【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

すみ 小桜(sumitan)

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第九章 追われる者

第九十六話

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 次の日ティモシーは、どんよりとしていた。周りもよくわかるほど元気がない。
 ダグは、昨日レオナールに何か言われたのは確かだろうと思っていた。
 午後、ティモシーとダグは一緒に配達に行くことになり、二人は正門で護衛の兵士を待っていた。

 「なあ、レオナール王子に何か言われたのか?」
 「え? なんで?」
 「なんでってお前、いかにも何かありましたって感じだけど」

 やっぱりバレていたかと、ティモシーは溜息をつく。聞かれた所で話せない。

 「いや、無理に話せとは言わないけど、ため込むなよ」
 「ありがとう」

 ティモシーは頷いて言った。

 「ダグ! よかったまだ居たか。話し合いをする事になった。あなたもレオナール様が参加するようにとの事だ」
 「え? 俺? でもティモシーが一人になるけど……」
 「大丈夫。護衛いるし、場所わかるから」
 「わかった。絶対一人で行くなよ。護衛来るの待てよ!」
 「わかってるって」

 ダグは、ブラッドリーと一緒に王宮内に入って行った。
 ティモシーは、ダグを見送ると街に視線を戻す。
 少し高い所に王宮は建っている。綺麗な街並みが一望できた。

 「ティモシー……さんですか?」

 呼ばれティモシーは振り向いた。兵士かと思ったが、声が女性だったので誰だろうと振り返るが、見知らぬ薬師だった。

 「私は、イリス。彼の代わりに来ました」

 こげ茶色の長い髪を後ろで結っている二十代の女性がニッコリと微笑んだ。だが、目は笑ってはいない。
 またエイブがらみだろうかとティモシーは警戒する。

 「ダグさんの代わりですか?」
 「えぇ。そうよ」
 「待たせたな」

 彼女の声に被るように、男の声が聞こえ見ると、イリスの後ろにホルファンスが立っていた。

 「え! もしかして護衛?」
 「そうだ。もう行けるのか?」
 「えぇ。準備は整っております」

 ティモシーの代わりにイリスが答えた。

 「じゃ、行くぞ」
 「……うん」

 三人は歩き出す。届け先は森の泉研究所だ。黙々と歩き雑談などない。
 しかも、ティモシーの少し後ろを歩くイリスの視線が振り向かずともわかるほどだ。

 (本当にこの人、交代の人だったんだろうか?)

 護衛がいる前で下手な事はしないだろうと思うも、ここは王宮の外である。不意をついて何か仕掛けてくるかもしれない。ティモシーでも女性には、反撃しづらい。出来れば、何も起こらずにと願っていた。
 そして無事に荷物を送り届ける事はできた。後は帰るだけだ。

 「ティモシーちょっと、二人だけでお話がしたいのですが……」

 森の泉研究所から出て少し経った頃、イリスは声を掛けて来た。
 その場所は以前、男たちに襲われた場所で人気がない通りだ。

 「戻ってからで……」
 「いいえ。ここで」

 ティモシーが振り向いて言うも強い意思で拒否された。

 「二人で話をします。あなたは下がっていて下さい」
 「え? いやでも……」

 イリスがホルフォンスに離れるように言うも彼は戸惑う。

 「私が誰かわかりませんか? 本当の名はイリステーナ。これでおわかりになりますでしょう」

 名に聞き覚えがあったのか、ホルファンスは一瞬驚いた顔をした。そして、バッと頭を下げた。
 ティモシーがその行動に驚いていると彼は、イリステーナに言われた通り二人から離れる。

 「え? 一体あなたは……」
 「あら? レオナール様から聞いてない? では、こう言えばわかるかしら。ヴィルターヌ帝国皇女と」

 (皇女! って、王女の事だろう? え? ヴィルターヌ帝国からの使者ってこの人!?)

 ティモシーは驚いて固まった。
 何故そんな人物が自分に近づいたのかわからなかった。
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