私の存在

戒月冷音

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第99話

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その後、マルクス様の捏ねた生地は、半透明の袋を二重にしたものに空気を抜いて入れられ、タオルを引いた床の上に置かれた。
その上からタオルをかけて、ヘンドリック様が踏み始めた。
「うおっ!グニュッとする。何かに捕まっていないと、マルガ様は危険だ」

ぐらぐらしながら生地を踏むヘンドリック様は、楽しそうに歩いている。

「できるだけ、まんべんなく踏んでください。生地が延びすぎたら
 一度、袋を開けて折り畳んでも良いです」
私の言葉にヘンドリック様は、何か思い付いたのか、パタパタとある程度踏むと、袋を開き生地を折りたたむと、もう一度口を閉じて
「マルガ様。踏んでみてください」
といって、マルガ様と変わった。

「靴は、脱ぐのよね?」
「それはそうですよ、母上。ヒールで穴を空ける気ですか?」
疲れて座っていたマルクス様が、そう声をかけると
「それもそうよね」
といって、生地の横でヒールを脱ぎ、ドレスを少し引き上げて、生地の上に足をのせた。

「本当に、グニャッとするわ」
そういうと、バランスを取るため、ドレスから手を離し、足踏みを・・・しているかどうかが、見えない。
生地はきれいにドレスの下に隠れてしまい、マルガ様の動きで、歩いていらっしゃることを確認するしかない。
「マ、マルガ様?大丈夫ですか?」
「へ、ヘンドリック様。手を貸していただけますか?」
「は、はい」
ヘンドリック様が慌てて、支えにはいる。
「何時もヒールですので、踵を浮かして足踏みしているのですが、
 足がくらくらとしてしまうのです」
「私達には、ドレスで隠れて何も見えませんので、
 気づくのが遅れてしまいました。申し訳ございません」

ヘンドリック様が、マルガ様を支えておられるとき、マルクス様が私にこいこいっと、ジェスチャーしてくる。
「どうかされましたか?」
「なんか。兄上と母上、親子みたいじゃない?」
「マルクス様・・・」
「はい?」
「そんなことをいっていると、お母様、倒れられてしまいますよ」
私がそういった瞬間、ヘンドリック様がいる方向とは逆向きに、倒れていくマルガ様・・・
「「あぶないっ!!」」
二人揃って叫んだ瞬間、マルクス様が支えにはいった。

「ごめんなさい、マルクス。
 せっかくミシェル様と、お話ししていたのに邪魔をしてしまって・・・」
「いいえ。ミシェルの心配を解決するのも、俺の仕事なんで」
「何をカッコつけてるんだ?」
「兄上~」
ふふふっ・・・
あははっ・・・
マルクス様の情けない声に、笑うマルガ様とヘンドリック様。

「あっ!多分もうそろそろ出来上がったと思います」
私の言葉に足、踏みを止めたマルガ様は、ゆっくりと生地から足を下ろす。
「これで、出来上がりなの?」
「あとは、ずっと捏ねられて動き続けていた生地を、少し休ませてから
 伸ばして切っていきます」
「伸ばすところは、父上に手伝っていただこうかと考えていますので、
 少し休憩にしましょう」
そうして、生地を休ませる間、私達はお茶を楽しむことにした。
大体感覚で一時間くらいたったら、国王様を呼びに行こう・・・とマルクス様と話していた。
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