【完結】メルティは諦めない~立派なレディになったなら

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
42 / 51

42話

しおりを挟む
 「とても残念だ……」

 陛下がため息交じりにそう言うと、きりっとし直し兵士に言った。

 「証言者を入れよ」
 「っは」

 驚くイヒニオが振り向くと、入って来た人物を見て目を丸くする。

 「名を述べよ」
 「はい。カミロ・アールと申します」
 「職業は?」
 「レドゼンツ伯爵家で執事長をしております」
 「では、レドゼンツ伯爵が事故を未然に防ぐ事になった朝の事を話せ」
 「はい」

 アールは、頷く。
 イヒニオは、思い出す。あの場にアールがいた事を。いや、彼がメルティの話を信じろと言ったのだ。

 「あの日、メルティお嬢様が馬車に乗り込もうとする旦那様に、黒い馬車には乗らないで欲しいと告げたのです。メルティお嬢様は、屋敷からほとんど出た事がなく、旦那様が仕事で使う馬車など見た事がないはずなのに、そう言ったのでございます。僭越ながら信じて差し上げる様に、私からもお願い申し上げました」
 「お前は、我が家の使用人だろうが! なぜあちらの味方をする!」
 「あちらとはどちらでしょうか。私は、問われた事に応えたまででございます」
 「う、嘘を言うな。メルティを聖女にする為に頼まれたのだろう!」
 「誰がそのような事を頼むと言うのでしょうか」
 「だからそこにいる、ラボランジュ公爵夫人にだ! 前から知り合いだろうが」

 そのラボランジュ公爵夫人から大きなため息が聞こえる。

 「見苦しいですわ」
 「な、何だと」
 「一つ、お聞き致しますが、なぜメルティ嬢を聖女に仕立て上げなくてはいけないのでしょうか」
 「それは、ルイス殿下と婚約する為だ」
 「おや。聖女にならないと婚約なさらないのですか?」
 「いや、そうは言ってない」

 ラボランジュ公爵夫人が問うと、ルイスではなく陛下が答えた。

 「いえ、さ、先ほどそうおっしゃったではありませんか」
 「どなたがです?」

 ラボランジュ公爵夫人がわざとらしく首を傾げ聞く。

 「それは……」

 聖女であるメルティと婚約したいと言ったと聞いたが、聖女でなければ婚約させないとは言っていない。

 「何か勘違いをしているようだな。私は、どちらが聖女かはっきりさせようと言ったのだ。そうして欲しいとルイスが言ったのでな」
 「では、その為にアールをお呼びになっていたのですか。最初からわかっていたのに……」

 証人に呼んだという事は、あの朝の出来事がすでに伝わっていたという事だろう。
 騙されたという顔つきで、イヒニオが言うが、「いいや」と陛下は否定した。

 「彼は本来、次の議題の為に呼んでいた者だ。さて、今の言葉を肯定受け取ってよいな。メルティ嬢が予言をしたという事でな」
 「そんな……アール、裏切りよ」
 「そう申されましても、真実を述べたまでです」

 クラリサに責められアールは困った顔をする。

 「静粛に! 次の審議に移る。12年前に契約をした事についての審議だ」
 「何ですって! 本来の目的はそれだったのね!」

 ファニタが、ラボランジュ公爵夫人に向けて言う。

 「本来と言われましても。確かに私が申請しましたが、これだけですわよ。聖女の件は、私ではありませんわ」
 「最初に述べた様に、どちらが聖女か確かめるように頼んで来たのはルイスだ。繋がりがありそうなので、一緒に審議する事にしたのだ。さて、イヒニオ・レドゼンツよ。そなたが、レドゼンツ伯爵として名乗る条件は何だ。述べてみよ」

 突然名指しされ、イヒニオは一瞬固まった。
 先ほどとは違い、契約違反を企んでいたとなれば罪に問われる。
 今頃気が付いたのだ。召致の文章には、メルティに関わる事の真偽を問うと書かれてあったのだ。聖女の件は、前触れだろう。それにイヒニオは気づけなかったのだ。

 「どうした。覚えておらぬか」
 「いいえ、覚えております。メルティを当主となるよう教育し育てる事です」
 「うむ。それが大前提だ」

 陛下が、大きく頷く。

 「待って、それってどういう事? メルティは、養女ではないの? 意味がわからないわ」

 クラリサが、愕然としイヒニオに問う。

 「よく思い出してみなさい。あなたは、あの屋敷へ引っ越して来なかったかしら?」

 そう尋ねたのは、ラボランジュ公爵夫人だ。

 「引っ越し……」

 おぼろげながら覚えている。突然妹が出来た事。お屋敷に移った事。

 「え……」

 なぜ引っ越しして、屋敷が大きくなったの?

 「これから審議してわかる事だから先に教えておくわね。メルティが当主になれば、元のに戻るのよ。あなたの父親は、母親の家に婿入りしているの。わかったら大人しくしていてちょうだいね」
 「う、嘘よ……お父様、お母様?」

 クラリサが、嘘だと言って欲しいと二人を見るも、二人は俯く。それは、ラボランジュ公爵夫人が言っている事が正しい事を意味する。
 ラボランジュ公爵夫人は、いつも騒ぎ出すクラリサに、進行の邪魔をさせないように釘を刺したのだ。

 「さて、では、ちゃんとそれが行われていたか、証人から聞くとしよう」

 陛下はそう言うと、先ほど入って来たアールに向き直るのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 歩く岩と言われた少女

音爽(ネソウ)
恋愛
国を護るために尽力してきた少女。 国土全体が清浄化されたことを期に彼女の扱いに変化が……

今日も姉の物を奪ってやりますわ!(完)

えだ
恋愛
 姉のドレスや髪飾り。お気に入りの侍女に、ひいては婚約者まで。どんな物でも奪って差し上げますわ。何故って?ーーー姉は昔から要領が悪くて鈍臭くて、何でも信じてしまうお馬鹿さんなんですの。このドレスだってセンスのカケラもないしダサくてガキくさいったらありゃしません!なんですかこのショッキングピンクは!!私が去年買っていたこのドレスの方がまだマシなので差し上げますわ!お下がりですけどね!妹からお下がりをもらうなんてお恥ずかしくないのかしら?!  髪飾りだってそうですのよ。姉の透明感のある甘栗色の髪に、ビカビカのルビーなんて似合いませんわ!センスが悪すぎですのよ!!  そのうえ少し前から姉に仕えている侍女はか弱いふりをして姉から同情されて何かと物を贈られていますの。そういうのに気付けないんですのよ、私の姉は。それから婚約者。あれはだめね。一癖どころか二癖も三癖もありますわ。腹が黒いったらありゃしません。姉はそういうのを見抜く能力が1ミリもございませんから、泣かされるに決まってますわ。女癖も悪いという噂もお聞きしますし、疎くて汚れのない姉には不向きなんですの。別にあの男じゃなくもっと条件の良い殿方は沢山いらっしゃいますし!  え?私??姉が好きなのかって??ーー何を言ってるんですの?私は、馬鹿で騙されやすくて要領の悪い姉が知らず知らずのうちに泣きを見ることがアホくさくて見てられないだけですのよ!!  妹に奪われた系が多かったのでツンデレ妹奮闘記が書きたくなりました(^^) カクヨムでも掲載はじめました☆ 11/30本編完結しました。番外編を書いていくつもりなので、もしよろしければ読んでください(*´꒳`*)

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

婚約者を義妹に奪われましたが貧しい方々への奉仕活動を怠らなかったおかげで、世界一大きな国の王子様と結婚できました

青空あかな
恋愛
アトリス王国の有名貴族ガーデニー家長女の私、ロミリアは亡きお母様の教えを守り、回復魔法で貧しい人を治療する日々を送っている。 しかしある日突然、この国の王子で婚約者のルドウェン様に婚約破棄された。 「ロミリア、君との婚約を破棄することにした。本当に申し訳ないと思っている」 そう言う(元)婚約者が新しく選んだ相手は、私の<義妹>ダーリー。さらには失意のどん底にいた私に、実家からの追放という仕打ちが襲い掛かる。 実家に別れを告げ、国境目指してトボトボ歩いていた私は、崖から足を踏み外してしまう。 落ちそうな私を助けてくれたのは、以前ケガを治した旅人で、彼はなんと世界一の超大国ハイデルベルク王国の王子だった。そのままの勢いで求婚され、私は彼と結婚することに。 一方、私がいなくなったガーデニー家やルドウェン様の評判はガタ落ちになる。そして、召使いがいなくなったガーデニー家に怪しい影が……。 ※『小説家になろう』様と『カクヨム』様でも掲載しております

【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜

ゆうき
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。 エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。 地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。 しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。 突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。 社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。 そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。 喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。 それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……? ⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

【完結】マザコンな婚約者はいりません

たなまき
恋愛
伯爵令嬢シェリーは、婚約者である侯爵子息デューイと、その母親である侯爵夫人に長年虐げられてきた。 貴族学校に通うシェリーは、昼時の食堂でデューイに婚約破棄を告げられる。 その内容は、シェリーは自分の婚約者にふさわしくない、あらたな婚約者に子爵令嬢ヴィオラをむかえるというものだった。 デューイはヴィオラこそが次期侯爵夫人にふさわしいと言うが、その発言にシェリーは疑問を覚える。 デューイは侯爵家の跡継ぎではない。シェリーの家へ婿入りするための婚約だったはずだ。 だが、話を聞かないデューイにその発言の真意を確認することはできなかった。 婚約破棄によって、シェリーは人生に希望を抱きはじめる。 周囲の人々との関係にも変化があらわれる。 他サイトでも掲載しています。

酷いことをしたのはあなたの方です

風見ゆうみ
恋愛
※「謝られたって、私は高みの見物しかしませんよ?」の続編です。 あれから約1年後、私、エアリス・ノラベルはエドワード・カイジス公爵の婚約者となり、結婚も控え、幸せな生活を送っていた。 ある日、親友のビアラから、ロンバートが出所したこと、オルザベート達が軟禁していた家から引っ越す事になったという話を聞く。 聞いた時には深く考えていなかった私だったけれど、オルザベートが私を諦めていないことを思い知らされる事になる。 ※細かい設定が気になられる方は前作をお読みいただいた方が良いかと思われます。 ※恋愛ものですので甘い展開もありますが、サスペンス色も多いのでご注意下さい。ざまぁも必要以上に過激ではありません。 ※史実とは関係ない、独特の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法が存在する世界です。

処理中です...