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第3話 空へ
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暗い夜は魔界に入っても変わらなかった。
魔界と人間界の境目には高い柵が張り巡られているけれど、空飛ぶ竜には何の意味もなさない。
軽々と空から飛び越える。
「…………」
私は地面を見下ろしたけど、魔界は人里と違って明かりの一つも見えない。
「……寒くはないか?」
「は、はい、大丈夫」
そう答えたのにユリウスはコートを脱いで私に被せた。
「……あ、ありがとう」
ずいぶんと生地のしっかりしたコートだ。人間界に持っていっても値が張ることだろう。
「いや……」
ユリウスはどっしりとドラゴンの背に座っていた。
「……暗いですね、魔界は」
「魔族には火の明かりを嫌うものも多い……使うものもいるがな。メイガスやサラマンドラは火を使う」
「はあ……ユリウスさんは?」
「……魔法で出せはするが、どうにも不得意だ」
苦虫をかみつぶしたような顔でユリウスはそう言った。
「……あの、どうして私だったんでしょう」
私は恐る恐る尋ねた。
私達は間違いなく初対面だし、ユリウスの私を見る目には熱がない。
求婚と言うにはあまりに熱というものがない。
そうだというのに、この人はどうやら私を探していたらしい。
「……五千年前に魔王と人間の間に結ばれた盟約がひとつある」
「はあ……」
突然五千年前の話が始まり、私は馬鹿みたいにぽかんとしてしまう。
「魔族は多種多様で人間は一様。故に魔族は人間にある役目を求めた」
「役目……?」
「子を産む役目だ」
「…………」
それは私がユリウスに望まれたのと同じ役目。
「人間にあって魔族にない強みはそれだ。短命でありながら繁殖し続けることで種を絶やさない。魔族はそうはいかない。たとえばこのレヴィアタンには子供が一匹いるが、一匹だけだ。レヴィアタンは五千年の間、歴代魔王に仕えていたが、その間に一匹しか子をなさなかった」
「この竜は、五千歳……以上」
私はレヴィアタンを見下ろす。
巨大な生きものはこちらのやり取りなどどうでも良いかのように一直線にどこかへ向かっていた。
「魔族は子を作るのに適していない。だから盟約を結ぶ際、魔王は人間に求めた。魔族が子供を必要とするとき、人間がその子供を産めるようにしてくれ、と」
「はあ……?」
「一部の人間が魔王との盟約によりその体質を得た。……君はその血を引いている。魔と交わるとして同じ人間から疎まれ、各所に散らばり散逸した名もなき血族の末裔。それが君だ……やっと、見つけられた」
「……わ、私が……?」
だから私は魔女の子だったのだろうか?
母はどこまで知っていたのだろうか?
村の人たちもどこまで知っていたのだろうか?
そんな大切なこと、誰も教えてくれなかった。
「……だから君には魔王の子供を産んでもらう。君以外にそれをなせるものはいない。不本意だろうが、受け入れろ」
ユリウスは私を真っ直ぐ見据えた。
魔界と人間界の境目には高い柵が張り巡られているけれど、空飛ぶ竜には何の意味もなさない。
軽々と空から飛び越える。
「…………」
私は地面を見下ろしたけど、魔界は人里と違って明かりの一つも見えない。
「……寒くはないか?」
「は、はい、大丈夫」
そう答えたのにユリウスはコートを脱いで私に被せた。
「……あ、ありがとう」
ずいぶんと生地のしっかりしたコートだ。人間界に持っていっても値が張ることだろう。
「いや……」
ユリウスはどっしりとドラゴンの背に座っていた。
「……暗いですね、魔界は」
「魔族には火の明かりを嫌うものも多い……使うものもいるがな。メイガスやサラマンドラは火を使う」
「はあ……ユリウスさんは?」
「……魔法で出せはするが、どうにも不得意だ」
苦虫をかみつぶしたような顔でユリウスはそう言った。
「……あの、どうして私だったんでしょう」
私は恐る恐る尋ねた。
私達は間違いなく初対面だし、ユリウスの私を見る目には熱がない。
求婚と言うにはあまりに熱というものがない。
そうだというのに、この人はどうやら私を探していたらしい。
「……五千年前に魔王と人間の間に結ばれた盟約がひとつある」
「はあ……」
突然五千年前の話が始まり、私は馬鹿みたいにぽかんとしてしまう。
「魔族は多種多様で人間は一様。故に魔族は人間にある役目を求めた」
「役目……?」
「子を産む役目だ」
「…………」
それは私がユリウスに望まれたのと同じ役目。
「人間にあって魔族にない強みはそれだ。短命でありながら繁殖し続けることで種を絶やさない。魔族はそうはいかない。たとえばこのレヴィアタンには子供が一匹いるが、一匹だけだ。レヴィアタンは五千年の間、歴代魔王に仕えていたが、その間に一匹しか子をなさなかった」
「この竜は、五千歳……以上」
私はレヴィアタンを見下ろす。
巨大な生きものはこちらのやり取りなどどうでも良いかのように一直線にどこかへ向かっていた。
「魔族は子を作るのに適していない。だから盟約を結ぶ際、魔王は人間に求めた。魔族が子供を必要とするとき、人間がその子供を産めるようにしてくれ、と」
「はあ……?」
「一部の人間が魔王との盟約によりその体質を得た。……君はその血を引いている。魔と交わるとして同じ人間から疎まれ、各所に散らばり散逸した名もなき血族の末裔。それが君だ……やっと、見つけられた」
「……わ、私が……?」
だから私は魔女の子だったのだろうか?
母はどこまで知っていたのだろうか?
村の人たちもどこまで知っていたのだろうか?
そんな大切なこと、誰も教えてくれなかった。
「……だから君には魔王の子供を産んでもらう。君以外にそれをなせるものはいない。不本意だろうが、受け入れろ」
ユリウスは私を真っ直ぐ見据えた。
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