【完結】髪は女の命と言いますが、それよりも大事なものがある〜年下天才魔法使いの愛には応えられません〜

大森 樹

文字の大きさ
8 / 32

7 秘密の治療

しおりを挟む
 翌日にはレオンさんはいつも通りに明るい彼に戻っていた。たぶん無理をしているだろうけれど。

 魔法騎士団の団長から今回の報告が書類で上がって来た。私はそれに目を通してファイルに仕舞った。

 魔物討伐中、立ち入り禁止の森の中に子どもが迷い込んでいたらしい。しかも皆そのことに気が付いていなかった。魔物は子どもや女性を好む。弱いものから狙うのか、食べると美味しいのかは不明だがそういうものなのだ。

 魔物が襲いかかろうとした時に、レオンさんが初めて子どもの存在に気が付いた。テレポーテーションをしようとしたが、魔力が足りずに移動は叶わなかった。そのため残りの魔力で出せる攻撃魔法に切り替えたが、魔物の牙は女の子の手を掠め……そのすぐ後に他の部隊にいた団長が異変に気が付き助けに来てくれたらしい。

 レオンさんは自分の魔力量が多いことを知っているので、討伐の最初から全力で惜しみなく力を使っていたそうだ。様々な属性の力を持つ彼の魔力消費は半端な量ではない。しかし、元々の魔力量も多い彼は今まで魔力切れを起こしたことなどなかったのだ。

 しかし今回の魔物は強かった。しかも子どもがいたというイレギュラーも重なって最後の最後で魔力が気を失った。

 だから『自分の力を過信していた』と後悔していたのだ。団長からレオンさんは説教を受けたようだ。

『何故余力を残さなかった?お前にはそれができたはずだ。自分は強いと勘違いしたのか?その勘違いで、お前自身が死ぬなら何も言わない。でも結局死ぬのは弱い者。その弱い者達を全力で守る気がないなら、魔法省を今すぐやめろ』

 厳しい言葉だが仕方がない。彼は国王陛下直属の臣下である魔法省に所属し、全国民を守る義務と責任がある。その危険がある分、魔法省の魔法使いはこの国の中でずば抜けて給与が高い。レオンさんは素直に自分の非を認め、一から鍛え直してもらうように団長にお願いをした。

『わかったならもう何も言うことはない。レオンより経験のある隊員達が気が付いていない中で、いち早く子どもを守り命を救ったことはよくやった。怪我させたことを後悔しているのなら……その分強くなれ』

『……はい!』

 レオンさんは団長が直々に育てるということになったらしい。彼の魔力量は凄いが、まだ若いので上手な力の使い方を知らないのだ。

 もちろんレオンさんだけが叱責されたわけではなく、その場にいた隊員達も魔物に気を取られて保護対象の子どもに気が付かなかったことを反省させられたようだ。

 団長は厳しいが、経験も魔力も人格的にも申し分がない。きっとレオンさんや他の隊員達を良い方向に導いてくれるだろう。

「レベッカさーん!」

 遠くからぶんぶんと笑顔で手を振る彼に、私も小さく手を振り返した。するといつもスルーされるのに、振り返されたのが意外だったのか嬉しそうにニコリと微笑んでいた。

 ――さてと、私は私ですることがある。

「事務長、急で申し訳ないですが明日お休みをいただけませんか?」

「もちろんいいですよ。仕事引き継ぐことありますか?」

「大丈夫です。全て終わらせてから帰りますから」

「……さすがですね。ゆっくり休んでください」

「ありがとうございます」

 私はペコリと頭を下げ、アリシアさんにも明日休む旨を伝えた。彼女は「どうぞどうぞ。やっと休む気になられたんですね」と快諾してくれた。

 魔法省の事務はとてもよい職場だ。事務長もアリシアさんも良い人で基本的に真面目だ。仕事が終わっていれば、休みもフレキシブルに対応してくれてお給料も良い。細かい仕事や雑用も多いが、私はそういうことは得意なのでとても向いている。

 集中して仕事を終わらせた後、私はこの前の魔物討伐がどこであったのかを調べた。二つ先の街にある森か。よかった……これならばまだ近い。

 事務報告を読むと、一般の負傷者欄にアリアという八歳の女の子の名前が書いてあった。腕の軽傷と書かれていたので、レオンさんの言う通り命に別状はなさそうだ。

 私は寮に戻り、明日に備えて早めにゆっくり休むことにした。


♢♢♢


 辻馬車を拾い、目的地を告げる。普段働いている時に出掛けるのは不思議な感じだが、たまにはこういうのもいい。

 中で本を読んで過ごしていると、あっという間に二つ先の街に着いた。御者に運賃を渡し、お礼を言った。

 街のお花屋さんで小さな花束を買い、アリアという女の子の家を探した。

「すみませんが、アリアさんという八歳の女の子のお家をご存知ありませんか?」

 街で聞き込みをすると、すぐに家を教えてもらえた。小さな街なのでみんな知り合いのようだ。

 私は大きく深呼吸をして、意を決して扉を叩いた。ガチャリと扉が開くと、人の良さそうな女性が顔を出した。アリアさんのお母様だろうか。

「あの……どなたでしょうか?」

「いきなりお伺いして申し訳ありません。私は王宮の魔法省に勤めているレベッカと申します。ここはアリアさんのお宅でお間違いないですか?」

 私はできるだけ丁寧に頭を下げた。すると彼女は「まあ、魔法省の!?私はアリアの母です。先日は娘がお世話になりすみませんでした」とペコペコと謝っている。

「アリアさんにこれを。お見舞いですわ」

「まぁ、ご丁寧に。ありがとうございます」
 
 何もおもてなしできませんけれど、どうぞと家の中に招き入れてくれた。

「アリア!アリア!!」

 お母様が彼女を呼ぶと、腕に包帯をぐるぐるに巻かれたアリアさんがひょこっと顔を出した。

「あなたを心配して来てくださったの。ほら、お花貰ったのよ」

「……お姉ちゃん、ありがと」

 アリアさんは花束をギュッと抱き締めて、とぼとぼと奥の部屋に帰って行った。

「すみません。勝手に森に行ったことを主人と二人でだいぶ怒ったものですから、元気がなくて。あと……腕に傷が残るとお医者様に言われてショックを受けたみたいで」

「……そうですか」

 女の子に傷が残るのは大問題だ。貴族ならお嫁にいけない可能性もある程だ。男なら傷も勲章と言われるのに、女なら少しの傷も許されない。そんなことはおかしいし間違っていると思うが、まだまだその偏見はこの国に残っている。

 平民であるアリアさんも、貴族程ではないかもしれないが見えるところにある傷はマイナスになる可能性が多い。本来ならそんな傷など気にしない男性と巡り逢って欲しいものだけれど。

「でも、命が助かっただけでありがたいです」

 そう言いながら、アリアさんのお母様はポロリと涙を流した。

「秘密を守っていただけるのであれば……お嬢さんの怪我を治せます」

 私がそう言うと、彼女はバッと顔を上げた。

「ほ……本当ですか!?」

「ええ。しかし条件があります。治療しているところは誰にも見せません。アリアさんにも目隠しをしていただきます。それと誰に何を聞かれても、絶対に私が治したと言わないと誓えますか?」

「アリアがそれで治るのであれば……誓います」

 きっとそう言ってくださると思っていた。彼女が治るのであれば、そしてレオンさんの心の傷が軽くなるのであれば……私の力を使う意味がある。

「あの……お恥ずかしい限りですが、お金はあまりないんです。でもどれだけかかってもお支払いしますから」

 何か勘違いされているらしい。私はお金が欲しくて治療するわけではない。

「お金はいりません。アリアさんを守ったレオンという若い魔法使いが、怪我をさせたことを気に病んでいました。だから……もしまた彼と会ったら笑顔で接してやってください」

「そんなことでいいのですか?レオン様はアリアの命の恩人です。感謝しかありません」

「いつか……それを彼に直接伝えてやってくれませんか?」

 お母様は「はい。必ず」とはらはらと涙を流した。私はアリアさんを呼んで、治療をすることを話した。彼女は何故秘密にしないといけないの?と首を傾げていたが『魔法を見たら治らないの』とだけ伝えた。

「傷が治るなら……ちゃんと秘密にする」

 彼女はこくんと縦に頷いた。アリアさんはとても賢い良い子だ。

「アリアさん、わかってくれてありがとう」

 私は彼女の目をタオルで縛った。アリアさんは不安なようで「怖いよ」と私の服を掴んだ。

「大丈夫よ。すぐ終わるからね」

 同じく不安そうなアリアさんのお母様にも出て行ってもらい、治療を開始する。彼女の怪我であれば、少量で済むだろう。

 私は鞄からハサミを取り出して、ジャキッと髪の先を切り落とした。パラパラと髪の毛が落ちた瞬間に、その髪は消えアリアさんの身体は光に包まれた。

治療キュア

 これでアリアさんの傷は治ったはずだ。きっと傷跡ひとつ残っていないだろう。

 ――切った髪は二度と伸びない。

 それでも、アリアさんを治すことはレオンさんのために意味があることだと思っている。だから後悔はしていない。


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

もふもふグリフォンの旦那様に溺愛されています

さら
恋愛
無能だと罵られ、聖女候補から追放されたリリア。 行き場を失い森を彷徨っていた彼女を救ったのは――翼を広げる巨大なグリフォンだった。 人の姿をとれば美丈夫、そして彼は自らを「旦那様」と名乗り、リリアを過保護に溺愛する。 森での穏やかな日々、母の故郷との再会、妹や元婚約者との因縁、そして国を覆う“影の徒”との決戦。 「伴侶よ、風と共に生きろ。おまえを二度と失わせはしない」 追放から始まった少女の物語は、 もふもふ旦那様の翼に包まれて――愛と祈りが国を救う、大団円へ。

「幼馴染は、安心できる人で――独占する人でした」

だって、これも愛なの。
恋愛
幼い頃の無邪気な一言。 「お兄様みたいな人が好き」――その言葉を信じ続け、彼はずっと優しく隣にいてくれた。 エリナにとってレオンは、安心できる幼馴染。 いつも柔らかく笑い、困ったときには「無理しなくていい」と支えてくれる存在だった。 けれど、他の誰かの影が差し込んだ瞬間、彼の奥に潜む本音が溢れ出す。 「俺は譲らないよ。誰にも渡さない」 優しいだけじゃない。 安心と独占欲――その落差に揺さぶられて、エリナの胸は恋に気づいていく。 安心できる人が、唯一の人になるまで。 甘く切ない幼馴染ラブストーリー。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

殿下、毒殺はお断りいたします

石里 唯
恋愛
公爵令嬢エリザベスは、王太子エドワードから幼いころから熱烈に求婚され続けているが、頑なに断り続けている。 彼女には、前世、心から愛した相手と結ばれ、毒殺された記憶があり、今生の目標は、ただ穏やかな結婚と人生を全うすることなのだ。 容姿端麗、文武両道、加えて王太子という立場で国中の令嬢たちの憧れであるエドワードと結婚するなどとんでもない選択なのだ。 彼女の拒絶を全く意に介しない王太子、彼女を溺愛し生涯手元に置くと公言する兄を振り切って彼女は人生の目標を達成できるのだろうか。 「小説家になろう」サイトで完結済みです。大まかな流れに変更はありません。 「小説家になろう」サイトで番外編を投稿しています。

【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです! 12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。  両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪  ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/07/06……完結 2024/06/29……本編完結 2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位 2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位 2024/04/01……連載開始

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

秋月一花
恋愛
 旅芸人のひとりとして踊り子をしながら各地を巡っていたアナベルは、十五年前に一度だけ会ったことのあるレアルテキ王国の国王、エルヴィスに偶然出会う。 「君の力を借りたい」  あまりにも真剣なその表情に、アナベルは詳しい話を聞くことにした。  そして、その内容を聞いて彼女はエルヴィスに協力することを約束する。  こうして踊り子のアナベルは、エルヴィスの寵姫として王宮へ入ることになった。  目的はたったひとつ。  ――王妃イレインから、すべてを奪うこと。

とんでもない侯爵に嫁がされた女流作家の伯爵令嬢

ヴァンドール
恋愛
面食いで愛人のいる侯爵に伯爵令嬢であり女流作家のアンリが身を守るため変装して嫁いだが、その後、王弟殿下と知り合って・・

処理中です...