幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
718 / 1,865
番外編

その後の三人『春の芽生え』8

しおりを挟む
「じゃあ、私はそろそろ帰るわね」
「お母さんも、よかったら夕食を一緒に」
「ふふ、それはまた今度にするわ。宗吾を頼むわ」
「あ、はい」
「あの子、きっと今日はすっ飛んで帰ってくるわね」
 
 なんだか僕たちに気を遣ってもらったようで、照れ臭い。
 
 お母さんを玄関で見送ってから、芽生くんを見ると何か違和感を抱いた。

 あ……靴下の柄が全然違う。朝、そんなに忙しかったのかな?

「えっと……芽生くん、先にお片付けしちゃおうか」
「うん! どこからする?」
「うーん、芽生くんのお部屋からかな」
「えぇっ!」

 芽生くんがドキッっと肩を上げた。

 案の定、子ども部屋はおもちゃやお菓子の食べこぼしで、しっちゃかめっちゃかになっていた。

「め……芽生くん? これは一体……」
「わー! ごめんなさい」
「おもちゃはちゃんと元の場所にお片付けしようね。それからお菓子はお部屋で勝手に食べたら駄目だよ」
「ううう、うん」

 そして洋服ダンスを見て、またもや唖然とした。
 
 普段から僕が洗濯物を綺麗に分かりやすく畳んで並べているので、柄違いの靴下を履いてしまうのが不思議だったが……ここはまるで泥棒が入ったように荒れていた。

「えっと……朝、お寝坊しちゃった?」
「……うん、パパが『それそれ、いそげー』っていうから、ごめんなしゃい。ぐちゃぐちゃにかきまぜちゃった」
「そ、そうだったんだね」

 芽生くんは反省しているようで、床に頭をつけてペコンと謝ってくれたので、この辺で注意は終わりにしよう。

「お、お兄ちゃん、おこってる?」
「いや……芽生くん、ひとりで頑張ったね。宗吾さんのことも、ありがとう。ソファにお布団を運んでくれたの、芽生くんだよね? 洗面所も、ひとりでもちゃんと歯磨きしようって思ったんだね」
「うん! うん! パパはね、おおきな赤ちゃんみたいで大変だったよ~」

 ソレ分かる!

「そうだよね~宗吾さんは大きな赤ちゃんみたいな時があるよね」
「そうなの! もうね、いうこときかないんだよ」
「くすっ」

 床に座って芽生くんと大きく頷き合っていると、頭上から宗吾さんの声が振ってきた。

「へぇ、誰が赤ちゃんだって? 瑞樹、そんなこと言っていいのか~ 俺はいいけど!」
「そ、宗吾さん!」

 スーツ姿の宗吾さんが、ニヤッと明るく笑っていた。
 
「お帰り、瑞樹!」

 宗吾さんは悪びれた様子はなく、僕に『お帰り』と言ってくれる。いやいや……この場合は僕が言う台詞だ。

「宗吾さん、お帰りなさい!」
「おー会いたかったぞ~ 瑞樹! そして芽生~喜べ! 瑞樹が戻ってきてくれた! 救世主だ!」
「わっ! ちょ、ちょっと」
 
  宗吾さんに芽生くんと一緒にギュッと抱きしめられて、ポカポカ気分になった。

「パパ~ これで僕たちの家はたすかったね」
「ははっ、だな」
「も、もう。ふたりとも汚すぎですよ!」

 そこから、三人で超特急で掃除をした。僕が指示を出せば動いてくれるのに、僕がいないと駄目駄目だな……あぁ、やぱり惚気てしまう。

『この家は僕がいないとまわらないのかな』

「みーずき、なんだかご機嫌だな。帰宅後、仮眠をしっかり取れたみたいだな。目の下に隈もなくなって、いつもの可愛い顔に戻ったな」

 水浸しの洗面台をタオルで拭いていたら、いきなり宗吾さんが背後から抱きしめてきたので、驚いた。鏡に頬を赤く染める僕の顔が映っている。

「あ……駄目ですよ。芽生くんが起きているのに」
「今は、夢中で子供部屋の掃除しているよ」
「ん……」

 宗吾さんの手が僕の胸元に伸びてきて、心臓がトクンと跳ねた。

「あ……あの、ま、まだ……駄目ですよ」
「うー、俺、猛烈な瑞樹不足なんだけどな」
「な、なんですか」

 ドキドキ、ドキドキ。

 昨日、軽く口づけしてもらったが、こんな風に触れられると…… 僕の方も変なスイッチが入ってしまうから困る。

 パタンと扉が閉められて、項にチュッとキスをされた。

「あ……」
「可愛いよ。それに瑞樹……今日は花の匂いで溢れている」
「2日間……ずっと花を弄っていたから……僕、昨日シャワーしか浴びていなくて、汚いです」
「気にするな。そうだ、今日は3人で風呂に入るか」
「え……流石に狭いですよ」

 どうしよう! ワイシャツ越しに胸を揉まれ、項にキスされただけで兆しているなんて……僕も相当な宗吾さん不足だ。

「だ、駄目です」
「どうしてだ?」
「う……もう」
「あ、もしかして」
「あぁっ」

 下腹部を意図的に撫でられ、震えてしまった。続けてヒップを揉まれると、少しだけ痛かった。えっと……どうしてこんな所が痛いのかな? あ……そうだ! 急激に火照った身体がクールダウンしていく。

「宗吾さん! 今思い出しましたけど、洗面所の床が水浸しで、僕は派手に滑って転んでしまいましたよ」
「え? そうだった? 気付かなかった、ごめん」

 がっくし……

「お尻打って痛かったので、今日は触れないで下さい」

 ぴしゃりというと、突然ベルトを外された。

「えぇっ?」
「それは大変だ! 目視で確認しないと」
「ちょっと……もう少し反省してくださーい!」

 僕の大声で、芽生くんが駆けつけてくれた。

「お兄ちゃん! 敵はどこ? やつけるよぅ!」

 刀をブンブン振り回して……あぁぁぁ……危ないってば。

「わーよせ、よせ! 芽生、そうだ! 今日はみんなで風呂はいろうぜ」
「お風呂? うん。パパとおにいちゃんと一緒に? やったー」

 お風呂に釣られる芽生くん……それでいいの?

 というわけで、ふたりが湯船に先に浸かったので、僕は汚れた洗濯物を仕分けていた。この前ティッシュが入ったまま洗ってしまい大惨事だったので、気をつけないと。

 芽生くんの靴下、宗吾さんの靴下……あれ? こんな渋いの持っていたかな。

「宗吾さん、こんな靴下持っていましたか」
「あー、悪い。それ親父の借りた。朝履いたのは鞄の中だった」
「取って来てもいいですか」
「あぁ、頼む」

 どうして、わざわざ履き替えたのかな?
 
 脱いだ靴下を見て、肩を揺らして笑ってしまった。

 グレーに黒い模様は合っているけど縦縞と横縞だ。

 大の男の人が、芽生くんと同じことを?

 も、もう――本当にこれはまずい。

 宗吾さんには、僕がいないとまずい。

 またもや、一人でニヤニヤしてしまう。

「瑞樹もそろそろ入れよ。俺が芽生の身体を洗っている間に浸かれ」
「は、はい!」
「ん? なんでニヤついている?」

 はっ! 自然に笑っていた?

「やっぱり、宗吾さんは、大きな赤ちゃんだなって……」
「くくっ、その発言、あとで悔やむかもよ?」
「どういう意味です」
「いやこっちの話だ。さぁ肩まで浸かれ」

 狭いお風呂に、三人でぎゅうぎゅう。

「パパ、くすぐったいよぉ」
「芽生、お前は昨日ちゃんと洗っていないだろ」
「それはパパもだよー」
「え、汚い……」
「はは、洗うことは洗ったけど超特急でさ、今日はよーく洗わないとな」

 下心満載の宗吾さんの台詞まで幸せに感じるのだから、僕は重症だ。

 でも……湯気に包まれて笑顔が弾ける、こんな時間が大好きだ。




 天国のお父さん、お母さん、夏樹……

 僕の家には、笑顔が絶えません。
 賑やかな家が、僕の家になりました。

 そう報告出来ることが嬉しくて、やっぱりまた微笑んでしまった。
しおりを挟む
感想 85

あなたにおすすめの小説

この冬を超えたら恋でいい

天気
BL
夜の街で、凪は人生の底にいた。 古いアパートに帰る途中、父の残した借金の取り立てに絡まれ、逃げ場を失う。 そこに現れたのは、大手企業の社長・鷹宮だった。 偶然の救い。年齢も立場も違う二人は、その夜を境に交わることになる。 事情を多く語らない凪は、不幸が当たり前のように身にまとい、誰かに頼ることを知らない。 一方の鷹宮は、完璧な成功者として生きてきた男だった。 危険から守るため、鷹宮は凪を一時的に自宅へ迎え入れる。 冬の同居生活の中で、凪は少しずつ日常を取り戻していく。 大学へ通い、温かい食事をし、夜を一人で怯えずに眠る。 しかし、守られることに慣れない凪は、距離が近づくほどに自分から一歩引いてしまう。 それは、失うことを恐れる、健気で不器用な選択だった。 一方、鷹宮は気づいてしまう。 凪が笑うだけで、胸が満たされることに。 そんな自分の感情から凪を守るつもりで引いた距離が、 凪を遠ざけてしまう。 近づきたい。 けれど、踏み込めば壊してしまうかもしれない。 互いを思うほど、すれ違いは深くなる。 2人はこの冬を越えることができるのかーー

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

【完結】番になれなくても

加賀ユカリ
BL
アルファに溺愛されるベータの話。 新木貴斗と天橋和樹は中学時代からの友人である。高校生となりアルファである貴斗とベータである和樹は、それぞれ別のクラスになったが、交流は続いていた。 和樹はこれまで貴斗から何度も告白されてきたが、その度に「自分はふさわしくない」と断ってきた。それでも貴斗からのアプローチは止まらなかった。 和樹が自分の気持ちに向き合おうとした時、二人の前に貴斗の運命の番が現れた── 新木貴斗(あらき たかと):アルファ。高校2年 天橋和樹(あまはし かずき):ベータ。高校2年 ・オメガバースの独自設定があります ・ビッチング(ベータ→オメガ)はありません ・最終話まで執筆済みです(全12話) ・19時更新 ※なろう、カクヨムにも掲載しています。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

君の想い

すずかけあおい
BL
インターホンを押すと、幼馴染が複雑そうな表情で出てくる。 俺の「泊めて?」の言葉はもうわかっているんだろう。 今夜、俺が恋人と同棲中の部屋には、恋人の彼女が来ている。 〔攻め〕芳貴(よしき)24歳、燈路の幼馴染。 〔受け〕燈路(ひろ)24歳、苗字は小嶋(こじま)

処理中です...