【完結】メルティは諦めない~立派なレディになったなら

すみ 小桜(sumitan)

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35話

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 ――12年前。
 レドゼンツ伯爵家の現当主は、婚姻と同時に父親から息子へと代替わりし、若い当主だった。

 とある美食家の伯爵が、外国の珍しい素材を使った晩餐会を開き、知人や取引のある伯爵家以上の家族を招待した。

 レドゼンツ伯爵家もその美食家の伯爵家から晩餐会に、まだ小さかったメルティ以外の家族が招待される。
 こっそり伺う予定だったが、なぜか出かけると知ったメルティは、ご機嫌斜めで「行かないで」と駄々をこねていた。
 欠席すると料理を捨てる事になってしまう。娘をなだめるも、最後まで侍女に抱かれながら「行かないで」と泣き叫んだと言う。
 夫妻は、メルティにお土産を買って来るからと言って、一緒に住んでいた両親と共に家を出た。

 そして、珍しくも美味しい晩餐会がつつがなく終える。美食家の伯爵が招待した貴族とも新しく顔見知りになれ、有意義な時間だった。ただ残してきた娘、メルティの事が気掛かりだった。
 その晩餐会には、夫人の両親も招かれておりメルティに顔を見せて帰る事になり、二台の馬車が連なり館へと向かった。

 何事もなく無事に終わったかに見えた晩餐会だが、彼らは館へ帰る事は叶わなくなる。雨が降って路面が悪いわけでもないのに、馬車が揺れた。
 明らかにおかしい。馬車に乗っているレドゼンツ伯爵が窓から外を見るも、特に何もない。賊に襲われたわけでもなかった。

 「え!」

 だが、後ろからついて来ている馬車が見えた時にレドゼンツ伯爵が声を上げる。
 御者が苦しみもがく姿が見え、馬車が右往左往していた。自分が乗る馬車もそうなのだと悟る。

 「きゃぁ」
 「お母様!」
 「うわぁ」

 息子が母親にしがみつくと、母親は抱きしめた。
 そして、そのまま二台の馬車は谷底へと落ちて行く。
 運が悪かったとしか言いようがない。御者が、苦しみ出したのが橋の上だった。

 時間になっても帰ってこない当主達に、当時から執事長だったアールは警備隊へ連絡を入れる。
 そして、驚く事態になっている事を耳にした。
 美食家の伯爵家の晩餐会に行った貴族の馬車が、次々と事故を起こしたと言う。その原因が、だというのだ。
 しかも、晩餐会で食事をした貴族ではなく、御者が食中毒だという。

 レドゼンツ伯爵達が乗る馬車も御者が運転不能になり、事故を起こしているのだろうと探すも見つからない。

 「ハシ! ハシ!」

 泣き叫ぶメルティ。
 今は、侍女になだめてもらうしかない。一大事なのだ。
 アールは、夫人の実家にも連絡を取る。彼らも帰って来ていなかった。

 打つ手がなく、ラボランジュ公爵夫人に助けを求める。アールは、レドゼンツ伯爵家に嫁いだ夫人についてきた執事だった。
 腕を買われ引き抜かれたのだ。彼も彼女の役に立てるならばと、レドゼンツ伯爵家の執事になり、つい最近執事長になったばかりだった。

 ラボランジュ公爵夫人とは面識があり、彼女からも信頼を得ていたアールは、レドゼンツ伯爵家に来て日が浅い為、援けを求める相手が彼女しか思い当たらなかったのだ。
 彼女は快く引き受け、騎士を出してくれた。
 だが、結果は悲しい結末となる。全員、遺体で見つかったのだ。

 他の貴族は怪我をしたが、事故を起こしたのが他の人がいる場所だった為に、すぐに医者に診てもらえた為に死人がでなかった。
 その為、御者も食中毒だとすぐに判明したのだ。

 その後、美食家の伯爵は裁判に掛けられた。
 そこで判明したのは、招待した貴族には一流のシェフが調理した料理を提供させるも、御者には見習いが調理した物が提供されていたのだ。
 普通は、御者にまで料理が振舞われる事はないが、彼らにも出していた。もちろん同じ料理ではないが、材料がいけなかった。
 きちんと処理しないと毒がある食べ物だったのだ。

 美食家の伯爵は、御者が腹痛を起こしても別に問題ないと考える者だった。
 見習いが作った料理を自身が食べるわけもなく、材料ももったいないので御者に食べさせる事にしたのだ。
 御者が運転中に食中毒を起こせば事故が起きると言う、誰でも考えればわかる事を思いもよらなかったと裁判で答え、非難された。

 この美食家の伯爵の爵位は剥奪され監獄行になるも、誰も喜ばない。
 特にレドゼンツ伯爵家の知り合いは。ただただ、悲しみにくれるのだった。
 そして、問題が残る。次期当主となるメルティの後見人の問題だ。
 両親だけではなく祖父母も一緒に亡くなってしまい、レドゼンツ伯爵家の籍から抜けたレドゼンツ伯爵家の当主の弟のイヒニオしか親族がいない。

 だがこの国にはある法律があった。一旦抜けた者が爵位を継げないという法が。
 なので、メルティが16歳の成人になるまで当主が空席になってしまう。
 レドゼンツ伯爵夫人の従兄弟のラボランジュ公爵夫人は頭を抱えた。このままだと、彼女の忘れ形見であるメルティは家督を継げない。
 これまた面倒な法律が存在していた。五年以上、当主が空席になる場合は廃爵にする。という法だ。

 メルティをラボランジュ公爵家で引き取る事は可能だろう。だが出来れば、彼女にレドゼンツ家を継いで欲しいとラボランジュ公爵夫人は願うのだった。
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