婚約破棄ですか、すでに解消されたはずですが

ふじよし

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第3章 マヌエラの話

(12)マヌエラ・レーヴェンという少女

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 マヌエラはティリシス王国辺境に小さな領地を持つレーヴェン男爵の末娘として生まれた。兄が四人いて五人兄妹の紅一点だ。

 女の子がほしいというレーヴェン夫人の強い希望のもと、もう望めるのは最後の子だろうという五人目でようやく生まれた待望の女の子だった。

 だから、マヌエラはそれはもう家族に愛されて育った。

 レーヴェン家はマヌエラの祖父が始めた事業をマヌエラの父が成功させて男爵に叙爵された。マヌエラの十二歳年上の兄が二歳になり、十歳年上の兄が生まれる直前のことだった。


 貴族としてのレーヴェン家は新興貴族であり、ほかの貴族たちからは軽く見られている。貧しくはないが資産も莫大というほどではない。

 根っからの貴族ではない両親は使用人も住み込みが一人と通いを二人しか雇わなかった。
 兄たちにもマヌエラにも一応家庭教師が付けられたが、勉強の多くは母が教えてくれた。


 マヌエラは家では家族からは構われるばかりだった。レーヴェン家のそう大きくはない領地の子どもたちからは領主の子だと遠慮された。
 田舎なのでそうそう夜会やお茶会に招かれることもなく、友達もできないまま成長した。


 けれど、領地にいるころマヌエラはそんなこと気にしたことがなかった。
 というよりも、自分に友達がいないことについて考えても、思いついてもいなかった。

 家にいれば兄たちはいやと言うほど構ってくれる。両親はそう無理のないものであれば、欲しいと言ったものをなんでも与えてくれる。


 兄たちはよく領地のそばの森へピクニックに連れていってくれた。
 やんちゃな兄たちが兄弟喧嘩で怪我をするのはしょっちゅうで、だから彼らは薬草のことをマヌエラに教えてくれた。

 それで興味を持って薬草に関する本を色々と取り寄せてもらい、自分なりに研究していった。兄たちだけでなく領民の生活にも役立つ薬草の研究は両親にも歓迎された。

 とくに母は学問を志したが周囲に反対され挫折した過去があったので、薬草に詳しい学者を探すなど熱心にマヌエラを応援してくれた。


 マヌエラが十六歳のときのことだ。

 レーヴェン男爵の領地と隣接する領地を持つ伯爵の令息との婚約話が持ち上がった。マヌエラは王都へ行って学院に進学したかったが、相手方はそれに反対していた。

 相手はそれなりに歴史のある貴族で伯爵、こちらは男爵位を賜ったばかりの新興貴族。

 父の領地のためになるなら婚約を受けよう。貴族の娘とはそういうものだと昔読んだ物語にもあったし。
 それに進学は諦めても研究は続ければいい。

 マヌエラは婚約の打診を了承し、正式に婚約する前に両家で顔合わせをすることになった。
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