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本編
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「カイエンとユーファミアが恋仲だった事実はない。伝令魔法はユーファミアが私宛に飛ばしていたものだ。ユーファは私の治癒係だ。私と離れているときでも連絡がとれるよう、私自身が魔法陣を描いて持たせていた。それを傍付きのカイエンが受け取っていただけのこと。他人の魔力感知が得意な者は、あの魔法陣が発動するたびに私の魔力を感知できていたはずだ」
殿下の物言いに、何人か頷く者があった。さらに、と殿下は続ける。
「空き教室の使用許可は確かに2人から出されていたが、常に教室の窓は空いていた。そこから見える中庭で、私は彼らの自習が終わるのを待ちながらその様子を見届けていた。それは、その場にいたそなたも見ていたはずだな。なぜ今、ありもしないことをでっちあげるのか、誠に遺憾だ」
その怒りが収まらぬのか、殿下は冷たく言い放った。
「ここにいる皆にも敢えて聞こえるように言おう。カイエンとユーファの間が潔白だったことと同じで、私とマクレガー侯爵令嬢が思いを通じ合わせていた事実もない。私は、初めてユーファに出会ったときから彼女を好ましく思っていた。学院で、魔力を持たない下位貴族のユーファが肩身の狭い思いをしてはならぬと、敢えてユーファと距離をとって過ごしていた。そこにマクレガー侯爵令嬢が入り込んでいただけのこと。むしろ我々の仲を壊そうとしたのはそなただ」
殿下のきっぱりとした物言いに、さすがのメラニア様も目を見開いた。美しい顔をゆがませたかと思うと、次の瞬間、よろけるように顔を伏せた。
「あぁ、殿下! あんまりでございます! ご自身の心変わりを棚にあげるだけでは飽き足らず、私との思い出までなかったことにしてしまうなんて……」
「勝手なことを! そなたとはただの同級生だったと言ったはず……」
「ユーファミア様もユーファミア様ですわ! 殿下の思いには応えられない、自分にはカイエン様がいるからと、私に王宮を出たいと相談されたことを秘匿されるなんて……。ユーファミア様を匿うためにわたくし、父にも内緒で馬車を用意して、王宮を抜け出す手助けをさせていただいたのですよ? 家出されたユーファミア様が危険な目に合わぬよう、我が家の魔道士まで付き人として用意させていただきました。それなのに、バルト伯爵の出世欲と王太子妃の権力に目が眩んで殿下に鞍替えし、王宮に舞い戻って、私との約束をなかったことにするばかりか、皆の前で私を非難するだなんて……!」
「……!」
メラニア様の訴えに、私は何も言い返すことができなかった。その発言には嘘が多分に混ざっている。カイエン様のことや、バルト伯爵の出世欲の話など。けれど真実が混ざっているのもまた事実。メラニア様の奸計にのり、王宮を抜け出した私は、その事実だけは否定できない。
青ざめる私の前で俯くメラニア様が、ふと身じろぎした。その瞬間、ちらりと見えた彼女の口元が、意地の悪い弧を描いていた。
「そういえば、わたくしがユーファミア様の安全のために付き添わせた魔道士から、信じられない話を聞きましたわ。ユーファミア様は、我が家が用意させていただいた宿泊先を、夜中にこっそり抜け出したそうですわね」
「え?」
「付き添った魔道士と、屋敷の使用人の証言がありますから確かです。そんな夜半に、誰にも行き先を告げず、いったいどこに向かわれたのか……。わたくし気になって、魔道士を問いただしましたの。その者は、未来の王太子妃の名誉に関わるからとはじめは口をつぐんでいたのですが、ついに打ち明けてくれましたわ。なんでもユーファミア様はこの6年間、ずっと王宮に閉じ込められていて気が滅入ったから、自由にしたいのだと、滞在先でもよく出歩いていらしたそうですわね。ユーファミア様を探して屋敷の裏の森に出向いた魔道士は……男女の霰もない声色を聞いて足をとめたとか」
「やめろ! いいかげんなことを言うな!」
「いい加減かどうか、当の魔道士を呼んでおりますから、確認してみてはどうでしょう。マーガレット、シャロン、あの者をこちらに」
そうしてマーガレット様とシャロン様に引きずられるように現れたのは、かつてあの屋敷で私を助けてくれた、魔道士のリーゼさんだった。
殿下の物言いに、何人か頷く者があった。さらに、と殿下は続ける。
「空き教室の使用許可は確かに2人から出されていたが、常に教室の窓は空いていた。そこから見える中庭で、私は彼らの自習が終わるのを待ちながらその様子を見届けていた。それは、その場にいたそなたも見ていたはずだな。なぜ今、ありもしないことをでっちあげるのか、誠に遺憾だ」
その怒りが収まらぬのか、殿下は冷たく言い放った。
「ここにいる皆にも敢えて聞こえるように言おう。カイエンとユーファの間が潔白だったことと同じで、私とマクレガー侯爵令嬢が思いを通じ合わせていた事実もない。私は、初めてユーファに出会ったときから彼女を好ましく思っていた。学院で、魔力を持たない下位貴族のユーファが肩身の狭い思いをしてはならぬと、敢えてユーファと距離をとって過ごしていた。そこにマクレガー侯爵令嬢が入り込んでいただけのこと。むしろ我々の仲を壊そうとしたのはそなただ」
殿下のきっぱりとした物言いに、さすがのメラニア様も目を見開いた。美しい顔をゆがませたかと思うと、次の瞬間、よろけるように顔を伏せた。
「あぁ、殿下! あんまりでございます! ご自身の心変わりを棚にあげるだけでは飽き足らず、私との思い出までなかったことにしてしまうなんて……」
「勝手なことを! そなたとはただの同級生だったと言ったはず……」
「ユーファミア様もユーファミア様ですわ! 殿下の思いには応えられない、自分にはカイエン様がいるからと、私に王宮を出たいと相談されたことを秘匿されるなんて……。ユーファミア様を匿うためにわたくし、父にも内緒で馬車を用意して、王宮を抜け出す手助けをさせていただいたのですよ? 家出されたユーファミア様が危険な目に合わぬよう、我が家の魔道士まで付き人として用意させていただきました。それなのに、バルト伯爵の出世欲と王太子妃の権力に目が眩んで殿下に鞍替えし、王宮に舞い戻って、私との約束をなかったことにするばかりか、皆の前で私を非難するだなんて……!」
「……!」
メラニア様の訴えに、私は何も言い返すことができなかった。その発言には嘘が多分に混ざっている。カイエン様のことや、バルト伯爵の出世欲の話など。けれど真実が混ざっているのもまた事実。メラニア様の奸計にのり、王宮を抜け出した私は、その事実だけは否定できない。
青ざめる私の前で俯くメラニア様が、ふと身じろぎした。その瞬間、ちらりと見えた彼女の口元が、意地の悪い弧を描いていた。
「そういえば、わたくしがユーファミア様の安全のために付き添わせた魔道士から、信じられない話を聞きましたわ。ユーファミア様は、我が家が用意させていただいた宿泊先を、夜中にこっそり抜け出したそうですわね」
「え?」
「付き添った魔道士と、屋敷の使用人の証言がありますから確かです。そんな夜半に、誰にも行き先を告げず、いったいどこに向かわれたのか……。わたくし気になって、魔道士を問いただしましたの。その者は、未来の王太子妃の名誉に関わるからとはじめは口をつぐんでいたのですが、ついに打ち明けてくれましたわ。なんでもユーファミア様はこの6年間、ずっと王宮に閉じ込められていて気が滅入ったから、自由にしたいのだと、滞在先でもよく出歩いていらしたそうですわね。ユーファミア様を探して屋敷の裏の森に出向いた魔道士は……男女の霰もない声色を聞いて足をとめたとか」
「やめろ! いいかげんなことを言うな!」
「いい加減かどうか、当の魔道士を呼んでおりますから、確認してみてはどうでしょう。マーガレット、シャロン、あの者をこちらに」
そうしてマーガレット様とシャロン様に引きずられるように現れたのは、かつてあの屋敷で私を助けてくれた、魔道士のリーゼさんだった。
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