【完結】髪は女の命と言いますが、それよりも大事なものがある〜年下天才魔法使いの愛には応えられません〜

大森 樹

文字の大きさ
12 / 32

11 名誉の負傷

しおりを挟む
「レベッカ嬢、急に呼び出してすまないな。そこのソファーにかけてくれ」

「失礼致します。とんでもありません。しかし、私にどんな御用件でしょうか」

 私は今、魔法騎士団長に呼ばれて彼の執務室にいる。ただの事務員の私に、一体何の用があるというのであろうか。

「私は回りくどいのは苦手だから、単刀直入に言う。レオンをどうにかしてくれ」

 団長はふぅ、と大きなため息をついて真剣な眼差しで私を見つめた。

「どうにか……と、言いますと」

 私はなるべく動揺を見せないように、冷静にそう尋ねた。

「私は部下の恋愛に首を突っ込む趣味はない。だが、あいつの才能はずば抜けている。まだ未熟だが、これからこの国を担う魔法使いになるだろう。なのに……この一ヶ月まるで役に立たない。困るんだ」

 そういえば、私が別れを告げた日からレオンさんの活躍の話は聞こえてこなくなった。おかしいな、とは思っていたがあまり彼のことは考えないようにしていた。

「あいつの原動力は全てレベッカ嬢だった。君と何かあったんだろう?」

「……」

「あいつの何が不満だ?別に好きな男でもいるのか?」

 彼に不満などあるはずもない。それに私の好きな男性は……レオンさんだ。

「業務に関係のないことはお答えする義務はないかと。失礼致します」

 私はペコリと深く頭を下げて、執務室を出ようとした。

「待ってくれ。ちなみにあいつは今、治療中だ。君を守るために隊内で大喧嘩をしたらしい」

 それを聞いて私は驚き、団長の方を見返してしまった。治療中……?喧嘩ってどういうこと?

「レオンはその才能から憧れの対象にもなるが、同時に醜い嫉妬もされる。新人なのに活躍するあいつに嫉妬したロジェが暴言を吐いたらしい」

 ロジェ……彼はあまり評判の良くない人物だ。確かレオンさんより三年くらい先輩の魔法使いだ。実力はそこそこだが感情的で、後輩や事務員達にもいつも高圧的な態度を取っている。





『レオン、お前ドラゴンを倒したって?さすが天才様は格が違うな。褒賞も貰えるそうじゃねぇか』

『……ありがとうございます』

『お前それだけ魔力も人気もあるのに、あんな地味で行き遅れの事務員が好きとかあり得ないだろ?女も選り取り見取りなのに、わざと好感度上げようとしてるわけ?いい子ちゃんして気持ち悪いぜ』

『好感度なんて考えたことありませんよ。彼女は素敵な人ですし、俺は本気ですから』

『はぁ?化粧っ気もないし、口煩いし……何よりあの短い髪!なんだよあれ。伸ばせばいいのにその努力すらしないなんて女として終わってる』

 ロジェがゲラゲラ笑ったその瞬間に、レオンさんは殴りかかったそうだ。

『俺のことは何とでも言ってもらって構いません。でも、彼女の髪のことは二度と口に出すな!それにお前なんかにあの人の良さがわかってたまるか!!彼女を傷付けるなら、俺は先輩だろうが上官だろうが絶対に容赦しない』

 それから取っ組み合いの殴り合いになり、周囲の皆が止めたらしい。





「話を聞けば、レオンは以前からかなりロジェに嫌がらせをされていたそうだ。今までも面倒な討伐を代わりに行かされたりしてたらしい。それにもっと調べたらレオンだけじゃなくて他の優秀な若い連中にも、私や他の上官達にわからないようにイジメていたことがわかった。気付かなかったのはこちらの落ち度だ。だからあいつはクビにすることに決めた。自分の実力の無さを改善しようと努力せず、有望な若者に嫉妬するなど言語道断だ。国に仕えるものとしての品性が足りぬ」

「そう……ですか」

「君に嫌な話を聞かせて悪かったな。カトリーナが傷を治すと言っていたが、止めた。レオンは被害者とはいえ、先に手を出した罰だ。それに魔力の強いあいつを治すとなると、カトリーナの魔力がすっからかんになるだろうしな。今、医務室で治療中だ」

 私は地味だとか何故髪が短いのかなんて、言われ慣れている。振られた女の悪口なんて、聞き流せばいいのに……。

「ボッコボコの面を見に行ってやってくれないか?なかなか派手にやられているが、名誉の負傷だ」

 団長はくっくっく、と笑った。

「申し訳ありませんが、もうレオンさんには関わらないと決めたんです」

「もう一つ面白い話をしてやろう。あいつは入団してから一年間ずっと上層部のお偉いさん方に呼び出されて、魔法使いの御令嬢と結婚しろと見合いを勧められている」

 お見合い?そんなこと彼は一言も言っていなかったが……確かにあり得る。この国にとって強い魔法使いは宝だ。レオンさんほどの能力なら、力を引き継ぐ子どもは何人でも欲しいのが正直なところだろう。

「だが全部断っている。あいつが話を聞かないから、この前なんて私まで付き添いをさせられた」



『レオン、君ももう婚約者がいてもおかしくない年齢だ。とりあえず会ってみるだけでもいい。この中の御令嬢達は皆家柄もしっかりしていて、魔力も高いし性格や見た目も申し分ない』

『俺は心に決めた人がいますので。その人以外と結婚などできるはずもありません』

『それはまさか……事務員のレベッカ・シャレット嬢のことか?彼女はだめだ。魔力がない。魔力がない相手との子は魔法使いの確率が下がる』

 上層部の方々はさも当たり前のようにそう言ったので、レオンさんはイライラしていたそうだ。そして極め付けは……

『好きな女は愛人にでもしたらいい』

 その一言でレオンさんはキレたらしい。ギロリと幹部の皆さんを睨みつけて、冷たく言い放ったそうだ。

『俺はレベッカさんしか好きではありません。他の女性と結婚しても抱く気にもならないので、子どもはできません。なんならこの女性達全員裸にして連れて来ていただいてもいいですよ?誰にもなんの反応もしないことお見せしますよ』


 ああ、レオンさん……なんということだ。私はそれを聞いて頭を抱えた。

「あいつブチ切れて、淡々とそう言ったんだぜ。上層部のジジイ共はポカンとしちゃって……くっくっく、まじで面白かったぜ」

 団長はお腹を抱えてゲラゲラと思い出し笑いをしている。

「あまりに面白かったんで、助け舟を出してやったんだ。俺も『それならば仕方ありませんね。皆さんもどうやって子を作るか知らぬわけないでしょう?この話はなかったことで』そう言って二人で部屋を出たってわけだ」

「団長……上に睨まれますよ」

「ふん、知ったことか。どうせ俺より強い奴などいない。しかし君にしか反応しないなど、これ以上ない愛の告白だと思わないか?」

 揶揄われるだろうと身構えていたのに、団長は真剣な顔でそう言った。

「私が彼と結婚できない理由は……あなたもご存知のはずでしょう?」

 そう、団長は私の秘密を知っている。私のお父様と彼はとても親交が深い。そして私が魔法省に入団する時に『何かあれば頼む』と私の秘密を伝えていたのだ。

「レベッカ嬢……人間など皆いつ死ぬかわからぬ。私だって明日にでも魔物に食われるかもしれないし、レオンだって今日事故で死ぬかもしれない」

「……」

「それが一緒にいられない理由にはならないだろ?限りがあるとわかっているからこそ、今を大事にしてはどうだ」

 団長の仰りたいことはよくわかる。わかるけれど……私の死を間近で見てしまったら彼は立ち直れないかもしれない。きっと自分のせいだと責めるだろう。そんなことはして欲しくない。

「君が本当にあいつを好きじゃないなら、しょうがない。だが、少なくとも私にはレオンといる時のレベッカ嬢も幸せそうに見えたがね?」

 それはそうだ。私は彼と再会してからが、人生で一番幸せだったのだから。

「どちらにしてもこのまま終わるのは、お互いのために良くない。年寄りのいらぬお節介だろうが、ちゃんと話した方がいい」

「……団長のどこが年寄りなんですか。この国で誰よりもお強いのに」

「ふっ、わざとだよ。君がそう言ってくれるのを見越して言ってんだ!俺はまだまだ現役だ」

 さっきまでの深刻な雰囲気を消すように、団長は冗談っぽく話してくださっているのだろう。

「医務室に迎えに行ってやってくれ。君のところの事務長には許可を得ているから、もう事務室には戻らなくていい。もう一度きちんと話してみて、やはり離れたいと思うなら俺はもう何も言わない」

「わかり……ました」

「頼んだよ。レオンは俺の可愛い部下なんでね。そして部署は違っても君も俺の大事な部下だ。それを忘れないでくれ」

 そんな風に言ってくださったことが有り難い。私は深く頭を下げて、団長の執務室を後にした。

 ――彼に会いたい。

 色んな心配はあるが、自然と早くなる足が私の彼への気持ちを教えてくれていた。



しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

もふもふグリフォンの旦那様に溺愛されています

さら
恋愛
無能だと罵られ、聖女候補から追放されたリリア。 行き場を失い森を彷徨っていた彼女を救ったのは――翼を広げる巨大なグリフォンだった。 人の姿をとれば美丈夫、そして彼は自らを「旦那様」と名乗り、リリアを過保護に溺愛する。 森での穏やかな日々、母の故郷との再会、妹や元婚約者との因縁、そして国を覆う“影の徒”との決戦。 「伴侶よ、風と共に生きろ。おまえを二度と失わせはしない」 追放から始まった少女の物語は、 もふもふ旦那様の翼に包まれて――愛と祈りが国を救う、大団円へ。

「幼馴染は、安心できる人で――独占する人でした」

だって、これも愛なの。
恋愛
幼い頃の無邪気な一言。 「お兄様みたいな人が好き」――その言葉を信じ続け、彼はずっと優しく隣にいてくれた。 エリナにとってレオンは、安心できる幼馴染。 いつも柔らかく笑い、困ったときには「無理しなくていい」と支えてくれる存在だった。 けれど、他の誰かの影が差し込んだ瞬間、彼の奥に潜む本音が溢れ出す。 「俺は譲らないよ。誰にも渡さない」 優しいだけじゃない。 安心と独占欲――その落差に揺さぶられて、エリナの胸は恋に気づいていく。 安心できる人が、唯一の人になるまで。 甘く切ない幼馴染ラブストーリー。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

殿下、毒殺はお断りいたします

石里 唯
恋愛
公爵令嬢エリザベスは、王太子エドワードから幼いころから熱烈に求婚され続けているが、頑なに断り続けている。 彼女には、前世、心から愛した相手と結ばれ、毒殺された記憶があり、今生の目標は、ただ穏やかな結婚と人生を全うすることなのだ。 容姿端麗、文武両道、加えて王太子という立場で国中の令嬢たちの憧れであるエドワードと結婚するなどとんでもない選択なのだ。 彼女の拒絶を全く意に介しない王太子、彼女を溺愛し生涯手元に置くと公言する兄を振り切って彼女は人生の目標を達成できるのだろうか。 「小説家になろう」サイトで完結済みです。大まかな流れに変更はありません。 「小説家になろう」サイトで番外編を投稿しています。

【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです! 12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。  両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪  ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/07/06……完結 2024/06/29……本編完結 2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位 2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位 2024/04/01……連載開始

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

秋月一花
恋愛
 旅芸人のひとりとして踊り子をしながら各地を巡っていたアナベルは、十五年前に一度だけ会ったことのあるレアルテキ王国の国王、エルヴィスに偶然出会う。 「君の力を借りたい」  あまりにも真剣なその表情に、アナベルは詳しい話を聞くことにした。  そして、その内容を聞いて彼女はエルヴィスに協力することを約束する。  こうして踊り子のアナベルは、エルヴィスの寵姫として王宮へ入ることになった。  目的はたったひとつ。  ――王妃イレインから、すべてを奪うこと。

とんでもない侯爵に嫁がされた女流作家の伯爵令嬢

ヴァンドール
恋愛
面食いで愛人のいる侯爵に伯爵令嬢であり女流作家のアンリが身を守るため変装して嫁いだが、その後、王弟殿下と知り合って・・

処理中です...