居候と婚約者が手を組んでいた！

第39話

　はあ。
　まさか、こんな手段に出るなんて。ガストン様は一体何がしたいのでしょうか！

　後悔させてやると言われて数日後、新しい薬師がもう一名雇われてしまった。
　どうやら最初に薬師を雇った時に、ルトルン伯爵家を通して雇ったので、今回もルトルン伯爵家を通して雇えてしまったみたい。

　つまりは、私の許可がなくとも出来てしまったって事よね。これはかなりマズイわ。
　今は、薬師の採用の件だけだけど、そのうち他の事も決定権を握られるわ。
　ルトルン伯爵家としては大した事のない事業だとは思うけど、私にすれば生活がかかっているのだもの、ルトルン伯爵家の自由にはさせられないわ。

　というか、本気で乗っ取る気なのかしらね？
　私とガストン様が結婚すれば全権とはいかないものの、手に入れたと同じなのに。
　それともガストン様のただの嫌がらせ？

　……嫌がらせなのよね。そう言っていたもの。

　前回雇った薬師は、ちゃんと吟味した上で採用した方だけど、今回はきっとそんな事ないわよね。
　しかしどうして、私の許可した書類なしに出来たかしら？

　「おい！　これにサインをして提出しろ」

　ガストン様がまた何やら書類を持ってきた。
　またなの？　え……。

　「これって今回採用した方の書類？　ではまだ登録もせずに昨日から来てもらったというの？」
　「いや届け出は出したさ。僕の口利きとしてな。後は君がその書類を出せばいいだけだ！」

　出せばいいだけって。口利きの意味を理解しているのかしら？
　うん？　待って。僕の？

　「もしかして、ガストン様の名で斡旋状を提出して、それが通ったのですか？　嘘でしょう？　どうやって？」
　「は？　どうやってって？　普通に提出して……」
　「確かに学園を卒業したけど、学校に通う立場では普通は通らないものよ。ガストン様が提出した書類は、私と薬師の両方に相手の身元を保証をする物なのですよ！　もしどちらかに何かあった場合ガストン様も責任を負う事になりますわ」
　「な、何も起こらなければそうならないだろう！　それとも起こす気なのか！」

　何を言っているのよ。私ではなく、薬師の方がするかもしれないって事よ。
　書類が通ったって事は、こちらで働く事を了承する書類をもらったに違いない。

　「ルトルン伯爵は知らないのですよね？」
　「父上は関係ないだろう！　もう僕は大人だ！　だから僕の斡旋状が通ったんだ！」

　違うわよ。一度目の時にルトルン伯爵が斡旋状を提出してあったからでしょう。信用の半分は、ルトルン伯爵のものよ。

　「わかったわ。でも書類は提出しないわ」
　「は？　僕に恥をかかせるつもりなのか！　相手から書類をもらって一緒に届けてあるんだぞ！」
　「普通は、私にも確認した後に行う行動でしょう」

　パチン。
　扇子が閉じる音に驚き振り向けば、エルダ夫人が立っていた。

　「二人共、遅れますわよ」

　いけない。朝食を食べて学園に行くところだったわ。
　書類を手に私は、学園へと向かった。
　何とか遅刻せずにすんだけど、これどうするかなぁ。

　渡された書類をジッと眺めつつため息をつく。
　ガストン様の字だわ。
　本来は、本人が書くか経営家が書く。届け出を出すなら私が書き直さないとまずいわね。

　あぁ、出したくない。けど、引き受けたけどやめたとなれば、悪評が立ってしまう。
　何せ彼女は、昨日から来ていたのだから。承諾したわけではなく、学園から帰ると居たのよね。
　つまり、エルダ夫人もグルって事よね。
　そうだ。帰りに役所に寄ってみまよう。

◇

　「すみません。レネット・グリンマトルです。この前提出された書類の確認に来たのですが」

　私は、本人証明の為に書類にレリーフを押す。これが一番手っ取り早い。
　確認が取れすぐに、書類を見せていただいた。
　と言っても、カウンターごしに見る事しかできないけど。
　控えがあるわけでも、コピーができるわけでもないから、紛失したら困るからね。

　あれ？　私の書類に書いてある内容と違うじゃない！
　どちらにしても一度差し戻されて、書き直さなくてはいけないくなるところだったわ。
　勤務時間も給金の金額も違う。
　これは、まずいわ。私の書類と違う以前に、この待遇だと先に雇った薬師からクレームが来るでしょう。

　もうこうなったら言うしかないでしょう。役所も困るでしょうけど。

　「あの私、今日これを渡されてね。どうして書類がそれっていないのに、受理したのでしょうか」

　私が、サインをしていない私の分の書類を見せた。
　職員は、サーっと青ざめる。
　そりゃそうよね。本来は三枚揃ってから受理するもの。しかも、雇い主本人か経営家が提出するものよ。
　私の婚約者だとはいえ、普通は通らない。
　どう言い訳をしたかわからないけど、たぶんガストン様が領主の息子だったから大丈夫だと思ったのでしょうね。
　でもここでこうしておかないと、通ると思えば次もあるかもしれないわ。