『魔王』へ嫁入り~魔王の子供を産むために王妃になりました~【完結】

新月蕾

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第63話 激闘

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 男は風で吹き飛び壁にぶつかった。

 私はその隙にベッドから飛び降りる。
 ドアに駆け寄るが、ドアには鍵がかかっていた。

「……くっ」

 鍵穴が見当たらない。
 魔力で閉めているのかもしれない。
 さすがにそんな細かい魔法は知らない。本を探せば書いてあったかもしれないけれど、すべてを読んだわけではないから、わからない。

「四族よ、我に力を、サラマンダーよ、ここに燃え上がれ!」

 木製のドアに炎を放つ。
 しかしドアは燃えなかった。耐火性の何かでできているらしい。
 炎は表面を撫でるだけで、収束した。

「…………ユリウス」

 助けを求めるように彼の名前を口にする。
 だけど、今更、ユリウスに助けを求めるなんて。
 目を反らした私にそんな権利あるだろうか。
 虫がよすぎる。
 だけど、今、私はあの人に会いたい。会って話がしたい。
 聞きたいこともたくさんあるけれど、疑問もいっぱいあるけれど、とにかく私が誤解していたことを話したい。

「……ユリウス!」

 心の底からその名前を呼ぶ。

「ミラベル!」

 突然、私に応えるように私を呼ぶ声がした。

 そしてドアが外側に開いた。
 私はドアに倒れ込んだ。

「きゃっ!?」

「ミラベル!」

 ドアの向こうにいる人は、倒れ込む私を抱き留めた。

「よかった……無事か?」

 顔を見ずともわかる。ユリウスの声だった。

「……うん」

 泣きそうになりながら見上げたユリウスの姿は、ボロボロだった。
 あちこちに切り傷を作っているし、何かモヤモヤした紫色のものが体中を取り巻いている。
 見るからに体に悪そうだった。

「ユリウスの方こそ……!?」

 私は慌てて手を伸ばす。
 モヤモヤしたものを取り払おうとしても止めどなく溢れている。

「……待て、女……」

 背後から、男の声がした。
 振り返ると、男が立ち上がろうとしているところだった。

「アーダーベルト……」

 ユリウスの声には背筋が凍るような怒気が含まれていた。
 男、アーダーベルトは怯まずユリウスを睨みつけた。

「ユリウスお前……この城は人間が入ったら、瘴気に犯されてとても立ってはいられないはず……」

 瘴気。ユリウスを取り巻いているこのモヤモヤだろうか?

「関係ない」

「……何?」

「ミラベルを助けに来た。そのためなら俺が人間であることも、瘴気も、何も、関係などあるものか」

「……そうかよ」

 アーダーベルトが壁に飾られていた剣に手を伸ばす。
 ユリウスも腰の剣を抜く。

「だ、駄目、ユリウス……あなたそんな体で……」

 ユリウスは見るからに辛そうな顔をしていた。
 私には害を及ばさなかった瘴気とやらが、ユリウスの体をむしばんでいるのは一目瞭然だった。
 本当に私は魔王の娘なのだろう。それをこれで改めて実感する。

「……君を、守りたいんだ……」

 ユリウスは絞り出すようにそう言った。

「道具に肩入れか、落ちたなユリウス」

「……ミラベルは、俺の妃だ。……道具などではない。侮辱はやめろ」

 ユリウスが走る、アーダーベルトも立ち上がる。

 ふたりは剣を打ち合った。
 剣がぶつかり合う音が部屋の中に響く。
 私はユリウスの背後でどうするべきか混乱していた。

 ユリウスが剣を振うところは初めて見たが、その動きは明らかに精彩を欠いていた。
 一回振るごとに、足元がふらついている。
 対するアーダーベルトも頭を振りながら、剣を持ち上げている。
 私が吹き飛ばしたダメージがまだ残っているらしい。

 しかし、相手は詳しくはよくわからないが、本物の魔族。対するユリウスは魔界に長くいて魔力を持っているとは言え、元は人間。
 このまま続けていたら、ユリウスの分が悪いのではないだろうか。
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