幼馴染が恋をしたら、もれなく巻き込まれました

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ポートン侯爵令嬢 マーカス視点

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ポートン侯爵令嬢との出会いは案外早くに訪れた。此方側から探したのではなく、彼女の方から訪ねて来たのだ。

マーカスは男爵家の長男なので、嫡子が集う経営課であるが、入学時の適性検査で、騎士課の授業も受けることになった。どちらも片手間にできる仕事ではないが一年時はまだ進路ははっきりさせず、色々な課を受けることが出来る為、同じように掛け持ちする者は多い。

マーカスは騎士課の授業の合間に、知らないご令嬢から呼び止められた。

「マーカス・ライデン男爵子息様でいらっしゃいますか?」

「はい、そうですけど。」

先程まで体を動かしていた手前、途端に汗の臭いが気になってしまう。呼びかけた彼女はとても美しく透き通るような白い肌と、薄ピンクの唇、深い緑色の瞳の小柄な女生徒だった。

「あの、不躾ではございますが、ミリー・シューダー子爵令嬢のご友人だとお聞きしたのですが。」

話す姿はまるで小動物のように愛らしい。

「私、ポートン侯爵家の長女、グレイスと申します。シューダー子爵令嬢に婚約を解消するようにずっと付き纏わられているのです。婚約者とは政略結婚の為の婚約ですので、私の我儘ではどうもそのようなことはできない、と話したのですが、話を全く聞いてくださらなくてほとほと困っているのです。彼女について、何かご存知でしたら、教えていただけませんでしょうか。」

「あの、その婚約者ってもしかして、ケヴィン・アクト公爵令息ですか。」

「ええ、そうですわ。お恥ずかしい話、彼とは婚約は結んでおりますが、疎遠でして。彼には実は秘密の恋人がいらっしゃるのです。きっとこのまま結婚しても、白い結婚になるでしょうから、アクト公爵令息がお好きなら、彼方の恋人様に直談判すれば宜しいのに、と思うのです。うちは、侯爵家ですから、中々こちらからは言いづらいので、そうしていただけると助かるのですが。」

「その、秘密の恋人と言うのは、どなたなのですか。」

彼女は周りを素早く見回すと、少しだけマーカスの側に身を近づけて、囁く。

「アリス・ロゼット公爵令嬢ですわ。第一王子ジュリアス様の婚約者の。三人は幼馴染でいつも一緒にいらっしゃいますのよ。ケヴィン様の最愛はあの方ですから、婚約者の私には隠れ蓑としての役割しかありませんの。」

マーカスは、あまりの話に衝撃を受けた。最初は彼女にドキドキしていたが、内容を聞いて、これはミリーの手には余ると判断したのだ。

「ミリーには、どうにか話をします。ご迷惑をお掛けしてすみません。」

マーカスが謝ると、彼女はしきりに頭を振って、恐縮していた。

「面倒なことを頼んでしまってごめんなさい。こんなこと、兄に知られたら大変なことになるから。」

「兄といえば、サリエル様ですか?」

「ええ、兄が二年生におりまして……お知り合いですか?」

「寮の部屋が同室でして、妹さんのことを自慢しておられたので。」

グレイス嬢は、顔を赤く染めながら、苦笑いを浮かべた。

「兄に話すと、血の雨が降る、と言うか。いつか不敬罪で罰せられないか心配なのです。火力が高めで、加減を知らないので。……また、宜しければ相談に乗って頂けますか?」

「勿論です。」

本当なら首を突っ込まない方が良い案件だが、マーカスは目の前の可憐な女の子の力になりたくて、安易に返事をしてしまった。

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