【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係

ayame@コミカライズ決定

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「ユーファミア様。わたくし、あなたにお渡ししたいものがありますの。魔法陣の解析に関する参考書よ。我が家の図書館で見つけましたの。ぜひユーファミア様にお貸ししたくて」
「まぁ、ありがとうございます。メラニア様」
「あら、私たちお友達ですもの。それくらい当然ですわ。カーティス殿下もカイエン様も問題なく年末試験を突破されますし、ここにいるマーガレットやシャロンもおそらく大丈夫とは思いますが……魔法が不得手なあなたのことが本当に心配で」

 メラニア様の後ろにいるマーガレット様はマクレガー家の分家の御令嬢で、シャロン様はマクレガー家傘下の伯爵家の御令嬢だ。3人は選択する科目もほぼ同じで、学院の中でも目立つ存在だった。

「入学したときから仲良くしてきたメンバーですもの。なんとしてでも一緒に進級したいわ。あなたは努力家だからきっと頑張ってくれると、わたくし信じていますのよ」
「重ね重ねありがとうございます。ご期待に添えるよう、精一杯努力いたします」

 深々と頭を下げると、メラニア様はその美しい薔薇色の唇をふわりと綻ばせた。

「そうそう。参考書なのだけれど3冊あって、私が運ぶには少し重すぎたので、使用人に運ばせましたの。学院の先生にも許可をいただいて、空き教室に置いてありますわ。念のため盗難魔法をかけたいのだけれど、あなたが触れても大丈夫なような魔法にしたいのです。来たばかりのところで恐縮なのですけれど、少しお付き合い願えないかしら」
「はい、あの……」

 私は先を行く殿下を見遣った。私が許可なく殿下の側を離れることは許されない。私の思いを察してか、メラニア様が言葉を続けた。

「カーティス殿下、ユーファミア様をお借りしてもかまいませんでしょう? 聞けば昨晩も魔力発作を起こされたとか。カイエン様から伺いましたわ。それでしたらしばらくは殿下の御身は安全ということでございますわよね?」

 殿下の発作後の容体は年々安定しており、一度魔力暴走を起こせば、その後1週間はほぼ安全と言える状況にまで回復している。そのことをメラニア様は指摘した。

「……好きにしろ」

 それだけ呟いた殿下は、そのまま玄関から奥へと進んでいく。

「ありがとうございます。ユーファミア様、教室にはマーガレットとシャロンが案内しますわ。盗難魔法も彼女たちがかけてくれますから。ではごきげんよう」

 琥珀色の瞳をきらきらさせながら、メラニア様は殿下とカイエン様の後を追っていった。長身の2人の後に続く、麗しい赤毛の華やかな少女。彼女が何か声をかけたのか、殿下が振り向く。その袖口にそっと手を添える彼女の整った横顔が一瞬見えた。周囲で王太子殿下に礼をする生徒たちも、その立ち姿にほぉ、と息を吐く。

 メラニア・マクレガー侯爵令嬢。この学院で、殿下の次に有名な生徒は間違いなく彼女だ。殿下の妹の王女様たちは中等部に通っておられるため、高等部の私たちとは建物が違う。末の王子殿下はまだ入学前。となると、殿下に次いで高貴な身分もまた彼女ということになる。

 そして彼女が有名なのは身分のためだけではなかった。成績も常に殿下やカイエン様に次ぐ位置のトップレベル。華やかな美貌、そこにいるだけで目線が吸い寄せられる優美な立ち姿、そして下位貴族にも分け隔てなく接する聖女のような心ざし。彼女の父、アンリ・マクレガー侯爵は我が国の宰相でもある。

 誰もが殿下とメラニア様が並び立つのを見て納得するのだ。これが、未来の自分たちが戴く、王と王妃の姿なのだと。

 そう、メラニア・マクレガー侯爵令嬢は王太子殿下の婚約者候補の筆頭だった。否、筆頭という言葉は相応しくない。王太子殿下と並び称される女性は、今の世において彼女しかいない。メラニア様は王太子殿下の唯一の婚約者候補と言ってよかった。それは、学院という貴族社会の縮図のような世界において、あの王太子殿下が唯一傍に置いている女性であるという事実によって、より強固な噂となっていた。

 もちろん、王太子殿下が傍に置いている女性は他にもいる。メラニア様と行動を共にしているマーガレット様とシャロン様、それに私だ。だが殿下がマーガレット様やシャロン様と直接会話をすることはない。そして私は端から頭数に入れられていない。誰もが、私が殿下の魔力暴走の発作を治癒するために王家に雇われていることを知っていた。その王家の要請で、魔力もないのに学院に籍を置いて特別扱いを受けていることも。

「ユーファミア様、早くいくわよ。授業に遅刻したくないわ」
「そうよ。あなたと違って私たちは真面目に出席しないと減点されてしまうのよ」

 マーガレット様とシャロン様に促され、私は参考書を借りるべく、空き教室に向かった。





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