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本編
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「殿下、ご気分はいかがですか」
「……悪くない」
「でしたら、私の役目は終わりですね。側付きの皆様に報告して参ります」
「……」
立ち上がる私から殿下はふいっと顔を逸らした。
「あの、殿下。お身体に触ってはいけませんので、今日はもうおやすみになられてはいかがでしょうか」
「おまえに指図される謂れはない。……どうせ眠れないからな」
「もしや、睡眠がとれていらっしゃらないのですか? 医師には相談されましたか?」
「そうではない。そもそもおまえが気にすることではない。もう戻れ」
「……っ。差し出がましいことを申し上げました、失礼いたします」
深く礼をした後、私は外へと続く扉を押した。そこは控室になっていて、側仕えの者たちが報告を待っていた。私は大事ないことを告げ、廊下に出た後、自らの部屋へと戻った。
最近は魔力暴走の頻度も減ってきている。こうして一度発作が起きた後は、少なくとも1週間ほどは絶対に起きない。今夜はゆっくり眠れる状況だ。
だけどどうして眠ることなどできよう。今この唇が、私が敬愛する殿下とつながっていた。横たわる彼にキスをし、彼に舌を差し入れ、それを受け入れた彼もまた、私に唇を返してくれたかのように思えた。意識が曖昧な状況の殿下には、もちろんそんなつもりはなかったとしても。
いつからか、私が一方的に行う治療から、今日のように彼の反応が返ってくる事態へと変わっていた。初めは戸惑いの方が大きかったが、今ではそれを待ち望んでいる自分がいる。
(殿下は今日も、私を求めてくださった……)
それが恐れ多い思い上がりだとわかっていても。そう思う自分を止められない。
殿下は私のことを疎ましく思っている。いつも邪険に扱われ、治療が済めば早く帰れと追い出される。もう5年も一緒にいて、誰よりも彼に尽くしている私に、心を開いてはくださらない。
それもそのはず。彼には立派な思い人がいるのだ。私など足元にも及ばない、高貴で美しく、誰からも慕われる淑女の鑑のような御令嬢が。愛する人がいながら、こんなつまらない女に唇を許さなければならない状況など、不快以外の何物でもないだろう。
(早く殿下を、あのお方の元に返してさしあげなくてはならない……)
この広すぎる豪奢な部屋も、私ではなく、本来は彼女のもの。
そう思うと、今夜も眠れそうになかった。
窓辺に近づき外を見上げると、折れてしまいそうなほどの細い三日月があった。ぼんやりと烟る月の光が、曖昧な私の心を包んでいく。
殿下が成人を迎えるまであと1年。私はあと何回、彼とキスできるのだろうーーー。
閉じることのない王宮の夜が、今夜もまた静かに更けていく。
「……悪くない」
「でしたら、私の役目は終わりですね。側付きの皆様に報告して参ります」
「……」
立ち上がる私から殿下はふいっと顔を逸らした。
「あの、殿下。お身体に触ってはいけませんので、今日はもうおやすみになられてはいかがでしょうか」
「おまえに指図される謂れはない。……どうせ眠れないからな」
「もしや、睡眠がとれていらっしゃらないのですか? 医師には相談されましたか?」
「そうではない。そもそもおまえが気にすることではない。もう戻れ」
「……っ。差し出がましいことを申し上げました、失礼いたします」
深く礼をした後、私は外へと続く扉を押した。そこは控室になっていて、側仕えの者たちが報告を待っていた。私は大事ないことを告げ、廊下に出た後、自らの部屋へと戻った。
最近は魔力暴走の頻度も減ってきている。こうして一度発作が起きた後は、少なくとも1週間ほどは絶対に起きない。今夜はゆっくり眠れる状況だ。
だけどどうして眠ることなどできよう。今この唇が、私が敬愛する殿下とつながっていた。横たわる彼にキスをし、彼に舌を差し入れ、それを受け入れた彼もまた、私に唇を返してくれたかのように思えた。意識が曖昧な状況の殿下には、もちろんそんなつもりはなかったとしても。
いつからか、私が一方的に行う治療から、今日のように彼の反応が返ってくる事態へと変わっていた。初めは戸惑いの方が大きかったが、今ではそれを待ち望んでいる自分がいる。
(殿下は今日も、私を求めてくださった……)
それが恐れ多い思い上がりだとわかっていても。そう思う自分を止められない。
殿下は私のことを疎ましく思っている。いつも邪険に扱われ、治療が済めば早く帰れと追い出される。もう5年も一緒にいて、誰よりも彼に尽くしている私に、心を開いてはくださらない。
それもそのはず。彼には立派な思い人がいるのだ。私など足元にも及ばない、高貴で美しく、誰からも慕われる淑女の鑑のような御令嬢が。愛する人がいながら、こんなつまらない女に唇を許さなければならない状況など、不快以外の何物でもないだろう。
(早く殿下を、あのお方の元に返してさしあげなくてはならない……)
この広すぎる豪奢な部屋も、私ではなく、本来は彼女のもの。
そう思うと、今夜も眠れそうになかった。
窓辺に近づき外を見上げると、折れてしまいそうなほどの細い三日月があった。ぼんやりと烟る月の光が、曖昧な私の心を包んでいく。
殿下が成人を迎えるまであと1年。私はあと何回、彼とキスできるのだろうーーー。
閉じることのない王宮の夜が、今夜もまた静かに更けていく。
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