【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
7 / 192
第一章 薬師になろうとしただけなのに……

第七話

しおりを挟む
 すべての実技が終わり、壇上のテーブルが撤去されると、グスターファスは立ち上がり前へ出た。

 「今日は朝からご苦労である。皆、素晴らしかった!」

 っと、グスターファスの話が始まると、皆固唾を飲んで聞き入る。これからこのまま、合格者が発表されるからだ。
 もう既に落ちた者さえ、じっとグスターファスの言葉に耳を傾けていた。

 「さて、素晴らしい者の中で、特に目を引いた者を紹介しよう……」

 とうとう発表である。

 「二十二番、ダグ・プリザンス!」
 「はい!」

 呼ばれたダグは、大きな声で返事をし立ち上がり、監査官に誘導され壇上に向かう。そして、当然だという顔つきで、堂々と壇上に上がった。

 (っち。受かったか……)

 ティモシーは、受かるだろうとは思っていたが、面白くなかった。彼が首位なのは実力ではなく、魔力を使った不正だからである。

 「十七番、アリック・ガイトル!」
 「はい!」

 次に呼ばれたアリックも静かに立ち上がり、壇上に向かう。ダグとは違いその背中には安堵した様子が伺えた。

 (うそ……彼?)

 次に呼ばれるのは自分だとティモシーは思っていた。それほど自信があったのである。しかしその自信は実力からと言うよりは、母親から『あなたなら一番通過確実ね!』という、太鼓判があったからである。
 村には、村で唯一の医者の母親しか薬師はおらず、他の者と比べた事などなかった。だが先ほど実技をやってみて、二人に劣っているとは思っていなかったので、母親の言う通りだと思っていたのである。

 (もしかして落ちた……?)

 急に不安になる。ティモシー自身が、二人に勝っていると思ったところで、判断するのは試験を開催する側だ。
 手の平が、じっとりと濡れてくる。今まで自信満々だったが、今は不安の方が勝っていた。
 既にカードの色で悩んでいた事など、頭の片隅にもない。

 「九十八番、ティモシー・カータレット!」

 (呼ばれた!)

 ガタンとティモシーは、反射的に立ち上がった。

 「返事をお願いします」

 近づいた監査官が、いつまでも返事をしないのでそう耳打ちしてきた。

 「え? あ、はい……」

 安堵感からかティモシーは、頭が真っ白になっていた。言われるままに返事をするも声は小さい。
 監査官はこちらですと、ティモシーの前を歩き先導する。それにフラフラとついていくティモシーに皆釘付けだ。最年少だと思われる美少女だったからだ。実際は少年なのだが……。
 いつもならムッとするところだが、今のティモシーにはそんな事はどうでもよかった。無事に合格出来てよかったという思いでいっぱいだったのである。
 上には上がいるという事を知った瞬間でもあった。
 壇上の前にくると、アリックの横に並ぶように監察官に言われ、ティモシーは一人で壇上に上がる。
 ティモシーが、アリックの横に並ぶのを確認したグスターファスは、うむっと頷いて口を開く。

 「以上の者を我が王宮専属薬師とする!」

 (え? 三人だけ……)

 三人に皆の拍手が贈られた。
 ランフレッドの言う通り、狭き門だったのである。
 ティモシーがランフレッドをチラッと見ると、彼はニッコリと微笑んで返してきた。

 「ではこれから、認定式に移ります」

 オーギュストがそう進行すると、彼はグスターファスに小さな木箱を手渡す。それを持って、グスターファスはダグの前に立つ。

 「ダグ・プリザンス。あなたを王宮専属薬師に任命します。今までで一番素晴らしいモノだった!」

 一言添えてグスターファスは、ダグに木箱を手渡した。

 「ありがとうございます。精一杯務めさせて頂きます」

 ダグはそう言って、礼をしながら木箱を受け取った。
 グスターファスは、次にアリックの前に立った。

 「アリック・ガイトル。あなたを王宮専属薬師に任命します。基本に忠実でよく出来ていた!」

 先ほどと同じく一言添えると木箱を手渡す。

 「ありがとうございます。誇りを持って務めます」

 アリックも礼をしながら木箱を受け取る。
 そして、グスターファスは、ティモシーの前に立った。
 目の前の彼を見たティモシーは、今回初めて緊張し、ごくりと生唾を飲み込む。

 「ティモシー・カータレット。あなたを王宮専属薬師に任命します。この私も驚きである。その年齢でその技術! 将来が楽しみである」

 ティモシーは、グスターファスから木箱を受け取る。

 「ありがとうございます。今の気持ちを忘れず、仕事に務めます!」

 ティモシーの返答に、グスターファスはうむと頷いた。
 三人が試験を受けにきた者達を振り向くと、また拍手が贈られた。

 「皆には、王宮専属薬師を目指すだけではなく、薬師として人々を助けてほしい。今の時代、魔術による治療は見込めない。皆の力が必要なのである」

 グスターファスの発言が終わると、オーギュストが皆に宣言する。

 「これにて、試験及び認定式を終了します。皆さまお疲れ様でした」

 グスターファス達はその宣言で、壇上から退場していく。ティモシー達三人も壇上から降り、部屋に案内された。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

上流階級はダンジョンマスター!?そんな世界で僕は下克上なんて求めません!!

まったりー
ファンタジー
転生した主人公は、平民でありながらダンジョンを作る力を持って生まれ、その力を持った者の定めとなる貴族入りが確定します。 ですが主人公は、普通の暮らしを目指し目立たない様振る舞いますが、ダンジョンを作る事しか出来ない能力な為、奮闘してしまいます。

異世界召喚に巻き込まれたのでダンジョンマスターにしてもらいました

まったりー
ファンタジー
何処にでもいるような平凡な社会人の主人公がある日、宝くじを当てた。 ウキウキしながら銀行に手続きをして家に帰る為、いつもは乗らないバスに乗ってしばらくしたら変な空間にいました。 変な空間にいたのは主人公だけ、そこに現れた青年に説明され異世界召喚に巻き込まれ、もう戻れないことを告げられます。 その青年の計らいで恩恵を貰うことになりましたが、主人公のやりたいことと言うのがゲームで良くやっていたダンジョン物と牧場経営くらいでした。 恩恵はダンジョンマスターにしてもらうことにし、ダンジョンを作りますが普通の物でなくゲームの中にあった、中に入ると構造を変えるダンジョンを作れないかと模索し作る事に成功します。

1000年生きてる気功の達人異世界に行って神になる

まったりー
ファンタジー
主人公は気功を極め人間の限界を超えた強さを持っていた、更に大気中の気を集め若返ることも出来た、それによって1000年以上の月日を過ごし普通にひっそりと暮らしていた。 そんなある時、教師として新任で向かった学校のクラスが異世界召喚され、別の世界に行ってしまった、そこで主人公が色々します。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~

TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ! 東京五輪応援します! 色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!

処理中です...