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サイドストーリー
新緑の森の君へ9
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何世代に1人かの割合で、膨大な魔力を有する者が生まれる。この国に王家が君臨していられるのは、その魔力持ちが国を発展させてきた事実が歴史に刻まれているからにほかならない。
その1人に、私は生まれついた。
膨大な魔力を持つ者に備わる、天性の魔法の才。その最たるものが、理論上不可能と言われている転移魔法だ。この事実は歴代の国王夫妻にのみ受け継がれてきた秘事であり、王の冠を頂く者だけが閲覧できる書物に記された真実でもある。
10歳になった年に、父からその話を聞かされた私は、はじめ転移魔法の存在を信じることができなかった。すでにある程度の魔法学を修めており、理論上不可能だというその魔法の異常さが理解できたためだ。
そしてその魔法は、成人したと同時に使えるようになるのだという。習得方法などがあるわけでもなく、突然、使える。そんなバカな話があるかと眉唾ものとしていたそれが、18の成人を迎えたその日、確かに使えるようになっていた。理論だとか道理だとか、そんなものが介在しないその先で、転移魔法はいつの間にか私の身に勝手に宿っていた。その不思議さに興奮する間も熟考する間もなく、その日1日は自分の成人祝いの式典に忙殺され、翌日にはユーファの失踪を知り、試す暇もなかった。
その魔法を、使おうと意識したわけではない。
あのとき私の耳がそれを拾った。6年間ずっと「殿下」と呼ばれ、一度だって呼んでもらえたことのない「カーティス」の名を呼ぶ、彼女の声を。
気がつけば薄暗いユーファの部屋ではなく、さらに闇の深い場所にいた。ざわりとした空気の音が、ここが森の中だと知らせてくれる。
何が起きたのかと確かめる間もなく、目の前に現れた光景が飛び込んできて、頭に血が上った。
男2人に組み敷かれているのは、私が恋焦がれて探し求めていた彼女――ユーファミアだった。
「ユーファミア!」
叫ぶと同時に男に突進し、渾身の力で蹴り上げる。不意を突かれて転がる男どもを他所に、私は彼女を抱き上げた。
「ユーファミア、大丈夫か!」
「でん……か?」
涙で濡れた瞳を見開き、掠れた声をあげる彼女の重みと吐息を感じて、私はさらに抱きしめる手に力をこめた。
「ユーファミア! よくぞ無事でいた……!」
「殿、下……そんな、なぜ……」
混乱する彼女を愛でる暇もなく、一度は転がされた男どもが再び立ち上がった。
「なんだ! おまえどこから現れた!」
「このまま女を連れ戻されたら俺たちがヤバいぞ! やっちまえ!」
鞘から抜いた剣をこちらに向け、闇雲に突進しようとする攻撃に、ユーファミアが悲鳴をあげた。
「殿下、危ない!」
「……ふんっ」
隙だらけの攻撃をかわすことなどわけなかったが、抱き上げたユーファに怪我をさせるのは本意ではなかった。
それに、今、私は猛烈に腹が立っていた。
「うわああああぁぁぁぁ!!」
男たちの絶叫が響き渡る。右手から繰り出した紅蓮の炎は巨大な火柱となり、彼らに襲いかかった。彼らを一瞬にして飲み込んだのち、周囲にも広がっていく。瞬く間に辺りが火の海になった。
焼け焦げる匂いが立ち上る中、胸に掻き抱くその小さな息吹に、荒れ狂っていた意識が一瞬凪いだ。
(このままでは火の海になるかーー)
森を焼き尽くすのはさすがにまずいと咄嗟に結界をはる。
「見なくていい。そのままじっとしていろ」
男どもの末路を彼女に見せる気はなかった。見てしまったとしたら、心優しい彼女は気に病んでしまうだろう。明らかに不埒な真似をしていたとわかる男どもを生かしておく理由などない。それにーー。
隙だらけの統制されていない立ち姿で私に切り掛かってきたその剣に刻まれた紋章には見覚えがあった。残しておけば確固たる証拠になるかもしれないが、今後の厄介ごとと天秤にかけたら、消し去っておいた方がいい。
そう判断した私はユーファを抱え直し、再び転移した。
その1人に、私は生まれついた。
膨大な魔力を持つ者に備わる、天性の魔法の才。その最たるものが、理論上不可能と言われている転移魔法だ。この事実は歴代の国王夫妻にのみ受け継がれてきた秘事であり、王の冠を頂く者だけが閲覧できる書物に記された真実でもある。
10歳になった年に、父からその話を聞かされた私は、はじめ転移魔法の存在を信じることができなかった。すでにある程度の魔法学を修めており、理論上不可能だというその魔法の異常さが理解できたためだ。
そしてその魔法は、成人したと同時に使えるようになるのだという。習得方法などがあるわけでもなく、突然、使える。そんなバカな話があるかと眉唾ものとしていたそれが、18の成人を迎えたその日、確かに使えるようになっていた。理論だとか道理だとか、そんなものが介在しないその先で、転移魔法はいつの間にか私の身に勝手に宿っていた。その不思議さに興奮する間も熟考する間もなく、その日1日は自分の成人祝いの式典に忙殺され、翌日にはユーファの失踪を知り、試す暇もなかった。
その魔法を、使おうと意識したわけではない。
あのとき私の耳がそれを拾った。6年間ずっと「殿下」と呼ばれ、一度だって呼んでもらえたことのない「カーティス」の名を呼ぶ、彼女の声を。
気がつけば薄暗いユーファの部屋ではなく、さらに闇の深い場所にいた。ざわりとした空気の音が、ここが森の中だと知らせてくれる。
何が起きたのかと確かめる間もなく、目の前に現れた光景が飛び込んできて、頭に血が上った。
男2人に組み敷かれているのは、私が恋焦がれて探し求めていた彼女――ユーファミアだった。
「ユーファミア!」
叫ぶと同時に男に突進し、渾身の力で蹴り上げる。不意を突かれて転がる男どもを他所に、私は彼女を抱き上げた。
「ユーファミア、大丈夫か!」
「でん……か?」
涙で濡れた瞳を見開き、掠れた声をあげる彼女の重みと吐息を感じて、私はさらに抱きしめる手に力をこめた。
「ユーファミア! よくぞ無事でいた……!」
「殿、下……そんな、なぜ……」
混乱する彼女を愛でる暇もなく、一度は転がされた男どもが再び立ち上がった。
「なんだ! おまえどこから現れた!」
「このまま女を連れ戻されたら俺たちがヤバいぞ! やっちまえ!」
鞘から抜いた剣をこちらに向け、闇雲に突進しようとする攻撃に、ユーファミアが悲鳴をあげた。
「殿下、危ない!」
「……ふんっ」
隙だらけの攻撃をかわすことなどわけなかったが、抱き上げたユーファに怪我をさせるのは本意ではなかった。
それに、今、私は猛烈に腹が立っていた。
「うわああああぁぁぁぁ!!」
男たちの絶叫が響き渡る。右手から繰り出した紅蓮の炎は巨大な火柱となり、彼らに襲いかかった。彼らを一瞬にして飲み込んだのち、周囲にも広がっていく。瞬く間に辺りが火の海になった。
焼け焦げる匂いが立ち上る中、胸に掻き抱くその小さな息吹に、荒れ狂っていた意識が一瞬凪いだ。
(このままでは火の海になるかーー)
森を焼き尽くすのはさすがにまずいと咄嗟に結界をはる。
「見なくていい。そのままじっとしていろ」
男どもの末路を彼女に見せる気はなかった。見てしまったとしたら、心優しい彼女は気に病んでしまうだろう。明らかに不埒な真似をしていたとわかる男どもを生かしておく理由などない。それにーー。
隙だらけの統制されていない立ち姿で私に切り掛かってきたその剣に刻まれた紋章には見覚えがあった。残しておけば確固たる証拠になるかもしれないが、今後の厄介ごとと天秤にかけたら、消し去っておいた方がいい。
そう判断した私はユーファを抱え直し、再び転移した。
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