【完結】みにくい勇者の子

バナナ男さん

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◇◇◇◇

「光の勇者様様……ねぇ~?」

家に帰った俺は、貴重なロウソクに火を着け、今朝焼いたパンと野菜スープをテーブルに置いて椅子に座る。
ギシギシと軋む椅子は今にも壊れそうだが、新しいモノを買うお金はないので我慢我慢。
同じく軋むテーブルに置かれた本日の夕食を見下ろし、静かに手を合わせた。

「今日も頑張ったよ。父さん、母さん。」

今は亡き両親に向かい、俺は今日も一日中無事に生きて来れた事に感謝を口にした。

両親は俺が8歳の頃に流行り病で亡くなり、それから俺はずっと一人暮らし。
しかし村の人達が総出で気にかけてくれて、更に畑も与えてもらい、なんとかここまで生きて来れたのだ。

パンをちぎって口の中に入れると、パサパサとした食感だが確かな小麦の匂いがして、「んん~……!」と唸る。
そして野菜の旨味が染み込んだスープを口にすると、身体は暖まり、上機嫌でホクホクのじゃがいもを食べた。
これが本当に美味しくて、また同じく唸り声をあげると、俺は大声で叫ぶ。

「コルル村のムギ!28歳!俺の家族になってくれる人は、毎日こんな美味しいパンと野菜スープが飲めますよ~!
先着一名!どうぞよろしくお願いしま~す!」

誰もいない部屋の中、答えてくれるのは、ギシギシという木の軋む音だけ。
今日は風も強いので、年季が入った木製の小屋である我が家からは、結構大きな音が聞こえた。

「…………な~んちゃって。」

ポツリと呟いた瞬間だけ風が止んで、自分の声がいやに大きく聞こえる。
それもなんとも虚しくて……俺はそれを誤魔化す様に、ご飯を淡々と平らげた。

そして次の日────。
その日は村長から全村人に招集がかかり、俺はジロとニコと共に村の中心部にあるただっ広い広場へと向かう。
言うまでもなく話題は、新領主になるであろう光の勇者様の事だろう。

「女の子達なんて日の出と共に出発してたよ~。一番前で見るんだって……。」

「いや、まだ来てないのに?まずは村長が話すだけなのにか?」

ニコが言う言葉に、ジロは汗を掻きながら答えた。
俺も呆れてしまったが、女性達も必死なんだろう。

「多分、この村には住まないだろうから、少しでもチャンスがあれば!……ってヤツなんじゃないか?
多分、もっと発展している街に住んで、ここは避暑地扱いにするだろうし……。」

俺の言葉に、今度は二人揃って『あ~……』と納得する様に頷く。

それなら、本物を見る機会は限られてくるため、その一回一回が命がけ!
そのつもりで女性たちは、挑んでいるというわけだ。

三人で顔を見合わせ笑い合っている内に、女性達がわんさか集まっている広場へとやっと辿り着く。
集合時間ギリギリ。
とりあえず間に合って良かったと思いながら、女性たちを越えた前の方を見ると……そこには齢90越えの爺さんである村長がいた。

「では、そろそろ始めるぞ~い。この村の新たな領主様となってくださった光の勇者様が、約一ヶ月後くらいに挨拶に来て下さるそうじゃ。
なんというありがたき幸せ!
国を救いし英雄様が、こんな辺鄙な田舎町を褒美として選んでくださるとは……我が村一生の悔いなし!」

本当に一生の悔いなしになりそうなくらい興奮している村長にヒヤヒヤしながらも、周りの村民達はワー!!と歓喜の声をあげる。
村長は杖を天に掲げ、カッ!と目を見開いた。

「よって、少しでも勇者様に気に入っていただける様に、ワシらは勇者様の御心のままに、命さえも差し出すべし!!
逆らうのは勿論、無礼があった場合も…………。」

村長がチラッと横の方を見ると、そこからカラカラと押されてきたのは、木の板が沢山乗った荷台車。
その柱を持ってきた村人数人でテキパキとその板を釘で打ち付け、あっという間に首吊台を作り上げる。

「────死刑じゃ。神に逆らいし大罪人に生きる価値なし……やむを得ん。」

「「「………………。」」」

最初は全員が冗談だと思ったが、村長の真剣な眼差しは真剣そのもの。
冗談ではない事を悟った。

「逆らったら死刑……無礼しても死刑……。」

吊り下がった首吊用の紐が風でプラプラ揺れているのを見て、血の気が引いていく。
全員、その事はよく頭に叩き込んだ様で、特にイケメンが来ると言う事で態度が悪かった男性村人達は全員キリッ!と気を引き締めた。
そんな俺達を見回し、村長はニコッと笑うと、それからそれぞれの担当を決めようとしたのだが、慌てた様子の見張り番が走って来たため中断される。

「た、た、た、大変ですぅぅ!!!沢山の馬車がこっちに向かって走ってきます!!
もしかして……あれは……光の勇者様の馬車軍団ではないかと思われます!」

「なっ、なんじゃとぉぉぉぉぉ!!!」

村長は大きく目を見開き叫ぶと、懐から手のひらサイズのルーペを取り出しそれを目の前に突き出した。
そして、村の外の方をジー……と睨みつける。
これは村長が唯一使える魔法で、要は遠くがよく見える魔法らしい。
全員そんな村長を黙って見ていたが、突然村長が大きく背をしならせブリッチしたため身体を大きく震わせた。

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