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だって悪役だもの
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「一旦俺と婚約を。」
そう言う話だったのに、ダニエルは一旦どころか、兎に角甘く優しく、クラリスを落としにかかった。クラリスは今まで男性にそんな風に扱われたことなどなく、簡単にダニエルに落ちてしまった。
ダニエルのおかげで、クラリスに一部抱かれていた面白みのない女という印象は覆った。
皆が恋するクラリスを好意的に見つめ、親近感と共に、男女とも、残念な気持ちになった。
「なぜ、在学中にこの魅力にきづけなかったのだろう?」
理由はタイミングと、あの元婚約者のせいだから仕方ないものの、卒業し、身分の差を再確認してしまうと、多くは夜会などに赴いても、声すら掛けられず、ただ見つめるだけ、という状態になった。
それも、学園時代はあまり気にならなかったが、ダニエルの牽制が酷く、見つめることすらままならない。
クラリスは公爵から、余っていた伯爵位を譲り受け、そこにダニエルが婿入りした形だ。当主はあくまでクラリスでダニエルはアントニオの側近ではないが覚えがめでたく、社交界でも注目されている。
だが、社交をする気があまりないように見えるダニエルは、皆の羨望を諸共せず、愛しい妻をただ愛でるためだけに夜会に出席しているきらいがあって、ただただ見せつけられる事態が発生する。
クラリスは、その後二人の可愛い娘を生み、更に美しさを増す。ダニエルは喜ぶのと同時に不安になって、更に牽制を繰り返す。
その様子を特等席で見つめるのは、新しい王となったアントニオだった。傍らには最近病死したアレクセイが寄り添う。
アントニオは自分に似たタイプだと思うダニエルが未だにまともなフリをしているのを楽しく見ている。いつか、彼が正気でなくなり、クラリスを閉じ込めてしまうのではないか、と見張っているのだが、まだそうはなっていない。
クラリスに縁談を持ちかけて、断られた後もアントニオは興味深く二人を見てきた。政略結婚の形はとっているが、自分の結婚相手にそこまで愛情を持てなかった自分との違いを見るに、執着度合いでいうと、妻に対してのそれよりも、アレクセイに対するものに近い。こちらは相手が同性だから、良かったが異性だとああなるのだと、勝手に同族だと認識している身としては微笑ましく感じる。
だからといって、ダニエルを焚き付けるのは命がいくらあっても足りない。アントニオは王になっても、自分と平行線の二人が嫌いではなかった。どちらかと言うと、自分が人間で居られるための、大事な人、と言った位置付けで、だからこそ大切にするつもりだ。それには適度な距離でいなければならない。
二人の幸せを横目にすでに抗う気もなくなった弟に目を向ける。クラリスの幸せを見せつけると、無気力な彼の瞳にも、光が灯る。自分が貶めた元婚約者の幸せを眺めるのはどう言う心境なのだろう。
アントニオはその気持ちが全くわからない。
アレクセイの病死に、クラリスなら気が付いてくれる、と弟がほのかに期待していたことも知っている。だけど、クラリスは気づいていて、それに言及することはなかった。
「だって、彼女は悪役なのだろう。お前を助けるわけがないじゃないか。」
アレクセイの顔が苦痛に歪むのを見ると、まだこんな表情ができるのかと、嬉しくもなる。
アントニオは幸せだ。逃げられない弟がそばに居て、何もかも手に入れた今この時が。
そう言う話だったのに、ダニエルは一旦どころか、兎に角甘く優しく、クラリスを落としにかかった。クラリスは今まで男性にそんな風に扱われたことなどなく、簡単にダニエルに落ちてしまった。
ダニエルのおかげで、クラリスに一部抱かれていた面白みのない女という印象は覆った。
皆が恋するクラリスを好意的に見つめ、親近感と共に、男女とも、残念な気持ちになった。
「なぜ、在学中にこの魅力にきづけなかったのだろう?」
理由はタイミングと、あの元婚約者のせいだから仕方ないものの、卒業し、身分の差を再確認してしまうと、多くは夜会などに赴いても、声すら掛けられず、ただ見つめるだけ、という状態になった。
それも、学園時代はあまり気にならなかったが、ダニエルの牽制が酷く、見つめることすらままならない。
クラリスは公爵から、余っていた伯爵位を譲り受け、そこにダニエルが婿入りした形だ。当主はあくまでクラリスでダニエルはアントニオの側近ではないが覚えがめでたく、社交界でも注目されている。
だが、社交をする気があまりないように見えるダニエルは、皆の羨望を諸共せず、愛しい妻をただ愛でるためだけに夜会に出席しているきらいがあって、ただただ見せつけられる事態が発生する。
クラリスは、その後二人の可愛い娘を生み、更に美しさを増す。ダニエルは喜ぶのと同時に不安になって、更に牽制を繰り返す。
その様子を特等席で見つめるのは、新しい王となったアントニオだった。傍らには最近病死したアレクセイが寄り添う。
アントニオは自分に似たタイプだと思うダニエルが未だにまともなフリをしているのを楽しく見ている。いつか、彼が正気でなくなり、クラリスを閉じ込めてしまうのではないか、と見張っているのだが、まだそうはなっていない。
クラリスに縁談を持ちかけて、断られた後もアントニオは興味深く二人を見てきた。政略結婚の形はとっているが、自分の結婚相手にそこまで愛情を持てなかった自分との違いを見るに、執着度合いでいうと、妻に対してのそれよりも、アレクセイに対するものに近い。こちらは相手が同性だから、良かったが異性だとああなるのだと、勝手に同族だと認識している身としては微笑ましく感じる。
だからといって、ダニエルを焚き付けるのは命がいくらあっても足りない。アントニオは王になっても、自分と平行線の二人が嫌いではなかった。どちらかと言うと、自分が人間で居られるための、大事な人、と言った位置付けで、だからこそ大切にするつもりだ。それには適度な距離でいなければならない。
二人の幸せを横目にすでに抗う気もなくなった弟に目を向ける。クラリスの幸せを見せつけると、無気力な彼の瞳にも、光が灯る。自分が貶めた元婚約者の幸せを眺めるのはどう言う心境なのだろう。
アントニオはその気持ちが全くわからない。
アレクセイの病死に、クラリスなら気が付いてくれる、と弟がほのかに期待していたことも知っている。だけど、クラリスは気づいていて、それに言及することはなかった。
「だって、彼女は悪役なのだろう。お前を助けるわけがないじゃないか。」
アレクセイの顔が苦痛に歪むのを見ると、まだこんな表情ができるのかと、嬉しくもなる。
アントニオは幸せだ。逃げられない弟がそばに居て、何もかも手に入れた今この時が。
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