【完結】髪は女の命と言いますが、それよりも大事なものがある〜年下天才魔法使いの愛には応えられません〜

大森 樹

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27 挨拶

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「ふざけんなよ、心配かけさせやがって」

「痛っ……!」

 恐ろしい顔の団長に後ろから思いっきり殴られたレオンさんは、私から手を離して自分の頭を摩っている。

「すみませんでした」

「俺は自分の部下が死ぬところなんて見たくねぇんだよ。覚えとけ!」

「はい」

「……二人で幸せになれ」

「ありがとうございます」

 私がそっと顔を上げると、団長は私の頭をポンポンと撫で「良かったな」と目を細めた。私はその優しさに目が潤んでしまう。

「ちょっ……団長!レベッカさんに勝手に触らないでくださいよ」

「はぁ!?うるせーんだよ。このクソガキが」

 ギャーギャーと二人で言い合っているのを、呆れて見ていると事務長が傍に来てくれた。

「二人ともご無事でなによりです」

「事務長……ご迷惑をおかけしました」

「いえ、あなたが幸せならいいんです。でももし嫌になったら、いつでも私の隣は空いていますから」

 本気か冗談かわからない台詞に困っていると、事務長はくすりと笑って私に微笑んだ。

「レオン君、レベッカさんを頼みますよ」

「もちろんです!」

 彼は団長との言い合いをやめ、くるりとこちらを振り向いてそう答えた。

「今後彼女が泣くようなら、私が貰いますから」

 事務長は私の肩を抱き寄せ、レオンさんに向かってパチンと色っぽくウィンクをした。

「え……?」

「ハッハッハ、これは傑作だな。レベッカ嬢、大人な男はいいぞ。このクソガキと違って心にも金にも余裕があるからな。今からでも事務長に乗り換えな!!」

 お腹を抱えて笑う団長の横で、レオンさんは青ざめている。

「じょ、冗談ですよね!?」

「ははは、どうでしょうか」

 そう言って穏やかに笑いながら、去っていく事務長はなんだか楽しそうだった。

「絶対に渡しませんからっ!!」

 レオンさんの大きな叫び声が響いて、その場はドッと笑い声に包まれた。

 完全に拗ねているレオンさんと、困った顔の私……そして揶揄う団長と彼の先輩や同僚の魔法使い達。そして微笑ましく見守ってくれるその他のみんな。

 また平和な日常が戻ってきた。私はそのことがとても嬉しかった。



♢♢♢



 そしてレオンさんは今の状態を調べるために色々な検査を受けさせられ、今回の騒動の説明と報告……そして無断欠勤及び勝手に王宮の禁忌書庫に入った罰を受けていた。

 謹慎や減給……最悪の場合クビなんてこともあり得るのではないかと心配していたが、彼はむしろ以前より休み無く働かされていた。

「全然レベッカさんに逢えない!嫌です。もう討伐に行きたくない。この一週間ほとんど話せてないんですよ!レベッカさーん!たすけてーー!!」

「はあ?無断欠勤した分馬車馬のように働け」

「この鬼!」

「なんとでも言え。陛下はお優しくても、俺は優しくねぇぞ?」

 私は団長にズルズルと引きずられていくレオンさんを、苦笑いのまま遠くから手を振って見送った。

 陛下には私の髪の魔力のことも洗いざらい話し、レオンさんも昔私に助けてもらったことや今回のフェニックスのことも全て報告した。

『この国を統べるものとして、幼少期から様々なことを勉強したつもりだが私もまだまだ知らぬことがあるものだな。ふっ……だが、十歳からのレオンの純愛に免じて寛大な処置にしようではないか。私に臣下を虐める趣味はないからな』

 陛下はそう言ってニッと笑った。国で禁止されているフェニックスを勝手に探したことは本来罰則を与えねばならないが、レオンさんの能力を考えると国のために沢山働いてもらう方が有益だろうという冷静な判断をされたようだ。

『フェニックスの件は詳しくは皆に伏せた。今回はたまたま命が助かったが、次はどうなるかわからない。また誰かが探したら困るからな。あとレベッカ嬢の髪の魔力のことは多くの者に知られてしまったが、今はもう力が無くなっているとあえて情報を流した。その方が変な奴等が君を狙うことがないだろうからね。隔世遺伝ということは隠してレベッカ嬢だけの特異体質だったということにしておいた』

『陛下のお気遣い感謝致します』




 ……で、今に至る。

 レオンさんの魔力を調べ直したところ、魔力量はSランクで変わりない代わりに『火の魔法』以外は使えなくなっていたそうだ。

 フェニックスは、不死鳥の他に火の鳥とも呼ばれている。だからきっと『不要な力』だと返してくれたのだろう。

 彼は様々な属性の魔法を使えることが当たり前だったので、火しか使えないことに戸惑いを覚えていたが努力してだんだんと慣れていっているようだ。

「はぁ、風の魔法が使えないとレベッカさんの髪を乾かしてあげられないのが哀しい」

 仕事のことで悩んでいるのかと思いきや、そんなどうでもいいことでショックを受けているので私は笑ってしまった。

「何ですか、それは。もっと困ることが他にあるんじゃありませんか?」

「確かに慣れませんけど、任務は自分の努力で何とかなりますから。それにまだ魔法使いでいられるだけで感謝してます」

 それはそうだ。不死鳥フェニックスが返してくれたことが奇跡のようなものだ。

「でもなぁ……我儘だってわかっているけど、レベッカさんにしてあげられることが減ったことだけがちょっと残念です」

「じゃあ私の髪はあなたが、あなたの髪は私がタオルで乾かしましょう。みんなそうしているのですよ」

 私がそう言うと、レオンさんはポッと赤く頬を染めた。

「……はい、一生そうします。レベッカさんの髪は俺に任せてください!」

 そんなことを言って笑い合っていたのは、数ヶ月前。髪を乾かすどころか、挨拶程度の触れ合いしかできない日々が続いている。

 寂しくないと言ったら嘘になるが、レオンさんは文句を言いながらも新しい生活を頑張っていて充実した顔をしているので応援している。



♢♢♢



 そんな生活も落ち着き、私の髪も少し伸びてきた頃レオンさんが我が家に挨拶に来てくれた。髪が伸びるという感覚が初めてで、不思議な気分だ。

 髪の魔法が未来永劫消えたこと、寿命が戻ったことはあの事件の後にすぐに家族に伝えた。両親や兄は泣いて喜んでくれた。そして私はレオンさんのことをきちんと話し、一生を共にしたいと考えていると伝えた。

「髪の魔法はお母様の家系の力だったのに、勝手に途絶えさせてごめんなさい」

「いいのよ。確かにあの髪はすごい力だけど……力を持った人はみんな短命だったそうなの。だから、途絶えた方がいいと思っていたわ。何よりレベッカが生きていてくれて嬉しいもの」

 お母様はそう言って私の手をぎゅっと握ってくれた。

「レベッカが幸せなら、私達から何も言うことはない」

 お父様も涙を堪えながら微笑み、怒っていたお兄様も「幸せになれ」と優しく抱き締めてくれた。



「ご挨拶が遅くなって申し訳ありません。レベッカさんと結婚させてください。必ず幸せにします」



 忙しい任務の合間に彼は我が家に来てくれた。いつになく緊張した面持ちで、彼は深々と頭を下げた。

「レオン君、頭を上げてくれ。レベッカから話は聞いている。正直君を恨んだこともあったけれど……命をかけて助けてくれたこと感謝しているよ」

 お父様が優しく話し始めたのを見て、レオンさんは少しだけ落ち着きを取り戻した。

「いえ、知らなかったとはいえ大事な娘さんの命を危険に晒してしまい申し訳ありませんでした。俺はレベッカさんのおかげで今生きています。心身ともに参っていた俺を救ってくれたこと、本当に感謝してもしきれません」

 彼は昔を懐かしむように目を閉じてそう話し出した。お父様はそれを聞いた後にゴホン、と咳払いをして……真剣な顔をした。

「レオン君、君は本当にレベッカを愛しているのかい?君と娘では身分も年齢も違う。きっと君にはもっと条件の良い縁談もいっぱいあるだろう。恩を愛と勘違いしているのではないか?」

 静かな部屋に低い声の淡々とした声だけが響いた。私はハッと顔を上げて、お父様の顔を見た。それは以前の私が何度も思ったことだ。だけど……そうじゃないことはもうわかっている。

「お父様、違います。レオンさんは……!」

「レベッカさん、いいんだ」

 彼は私の言葉を遮って、そっと手を重ね『大丈夫』とでも言うようにこくんと頷いた。

「そう思われるのは当然のことです。でも違うんです。俺はレベッカさん自身が好きです。当時の俺はまだ十歳でしたが、実は出逢った瞬間に……一目惚れでした」

 彼は真っ直ぐした目で一目惚れだったと告白されて、私は頬が染まった。

「そして再会してより好きになりました。仕事熱心で真面目なところは尊敬していますし、俺の弱いところや格好悪いところも馬鹿にしたりしないで認めてくれるところも好きです。美味しいものを食べてニッコリ笑う姿も可愛いし、手を繋ぐだけで照れる彼女にもキュンとしますし……顔も綺麗だし、声も癒されるし……言い出したらきりがない程レベッカさんのことを愛しています。この気持ちは決して恩じゃないです」

「ちょ、ちょっと!レオンさんっ!何を言っているの!?もういいですから」

 私は恥ずかしすぎて慌てて彼の口を塞いだ。嬉しいけれど家族の前でこんなの恥ずかしすぎる。レオンさんはもごもご何かを言いながら「全部本当のことです」とか何とか言っている。

 すると、急にお母様が堪えきれないという風に肩を震わせ扇子で顔を半分隠しながら笑い出した。

「ふっ……うふふふふふ。レベッカがそんなに焦るところ初めて見たわ。昔から冷静な子だったのに」

 ひとしきり笑った後、ふうと息を整えて私に優しく微笑んだ。

「レベッカ、いい恋をしているのね。幸せそうで安心したわ。ね、あなたもそう思うでしょう?」

 お母様はお父様の手を握って、そう言った。お父様も目を細めて穏やかな顔で私達を見つめた。

「……ああ。レオン君、レベッカを頼んだよ」

「ありがとうございます。生涯彼女だけを愛して、大事にすることを誓います」

 彼は再度頭を深く下げた。両親が私達の結婚を認めてくれたことに、私は嬉しくて涙が溢れた。


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