16 / 106
本編
16
しおりを挟む
「ユーファミア様。わたくし、あなたにお渡ししたいものがありますの。魔法陣の解析に関する参考書よ。我が家の図書館で見つけましたの。ぜひユーファミア様にお貸ししたくて」
「まぁ、ありがとうございます。メラニア様」
「あら、私たちお友達ですもの。それくらい当然ですわ。カーティス殿下もカイエン様も問題なく年末試験を突破されますし、ここにいるマーガレットやシャロンもおそらく大丈夫とは思いますが……魔法が不得手なあなたのことが本当に心配で」
メラニア様の後ろにいるマーガレット様はマクレガー家の分家の御令嬢で、シャロン様はマクレガー家傘下の伯爵家の御令嬢だ。3人は選択する科目もほぼ同じで、学院の中でも目立つ存在だった。
「入学したときから仲良くしてきたメンバーですもの。なんとしてでも一緒に進級したいわ。あなたは努力家だからきっと頑張ってくれると、わたくし信じていますのよ」
「重ね重ねありがとうございます。ご期待に添えるよう、精一杯努力いたします」
深々と頭を下げると、メラニア様はその美しい薔薇色の唇をふわりと綻ばせた。
「そうそう。参考書なのだけれど3冊あって、私が運ぶには少し重すぎたので、使用人に運ばせましたの。学院の先生にも許可をいただいて、空き教室に置いてありますわ。念のため盗難魔法をかけたいのだけれど、あなたが触れても大丈夫なような魔法にしたいのです。来たばかりのところで恐縮なのですけれど、少しお付き合い願えないかしら」
「はい、あの……」
私は先を行く殿下を見遣った。私が許可なく殿下の側を離れることは許されない。私の思いを察してか、メラニア様が言葉を続けた。
「カーティス殿下、ユーファミア様をお借りしてもかまいませんでしょう? 聞けば昨晩も魔力発作を起こされたとか。カイエン様から伺いましたわ。それでしたらしばらくは殿下の御身は安全ということでございますわよね?」
殿下の発作後の容体は年々安定しており、一度魔力暴走を起こせば、その後1週間はほぼ安全と言える状況にまで回復している。そのことをメラニア様は指摘した。
「……好きにしろ」
それだけ呟いた殿下は、そのまま玄関から奥へと進んでいく。
「ありがとうございます。ユーファミア様、教室にはマーガレットとシャロンが案内しますわ。盗難魔法も彼女たちがかけてくれますから。ではごきげんよう」
琥珀色の瞳をきらきらさせながら、メラニア様は殿下とカイエン様の後を追っていった。長身の2人の後に続く、麗しい赤毛の華やかな少女。彼女が何か声をかけたのか、殿下が振り向く。その袖口にそっと手を添える彼女の整った横顔が一瞬見えた。周囲で王太子殿下に礼をする生徒たちも、その立ち姿にほぉ、と息を吐く。
メラニア・マクレガー侯爵令嬢。この学院で、殿下の次に有名な生徒は間違いなく彼女だ。殿下の妹の王女様たちは中等部に通っておられるため、高等部の私たちとは建物が違う。末の王子殿下はまだ入学前。となると、殿下に次いで高貴な身分もまた彼女ということになる。
そして彼女が有名なのは身分のためだけではなかった。成績も常に殿下やカイエン様に次ぐ位置のトップレベル。華やかな美貌、そこにいるだけで目線が吸い寄せられる優美な立ち姿、そして下位貴族にも分け隔てなく接する聖女のような心ざし。彼女の父、アンリ・マクレガー侯爵は我が国の宰相でもある。
誰もが殿下とメラニア様が並び立つのを見て納得するのだ。これが、未来の自分たちが戴く、王と王妃の姿なのだと。
そう、メラニア・マクレガー侯爵令嬢は王太子殿下の婚約者候補の筆頭だった。否、筆頭という言葉は相応しくない。王太子殿下と並び称される女性は、今の世において彼女しかいない。メラニア様は王太子殿下の唯一の婚約者候補と言ってよかった。それは、学院という貴族社会の縮図のような世界において、あの王太子殿下が唯一傍に置いている女性であるという事実によって、より強固な噂となっていた。
もちろん、王太子殿下が傍に置いている女性は他にもいる。メラニア様と行動を共にしているマーガレット様とシャロン様、それに私だ。だが殿下がマーガレット様やシャロン様と直接会話をすることはない。そして私は端から頭数に入れられていない。誰もが、私が殿下の魔力暴走の発作を治癒するために王家に雇われていることを知っていた。その王家の要請で、魔力もないのに学院に籍を置いて特別扱いを受けていることも。
「ユーファミア様、早くいくわよ。授業に遅刻したくないわ」
「そうよ。あなたと違って私たちは真面目に出席しないと減点されてしまうのよ」
マーガレット様とシャロン様に促され、私は参考書を借りるべく、空き教室に向かった。
「まぁ、ありがとうございます。メラニア様」
「あら、私たちお友達ですもの。それくらい当然ですわ。カーティス殿下もカイエン様も問題なく年末試験を突破されますし、ここにいるマーガレットやシャロンもおそらく大丈夫とは思いますが……魔法が不得手なあなたのことが本当に心配で」
メラニア様の後ろにいるマーガレット様はマクレガー家の分家の御令嬢で、シャロン様はマクレガー家傘下の伯爵家の御令嬢だ。3人は選択する科目もほぼ同じで、学院の中でも目立つ存在だった。
「入学したときから仲良くしてきたメンバーですもの。なんとしてでも一緒に進級したいわ。あなたは努力家だからきっと頑張ってくれると、わたくし信じていますのよ」
「重ね重ねありがとうございます。ご期待に添えるよう、精一杯努力いたします」
深々と頭を下げると、メラニア様はその美しい薔薇色の唇をふわりと綻ばせた。
「そうそう。参考書なのだけれど3冊あって、私が運ぶには少し重すぎたので、使用人に運ばせましたの。学院の先生にも許可をいただいて、空き教室に置いてありますわ。念のため盗難魔法をかけたいのだけれど、あなたが触れても大丈夫なような魔法にしたいのです。来たばかりのところで恐縮なのですけれど、少しお付き合い願えないかしら」
「はい、あの……」
私は先を行く殿下を見遣った。私が許可なく殿下の側を離れることは許されない。私の思いを察してか、メラニア様が言葉を続けた。
「カーティス殿下、ユーファミア様をお借りしてもかまいませんでしょう? 聞けば昨晩も魔力発作を起こされたとか。カイエン様から伺いましたわ。それでしたらしばらくは殿下の御身は安全ということでございますわよね?」
殿下の発作後の容体は年々安定しており、一度魔力暴走を起こせば、その後1週間はほぼ安全と言える状況にまで回復している。そのことをメラニア様は指摘した。
「……好きにしろ」
それだけ呟いた殿下は、そのまま玄関から奥へと進んでいく。
「ありがとうございます。ユーファミア様、教室にはマーガレットとシャロンが案内しますわ。盗難魔法も彼女たちがかけてくれますから。ではごきげんよう」
琥珀色の瞳をきらきらさせながら、メラニア様は殿下とカイエン様の後を追っていった。長身の2人の後に続く、麗しい赤毛の華やかな少女。彼女が何か声をかけたのか、殿下が振り向く。その袖口にそっと手を添える彼女の整った横顔が一瞬見えた。周囲で王太子殿下に礼をする生徒たちも、その立ち姿にほぉ、と息を吐く。
メラニア・マクレガー侯爵令嬢。この学院で、殿下の次に有名な生徒は間違いなく彼女だ。殿下の妹の王女様たちは中等部に通っておられるため、高等部の私たちとは建物が違う。末の王子殿下はまだ入学前。となると、殿下に次いで高貴な身分もまた彼女ということになる。
そして彼女が有名なのは身分のためだけではなかった。成績も常に殿下やカイエン様に次ぐ位置のトップレベル。華やかな美貌、そこにいるだけで目線が吸い寄せられる優美な立ち姿、そして下位貴族にも分け隔てなく接する聖女のような心ざし。彼女の父、アンリ・マクレガー侯爵は我が国の宰相でもある。
誰もが殿下とメラニア様が並び立つのを見て納得するのだ。これが、未来の自分たちが戴く、王と王妃の姿なのだと。
そう、メラニア・マクレガー侯爵令嬢は王太子殿下の婚約者候補の筆頭だった。否、筆頭という言葉は相応しくない。王太子殿下と並び称される女性は、今の世において彼女しかいない。メラニア様は王太子殿下の唯一の婚約者候補と言ってよかった。それは、学院という貴族社会の縮図のような世界において、あの王太子殿下が唯一傍に置いている女性であるという事実によって、より強固な噂となっていた。
もちろん、王太子殿下が傍に置いている女性は他にもいる。メラニア様と行動を共にしているマーガレット様とシャロン様、それに私だ。だが殿下がマーガレット様やシャロン様と直接会話をすることはない。そして私は端から頭数に入れられていない。誰もが、私が殿下の魔力暴走の発作を治癒するために王家に雇われていることを知っていた。その王家の要請で、魔力もないのに学院に籍を置いて特別扱いを受けていることも。
「ユーファミア様、早くいくわよ。授業に遅刻したくないわ」
「そうよ。あなたと違って私たちは真面目に出席しないと減点されてしまうのよ」
マーガレット様とシャロン様に促され、私は参考書を借りるべく、空き教室に向かった。
14
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
幸せな政略結婚のススメ【本編完結】
ましろ
恋愛
「爵位と外見に群がってくる女になぞ興味は無い」
「え?だって初対面です。爵位と外見以外に貴方様を判断できるものなどございませんよ?」
家柄と顔が良過ぎて群がる女性に辟易していたユリシーズはとうとう父には勝てず、政略結婚させられることになった。
お相手は6歳年下のご令嬢。初対面でいっそのこと嫌われようと牽制したが?
スペック高めの拗らせ男とマイペースな令嬢の政略結婚までの道程はいかに?
✻基本ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
・11/21ヒーローのタグを変更しました。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
噂の悪女が妻になりました
はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。
国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。
その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる