城の掃除くらいやけど」

「侵入者の排除っすか?!」


そういう仕事も何度かやったなあ。やりすぎて追い出されたけど。

とりあえず宿の従業員として違和感なく受け入れられたようだし、なんの準備もしてなかったけど適当な食事でごまかせたからよかった。

毎日魔の森でヘビとかトカゲとか狩ってたしついでに薬草とか採ってたからな。

話を聞いていると聞いたことのない国の名前が出てくる。やっぱり魔族の世界があるんだろうか。
いや、見た目普通の人間なんだけど。


「あ、暗黒騎士団長! ちーっす」


なんか崩れ落ちた。強そうには見えないんだよな。


「影の人に聞いたんすけど、探検に行くならお散歩クラブに入るといっすよ」

「この短時間で影を掌握してるしさらについさっき決めた行動まで漏れてて先回りされてる?!」


お客様の動向を把握して差配するのは支配人として当然の業務でございます。


「あとオレも暗黒騎士になりたいっす!」


ちょっと潜り込めるか試してみよう。

無事出かけて行ったが、ブラリサンのガイドを付けとけば変なことはできないだろう。
草原に行くならウサギ汁でも用意しとくか。

それで居残り組はなにしてるかな?
なにか組み立ててるな。

歴史? 異世界? 魔王城? 実験?
ふむ。
あの扉に仕掛けがあるのか。おかしな魔力の流れをしているな。

ちょっと警戒されているみたいだけど想定の範囲内だ。
むしろこんなに開けっぴろげで大丈夫なのか心配になる。

お、お散歩組が帰って来たな。

魔王の話題で盛り上がっている。自分たちのことじゃないのか?
勇者? なんのことだろう?


「森に拠点作ってたら魔王ってバレてたかもしれないな」

「いやもう宿のにいさんにバレてるやろ」

「まだだれにも言ってないようですよ。裏をかかれてなければですけど」

「言うわけないっすよ」


あ、つい反応してしまった。
飯でごまかしておこう。


「ほいで率直に魔王について聞きたいんやけど、この世界には魔王の預言があるらしいやん。それ知っとったん?」


ああ、その話?


「っす」

「魔王は敵とかじゃないの?」

「オレその預言ちょっと調べたことあるっす。別に魔王は敵とか書いてなかったっす」

「詳しく」

「こんなんっす」


 四百の夏が巡りくるころ

 森に勇ましく降り立つものあり

 森は消え生けるものみな灰となる

 魔王は罰を与え世界は静寂に包まれる


王族と影にしか知らされてないことだし、わたしも今回の任務で初めて知ったことだが、まあ関係者だしいいだろう。
むしろ情報のすり合わせをしておいたほうがいい。


「みんな魔王が森を破壊するって言ってるっすけど、魔王は罰を与えるほうっすよね? 森の破壊がこの世界への罰だとかいろいろな解釈があるっすけど」

「んー、そもそもそれ魔王じゃない気がするような」

「げんこつするほうじゃない?」


げんこつ! してた!
げんこつと呼ぶにはかなりやりすぎな威力だったが。
この人たちなんで知ってるんだ?


「これでどこの森か特定できるんですか?」

「四百年前にこの辺りにあった村にふらっと立ち寄った預言者が近くの森のことだって言ったらしいっすよ。それがこの町のはじまりっす」


これも今回の任務で教えてもらった。
ブラリサンに聞いたら村にも似たような言い伝えがあったらしいけど。


「この町は森を監視するために作られたってことか」

「町の名前も預言者からとったらしいっす」

「町の名前? 聞いたっけ?」

「まーたブラリサンがサボったっすね。ここはティの町っていうっす」

「ティ? んーだれだろう?」


そう、この辺の人間はみんな最後にティが付いてるからだれのことだかわからないんだよね。
そういえばわたしも最後にティが付いてるな。


「まあようわからへんけど、魔王は敵やないってことでええにゃな?」

「敵じゃないっすよ。だってオレ魔王軍っすよね?」


適当に話を合わせておこう。
……なぜか王都の影に二重スパイさせてるヤバいやつになってしまった。


「まあうちの配下やない別動隊も放たれてるし、おかしなことがあったらあっちでなんとかしてくれはるんと違う?」

「どちらかというと魔王なほうのアレな」

「暴れすぎないといいですけど」


え? あのヤバい人たち? 放し飼いなんですか?
やだー。
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