【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係

ayame@コミカライズ決定

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「そなたが魔力なしの娘か」

 初夏の清々しい日差しが差し込む午後。王宮から遣わされたその人は、ジョナサン・バルト伯爵と名乗った。王妃宮の筆頭事務官である彼は、父より少し年上の、見るからに怜悧そうな男性だった。

 滅多に客などこぬリブレ領にやってきた、それも王宮からの使者。無理をおして応対する母の隣で、私はその眼差しに射抜かれたように身体をぶるりと震わせた。

 いつもなら私に向けられる侮蔑の言葉に黙っていない母も、相手が相手なだけに耐えているようだった。

「それで伯爵様、我が家にいったいどのようなご用事で……」
「そなたの娘に用がある。名はなんと申す」
「ユーファミアでございます」
「歳は」
「もうすぐ12歳になりますわ」

 気圧された私の代わりにすべて母が答える。

「伯爵様、あの、娘が何か。この子は家からほとんど出たことがありません。ご迷惑をおかけするようなこともなかったかと思うのですが」
「娘が魔力なしというのは本当か」
「は? あの、それはどういう……」
「本当かと聞いている」
「……本当にございます」
「嘘偽りではないのだな」
「お疑いであれば教会でご確認ください。神父様がユーファミアの魔力の測定をしてくださいました。針は1ミリも振れませんでした。私も主人も確認しております」
「あいわかった。それなら好都合。わざわざ赴いた甲斐があるというもの」

 そしてバルト伯爵は一通の書状をテーブルに広げた。

「端的に言おう。ご息女に王宮に伺候していただきたい。なおこれは国王陛下の御要請である」

 書状にあるのは流麗な文字と荘厳な玉印。末端貴族ですら知っている国王陛下の御印だ。

「これは……ジョージ陛下の……」

 母は毎年社交シーズンの王宮舞踏会に父と出席していた。その招待状が届くので見知っていたのだろう。そもそも王妃宮の筆頭事務官が来ている時点で、疑うべくもない。

「なぜ、娘が……ユーファミアが王宮に? 伯爵様がおっしゃる通り、この子には魔力がありません」

 貴族は平民よりも高い魔力を持つがゆえ、その権力を誇示できる。その魔力を持たない私は、その点で言えば平民以下だ。王宮仕えは仕事内容の如何にもよるが、貴族ですら憧れる立場。そこに選ばれる理由が母にも私にも純粋にわからなかった。

「まさに、魔力のない娘を我々は求めているのだ。ご息女が仕えるお相手はカーティス王太子殿下。両陛下のご長男にして、未来の国王であらせられる」

 ジョージ国王とアグネス王妃には4人の子どもがいる。長男がカーティス殿下、その下にアン王女、レイチェル王女、一番下が4歳のレイモンド王子だ。長男相続が一般的なこの国で、カーティス殿下は生まれながらにして王太子だった。

「カーティス殿下は御歳12。ご息女と同じだな。勉学も剣術もともに優れ、すでに未来の為政者としての片鱗を見せておられる。何よりその高い魔力は魔力測定装置でも計測不可能なほどであり、四代前のイゴール王の再来とまで言われている」
「まぁ、イゴール王の……」

 その名に私も聞き覚えがあった。神父様の元で見せていただいた王家の歴史に関する書物にその名があったのだ。貴族は平民よりも高い魔力を有するものだが、とりわけ王家の直系は高い魔力を持つ者が多い。そしてそんな王家の中でも、その魔力が測定できないほど高い魔力を有する者が何代かにひとり生まれるという。その者の治世は類を見ないほど発展するという言い伝えは、この国の民であれば子どもでも知っているものだ。

「カーティス殿下は間違いなく優れた王になられるであろう。夏が終わり新学期になれば王立学院に入学され、魔法を本格的に学ぶことにもなる。すでに火・土・風・水の初級魔法を習得済みでいらっしゃるからな」
「まぁ、まだ12歳でそれだけの魔法を使ってらっしゃるのですか? それではお身体にさぞや負担があるのでは……」

 母の心配は最もだった。魔法はその者の体力を大きく奪う。そのためある程度身体が成長していないと使用が難しい。貴族や魔力の高い平民が通うことができる王立学院に入り、そこで魔力の制御や魔法の使い方、さらには自身の身体を鍛える訓練を重ねることで、ようやく自在に操れるようになるのが一般的だ。それほどまでに身体を酷使する魔法を、初級とはいえ習得することは、普通の12歳の子どもに耐えられるものではない。

 だがバルト伯爵は「その心配はない」と言い切った。

「イゴール王も10歳の時点で初級魔法を治めておられたという。カーティス殿下もその血を濃く受け継がれておられるのだろう。中級以上は学院に入学されてからになるであろうが、もしかすると飛び級で卒業されるかもしれぬな。いや、今はそんな話をしている場合ではなかった。問題は、カーティス殿下の魔力が高すぎることにあるのだ」

 そしてバルト伯爵は眉を顰め、重々しく語り始めた。






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