おおかみ宿舎の食堂でいただきます

ろいず

文字の大きさ
5 / 45
一章

自己紹介

しおりを挟む
 お米の炊けた音がピピピと鳴り、朝食の支度が出来たと伸びをしていると、厨房に二階堂さんが顔を出した。

「まののん。畑に来ないから、迎えに来たぜ」
「畑……ですか?」
「あれ? スイに聞いてねぇの? 野菜畑が宿舎の裏にあるんだよ」
「そうなんですか。丁度、お野菜が足りないと思っていました」
「それならついて来いよ」

 二階堂さんについて行き、食堂から出て奥へ行くと、部屋がいくつかあり、お手洗いや『浴場』と書かれたお風呂場のガラス扉もあった。
そのまま進むと、大きな畳の広間があり、広間の縁側から下駄を履いて二階堂さんに連れられ、中庭から裏へ行くと畑があった。
四十八坪ほどの畑なのだそうだ。

「ここが『おおかみ宿舎』の畑だ。今は大根とジャガイモに白菜……春菊はまだ少し早いな。ブロッコリーは大丈夫だ。好きに食材で使って良いぜ」
「うわぁー……凄いですね。鰤大根とか出来そうです! お夕飯は鰤大根にしましょうか? でも、朝も鰤の照り焼きだし、飽きてしまいますか?」
「いいや。そんな事ないだろ? 夜はどうせ皆宴会だろうしな」
「宴会ですか?」

 二階堂さんは人懐っこそうな笑顔で頷いて、お猪口ちょこでお酒を飲む様な仕草をする。
大根を三本程抜いてもらい、他に白菜も一つ貰った。
大根が余ったら、白菜と一緒に浅漬けでもしよう。
柚子もあれば柚子も入れて、鷹の爪も入れたら美味しそうだ。

「まののんは酒は飲めるのか?」
「一応……たしなむ程度ですが……」
「なら、夜はジャンジャン注がれるだろうから、無理に飲まないようにな」
「はい。ありがとうございます」
「んじゃ、そろそろ煩いのが起きたみたいだし、食堂に行こうぜ」

 大根と白菜を二階堂さんが全て持ってくれて、食堂へ戻れば、すでに何人かの宿舎の住民が雑談をしていた。

「おう。お前等、今日から食堂の飯作ってくれる、まののんだ!」
「へっ!? ちょっ! 二階堂さん! まののんはやめて下さい~っ!」
「良いじゃねぇか。可愛いし」

 真っ赤になって二階堂さんを下から睨み上げると、カラカラ笑って二階堂さんは野菜をテーブルの上に置くと私の頭をポンポン叩く。

「へぇー。泉田さんの代わりの子なんだー」
「若いねー。幾つ?」
「スイさんが、よくこんな平凡そうな子入れたわねぇ」

 わらっと住民の人達に囲まれて、私は頭の中で少しパニックになってしまう。
ちなみに泉田さんは、私の前任の調理場の人で、私はその人にスカウトされてここを紹介されたという経由がある。
囲まれた私は緊張で喉をゴクリと鳴らし、上を見上げる。
身長が低いのもあるけれど、全員、背が高くないだろうか!?
質問がポンポンと頭の上からくるものの、どれに最初に答えて良いのかもたつくと、腰をガシッと持ち上げられて足が床から離れる。そして周りに集まっていた人達は目を丸くしていた。

「お前達、麻乃が困っているだろう。ったく、朝から騒がしい奴等だ」
「み、御守、さん……?」

 私の腰を持ち上げて腕に抱き寄せたのは、御守さんで、何故か威嚇する様に周りの人達を睨みつけていた。
いや、それより放して欲しい……

「まだ他の連中は起きていないのか?」

 御守さんが「今日は早起きしろと言ってあったのに」とブツブツ文句を言い、私の腰から手を離すと床に下ろしてくれた。
すると、また食堂にぞろぞろと人が入ってきた。

「スイ。おはよー」
「スイ。おはよー」

 女の子と男の子が御守さんの周りをクルクル走り回り、御守さんに頭をガシッと掴まれて動きを止める。
顔を上に上げて女の子と男の子はニィッと笑う。

「朝ご飯はなーにー?」
「お腹すいたーご飯ー」
「 紫音しおん、 紫雨しぐれ。大人しくしていろ」
「ん? なんか面白い子がいる!」
「あっ! 見た事ある!」
「だから、少し大人しくしていろ。皆も、各自席につけ。紹介をする」

 御守さんが子供達の頭から手を離すと、二人は赤いスーツを着たシンプルボブの髪型の女性の所へ走っていく。
女性は二人を連れて席につき、小さく欠伸をしていた。

「皆揃ったな。今日から『おおかみ宿舎』の食堂で働いてくれる、雛姫麻乃さんだ」

 御守さんの紹介に私は慌てて頭を下げる。

「雛姫麻乃です。住み込みでここで働くことになりました! よろしくお願いします!」

 小さく拍手があり、御守さんが一人ずつ紹介してくれる。
先ずは、二階堂さん。二階堂さんは既に挨拶を終えているので、手短に。
赤いスーツの女性は 江島えじま 七緒ななおさん。子供二人は双子の兄妹で、お兄さんの方が紫音。妹さんが紫雨。
七尾さんの弟妹なのだそうだ。見た目は小学校2,3年生らしいけれど、「学校は行かない!」「勉強は学校じゃなくても出来る!」と言い、七尾さんが「ネットでも大丈夫な学校があるのよ」と説明の付け足しをしてくれた。

 分厚い眼鏡を掛けた白衣を着た男性は、 椿木つばき 幸志こうしさん。とても眠そうな感じの人で、自己紹介中にも何度か寝落ちしかけていた。

 他にも紹介を受けたのだけど、私が覚えられたのはこの人達くらい。
名前と顔が一致しない……一発で覚えられるほど、私の頭は良くはないし、徐々に覚えていくしかない。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...