【完結】勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん

文字の大きさ
12 / 35

12 何で?

しおりを挟む
(ヒカリ)

下級モンスターどころか、その辺の虫にも負ける程の実力。
魔力ゼロ、能力は【覗く】という未知の能力だが、何の役にも立たなさそうなモノが一つ。
外見はその辺によくいる、一度見たくらいでは忘れてしまう様な平凡な容姿に、平均よりやや細い体格と一般的な身長。
       
これが俺の……???

そこで俺の出した答えは『願うモノはなかった』だ。
つまりこの異世界人は、俺という存在の空っぽさを何より証明してくれる何よりの証拠となったわけだ。
その瞬間、その異世界人には一切の興味が失せ、同時に自分がこの世に『生きている』意味も見失ってしまった。
自分をこの世界に繋ぐ細い糸が完全に切れて、もう俺を縛るモノは何もない。
ただ、自由になったからといって何をしていいかも分からない。

だって今まで『勇者』として生きる事しか教えられてこなかったから。

だからとりあえずは言われるがまま旅に出たわけだが、ずっとずっと考えていた。

自分が消える方法を。

きっと目の前にずっと見えている境界線を消し去るには、俺が消えて世界と一つに還るしかない、そう思ったのだ。

元々世界は一つで、そこから全てのモノが分離して離れていった。
そしてその個々のモノ達には『違い』があって、それが俺を空っぽにする。
なら俺は世界に還ろうと、最終的に答えを出した。
しかし、その方法がまだ見つからない。

それを考えながら、ただぼんやりとモンスターを倒していると、イシは隙あらば俺に料理を差し出してきたり、寝かせようとしたりと、夏に飛ぶ蚊の様に鬱陶しかった。

あぁ、弱いから必死に俺に媚を売ってるんだ。
なんて情けなくて惨めな男だろう。

『可哀想』

だから侮蔑を込めた目で睨み、ハッキリと告げてやった。

「必死に媚び売って気持ち悪い。」

「生きてて恥ずかしくないの?」

そもそも誰もが俺が雰囲気を悪くすると必死に距離を取るか、いう事を聞くか……それか媚を売るかのどれかだ。
『自分』が俺に嫌われたくないから。
しかしイシはキョトンとしながら、頓珍漢な答えを返してきたのだ。

「俺はいつだってできる事をするよ。
恥ずかしいかどうかは、多分死ぬ直前に分かると思う。」……と。

多分俺はその時びっくりしたんだと思う。
それが俺の欲しがりそうな答えじゃなかったから。
                
誰も彼も、自分の言いたい言葉を俺が投げてくるのに……。

境界線の向こう側で、俺の姿が見えないであろうイシが、自分のポケットに入っている石を軽くポンッと投げてそのまま返ってくるのを待っている気がした。

何だかそれが……最高に気持ち悪い。

それからどんなに酷い言葉を投げつけようが、殺気を込めて皿を投げつけてやろうが、イシは変わらない。
ポンポンと境界線の向こう側から小さな石を投げては、俺が投げ返してくるのを待つ。

何なんだよ、気味悪い!!

それが不快で気持ち悪くて、ずっと目を背けていたが、ある日あまりにしつこいのでその投げてきた石をポンッ!と強く蹴ってやった。
すると石は大きく飛んでいき、イシの遥か後ろの方へ。

『お前の投げてくる石が迷惑だ。』

そんな気持ちを込めて蹴り返してやったのだが、何とイシはパァ!と嬉しそうに笑い、そのままタッタッタ~とその石を拾いに行ってしまった。
俺が面倒で蹴った石を。しかも一生懸命それを探している。
そしてやっと見つかる頃には、イシはボロボロだったが、またその見つけた石を俺の方へポンッ!と投げ入れたのだ。
足元に転がった石を見下ろし、俺は突然怖くなって、また顔を背けた。
そうして境界線の世界の中で顔を背け続ける俺に、現実のイシはやはりマイペースに俺を構っては、ご飯を差し出してくる。
やがて面倒になってご飯を食べる様にすると、あの時境界線の世界で見た嬉しそうな笑みを浮かべるので、俺はイライラしながら皿を投げつけその場を去る、その繰り返し。

すると境界線の向こうからはどんどんどんどんイシが石を投げてくるものだから、俺の足元にはまた小さな石が……。
そしてやはりそれが返されるのをジッと待つイシ。

もう、何なんだよ!!本当に!!

イライラしながら当ててやるつもりで石を蹴り返し、それを探してボロボロになるイシを見て毎日毎日イライラが治まる事はない。

そのせいで世界に還る方法を考える時間もとれずに、本格的にどうしてやろうかと考えていたその時、皿に盛られている料理が、俺の美味しいと思ったものばかりになってきたのに気づく。

「…………?」

それを不思議に思いながら、美味しいの、あんまり好きでないの……と交互に食べて食事を終えると、次の日には俺の好きなおかず、そして新しいおかずが一品というメニューになっていた。

もしかして俺の好きなのを探してるのか……??

どうも新しいおかずを一品入れて、毎日俺の好みを探っている様だ。
そこで思い出したのは、俺が蹴って返してやった石達の存在で、ずっと俺から投げ返されるのを待っているイシの姿が鮮明に思い浮かんだ。

ねぇ、そんな乱暴に返されているのに何で拾おうとするの?
どうしてそんな酷い事ばっかりする俺にまた投げてくれるの?

────そんなボロボロになってまで、どうして俺が投げるの待っててくれるの?

イシに俺の姿は見えてないから答えてはくれないけど……やっぱりいつ見てもイシは俺から石が返ってくるのを待っていた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された悪役令息は隣国の王子に持ち帰りされる

kouta
BL
婚約破棄された直後に前世の記憶を思い出したノア。 かつて遊んだことがある乙女ゲームの世界に転生したと察した彼は「あ、そういえば俺この後逆上して主人公に斬りかかった挙句にボコされて処刑されるんだったわ」と自分の運命を思い出す。 そしてメンタルがアラフォーとなった彼には最早婚約者は顔が良いだけの二股クズにしか見えず、あっさりと婚約破棄を快諾する。 「まぁ言うてこの年で婚約破棄されたとなると独身確定か……いっそのこと出家して、転生者らしくギルドなんか登録しちゃって俺TUEEE!でもやってみっか!」とポジティブに自分の身の振り方を考えていたノアだったが、それまでまるで接点のなかったキラキライケメンがグイグイ攻めてきて……「あれ? もしかして俺口説かれてます?」 おまけに婚約破棄したはずの二股男もなんかやたらと絡んでくるんですが……俺の冒険者ライフはいつ始まるんですか??(※始まりません)

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!

灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」 そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。 リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。 だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。 みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。 追いかけてくるまで説明ハイリマァス ※完結致しました!お読みいただきありがとうございました! シレッとBL大賞に応募していました!良ければ投票よろしくおねがいします!

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた

BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。 「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」 俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。

処理中です...