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前編
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「クラリス、お前のような不細工な婚約者がいるなんて恥ずかしいんだよ。今頃婚約破棄の書状がお前の家に届いているだろうさ」
「そんな……!」
王家が開催する年頃の令息令嬢を集めたお茶会で私にそう言い放ったのは、幼い時に婚約した同い年のセザール様。
同じ伯爵という爵位を持つ父親同士が友人だった縁で婚約が決まった。
最初は楽しい遊び友達だったが、五年前の十二歳のある日、領地の森の中で近付いてはいけないと言われていた大岩に触れ、呪いによる痛みにセザール様が苦しむようになった時に気付いたのだ。
セザール様は私にとってかけがえのない大切な人だと。
その時私は渋る両親に頼み込み、対になった魔導具でセザール様の呪いを代わりに受け止める事にした。
全ての呪いを私が受けていると知ったらセザール様が気にすると思い、半分だけ私が呪いを受けると説明してある。
当初は苦痛から解放され、とても感謝して苦しむ私をいたわってくれていたのに、年々呪いの影響で血色がわるくなり、肌や髪は艶も瑞々しさも失い、目も落ちくぼんで貧相な見た目になっていく私を疎むようになっていたのは知っていた。
だけどまさかこんな仕打ちを受けるなんて!
あまりの衝撃に、膝から崩れ落ちて俯いた。
けれど貴族令嬢のたしなみとして、殿方の前で涙を見せるなどあってはいけない。
深呼吸をしてなんとか涙をこらえた。
「おいおい、ボルジア伯爵令嬢。あなたは自分がセザールの隣にふさわしいと思っているのか? どうやらあなたの家には鏡がないようだ」
「「「「「ははははは」」」」」
そう言ったのはセザール様の幼馴染の子爵令息。
彼の言葉に周りの令息達は同意して笑い声を上げる。
中には平民でも妻にしたがらないだろう、などという声まであった。
令嬢達は幼い頃は仲良くしていたけれど、年々見た目が悪くなり、いつも具合の悪そうな私に関わらなくなっているせいで遠巻きに見ているだけだ。
そして今こうしている間にも呪いは私を蝕み、締め付けるような痛みを与えている。
立ち上がろうとしても、身体の痛みのせいで立ち上がる事もままならない。
「クラリス嬢……、掴まって。馬車まで送るよ」
そう言って手を差し出してくれたのはセザール様の二歳下の弟、パトリック様。
幼い頃は一緒に遊んでいたけど、二人きりで会えない年齢になってからは年々関わらなくなっていた。
「あ、ありがとう……」
恐らく親切心ではなく、この場から私を去らせたいだけだろうけど、ありがたく手に掴まらせてもらった。
「ははっ、根暗なパトリックの方がお似合いなんじゃないか?」
会場を立ち去る私達の背中に心無い言葉を浴びせるセザール様。
以前はこんな性格じゃなかったのに、いつから変わってしまったんだろう。
「ごめんなさい、パトリック様。私のせいであなたまで悪く言われてしまって……」
「気にしないで。こんな事クラリス嬢に言うのは何だけど、兄様は最近どこかの男爵令嬢に夢中なんだ。平民女性の連れ子で平民育ちなせいか、距離感がおかしい令嬢でね。すぐにべたべた触ってくるし、僕は苦手なんだけど、そういう女性が好きな令息は多いみたいだね」
「だから婚約破棄を望んだのね……」
幼馴染であるパトリックしかいないせいか、気が緩んで涙が零れた。
「僕じゃダメかな……?」
「え?」
不意に聞こえた呟きに、私は驚いて顔を上げた。
「そんな……!」
王家が開催する年頃の令息令嬢を集めたお茶会で私にそう言い放ったのは、幼い時に婚約した同い年のセザール様。
同じ伯爵という爵位を持つ父親同士が友人だった縁で婚約が決まった。
最初は楽しい遊び友達だったが、五年前の十二歳のある日、領地の森の中で近付いてはいけないと言われていた大岩に触れ、呪いによる痛みにセザール様が苦しむようになった時に気付いたのだ。
セザール様は私にとってかけがえのない大切な人だと。
その時私は渋る両親に頼み込み、対になった魔導具でセザール様の呪いを代わりに受け止める事にした。
全ての呪いを私が受けていると知ったらセザール様が気にすると思い、半分だけ私が呪いを受けると説明してある。
当初は苦痛から解放され、とても感謝して苦しむ私をいたわってくれていたのに、年々呪いの影響で血色がわるくなり、肌や髪は艶も瑞々しさも失い、目も落ちくぼんで貧相な見た目になっていく私を疎むようになっていたのは知っていた。
だけどまさかこんな仕打ちを受けるなんて!
あまりの衝撃に、膝から崩れ落ちて俯いた。
けれど貴族令嬢のたしなみとして、殿方の前で涙を見せるなどあってはいけない。
深呼吸をしてなんとか涙をこらえた。
「おいおい、ボルジア伯爵令嬢。あなたは自分がセザールの隣にふさわしいと思っているのか? どうやらあなたの家には鏡がないようだ」
「「「「「ははははは」」」」」
そう言ったのはセザール様の幼馴染の子爵令息。
彼の言葉に周りの令息達は同意して笑い声を上げる。
中には平民でも妻にしたがらないだろう、などという声まであった。
令嬢達は幼い頃は仲良くしていたけれど、年々見た目が悪くなり、いつも具合の悪そうな私に関わらなくなっているせいで遠巻きに見ているだけだ。
そして今こうしている間にも呪いは私を蝕み、締め付けるような痛みを与えている。
立ち上がろうとしても、身体の痛みのせいで立ち上がる事もままならない。
「クラリス嬢……、掴まって。馬車まで送るよ」
そう言って手を差し出してくれたのはセザール様の二歳下の弟、パトリック様。
幼い頃は一緒に遊んでいたけど、二人きりで会えない年齢になってからは年々関わらなくなっていた。
「あ、ありがとう……」
恐らく親切心ではなく、この場から私を去らせたいだけだろうけど、ありがたく手に掴まらせてもらった。
「ははっ、根暗なパトリックの方がお似合いなんじゃないか?」
会場を立ち去る私達の背中に心無い言葉を浴びせるセザール様。
以前はこんな性格じゃなかったのに、いつから変わってしまったんだろう。
「ごめんなさい、パトリック様。私のせいであなたまで悪く言われてしまって……」
「気にしないで。こんな事クラリス嬢に言うのは何だけど、兄様は最近どこかの男爵令嬢に夢中なんだ。平民女性の連れ子で平民育ちなせいか、距離感がおかしい令嬢でね。すぐにべたべた触ってくるし、僕は苦手なんだけど、そういう女性が好きな令息は多いみたいだね」
「だから婚約破棄を望んだのね……」
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「僕じゃダメかな……?」
「え?」
不意に聞こえた呟きに、私は驚いて顔を上げた。
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