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24 対価【レオン視点】
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「勝手に森に入ってすみません。だけど、どうしてもあなたにお願いしたいことがあるんです」
俺は必死にフェニックスにそう語りかけた。向こうの言葉がわかるのだから、きっと俺の言葉も通じるはずだ。
【私はもう直接人間とは関わらぬ。何百年もそうして生きてきた。その方がお互い平和だ】
フェニックスの恐ろしく鋭い目が、俺をギロリと睨んだ。もう何も言うことはないと言うように翼を大きく広げて飛び去ろうとしている。
「待ってください!命を救って欲しい女性がいるんです。どうか……どうかお願いします。俺の大事な人なんです」
【知らぬ。それがその女の天命だ】
「天命なんかじゃない!もっと生きられたはずだ。その命を奪ったのは俺なんです。何でも……俺が持っているものなら何でもお渡ししますから……お願い……します。あなたには可能なのでしょう?」
ここで姿を消されては困る。なりふり構ってなどいられない。俺はフェニックスが飛べないように魔法でバリアを張った。
するとフェニックスは迷惑そうにこちらを見て、片方の羽を俺の前にバサリと広げた。
【どうやらお前は嘘は言っていないようだな。レベッカか……面白い力を持った女だ】
彼女の名前を言い当てたフェニックスに驚き、顔をあげた。
【何を驚いている。私はお前の記憶を読むことなど容易い。ちなみにこんなバリアも意味がない】
そう頭の中に聞こえた瞬間に、バリンと簡単にバリアは破られた。自惚れていたわけではないが、俺のバリアは団長以外には破られたことはない。それくらいの強度はあるはずだ。なのに……この様だ。圧倒的な力の差に背中に冷や汗が流れる。
【ここまで来た褒美に話だけは聞いてやろう。一体彼女に何を望むのだ?】
「俺に魔法を使う前の……彼女の本来の寿命に戻して欲しい」
【……本来の寿命?どうせなら二人で不老不死を望まぬのか?永遠が手に入る】
フェニックスにそう言われて、そんなこと考えたこともなかったなと思った。俺は左右に首を振った。
「不老不死なんて望みません。俺は彼女と一緒に歳をとって生きていきたいんです」
【本来の寿命へ戻しても、彼女はお前より先に死ぬかもしれぬぞ。いいのか】
そう言われて、ズキリと胸が痛んだ。俺より先にレベッカさんがこの世から居なくなるなんて耐えられるだろうか?我儘を言えるのであれば、俺より一日だけ長く生きて欲しい。
そして天国の入口でレベッカさんが来るのを一日待って『先に行くなんてずるいです』と怒る彼女の頬にキスをして『ごめんね』と謝って仲直りをしたい。
だけどそれは無理な話だ。御伽噺でない限りそんなことはあり得ないだろう。
だからこればっかりはどうなるか誰にもわからない。レベッカさんの方が年上だし、逆になる可能性も大いにある。
「辛いけれど、それは天命です。もし俺より先に自然に彼女が亡くなったとしても受け入れます」
【……いいだろう。面白い】
その瞬間、ぶわっと強い風が吹いた。フェニックスはバサバサと音をたてて俺の頭上に舞い上がった。
【ここに来るのは、どいつもこいつも私利私欲にまみれた奴等ばかりで嫌気が差していた。レオン……お前は万物の理を分かっているようだ】
――それはつまり。
俺の希望を叶えてくれるということなのだろうか?
【いいだろう……その願いを叶えてやろう。ただし、お前の覚悟を試すぞ。そうだな、レオンの二番目に大切なものを対価として貰おう】
「俺が持っている物はなんだって差し出します」
【お前はなかなか興味深い。私は長く生きているが空、風、火、水、地の全ての属性を使える魔法使いに初めて会ったぞ。その稀有な才能を貰おう】
俺はフェニックスをジッと見つめた。魔法の才能ということは、俺から魔法を奪うということなのだろうか?
【なんだ?偉そうなことを言っておきながら、怖気付いたのか?】
鳥が笑うのかわからないが、ケラケラと嘲笑うような声が聞こえた気がした。
「いや、むしろそんなものでいいなら喜んで差し出します。ありがとうございます」
グッと目を閉じて、涙を堪えた。俺の魔力が無くなることで彼女を救えるのであれば安いものだ。
魔法使いとして大金を稼いで、彼女に苦労をさせないという夢は叶えられそうにない。もしかしたらレベッカさんと結婚することができなくなるかもしれないが……そんなことは二の次だ。彼女が幸せにこの世に生きてさえいてくれれば、俺は遠くから見守るだけでもいい。もちろん、本音を言えば自らの手で幸せにしたいけれど。
【お前は魔法使いではなく、ただの人間になるんだぞ?本当にいいんだな】
「はい」
【迷いがないな。いいだろう、その覚悟受け取った】
フェニックスの全身が強い光に包まれ、俺はあまりに眩しくて思わず目を閉じた。
【この光を彼女の心臓に埋め込むといい。そうすれば全て元通りになる】
俺の手の中に小さな光の玉が落ちてきた。これでレベッカさんの命が戻るのか。
「本当に……ありがとうございました」
丁寧に礼を言って、光を大事にそっとしまった。ポケットの中でも光は失われずにちゃんと輝いている。
【礼を言うのはまだ早い。お前のように魔力が強い者は奪われた時の反動がものすごく強い。好意で街まで戻してやるが……生きて帰れるかはお前次第だ】
ドクン
心臓が鷲掴みにされたように締め付けられ、息が苦しい。なんだこれは。
【何百年か振りに力を貸してやったのだ。私にお前の愛の行く末を見せてみよ】
フェニックスはそれだけ伝えて、あっという間に空に消えていった。
「ぐっ……かはっ……」
しかし俺はそれどころではない。体内から血がグツグツと沸騰しているのではないかという程熱い。
「ゲホッゲホッ……」
咳き込んだ時に口から血がポタポタと流れ、地面が赤く染まった。苦しい……苦しい。ぐらりと頭が揺れる。
――まだ死ねない。レベッカさんにこれを渡すまでは絶対に死ねない。彼女に貰った命を無駄になんてできない。
そう自分に言いきせて辛うじて意識を保った。周囲から「きゃあっ!!」という女性の悲鳴が聞こえ……初めて俺は街に戻されていたことに気が付いた。
さっきまで森の中だったのに。しかもいつの間にか夜が明けている。
様々な人々に取り囲まれて「どうした」「大丈夫か」と聞かれているが、返事をする余裕はない。
俺は死ぬのか?彼女に逢えないまま?彼女にこの光も渡せないまま?駄目だ……嫌だ。
「レベッカ……さ……ん」
最後の力を使ってテレポーテーションで寮に戻ろうと思った。そうすれば魔法省の誰かが気がついてくれるだろう。しかし、いくら念じても何も起こらない。そうだった……俺はもう魔法使いではないのか。急に絶望感が襲ってくる。
――死にたくない。まだ……誰か。
「レオンっ!レオンっ!!しっかりしろ。お前はやはりこの街にいたんだな。何があった??」
ぼやける視界の端に、怒りながら心配している団長の顔が見えた。ペチペチと俺の頬を叩いている。こっちは血を吐いて死にかけているというのに、この人は……乱暴だ。
――しかし、神に感謝しなくては。
俺は信心深い方ではないが、タイミングの良過ぎる団長の登場に柄にもなく神に礼を言いたくなった。
「だん……ちょ……この光……レベッカさ……に……渡して……く…………さい」
「これはまさか。お前本当にフェニックスに会ったのか?」
団長は目を見開いて驚いた顔をした。俺は小さく頷いた。
「俺の…………持ち物……ぜ……ぶ……彼女に……渡し……て……貯めてた……金も……」
「馬鹿野郎。もう全部わかった。一切喋るんじゃねぇ!!」
「レベ……カ……あい……し……る。どう……か……しあ……せに……な……て……くれ」
自分が死ぬのは怖くないが、できるなら『愛してる』と『幸せになって』を直接彼女に伝えたかった。しかしそれはどうやら叶いそうにない。
だが団長のおかげで無駄死にせずに済んだ。俺が命をかけたのは彼女の為だ。彼女がくれた命を戻す為。だから、何も為さぬまま死ぬわけにはいかない。
俺はいつも揶揄われていたが、団長は本当は優しくて面倒見がよいことを知っている。きっと俺の金や持ち物を全てレベッカさんに渡してくれるように手配してくれるだろうし……最期の言葉も伝えてくれるはずだ。
――団長みたいに国民を守る最強の魔法使いになって、レベッカさんと共に生きていきたかった。
恥ずかしくてあなたにはそんなこと言えなかったけど、ずっとそう思って憧れていたんですよ。すみません。もう……一言も……言葉が出てこない。
身体中が痛い。安心すると、力が抜け俺はそのまま意識を失った。
――レベッカ、どうか俺の分まで幸せに生きて欲しい。
俺は必死にフェニックスにそう語りかけた。向こうの言葉がわかるのだから、きっと俺の言葉も通じるはずだ。
【私はもう直接人間とは関わらぬ。何百年もそうして生きてきた。その方がお互い平和だ】
フェニックスの恐ろしく鋭い目が、俺をギロリと睨んだ。もう何も言うことはないと言うように翼を大きく広げて飛び去ろうとしている。
「待ってください!命を救って欲しい女性がいるんです。どうか……どうかお願いします。俺の大事な人なんです」
【知らぬ。それがその女の天命だ】
「天命なんかじゃない!もっと生きられたはずだ。その命を奪ったのは俺なんです。何でも……俺が持っているものなら何でもお渡ししますから……お願い……します。あなたには可能なのでしょう?」
ここで姿を消されては困る。なりふり構ってなどいられない。俺はフェニックスが飛べないように魔法でバリアを張った。
するとフェニックスは迷惑そうにこちらを見て、片方の羽を俺の前にバサリと広げた。
【どうやらお前は嘘は言っていないようだな。レベッカか……面白い力を持った女だ】
彼女の名前を言い当てたフェニックスに驚き、顔をあげた。
【何を驚いている。私はお前の記憶を読むことなど容易い。ちなみにこんなバリアも意味がない】
そう頭の中に聞こえた瞬間に、バリンと簡単にバリアは破られた。自惚れていたわけではないが、俺のバリアは団長以外には破られたことはない。それくらいの強度はあるはずだ。なのに……この様だ。圧倒的な力の差に背中に冷や汗が流れる。
【ここまで来た褒美に話だけは聞いてやろう。一体彼女に何を望むのだ?】
「俺に魔法を使う前の……彼女の本来の寿命に戻して欲しい」
【……本来の寿命?どうせなら二人で不老不死を望まぬのか?永遠が手に入る】
フェニックスにそう言われて、そんなこと考えたこともなかったなと思った。俺は左右に首を振った。
「不老不死なんて望みません。俺は彼女と一緒に歳をとって生きていきたいんです」
【本来の寿命へ戻しても、彼女はお前より先に死ぬかもしれぬぞ。いいのか】
そう言われて、ズキリと胸が痛んだ。俺より先にレベッカさんがこの世から居なくなるなんて耐えられるだろうか?我儘を言えるのであれば、俺より一日だけ長く生きて欲しい。
そして天国の入口でレベッカさんが来るのを一日待って『先に行くなんてずるいです』と怒る彼女の頬にキスをして『ごめんね』と謝って仲直りをしたい。
だけどそれは無理な話だ。御伽噺でない限りそんなことはあり得ないだろう。
だからこればっかりはどうなるか誰にもわからない。レベッカさんの方が年上だし、逆になる可能性も大いにある。
「辛いけれど、それは天命です。もし俺より先に自然に彼女が亡くなったとしても受け入れます」
【……いいだろう。面白い】
その瞬間、ぶわっと強い風が吹いた。フェニックスはバサバサと音をたてて俺の頭上に舞い上がった。
【ここに来るのは、どいつもこいつも私利私欲にまみれた奴等ばかりで嫌気が差していた。レオン……お前は万物の理を分かっているようだ】
――それはつまり。
俺の希望を叶えてくれるということなのだろうか?
【いいだろう……その願いを叶えてやろう。ただし、お前の覚悟を試すぞ。そうだな、レオンの二番目に大切なものを対価として貰おう】
「俺が持っている物はなんだって差し出します」
【お前はなかなか興味深い。私は長く生きているが空、風、火、水、地の全ての属性を使える魔法使いに初めて会ったぞ。その稀有な才能を貰おう】
俺はフェニックスをジッと見つめた。魔法の才能ということは、俺から魔法を奪うということなのだろうか?
【なんだ?偉そうなことを言っておきながら、怖気付いたのか?】
鳥が笑うのかわからないが、ケラケラと嘲笑うような声が聞こえた気がした。
「いや、むしろそんなものでいいなら喜んで差し出します。ありがとうございます」
グッと目を閉じて、涙を堪えた。俺の魔力が無くなることで彼女を救えるのであれば安いものだ。
魔法使いとして大金を稼いで、彼女に苦労をさせないという夢は叶えられそうにない。もしかしたらレベッカさんと結婚することができなくなるかもしれないが……そんなことは二の次だ。彼女が幸せにこの世に生きてさえいてくれれば、俺は遠くから見守るだけでもいい。もちろん、本音を言えば自らの手で幸せにしたいけれど。
【お前は魔法使いではなく、ただの人間になるんだぞ?本当にいいんだな】
「はい」
【迷いがないな。いいだろう、その覚悟受け取った】
フェニックスの全身が強い光に包まれ、俺はあまりに眩しくて思わず目を閉じた。
【この光を彼女の心臓に埋め込むといい。そうすれば全て元通りになる】
俺の手の中に小さな光の玉が落ちてきた。これでレベッカさんの命が戻るのか。
「本当に……ありがとうございました」
丁寧に礼を言って、光を大事にそっとしまった。ポケットの中でも光は失われずにちゃんと輝いている。
【礼を言うのはまだ早い。お前のように魔力が強い者は奪われた時の反動がものすごく強い。好意で街まで戻してやるが……生きて帰れるかはお前次第だ】
ドクン
心臓が鷲掴みにされたように締め付けられ、息が苦しい。なんだこれは。
【何百年か振りに力を貸してやったのだ。私にお前の愛の行く末を見せてみよ】
フェニックスはそれだけ伝えて、あっという間に空に消えていった。
「ぐっ……かはっ……」
しかし俺はそれどころではない。体内から血がグツグツと沸騰しているのではないかという程熱い。
「ゲホッゲホッ……」
咳き込んだ時に口から血がポタポタと流れ、地面が赤く染まった。苦しい……苦しい。ぐらりと頭が揺れる。
――まだ死ねない。レベッカさんにこれを渡すまでは絶対に死ねない。彼女に貰った命を無駄になんてできない。
そう自分に言いきせて辛うじて意識を保った。周囲から「きゃあっ!!」という女性の悲鳴が聞こえ……初めて俺は街に戻されていたことに気が付いた。
さっきまで森の中だったのに。しかもいつの間にか夜が明けている。
様々な人々に取り囲まれて「どうした」「大丈夫か」と聞かれているが、返事をする余裕はない。
俺は死ぬのか?彼女に逢えないまま?彼女にこの光も渡せないまま?駄目だ……嫌だ。
「レベッカ……さ……ん」
最後の力を使ってテレポーテーションで寮に戻ろうと思った。そうすれば魔法省の誰かが気がついてくれるだろう。しかし、いくら念じても何も起こらない。そうだった……俺はもう魔法使いではないのか。急に絶望感が襲ってくる。
――死にたくない。まだ……誰か。
「レオンっ!レオンっ!!しっかりしろ。お前はやはりこの街にいたんだな。何があった??」
ぼやける視界の端に、怒りながら心配している団長の顔が見えた。ペチペチと俺の頬を叩いている。こっちは血を吐いて死にかけているというのに、この人は……乱暴だ。
――しかし、神に感謝しなくては。
俺は信心深い方ではないが、タイミングの良過ぎる団長の登場に柄にもなく神に礼を言いたくなった。
「だん……ちょ……この光……レベッカさ……に……渡して……く…………さい」
「これはまさか。お前本当にフェニックスに会ったのか?」
団長は目を見開いて驚いた顔をした。俺は小さく頷いた。
「俺の…………持ち物……ぜ……ぶ……彼女に……渡し……て……貯めてた……金も……」
「馬鹿野郎。もう全部わかった。一切喋るんじゃねぇ!!」
「レベ……カ……あい……し……る。どう……か……しあ……せに……な……て……くれ」
自分が死ぬのは怖くないが、できるなら『愛してる』と『幸せになって』を直接彼女に伝えたかった。しかしそれはどうやら叶いそうにない。
だが団長のおかげで無駄死にせずに済んだ。俺が命をかけたのは彼女の為だ。彼女がくれた命を戻す為。だから、何も為さぬまま死ぬわけにはいかない。
俺はいつも揶揄われていたが、団長は本当は優しくて面倒見がよいことを知っている。きっと俺の金や持ち物を全てレベッカさんに渡してくれるように手配してくれるだろうし……最期の言葉も伝えてくれるはずだ。
――団長みたいに国民を守る最強の魔法使いになって、レベッカさんと共に生きていきたかった。
恥ずかしくてあなたにはそんなこと言えなかったけど、ずっとそう思って憧れていたんですよ。すみません。もう……一言も……言葉が出てこない。
身体中が痛い。安心すると、力が抜け俺はそのまま意識を失った。
――レベッカ、どうか俺の分まで幸せに生きて欲しい。
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