残念ながら、定員オーバーです!お望みなら、次期王妃の座を明け渡しますので、お好きにしてください

mios

文字の大きさ
10 / 42

王太子の行方

しおりを挟む
さて、いくら待ってもベアトリスらが来ないことに苛立ち、エリオスはようやく、自分の置かれている状況を理解した。先ほどまでの苛立ちはどこへやら、非常に不味いことになっている自覚はある。

元より婚約者候補の三人ありきの立太子だ。未だに立太子はしていないものの、これで尚更遠くなってしまった。と言うのに、父である陛下は何もわかっていないのか、自分に確認もなしに彼女達の辞退を受けてしまうし、真実の愛の相手を紹介しろ、とジョセフィーヌのことを聞きたがる。

対するジョセフィーヌは未だにマナー教育も終わっていない身で最高権力者である国王に謁見する気でいる。

それが不味いことであるのは、自分が一番よくわかっている。

「最悪、廃嫡だ……」

自分が今まで好きにしていられたのは、ベアトリスらのおかげだと理解している。彼女達は、王妃推薦という立場から、王妃の顔に泥を塗ることはしない、と思い込んでいた。

実際、王妃が体調を崩してさえいなければ、彼女達を止められただろう。陛下との話し合いの内容は知らないが、王妃に比べ、国王を言い含めるのは簡単であったと推測できる。

このままだと、ジョセフィーヌを紹介したが最後、王太子になれず、王子の地位すら追われてしまう。

つい目前まで見えていた王太子の地位が音を立てて崩れていくのをただ黙って見ているしかないのか?


エリオスは、すぐさま思い立って公爵家に訪れたのだが、外出中とのことで、当主にも会えなかった。いくらでも待つと宣言したのだが、本日は戻らない、と執事からすげなく断られてしまった。

ローゼリアの侯爵家にも、アリーチェの伯爵家も、見事に空振りで途方に暮れたが、伯爵家からの帰りにあまりにも憔悴しきったエリオスに気がつかなかったのか、重要な手がかりを伯爵家の使用人が口にしたのを聞いた。

「お嬢様の居場所を何が何でも隠すのだ。まさかトーチ領にいるとは思うまい。」

トーチ領と言うのは、伯爵領内で一番栄えている港町だ。海に面してはいるが、ここから国外には出ることはできない。

実際にはアリーチェはトーチに向かったと言う事実はないが、王子が向かうことも考えて撹乱しようとしていた。

使用人が嘘をついた、ともし責められたとしても、そもそもが盗み聞きであり、使用人の聞き間違いだと言われてしまうと、覆せもしない。元よりアリーチェお嬢様のために、と王子に積極的に仕返しをしようとした為だ。

王子が喜色満面で走り去った後ろ姿を、使用人一同誇らしく見送った。

「トーチから国外に出るには大回りで、回らなければならないから、少しは足止めができるんじゃないかしら。」

王子の姿が見えなくなると、使用人達もそれぞれ荷物をまとめる。彼らはこのあと、段階を経てそのアリーチェお嬢様の元へ向かう手筈になっている。

王子にのこのこついて来られたら困る。彼がトーチに留まっている間にどうにか追いつきたい。使用人達は既に王子のことは忘れ去っていた。







臥せっている王妃の元に、ヘンドリックはいた。王妃が倒れたのが、毒ではないと証言するためだ。多分、誰が見たところで、過労だが、陛下は心配でならないらしい。

国王陛下直々に話があると言われ、呼ばれた謁見の間で、彼は驚いていた。

「エリオスが、真実の愛ですか。まあ、結構なことで。それで相手はどなたですか?エリザベス嬢、もしくは、ローゼリア嬢だったか。」

「いや、新しく側妃として迎える筈だった男爵家の娘だ。彼女を連れてきた時の態度から公爵令嬢達は、真実の愛の偉大さを感じ取り候補を辞退したいと、申してきた。」

陛下にとって、ヘンドリックは甥だが、王妃が倒れる度に、駆けつけてきてくれるため、薬師としてのこともあり、実の息子と同じくらい親しみがあった。

ヘンドリックの方でも、陛下は実父と同じくらいどうでも良い存在だった。彼にとって大切なのは、研究と、研究対象だけで、それ以外には興味がない。

「それで、私に話とは……」

従兄弟が真実の愛を見つけたことと、自分が呼ばれたことが結びつかなくて、理由を尋ねると、陛下は思わぬことを提案してきた。

公爵位を継がなかった弊害がこんなところに出ようとは。

「それで、エリオスは何と?」
「愚息は、ベアトリス嬢らを追ってトーチに向かったらしい。」

「私が相手に会いたいと言っているのに、彼女らを取り戻そうとするということは、その者は王妃の器ではないのだろう。ただ奴を立太子させないとなると、第二王子が育つまでの間、其方を立太子させなくてはならなくなるから、一応言っておこうと思ってな。」

頭の悪い従兄弟の尻拭いをするのに、何が必要か。王妃の健康状態だけでは、材料としては弱いのか。間違えると、研究すら出来なくなってしまう。本末転倒だ。

「それなら一度、男爵令嬢に会いに行ってみましょう。彼女をこちらに呼ぶのは難しくても、私が出先で偶々会うのは、許されるでしょう。エリオスが帰ってくるまでに、彼女を判断します。とりあえずはそれから考えましょう。」

エリオスが向かったトーチに彼女達はいないだろう。それでもどこからか情報を得たのだからと、時間を費やして来ることはわかりきっている。

「それにしても、真実の愛か。」
陛下は、嬉しそうにしていたが、所詮は、彼女達に踊らされた口実に過ぎない。彼女達はようやく掴んだチャンスを逃さなかった。

彼女達が逃げるなら、国内にとどまる訳がない。今頃は隣国にすらいないかもしれない。

まんまと逃げた彼女達の後ろ姿が、以前見たご令嬢に重なる。令嬢の顔は今はもう思い出せないのだが、記憶の中では彼女の顔がベアトリス嬢になっている。

彼女はヘンドリックが、唯一執着した女性だ。ただ似てると言うだけで、ベアトリスに興味を持ったのは、ヘンドリック本人にとっても意外だった。

片や自分を捨て逃げた令嬢に、片や従兄弟から逃げたご令嬢。逃げる女性が好きなのか。

浮かんだ自虐に苦笑しながら、男爵令嬢に会う算段を考える。彼女になら、取引は可能かもしれない。あまりにも花畑脳でなければ、何でも良い。王位に興味のない自分には従兄弟の真実の愛を王太子として、叶えてもらう必要がある。正直誰が国王になろうが、王妃になろうが構わない。

逃げるなら、是非遠くの国まで逃げてほしい。欲を言えば、ヘンドリックも一緒に行きたかったけれど。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする

夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、 ……つもりだった。 夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。 「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」 そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。 「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」 女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。 ※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。 ヘンリック(王太子)が主役となります。 また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 「子供の親権も放棄しろ!」と言われてイリスは戸惑うことばかりで、どうすればいいのか分からなくて混乱した。

新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました

ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」 政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。 妻カレンの反応は—— 「それ、契約不履行ですよね?」 「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」 泣き落としは通じない。 そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。 逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。 これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。

処理中です...