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5 贈り物
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私達はその後も楽しく話しながら頼んだ料理をペロリと平らげて、追加でデザートも注文をした。
「仕事は慣れたのですか?」
「だいぶ慣れました。現場にももう何回も行っていますし、この前は強い魔物倒して隊長に褒められたんですよ!」
レオンさんは得意気にえっへん、と自慢している。彼の腕があれば、確かに即戦力だろう。
「でも……俺はレベッカさんに……褒めて欲しいな」
チラリと上目遣いをしながら、期待を込めた瞳で私をじっと見つめてきた。
「えらいです。よく頑張りましたね」
私はまるでワンコを可愛がるように、頭をわしゃわしゃと強めに撫でてあげた。こんな扱いをしたら、さすがに怒るだろうか?
「ありがとう……ございます」
彼は真っ赤に顔を染めて俯いていた。その意外な反応に、私まで恥ずかしくなってきた。
「ま、また頑張るんで、これからも褒めてくれますか?」
「……こんなのでよろしければ。でもあなたはまだ新人で慣れないことも多いでしょうから、決して無理はなさらないようにしてくださいね」
「はいっ!」
彼の元気な返事を聞きながら食べたデザートは、なんだかとても甘く感じた。
「あーお腹いっぱいですね。そろそろ出ましょうか」
「はい」
レオンさんは立ち上がって「ご馳走様!今日もすっごく美味しかった」と店長さんに声をかけている。
「おお、また二人でおいで。レオン、頑張れよ!」
人の良さそうな店長さんはニカッと嬉しそうに笑った。
「はーい!次は俺の彼女として連れて来るからよろしく」
レオンさんがそんな勝手なことを言うので、私は脇腹に肘鉄をくらわせた。
「うぐっ……!」
「美味しかったです。ご馳走様でした」
私は店長さんにペコリと頭を下げた。そしてレオンさんは「またね!」とヒラヒラと手を振って、そのままお店を出てしまった。あれ?お会計してなくない。
「あ、あの代金は?」
「払っちゃいました。約束破ってすみません。でも馴染みの店なんで、俺に格好つけさせてください」
彼が支払ったことに気付かなかった。そのスマートさに立派な『男性』なのだと意識してしまう。
「……レオンさん、ご馳走様でした。美味しかったです」
ここまでされて払うと言う程野暮なことはできない。彼の気持ちを汲み取り、ペコリと頭を下げてお礼を伝えた。
「こちらこそランチ付き合っていただいてありがとうございました!また行きましょうね」
レオンさんはニカッと嬉しそうに微笑んだ。その笑顔が眩しくて困ってしまう。
「あー……まだ帰りたくないな」
彼はチラチラと横目で私を見ながら、あからさまに一緒にいたいとアピールをしてきた。こんな所はまだまだ子どもっぽい気がする。
「文具店で買いたいものがあります。寄ってもよろしいですか?」
「も、もちろんです。やったー!」
両手を上げて喜んでいるレオンさんを見て、なんて大袈裟なんだとくすりと笑ってしまった。
事務員をしていると、文房具は大事だ。書きやすいペンを持つと仕事が捗る。そして逆に書きにくいと仕事が滞るのだ。たかがペン、されどペンだ。
私が真剣にペンを選んでいると、レオンさんは首を傾げた。
「これそんなに違いがあるんですか?」
「違いますよ!全然、全く違います!!例えばこれなら……」
私は種類の違いと、その重要性や書きやすさの差についてペラペラと話した。きょとん、としているレオンさんに気がついてやってしまったと後悔した。
「す、すみません。あなたは興味がないのに、熱く語ってしまいました」
私は頬を染めながら、謝ると彼はぶんぶんと左右に首を振った。
「なんで謝るんですか!レベッカさんの好きな物知れるの嬉しいです。文房具好きなんですね」
ニコニコと笑いながら「そんなにおすすめなら俺もどれか買っちゃおうかな」と鼻歌を歌いながらペンを探し出した。
――ドキドキと胸が煩い。
些細なことだけど自分の好きな物を、認めてもらえるのは嬉しいものだ。
「……よろしければ一つプレゼントさせてください。し、食事のお礼に」
私は勇気を出してそう言ってみた。普段なら『私なんかに貰っても嬉しくないよね』と思ってこんなことを言わないけれど……きっと彼なら喜んでくれるはずだ。
「いいんですか!?すごく嬉しいです!」
彼は文具店の中で大声を出したので、私は恥ずかしくて俯いた。周囲からくすくす、と笑い声が聞こえるが「ラッキー」とか「幸せ」なんて呟いている彼を見たら私も自然と笑顔になれた。
「はい、どうぞ」
私は店を出て、おすすめのペンを渡した。少しだけ高級なそれは大事に使えば何十年も使えるものだ。どうせなら良い物を使って欲しい。綺麗にラッピングしてもらい、ちゃんとプレゼント用にしてもらった。
「ありがとうございます。一生の宝にします」
彼は大事そうに、箱をぎゅっと自分の胸に抱き締めた。
「ふふ、相変わらず大袈裟ですね。また使ってみてください」
「毎日使います!」
「書きやすければいいんですけれど」
喜んでもらえてよかった。ランチをご馳走になったことも気がかりだったので、プレゼントができて一安心だわ。
「じゃあ、そろそろ帰りましょうか」
「えっ……?」
私がそう言うと彼はあからさまにしゅん、としょげていた。ん?なんだろう。
「あー……その……あの!俺に行きたい店があって。よければ付き合ってもらえないかなって」
「そうなんですね、もちろんです」
なんだ、まだ行きたいところがあったのね。言ってくれたらよかったのに。
「どこへ行きますか?」
「んーと……あの……そうだ。ここです!」
レオンさんが指を差したのは、まさかのアクセサリーショップだった。
「ここですか?」
「はい!」
店の中にはメンズの物もあるけれど、普通は女性への贈り物をする時しか入らないだろう。誰かにプレゼントをするのだろうか。
――なんだか胸がもやもやする。
私のこの微妙な気持ちはなんなのだろうか?別に彼が誰に何をあげてもいいはずなのに。
「お世話になってる人にプレゼントしたくて。俺よくわからないんで、一緒に選んでくれませんか?」
そう頼まれてので「私で良ければ」と頷いた。せっかく頼ってもらえたのだから、選ぶお手伝いをきちんとしないと。
「髪留めがいいな、と思ってるんです。シンプルな感じが好きみたいなんですけど」
それならば私にも選べそうだ。もし贈るのがすごくキュートで可愛い系が好きな女性だったら、どれがいいか全くわからないところだった。
「これなんて使いやすそう。シンプルだけど綺麗だし服を選ばないわ。あとこれも大人っぽくって素敵ね」
「へー……そっか。ちなみにレベッカさんならどっちにします?」
私は二つを見つめてジーッと悩んだ。シンプルな方はマットなシルバーで美しい模様が彫刻してある。もう一つは暗めの紫の石が散りばめられていて、大人っぽい、
「私なら……シルバーかしら」
シルバーはレオンさんの髪の色でもある。誰にあげるのか知らないが、大事な人に自分にまつわるものをあげるのは素敵なことだろう。だから私ならこっちを選びたい。
まあ……私は異性からそんなもの貰ったことはないので、よくわからないけれど。
「ありがとうございます。じゃあ、シルバーにします!買ってきますから待ってて下さいね」
彼はひょいとそれを手に取って、買いに行っていた。レオンさんは素直に私が選んだ方にしてくれた。それが嬉しいような、哀しいような複雑な気分だった。
店を出ると、もう空が暗くなってきていた。随分と長い時間彼といたものだ。
「あの、もうそろそろ帰りましょう」
せっかくの休みなのに、私ばかりに時間を使わせるわけにはいかない。しっかり休んでまた仕事に備えてもらわないと。
「そうですよね。帰りたい……ですよね。俺はずっとレベッカさんと一緒にいたいですけど」
レオンさんは私の手をキュッと握った。いつものニコニコは消えじっと私を見つめるレオンさんは、とても真剣で驚いた。
私が何も言えないでいると、彼はパッと手を離してニカッと笑った。
「なーんて、困りますよね!すみません」
ハハハと明るく笑いながら、彼は私の少し前を歩いた。そしてくるり、とこちらに向き直った。
「今日はありがとうございました。すごく楽しかったです」
レオンさんはペコリと頭を下げた。そしてさっき買った髪留めを私に渡した。
「え……?これって」
「俺の初任給の記念に。レベッカさんになんか残る物をあげたかったんです。貰ってください」
まさか私に渡すためにあの店に行ってくれたなんて、思ってもみなかった。
「ありがとう……ございます」
「こちらこそ貰ってくださってありがとうございます!レベッカさんの艶のある綺麗な黒髪大好きです。俺のせいで……短いから……あなたに嫌な思いさせてしまってるし、こんなこと言うのは間違ってるかもですけど今のレベッカさんの髪型もすごく好きです」
「……」
「つまり、短かろうが長かろうがどんなレベッカさんも全部好きなんですけどね。全部可愛いし」
レオンさんは、はにかみながらそんな恥ずかしい台詞をさらりと言った。
『お前の取り柄は綺麗な髪だけだったのに、なんで切ったんだよ?ふざけんなよ』
私は幼いレオンさんを助けてすぐ、昔の婚約者に言われた暴言を思い出した。彼のことは全然好きではなかったが、残念なことに若い頃に言われたことはトラウマのように鮮明に覚えているようだ。
彼のご両親が良い人だったので結ばれた縁談だったが、歳をとってから出来た子どもだったせいか甘やかされて育った彼は我儘で傲慢だった。
最後は『運命の人が見つかった』と勝手な事を言って私に婚約破棄をしてきた。まあ……その運命の相手と結婚した彼は現在は別の愛人を囲むような生活をしている最低野郎なのだが。なにが運命だと呆れてしまう。
「ええっ!?ど……どうしたんですか?すみません、俺なんかにそんなこと言われたくないですよね」
レオンさんの焦ったような声と困った顔を見て、初めて自分が泣いているのだと気がついた。髪が短いことへの彼なりのフォローなのかもしれないが……どんな見た目の私でも受け入れてくれると言ってくれたことが素直に嬉しかった。
彼はオロオロしながら、私の涙をそっと指で拭ってくれた。
「取り乱してごめんなさい。すごく……すごく嬉しくて。髪留め大切にしますね」
私がそう伝えると、彼は「ああっ!」と叫び頭を掻きむしった。びっくり……した。その大きな声に驚いて、私はいつの間にか涙が引っ込んでいた。
「もうレベッカさん、可愛すぎます。抱き締めたい!ちゅーしたい!!」
「だ、だめです!」
ちゅーって、いきなり何を言ってるんだ。この人は!私は真っ赤になりながら、ぶんぶんと左右に思い切り首を振り拒否をした。
「………………ですよね」
彼はがっくりと項垂れて「帰りましょう」と力なく呟いた。
「仕事は慣れたのですか?」
「だいぶ慣れました。現場にももう何回も行っていますし、この前は強い魔物倒して隊長に褒められたんですよ!」
レオンさんは得意気にえっへん、と自慢している。彼の腕があれば、確かに即戦力だろう。
「でも……俺はレベッカさんに……褒めて欲しいな」
チラリと上目遣いをしながら、期待を込めた瞳で私をじっと見つめてきた。
「えらいです。よく頑張りましたね」
私はまるでワンコを可愛がるように、頭をわしゃわしゃと強めに撫でてあげた。こんな扱いをしたら、さすがに怒るだろうか?
「ありがとう……ございます」
彼は真っ赤に顔を染めて俯いていた。その意外な反応に、私まで恥ずかしくなってきた。
「ま、また頑張るんで、これからも褒めてくれますか?」
「……こんなのでよろしければ。でもあなたはまだ新人で慣れないことも多いでしょうから、決して無理はなさらないようにしてくださいね」
「はいっ!」
彼の元気な返事を聞きながら食べたデザートは、なんだかとても甘く感じた。
「あーお腹いっぱいですね。そろそろ出ましょうか」
「はい」
レオンさんは立ち上がって「ご馳走様!今日もすっごく美味しかった」と店長さんに声をかけている。
「おお、また二人でおいで。レオン、頑張れよ!」
人の良さそうな店長さんはニカッと嬉しそうに笑った。
「はーい!次は俺の彼女として連れて来るからよろしく」
レオンさんがそんな勝手なことを言うので、私は脇腹に肘鉄をくらわせた。
「うぐっ……!」
「美味しかったです。ご馳走様でした」
私は店長さんにペコリと頭を下げた。そしてレオンさんは「またね!」とヒラヒラと手を振って、そのままお店を出てしまった。あれ?お会計してなくない。
「あ、あの代金は?」
「払っちゃいました。約束破ってすみません。でも馴染みの店なんで、俺に格好つけさせてください」
彼が支払ったことに気付かなかった。そのスマートさに立派な『男性』なのだと意識してしまう。
「……レオンさん、ご馳走様でした。美味しかったです」
ここまでされて払うと言う程野暮なことはできない。彼の気持ちを汲み取り、ペコリと頭を下げてお礼を伝えた。
「こちらこそランチ付き合っていただいてありがとうございました!また行きましょうね」
レオンさんはニカッと嬉しそうに微笑んだ。その笑顔が眩しくて困ってしまう。
「あー……まだ帰りたくないな」
彼はチラチラと横目で私を見ながら、あからさまに一緒にいたいとアピールをしてきた。こんな所はまだまだ子どもっぽい気がする。
「文具店で買いたいものがあります。寄ってもよろしいですか?」
「も、もちろんです。やったー!」
両手を上げて喜んでいるレオンさんを見て、なんて大袈裟なんだとくすりと笑ってしまった。
事務員をしていると、文房具は大事だ。書きやすいペンを持つと仕事が捗る。そして逆に書きにくいと仕事が滞るのだ。たかがペン、されどペンだ。
私が真剣にペンを選んでいると、レオンさんは首を傾げた。
「これそんなに違いがあるんですか?」
「違いますよ!全然、全く違います!!例えばこれなら……」
私は種類の違いと、その重要性や書きやすさの差についてペラペラと話した。きょとん、としているレオンさんに気がついてやってしまったと後悔した。
「す、すみません。あなたは興味がないのに、熱く語ってしまいました」
私は頬を染めながら、謝ると彼はぶんぶんと左右に首を振った。
「なんで謝るんですか!レベッカさんの好きな物知れるの嬉しいです。文房具好きなんですね」
ニコニコと笑いながら「そんなにおすすめなら俺もどれか買っちゃおうかな」と鼻歌を歌いながらペンを探し出した。
――ドキドキと胸が煩い。
些細なことだけど自分の好きな物を、認めてもらえるのは嬉しいものだ。
「……よろしければ一つプレゼントさせてください。し、食事のお礼に」
私は勇気を出してそう言ってみた。普段なら『私なんかに貰っても嬉しくないよね』と思ってこんなことを言わないけれど……きっと彼なら喜んでくれるはずだ。
「いいんですか!?すごく嬉しいです!」
彼は文具店の中で大声を出したので、私は恥ずかしくて俯いた。周囲からくすくす、と笑い声が聞こえるが「ラッキー」とか「幸せ」なんて呟いている彼を見たら私も自然と笑顔になれた。
「はい、どうぞ」
私は店を出て、おすすめのペンを渡した。少しだけ高級なそれは大事に使えば何十年も使えるものだ。どうせなら良い物を使って欲しい。綺麗にラッピングしてもらい、ちゃんとプレゼント用にしてもらった。
「ありがとうございます。一生の宝にします」
彼は大事そうに、箱をぎゅっと自分の胸に抱き締めた。
「ふふ、相変わらず大袈裟ですね。また使ってみてください」
「毎日使います!」
「書きやすければいいんですけれど」
喜んでもらえてよかった。ランチをご馳走になったことも気がかりだったので、プレゼントができて一安心だわ。
「じゃあ、そろそろ帰りましょうか」
「えっ……?」
私がそう言うと彼はあからさまにしゅん、としょげていた。ん?なんだろう。
「あー……その……あの!俺に行きたい店があって。よければ付き合ってもらえないかなって」
「そうなんですね、もちろんです」
なんだ、まだ行きたいところがあったのね。言ってくれたらよかったのに。
「どこへ行きますか?」
「んーと……あの……そうだ。ここです!」
レオンさんが指を差したのは、まさかのアクセサリーショップだった。
「ここですか?」
「はい!」
店の中にはメンズの物もあるけれど、普通は女性への贈り物をする時しか入らないだろう。誰かにプレゼントをするのだろうか。
――なんだか胸がもやもやする。
私のこの微妙な気持ちはなんなのだろうか?別に彼が誰に何をあげてもいいはずなのに。
「お世話になってる人にプレゼントしたくて。俺よくわからないんで、一緒に選んでくれませんか?」
そう頼まれてので「私で良ければ」と頷いた。せっかく頼ってもらえたのだから、選ぶお手伝いをきちんとしないと。
「髪留めがいいな、と思ってるんです。シンプルな感じが好きみたいなんですけど」
それならば私にも選べそうだ。もし贈るのがすごくキュートで可愛い系が好きな女性だったら、どれがいいか全くわからないところだった。
「これなんて使いやすそう。シンプルだけど綺麗だし服を選ばないわ。あとこれも大人っぽくって素敵ね」
「へー……そっか。ちなみにレベッカさんならどっちにします?」
私は二つを見つめてジーッと悩んだ。シンプルな方はマットなシルバーで美しい模様が彫刻してある。もう一つは暗めの紫の石が散りばめられていて、大人っぽい、
「私なら……シルバーかしら」
シルバーはレオンさんの髪の色でもある。誰にあげるのか知らないが、大事な人に自分にまつわるものをあげるのは素敵なことだろう。だから私ならこっちを選びたい。
まあ……私は異性からそんなもの貰ったことはないので、よくわからないけれど。
「ありがとうございます。じゃあ、シルバーにします!買ってきますから待ってて下さいね」
彼はひょいとそれを手に取って、買いに行っていた。レオンさんは素直に私が選んだ方にしてくれた。それが嬉しいような、哀しいような複雑な気分だった。
店を出ると、もう空が暗くなってきていた。随分と長い時間彼といたものだ。
「あの、もうそろそろ帰りましょう」
せっかくの休みなのに、私ばかりに時間を使わせるわけにはいかない。しっかり休んでまた仕事に備えてもらわないと。
「そうですよね。帰りたい……ですよね。俺はずっとレベッカさんと一緒にいたいですけど」
レオンさんは私の手をキュッと握った。いつものニコニコは消えじっと私を見つめるレオンさんは、とても真剣で驚いた。
私が何も言えないでいると、彼はパッと手を離してニカッと笑った。
「なーんて、困りますよね!すみません」
ハハハと明るく笑いながら、彼は私の少し前を歩いた。そしてくるり、とこちらに向き直った。
「今日はありがとうございました。すごく楽しかったです」
レオンさんはペコリと頭を下げた。そしてさっき買った髪留めを私に渡した。
「え……?これって」
「俺の初任給の記念に。レベッカさんになんか残る物をあげたかったんです。貰ってください」
まさか私に渡すためにあの店に行ってくれたなんて、思ってもみなかった。
「ありがとう……ございます」
「こちらこそ貰ってくださってありがとうございます!レベッカさんの艶のある綺麗な黒髪大好きです。俺のせいで……短いから……あなたに嫌な思いさせてしまってるし、こんなこと言うのは間違ってるかもですけど今のレベッカさんの髪型もすごく好きです」
「……」
「つまり、短かろうが長かろうがどんなレベッカさんも全部好きなんですけどね。全部可愛いし」
レオンさんは、はにかみながらそんな恥ずかしい台詞をさらりと言った。
『お前の取り柄は綺麗な髪だけだったのに、なんで切ったんだよ?ふざけんなよ』
私は幼いレオンさんを助けてすぐ、昔の婚約者に言われた暴言を思い出した。彼のことは全然好きではなかったが、残念なことに若い頃に言われたことはトラウマのように鮮明に覚えているようだ。
彼のご両親が良い人だったので結ばれた縁談だったが、歳をとってから出来た子どもだったせいか甘やかされて育った彼は我儘で傲慢だった。
最後は『運命の人が見つかった』と勝手な事を言って私に婚約破棄をしてきた。まあ……その運命の相手と結婚した彼は現在は別の愛人を囲むような生活をしている最低野郎なのだが。なにが運命だと呆れてしまう。
「ええっ!?ど……どうしたんですか?すみません、俺なんかにそんなこと言われたくないですよね」
レオンさんの焦ったような声と困った顔を見て、初めて自分が泣いているのだと気がついた。髪が短いことへの彼なりのフォローなのかもしれないが……どんな見た目の私でも受け入れてくれると言ってくれたことが素直に嬉しかった。
彼はオロオロしながら、私の涙をそっと指で拭ってくれた。
「取り乱してごめんなさい。すごく……すごく嬉しくて。髪留め大切にしますね」
私がそう伝えると、彼は「ああっ!」と叫び頭を掻きむしった。びっくり……した。その大きな声に驚いて、私はいつの間にか涙が引っ込んでいた。
「もうレベッカさん、可愛すぎます。抱き締めたい!ちゅーしたい!!」
「だ、だめです!」
ちゅーって、いきなり何を言ってるんだ。この人は!私は真っ赤になりながら、ぶんぶんと左右に思い切り首を振り拒否をした。
「………………ですよね」
彼はがっくりと項垂れて「帰りましょう」と力なく呟いた。
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