【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
110 / 192
第十章 駆け引き

第百十話

しおりを挟む
 「ティモシーさん」

 ティモシーは呼ばれ振り向く。勿論、相手はエイブだ。

 「あ、エイブさん。……ごめんなさい」
 「なんでいきりなり謝るの? もしかして何も情報手に入らなかった?」

 ティモシーは頷く。

 「だろうね」
 「え?」

 ティモシーが驚くと、エイブはニッコリ微笑む。

 「大丈夫。想定内だよ。怪しい人物に情報を教える訳ないだろう?」
 「俺……怪しい人物なのか?」

 エイブは頷く。

 「凄くね。夢で俺と接触しているとわかったら教えないでしょう。普通は」

 それもそうかとティモシーは頷いた。話す気がなくとも、上手く引き出される可能性があるのだから。

 「あ、そうだ。外に出たらトンマーゾさんがいて、相手を封印する石だと黒い石渡されたんだけど……」
 「あぁ、あれ。最初から不思議な魔力がこもった鉱石みたい。それに魔法陣を刻んで刻印を掘ってあるんだ。後は魔力を練ると魔法陣が起動して、壊れると発動する仕組み。魔術師じゃない人は練れないから呪文で起動させるんだ」

 そうだったのかとティモシーは頷いた。

 「あ!」
 「どうしたの?」
 「いやえーと。呪文のメモを貰っていたけど見るの忘れていたなと思って。でも、ずっと周りに人がいたから見る機会なかったけど……」
 「君らしいね」

 エイブはクスッと笑う。

 「それ使わない方がいいかもね。本当にトンマーゾさんが言ったような効果なのかはわからないからね」

 ティモシーは頷く。どうせ逃げてもトンマーゾに殺されるだけだ。それならレオナールに捕まるほうがいいかもしれない。

 「そうそう聞きたい事あるんだよね。イリスが俺と君がこうやって会っていた事をあの王子に話したんだよね? どこまで話していたかな?」
 「えっと、俺の前では何も。夢で会っていたってバレて……」
 「じゃ、君が王宮を逃げ出した理由は? それで王子に君が問い詰められたからなの?」

 ティモシーは軽く頷くが俯いた。本当はあの場にいた全員にエイブと夢で会っていた事がバレている。どちらかというと、ランフレッドに問い詰められて逃げ出したのだ。

 「まあ、いいや。じゃトンマーゾさんに言った話は作り話? 本当の話? イリスの案内……」
 「え? あの場しのぎの嘘だけど……」

 エイブは右手を顎に持っていき考え込む。

 「あのさ、イリスと一緒に出掛けたのはどうして? 夢で彼女に会う前の話だよね。そこで俺は、君にその事実を聞いたんだし……」

 ティモシーはまた俯いた。

 「そこは教えてほしんだけど。組織の人間をおびき寄せるワナじゃなかった訳だよね? だとしたら何? 全然思いつかないんだけど?」

 エイブは、ミュアンと会った時の夢からバレている事を知らない。話せばミュアンが組織に追われている人物だと教える事になる。彼を信じていない訳ではないが、もしもの事を考えると言えなかった。

 「俺も知らない……。ダグさんの代わりに一緒に届けに行っただけで、俺は皇女だと知らずに行動していたから……」
 「ふーん。そうなんだ。わかった」

 ティモシーでもエイブが今の説明で納得していないのがわかった。

 「さて、今日の所は帰るかな、イリスに見つかるかもしれないし」

 ティモシーは、不安げな顔でエイブを見た。

 「そんな顔しないの。大丈夫だから。トンマーゾさんだってわかっていて、命令してるんだから」
 「え……」

 ティモシーが驚くと、エイブはほほ笑んだ。

 「俺達を試しているんだよ。ガセネタを掴ませるかどうかね。君は今まで通りにしていればいいから。ただ、周りでいつもと違う事があったら教えて! じゃ、また」
 「うん……」

 ティモシーが頷くと、エイブの姿はスッと消えた――。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

上流階級はダンジョンマスター!?そんな世界で僕は下克上なんて求めません!!

まったりー
ファンタジー
転生した主人公は、平民でありながらダンジョンを作る力を持って生まれ、その力を持った者の定めとなる貴族入りが確定します。 ですが主人公は、普通の暮らしを目指し目立たない様振る舞いますが、ダンジョンを作る事しか出来ない能力な為、奮闘してしまいます。

異世界召喚に巻き込まれたのでダンジョンマスターにしてもらいました

まったりー
ファンタジー
何処にでもいるような平凡な社会人の主人公がある日、宝くじを当てた。 ウキウキしながら銀行に手続きをして家に帰る為、いつもは乗らないバスに乗ってしばらくしたら変な空間にいました。 変な空間にいたのは主人公だけ、そこに現れた青年に説明され異世界召喚に巻き込まれ、もう戻れないことを告げられます。 その青年の計らいで恩恵を貰うことになりましたが、主人公のやりたいことと言うのがゲームで良くやっていたダンジョン物と牧場経営くらいでした。 恩恵はダンジョンマスターにしてもらうことにし、ダンジョンを作りますが普通の物でなくゲームの中にあった、中に入ると構造を変えるダンジョンを作れないかと模索し作る事に成功します。

1000年生きてる気功の達人異世界に行って神になる

まったりー
ファンタジー
主人公は気功を極め人間の限界を超えた強さを持っていた、更に大気中の気を集め若返ることも出来た、それによって1000年以上の月日を過ごし普通にひっそりと暮らしていた。 そんなある時、教師として新任で向かった学校のクラスが異世界召喚され、別の世界に行ってしまった、そこで主人公が色々します。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~

TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ! 東京五輪応援します! 色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!

処理中です...