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12 何で?
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(ヒカリ)
下級モンスターどころか、その辺の虫にも負ける程の実力。
魔力ゼロ、能力は【覗く】という未知の能力だが、何の役にも立たなさそうなモノが一つ。
外見はその辺によくいる、一度見たくらいでは忘れてしまう様な平凡な容姿に、平均よりやや細い体格と一般的な身長。
これが俺の願うモノ……???
そこで俺の出した答えは『願うモノはなかった』だ。
つまりこの異世界人は、俺という存在の空っぽさを何より証明してくれる何よりの証拠となったわけだ。
その瞬間、その異世界人には一切の興味が失せ、同時に自分がこの世に『生きている』意味も見失ってしまった。
自分をこの世界に繋ぐ細い糸が完全に切れて、もう俺を縛るモノは何もない。
ただ、自由になったからといって何をしていいかも分からない。
だって今まで『勇者』として生きる事しか教えられてこなかったから。
だからとりあえずは言われるがまま旅に出たわけだが、ずっとずっと考えていた。
自分が消える方法を。
きっと目の前にずっと見えている境界線を消し去るには、俺が消えて世界と一つに還るしかない、そう思ったのだ。
元々世界は一つで、そこから全てのモノが分離して離れていった。
そしてその個々のモノ達には『違い』があって、それが俺を空っぽにする。
なら俺は世界に還ろうと、最終的に答えを出した。
しかし、その方法がまだ見つからない。
それを考えながら、ただぼんやりとモンスターを倒していると、イシは隙あらば俺に料理を差し出してきたり、寝かせようとしたりと、夏に飛ぶ蚊の様に鬱陶しかった。
あぁ、弱いから必死に俺に媚を売ってるんだ。
なんて情けなくて惨めな男だろう。
『可哀想』
だから侮蔑を込めた目で睨み、ハッキリと告げてやった。
「必死に媚び売って気持ち悪い。」
「生きてて恥ずかしくないの?」
そもそも誰もが俺が雰囲気を悪くすると必死に距離を取るか、いう事を聞くか……それか媚を売るかのどれかだ。
『自分』が俺に嫌われたくないから。
しかしイシはキョトンとしながら、頓珍漢な答えを返してきたのだ。
「俺はいつだってできる事をするよ。
恥ずかしいかどうかは、多分死ぬ直前に分かると思う。」……と。
多分俺はその時びっくりしたんだと思う。
それが俺の欲しがりそうな答えじゃなかったから。
誰も彼も、自分の言いたい言葉を俺が望むであろう形に変えて投げてくるのに……。
境界線の向こう側で、俺の姿が見えないであろうイシが、自分のポケットに入っている石を軽くポンッと投げてそのまま返ってくるのを待っている気がした。
何だかそれが……最高に気持ち悪い。
それからどんなに酷い言葉を投げつけようが、殺気を込めて皿を投げつけてやろうが、イシは変わらない。
ポンポンと境界線の向こう側から小さな石を投げては、俺が投げ返してくるのを待つ。
何なんだよ、気味悪い!!
それが不快で気持ち悪くて、ずっと目を背けていたが、ある日あまりにしつこいのでその投げてきた石をポンッ!と強く蹴ってやった。
すると石は大きく飛んでいき、イシの遥か後ろの方へ。
『お前の投げてくる石が迷惑だ。』
そんな気持ちを込めて蹴り返してやったのだが、何とイシはパァ!と嬉しそうに笑い、そのままタッタッタ~とその石を拾いに行ってしまった。
俺が面倒で蹴った石を。しかも一生懸命それを探している。
そしてやっと見つかる頃には、イシはボロボロだったが、またその見つけた石を俺の方へポンッ!と投げ入れたのだ。
足元に転がった石を見下ろし、俺は突然怖くなって、また顔を背けた。
そうして境界線の世界の中で顔を背け続ける俺に、現実のイシはやはりマイペースに俺を構っては、ご飯を差し出してくる。
やがて面倒になってご飯を食べる様にすると、あの時境界線の世界で見た嬉しそうな笑みを浮かべるので、俺はイライラしながら皿を投げつけその場を去る、その繰り返し。
すると境界線の向こうからはどんどんどんどんイシが石を投げてくるものだから、俺の足元にはまた小さな石が……。
そしてやはりそれが返されるのをジッと待つイシ。
もう、何なんだよ!!本当に!!
イライラしながら当ててやるつもりで石を蹴り返し、それを探してボロボロになるイシを見て毎日毎日イライラが治まる事はない。
そのせいで世界に還る方法を考える時間もとれずに、本格的にどうしてやろうかと考えていたその時、皿に盛られている料理が、俺の美味しいと思ったものばかりになってきたのに気づく。
「…………?」
それを不思議に思いながら、美味しいの、あんまり好きでないの……と交互に食べて食事を終えると、次の日には俺の好きなおかず、そして新しいおかずが一品というメニューになっていた。
もしかして俺の好きなのを探してるのか……??
どうも新しいおかずを一品入れて、毎日俺の好みを探っている様だ。
そこで思い出したのは、俺が蹴って返してやった石達の存在で、ずっと俺から投げ返されるのを待っているイシの姿が鮮明に思い浮かんだ。
ねぇ、そんな乱暴に返されているのに何で拾おうとするの?
どうしてそんな酷い事ばっかりする俺にまた投げてくれるの?
────そんなボロボロになってまで、どうして俺が投げるの待っててくれるの?
イシに俺の姿は見えてないから答えてはくれないけど……やっぱりいつ見てもイシは俺から石が返ってくるのを待っていた。
下級モンスターどころか、その辺の虫にも負ける程の実力。
魔力ゼロ、能力は【覗く】という未知の能力だが、何の役にも立たなさそうなモノが一つ。
外見はその辺によくいる、一度見たくらいでは忘れてしまう様な平凡な容姿に、平均よりやや細い体格と一般的な身長。
これが俺の願うモノ……???
そこで俺の出した答えは『願うモノはなかった』だ。
つまりこの異世界人は、俺という存在の空っぽさを何より証明してくれる何よりの証拠となったわけだ。
その瞬間、その異世界人には一切の興味が失せ、同時に自分がこの世に『生きている』意味も見失ってしまった。
自分をこの世界に繋ぐ細い糸が完全に切れて、もう俺を縛るモノは何もない。
ただ、自由になったからといって何をしていいかも分からない。
だって今まで『勇者』として生きる事しか教えられてこなかったから。
だからとりあえずは言われるがまま旅に出たわけだが、ずっとずっと考えていた。
自分が消える方法を。
きっと目の前にずっと見えている境界線を消し去るには、俺が消えて世界と一つに還るしかない、そう思ったのだ。
元々世界は一つで、そこから全てのモノが分離して離れていった。
そしてその個々のモノ達には『違い』があって、それが俺を空っぽにする。
なら俺は世界に還ろうと、最終的に答えを出した。
しかし、その方法がまだ見つからない。
それを考えながら、ただぼんやりとモンスターを倒していると、イシは隙あらば俺に料理を差し出してきたり、寝かせようとしたりと、夏に飛ぶ蚊の様に鬱陶しかった。
あぁ、弱いから必死に俺に媚を売ってるんだ。
なんて情けなくて惨めな男だろう。
『可哀想』
だから侮蔑を込めた目で睨み、ハッキリと告げてやった。
「必死に媚び売って気持ち悪い。」
「生きてて恥ずかしくないの?」
そもそも誰もが俺が雰囲気を悪くすると必死に距離を取るか、いう事を聞くか……それか媚を売るかのどれかだ。
『自分』が俺に嫌われたくないから。
しかしイシはキョトンとしながら、頓珍漢な答えを返してきたのだ。
「俺はいつだってできる事をするよ。
恥ずかしいかどうかは、多分死ぬ直前に分かると思う。」……と。
多分俺はその時びっくりしたんだと思う。
それが俺の欲しがりそうな答えじゃなかったから。
誰も彼も、自分の言いたい言葉を俺が望むであろう形に変えて投げてくるのに……。
境界線の向こう側で、俺の姿が見えないであろうイシが、自分のポケットに入っている石を軽くポンッと投げてそのまま返ってくるのを待っている気がした。
何だかそれが……最高に気持ち悪い。
それからどんなに酷い言葉を投げつけようが、殺気を込めて皿を投げつけてやろうが、イシは変わらない。
ポンポンと境界線の向こう側から小さな石を投げては、俺が投げ返してくるのを待つ。
何なんだよ、気味悪い!!
それが不快で気持ち悪くて、ずっと目を背けていたが、ある日あまりにしつこいのでその投げてきた石をポンッ!と強く蹴ってやった。
すると石は大きく飛んでいき、イシの遥か後ろの方へ。
『お前の投げてくる石が迷惑だ。』
そんな気持ちを込めて蹴り返してやったのだが、何とイシはパァ!と嬉しそうに笑い、そのままタッタッタ~とその石を拾いに行ってしまった。
俺が面倒で蹴った石を。しかも一生懸命それを探している。
そしてやっと見つかる頃には、イシはボロボロだったが、またその見つけた石を俺の方へポンッ!と投げ入れたのだ。
足元に転がった石を見下ろし、俺は突然怖くなって、また顔を背けた。
そうして境界線の世界の中で顔を背け続ける俺に、現実のイシはやはりマイペースに俺を構っては、ご飯を差し出してくる。
やがて面倒になってご飯を食べる様にすると、あの時境界線の世界で見た嬉しそうな笑みを浮かべるので、俺はイライラしながら皿を投げつけその場を去る、その繰り返し。
すると境界線の向こうからはどんどんどんどんイシが石を投げてくるものだから、俺の足元にはまた小さな石が……。
そしてやはりそれが返されるのをジッと待つイシ。
もう、何なんだよ!!本当に!!
イライラしながら当ててやるつもりで石を蹴り返し、それを探してボロボロになるイシを見て毎日毎日イライラが治まる事はない。
そのせいで世界に還る方法を考える時間もとれずに、本格的にどうしてやろうかと考えていたその時、皿に盛られている料理が、俺の美味しいと思ったものばかりになってきたのに気づく。
「…………?」
それを不思議に思いながら、美味しいの、あんまり好きでないの……と交互に食べて食事を終えると、次の日には俺の好きなおかず、そして新しいおかずが一品というメニューになっていた。
もしかして俺の好きなのを探してるのか……??
どうも新しいおかずを一品入れて、毎日俺の好みを探っている様だ。
そこで思い出したのは、俺が蹴って返してやった石達の存在で、ずっと俺から投げ返されるのを待っているイシの姿が鮮明に思い浮かんだ。
ねぇ、そんな乱暴に返されているのに何で拾おうとするの?
どうしてそんな酷い事ばっかりする俺にまた投げてくれるの?
────そんなボロボロになってまで、どうして俺が投げるの待っててくれるの?
イシに俺の姿は見えてないから答えてはくれないけど……やっぱりいつ見てもイシは俺から石が返ってくるのを待っていた。
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