私の存在

戒月冷音

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第142話

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「マルクス様。それはどういう・・・」
私は、マルクス様の言ったことがよく理解できなくて、そう聞いた。
「ハリエット様は、確かに嫁ぐかもしれない。
 帰る家も、違ってしまうのかもしれない。
 でもね、ミシェルの姉上と言う立場は、変わらないんだよ」
「でもお姉様は、コーエン様の元に行ってしまうのに・・・」
「それはそうだけど、お姉さんはそこに縛られる訳じゃないよ」
「・・・そうなの?」
「そうなんだよ。俺がそこに気付いたのは、妹が嫁いで
 5ヶ月後くらいの時だったけど」
「なんで、5ヶ月?」
「それはね、俺の母親が根をあげたから」
「?」
私は首をかしげた。

「俺の前世の母も、今のミシェルと同じ考えしてた。
 それで、会いたいのも話すのも我慢してた。
 そしたら5ヶ月後に、耐えられなくなって連絡取ったんだって。
 そしたら妹に言われた言葉が、私は母さんの娘も、お兄ちゃんの妹も
 辞めてないからねっ・・・て怒られたって」
「妹さんが?」
「そう、嫁いでいった彼女が怒った。
 その時に気付いたんだ。
 逆に、俺達が妹を嫁ぎ先に縛らせたって。
 俺達はそこまで、気にする必要はないんだよ。
 ただ、家族の範囲が広がっただけだったんだよ」
「家族の範囲・・・」

「オーギュスト家に、コーエン家が加わった・・・それだけだ。
 だから君は、いつでもハリエット様に連絡を取っても良いんだよ」
マルクス様の言葉に、私は何故かストンと納得した。
どうしてか分からない。
ただ、お姉様に連絡を取っても大丈夫だと言うことを教えてもらい、心が落ち着いたようだった。

「私のお姉様はずっと、お姉様なのですね」
と私が言うと、
「そうだよ。
 あっ、そうか。アクイラスとは別の、お義兄様が増えるけどね」
「お義兄様?」
「デビットお義兄様だ」
「そうなのですね」
マルクス様は、私の顔をじっと覗き込んだ後
「・・・悲しい気持ちは、なくなった?」
と聞いた。

私は、心がそわそわしていたのは、お姉様がいなくなると思って悲しかったのだとやっと気付き、その気持ちが落ち着いていることが分かった。
だから、にっこりと笑って
「はい。マルクス様が来てくださったお陰で、気持ちが落ち着きました。
 ありがとうございます」
と答えた。

「ふーーっ・・・よかった。
 夜だから、ここに来るのどうしようか迷ったんだけど、
 来てよかったってことだよね?」
「来てくださったことが、嬉しいです。
 私を、心配してくださったのでしょ?」
「あの後、なんか思い詰めた顔を、時々してたから、気になって・・・」
「ありがとうございます。あっそうだっ」
私はベッドから立ち上がり、ティーセットがある机まで行くと、そこに置いていたものをもって、ベッドに戻る。
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