【完結】髪は女の命と言いますが、それよりも大事なものがある〜年下天才魔法使いの愛には応えられません〜

大森 樹

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1 天才魔法使い

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「今日から魔法学校を首席で卒業した子が来るらしいですよ。その子はかなり魔力量の多い逸材だそうです」

「へぇ……凄い人がいるものですね」

 魔法省で事務員をしている私……子爵令嬢のレベッカ・シャレットは目の前の書類を片付けながら、上司であるフェルナンデス事務長の話を聞いていた。多少は関わることもあるだろうが、そんなエリートとお近付きになる可能性などないので適当に話を流しておく。

「見た目も良いらしくて、若い御令嬢方が朝早くからウキウキしていたよ」

「へぇ……凄いですね」

「はぁ、全く興味がないようだね。君だって若い御令嬢なのに、少しは何か期待しないのかい?」

 ――何かとは何を期待すればいいのか。

「私を分類に入れていただけて恐縮です。お気遣いありがとうございます」

 私は事務長にペコリと頭を下げた。二十歳を過ぎた私をまだ若いと言ってくださったことに、素直に驚いたのだ。我が国の女性の結婚適齢期は十五歳から十八歳と短い。つまりとっくに行き遅れな私は歳をとっていると言う程ではないが、決して若くはない。

 私はもう一人で生きていくと決めている。だからどんなに男前で有望な若者が来ようが、恋愛的な意味では関係ないのである。仕事で事務員として接するだけ。

 まだご高齢の魔法使いが『後妻が欲しいらしい』という話の方が、自分にも縁談の可能性があるというものだ。まあ、もしそんな話があっても私自身に結婚する意思はないのであり得ないのだけれど。

「私に比べたら君もまだまだ若いよ。新人達の入団式は全員参加だから、君も出席するんだよ」

「……はい」

 内心は早く仕事がしたいのに面倒だな、と思いながらも大人しく頷いた。

「レベッカさんとっても綺麗な黒髪なのに伸ばさないのですか?ロングの方がもてますよ。私なんてその新人さんに見染められちゃうかも、と思って気合入れてヘアアレンジして来ちゃいました」

 きゃっきゃ、とはしゃいでいる彼女は後輩のアリシア・ストランド伯爵令嬢。まだ十六歳と若いので夢みがちなところがあるが、そこが素直で可愛らしい。伯爵家だが、事業が失敗して貧しいのでこうして働いているそうだ。貧乏でも真っ直ぐ育っている彼女はとても魅力的な女性だ。

「私が伸ばしたところで何も変わらないわ。長すぎるのは邪魔だしね。アリシアさんは似合っているわよ」

「えへへ、ありがとうございます!」

 アリシアさんは嬉しそうに笑っている。彼女の言う通り我が国では長い髪の方がもてる。髪は女の命とも言われ、貴族令嬢がより良い結婚するためには艶のあるロングヘアーが必須条件なのである。

 私は今肩にかかるくらいの長さしかない。結婚適齢期のアリシアさんは腰の辺りまで長く伸ばしているので、世間一般的には『美しい』長さだ。

 伸ばしたところで、変わらないというのは本心だ。しかし、私には人には言えない髪を伸ばせないがあるのだ。

♢♢♢

 そして入団式が始まった。魔法省に入団できるのは一握りの選ばれし人間だけ。身分は関係なく、ただ魔力が強い者だけが試験に通る。つまりはエリート中のエリートだ。今年は三名の新人が選ばれたらしく、男の子二人と女の子が一人だった。

 沢山の王族や先輩の魔法使い、そして事務員達に見守られながら入団式が始まった。入団式では挨拶代わりに自分の魔法をお披露目することになっている。

 一人の男の子は水、女の子は治癒魔法を見せてくれた。二人とも魔力量は十分で、新人とはいえなかなかの腕前だと感心した。周囲からも「なかなか優秀だな」という声が聞こえてくる。

 治癒魔法使いはとても珍しいので、入団してくれて助かると皆が喜んでいた。しかも可愛らしい見た目の女の子なので、男性陣が浮き足立っているようだった。

 そして……最後は噂の逸材君の番。綺麗な銀髪に美しいブルーの大きな瞳。なるほど、これは可愛らしい。とても目を惹く容姿だと納得をした。

「俺はレオン・セルヴァンと申します!十五歳です。五大属性全ての魔法が使えます!!」

 そう言った瞬間に会場がザワザワと煩くなった。十五歳ということは、学校卒業後ストレートで試験に受かったということ。そして様々な属性が使えるなんて稀有な存在だ。

 彼はニッと笑い、手から大きな炎を作った後に水をかけてそれを消した。そしてその水を風で細かい霧に変えたのである。火・水・風の三つの属性の魔法を何なく使いこなして見せたので、会場の皆はごくりと息を呑んだ。

 恐らく、この子は残りの二つ……空と地の魔法も使えるのだろう。そのあまりの才能に身体が震えた。若い御令嬢達がキャーキャーと嬉しそうに騒いでいる声が聞こえる。

 どんなに優秀と言われている魔法使いでも、普通は一つだけ。むしろ一つ使えるだけでも凄いことなのだ。これだけで、レオンというこの男の子がどれだけ規格外かがわかる。

「なんだあいつは。化け物か」
「噂以上だな」
「……凄すぎる。天才か」

 みんなが驚いているのがわかる。そりゃそうだ。こんな魔法は見たことがない。

「皆さん、どうぞよろしくお願いします!」

 彼は壇上で、ニカッと豪快に笑った。なんだか幼さの残る無邪気な感じと魔法の凄さがアンバランスだなと思った。

 パチパチと拍手が鳴る中、えへへと恥ずかしそうに壇上を下りようとしていたその時だった。

「あーーーーーっ!!」

 彼がいきなり大声を上げた。その叫び声に会場が静まり返った。

「いたっ!俺はずっとあなたを探していたんですよ」

 いきなりうるうると涙目になって、そんなことを言い出した。魔法省のどこかに生き別れた家族でもいたのだろうか?

「やっぱり魔法省に所属していらっしゃったんですね!なんで今までわからなかったんだろう?でも、ここに来て本当によかった」

 そう言った瞬間に彼は壇上からシュッと跡形もなく消えた。これはきっとテレポーテーションだ。この魔法が使えるのも、魔力量が多い証拠だ。


「ずっと……ずっとお逢いしたかったです!」


 なぜか私の目の前に、レオンという男の子がいきなり現れた。皆の視線が一斉に私の方を向いた。

「は?」

 ――移動先間違えてない?失敗したの?

 私は全く関係ないので、後退って何事もないように知らん顔をした。

「な、なんで俺からそんなに逃げるんですか!?やっと出逢えたのに」

 なぜか追いかけてくる。何この子?怖い怖い怖い。なんで私の後をついてくるの!?

「俺はあなたを愛しています!」

 銀髪の男の子が、私を真っ直ぐ見つめながら意味のわからないことを言っている。

「絶対に絶対に幸せにするので、俺と結婚してください!よろしくお願いします!!」

 彼は頬を真っ赤に染めながら私の目の前に跪き、震える手をぐっと差し出した。



「えええっ……!!?」



 一瞬シンと静まり返り……その後は会場中からは大きな驚きの声と、御令嬢方の「嘘だ」「あり得ない」「なんであんな地味な事務員が?」という悲鳴が聞こえてきたが悲鳴をあげたいのは私の方だ。


 あまりのことにフリーズしてしまっていたが、周囲のざわつきで我に返った私はみんなからの視線に耐えきれず、会場から全速力で逃げ出した。


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