愛を忘れた令嬢が平民に扮した公爵子息様に娶られる話

rifa

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「落ち着いたところで、ミレー、結婚してほしい」
「私が……グランと……?」
 まだ心臓の動揺が止まらずドキドキと高鳴り続けている。
 彼と一か月近く寝食をともにしてきたことが嘘だったように、ミレーはそれを恥ずかしがった。
 そんなミレーの心情を察していないかのように、マルクが頭を振った。
「いや、グランとじゃないよ」
「え?」
 話の流れ的にグランと結婚をするものかと思っていたが、それなら誰と結婚しろというのだろうかとミレーはマルクを見る。
「グランじゃない。グランディア公爵家の嫡男、オリヴァー・グランディアとだよ」
「え? ……グランとオリヴァーは同一人物だって」
「立場の問題だよ。『オリヴァー』と結婚したら、君はいずれ公爵夫人となる。君はしばらくの間グランと生活をともにしていたが、オリヴァーという側面を見ていないと思う。グランであってもオリヴァーであっても、君を愛することに変わりはないが、君は覚えなくてはいけないことや身に付けないといけないことがたくさんあると思う。なにより、オリヴァーとして生きる彼はグランとは違う人間かと思うほど話し方もなにもかも違う。そんな二重人格のような彼を愛してくれるかい?」
「……え、えっと……」
「なんでミレーの決心を鈍らせるようなこと言うんだよ! そんな脅しみたいなこと言って、もし気が変わっちまったらどうすんだ! あと、二重人格ってなんだよ、頑張ってオリヴァーを演じているだけだよ!」
 マルクの発言に、グランが歯をむき出しにして食いつく。
「そんなだまし討ちみたいに何も告げずにミレーを囲み込んで、君は満足なのかい?」
「……ッッ」
 マルクの鋭い言葉に、グランは悔しそうに奥歯を噛みしめて両拳を握りしめた。
「……オリヴァーで生きているグランは、そんなに違うの?」
「笑っちゃうくらいには」
「役者になれそうかと思うほどには」
 ミレーの質問に、マルクとイリーが遠慮のない意見を返してきた。グランは一層悔しそうに歯噛みしていた。
「そんなに違うんだ……。その、ちょっとどんな感じか想像つかないけど、グランに変わりはないんでしょう? なら、良いんじゃない?」
「ミレー……。じゃあ、結婚、いいのか?」
 先ほどまでマルクとイリーの背後で拳を握りしめていたグランが、今は顔を輝かせているのが見えた。
「え、っと……その、結婚は……。だ、だって、そういうのは家族の、親の許可を……きょか……」
 グランとの結婚、という言葉に動揺して忘れていたが、結婚をするとなれば、当然家族に報告に行かなければならない。
 すっかり下町の生活に馴染んでいたから、今更またあの家に戻ることになるなど、考えていなかったのだ。
「あぁ、ちゃんとミレーを嫁にもらいたいって言わないと。てか言いたい」
 ワクワクと、悪巧みをしている少年のような笑みを浮かべるグランの顔を、ミレーは生気のない表情でただ見つめていた。
 そんなミレーの様子にグランが首を傾げる。
「どした?」
「……や」
「え?」
「いや……ごめ、ごめんなさい……ごめんなさい、奪うなんてしないから、ごめ、許して……許して…………」
 ガタガタと酷く身体を震わせながら、やや高い背を丸く縮こませてミレーは床に突っ伏し謝り続けた。
「どうした……? おい、ミレー!!」
 尋常ならぬミレーの様子に、最初は遠慮するように声をかけていたグランだが、とうとう肩を掴んで自分の方へ顔を向けさせた。
「ミレー!」
「いやっ……いや、ころされる……殺される……!」
 うわごとのようにそう呟くミレーの目には、グランが映っていないように見える。
「……誰がミレーを殺すっていうんだ」
「アリサ……アリサに、ころされる……」
 身体を震わせ、顔を青ざめさせていくミレーの身体に、イリーがベッドから持ってきた毛布をかけて抱きしめた。
「大丈夫ですよ。ここにアリサ嬢はおりません。……大丈夫です」
 イリーの鈴が鳴るような声に、ミレーの心が少しずつ穏やかになっていく。
「……ミレー、どうして殺されるなんて思ったんだ?」
 正面からグランが目線を合わせるように屈んで、優しい声色で不安の原因を尋ねた。
 粗忽な言葉遣いをする普段のグランからは想像が出来ないほど、穏やかで優しい声色に、ようやく自分の意思で呼吸をすることが出来てきた。
 ミレーの両手を自分の手のひらで包み込んで温めてくれるグランの体温に安心して、ミレーは熱に浮かされたような頭でぽつりぽつりと話した。
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