(完結)伯爵令嬢に婚約破棄した男性は、お目当ての彼女が着ている服の価値も分からないようです

泉花ゆき

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馬車に乗り込んだ二人は、馬車付きの供に渡された布で、軽く水を払いました。
ロコはどうしても、裾についた泥汚れが気に掛かります。
男性の目の前とあっては手繰り寄せて払うことも簡単には出来ません。
どこかそわそわとして見えるロコに、ビートは尋ねました。

「どうした、やはりあの女が気に入らなかったか?
いけ好かない女ではあるが、何かの伝手にはなるだろうと……」

「い、いえ~。とんでもありません。
ちょっと、服が濡れてしまったので……」

見当違いのことを言われて驚き、つい本音を漏らしてしまうロコ。
どうせそう高価なものでもないだろうに、物を大事にする娘だ……と、ビートは、ますますロコの事が気に入りました。

「それぐらいのもの、僕が幾らでも買ってあげるさ。大したものじゃないんだろう?
そうだ、今度ご両親への紹介を……」

ビートが口にした、大したもの、という表現は。
本人の中では、値段のことを表したのかもしれません。
しかし、その言葉はロコの耳に「価値のないもの」という意味で響きました。
そして、ビートの方でもいくらかは、そういった意味も含んでいたのでしょう。

侯爵家の方から見れば、それは大したものではないかもしれないけれど……と、ロコは考えます。
実際は、今の侯爵家からしてみれば、とても軽々しく払えるような値段のワンピースではないのですが。

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