婚約破棄ですか、すでに解消されたはずですが

ふじよし

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第3章 マヌエラの話

(16)マヌエラの新たな野望

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 ヘルムートの言い方からして、彼がパトリツィアをあまりよく思っていないことにも気がついた。おそらく政略的な婚約なのだろう。

 そして以前からマヌエラは話し掛けてくる男子学生の中でもとくに家柄の良さそうなヘルムートが結婚相手にいいのではないかと考えていた。

 しかしヘルムートが王子だと知った今、マヌエラは下位貴族の娘でしかなく養子にしてくれるような貴族との繋がりもない。正妃にはなれないし、正妃となれば色々と仕事もあるはずだ。

 そしてマヌエラは思った。王族男性ならば側妃を持てるはずだ。
 この王子の側妃になれば、きっと学院卒業後も好きなだけ薬草の研究ができる。しかも側妃だろうと王家との繋がりができれば家の役にも立つはずだ。

 そうだ、ヘルムートの側妃になろう。


 マヌエラはヘルムートの言う通りに「ヘルムート様」と呼び続けた。
 そして表ではヘルムートに「あまり私に近づかれては……」と言いつつ、二人きりのときには「でも本当は私……」と思わせ振りに上目遣いでヘルムートを見つめた。

 ヘルムートの自分に向ける好意がどんどん大きくなるのが分かる。王子なのに御しやすいなとマヌエラは思った。このまま行けば側妃になれるのは間違いない。


 そして女子学生の間でのマヌエラの立場は、編入から半年足らずの間にどんどん悪くなった。身の回りのものが失くなる、すれ違う人に足を掛けられて転ばされるなど日常茶飯事だった。
 教室にもパトリツィアたち四人が再度訪れ、マヌエラは厳しい言葉を次々ぶつけられた。

 けれどヘルムートや、ヘルムートがいなければ男子学生の誰かしらが必ず庇ってくれる。なので学院生活で大きく困ることはなかった。

 三年次の後期課程が始まってすぐ、階段を下ろうとしたところを後ろから突き飛ばされた。死ぬかと思ったが、偶然にも通りかかったヘルムートに抱き止められ事なきを得た。
 その時のヘルムートは颯爽と格好良くて、マヌエラは本当に彼が好きになってしまった。マヌエラにとって、これが初恋だった。


 だからと言って、正妃の座を狙うつもりなんかない。
 マヌエラは社交シーズン幕開けの王宮での夜会のエスコートをヘルムートに申し込まれたとき、それを受けていいのかどうか迷った。


「ヘルムート様はパトリツィア様をエスコートされなくて良いのですか」

「マヌエラへの苛めの数々は目に余る。あんな女は俺の妃に相応しくない」

「でも、わたし夜会用のドレスなんか持ってませんし……」

「俺が贈る。俺はマヌエラを、マヌエラだけを妻にしたい」


 好きな人にそんな風に言われて、マヌエラはときめいてしまった。

 マヌエラが正妃になればヘルムートの立太子は遠ざかるかもしれない。
 そして、まかり間違って将来王妃にでもなってしまえば大変なことだ。薬草の研究も続けられるか分からない。でもヘルムートが自分を、自分だけを求めてくれるなら、がんばれる。

 そう思ってマヌエラはヘルムートの誘いに頷いてしまったのだった。
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